ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来 (岩波新書)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004315506

感想・レビュー・書評

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  • ドラッカーの専門であるマネジメント分野よりも経済学に近い2016年の今であればコトラーのマーケティング3.0などを読んだ方がリアルに感じられる気がする。何にせよテーマが広すぎるので、ここから「一番重要」と思ったことを記載するのは非常に難しい。そこで「一番重要」ではなく「一番興味ある」ことを記載する。それは「教育」だ。
     超高齢化社会を迎える日本において重要なテーマはいくつかある。定年の延長。労働市場の柔軟性。それらを乗り越えるために成人後の教育の重要性が謳われている。「人は、その人生のいかなる段階にいようとも、正規の教育を受け、知識労働への資格を得ることが出来なければならない(11章より抜粋)」この点で最も進んでいるがのアメリカのようだが、それでも若いうちに基礎資格を取得していないものを知識労働に受け入れることに躊躇している。日本でも近年は定年後に資格を取得する人は増えている。事実、中小企業診断試験では定年を迎えたであろう人々が多数受験している。だが勉強には高い講義費用を払わなければ独学するしかなく、ハードルは高い。少子化が進む中、学校というシステムを改めて見直す必要性があるように思えた。
     また社会セクターについても興味深い。家族だけではコミュニティとして不十分。また職場コミュニティも労働市場の柔軟性が進むと消えていくだろう。膨張する巨大都市に対して非営利組織などのコミュニティの重要性が語られていた。余談だが、先日のTVで経済学者ミルトン・フリードマンの孫(彼はGoogle技術者)が多様な社会システム、政治体制、法制度を持つ海上コミュニティの設立を進めていることを知った。今後はそういった様々なコミュニティがたちあがるのだろうか

  • 人間の長年にわたる営みを資本主義、科学、宗教、などなど、色んな角度で分析しながら、人間社会が目指す望ましい姿を提案している。
    序章 人類史における拡大・成長と定常化
       —ポスト資本主義をめぐる座標軸
    第1部 資本主義の進化
     第1章 資本主義の意味
     第2章 科学と資本主義
     第3章 電脳資本主義と超(スーパー)資本主義
         vsポスト資本主義

    第Ⅱ部 科学・情報・生命
     第4章 社会的関係性
     第5章 自然の内発性
    第Ⅲ部 緑の福祉国家/持続可能な福祉社会
     第6章 資本主義の現在
     第7章 資本主義の社会化またはソーシャルな
         資本主義
     第8章 コミュニティ経済
    終章 地球倫理の可能性
       —ポスト資本主義における科学と価値
    人類の歴史、採集狩猟社会から農耕社会、そして産業革命以来の高度情報化、人工頭脳・・・
    瞬時に情報が地球を駆け巡る時代だからこそ、人間本来の顔と顔の見えるコミュニティの原点に回帰する。
    そこから、ガラガラポンでどういう価値観・思想を打ち立てれるのか、今後の人類に課せられたすごい課題です。

  • 【簡易目次】
    はじめに――「ポスト・ヒューマン」と電脳資本主義 [i-vi]
    目次 [vii-viii]

    序章 人類史における拡大・成長と定常化――ポスト資本主義をめぐる座標軸 001

    第I部 資本主義の進化 
    第1章 資本主義の意味 022
    第2章 科学と資本主義 038
    第3章 電脳資本主義と超〔スーパー〕資本主義 vs ポスト資本主義 059

    第II部 科学・情報・生命 
    第4章 社会的関係性 084
    第5章 自然の内発性 103

    第III部 緑の福祉国家/持続可能な福祉社会 
    第6章 資本主義の現在 126
    第7章 資本主義の社会化またはソーシャルな資本主義 151
    第8章 コミュニティ経済 177

    終章 地球倫理の可能性――ポスト資本主義における科学と価値 217

    参考文献 [245-254]
    あとがき(二〇一五年 桜の季節に 広井良典) [255-260]

  • 《教員オススメ本》
    通常の配架場所:教員おすすめ図書コーナー(1階)
    請求記号 332.06//H71
    【選書理由・おすすめコメント】
    著者は科学史・科学哲学専攻です。近年の宇宙論は『複数の“宇宙環境”の中で、いわば人間の存在を可能とする環境的条件を探る学問という性格を帯びてきている。』しかし、『近代科学においては、生命や自然を含む世界は“機械論的”に、つまり受動的な存在として理解され、・・・“一本道の科学”であり、対象や地域や空間の「多様性」ということへの関心は背景的なものだった。』さらに、『鎮守の森』や『アインシュタインの宇宙的宗教感情』も登場し、最後に、『個別分野の縦割りを超えた超長期の時間軸で物事をとらえ考えなければ、現に起こっている事態の意味や今後の展望が見えてこないような、大きな時代の分岐点に私たちは立っているのではないか。世界の持続可能性や人々の幸福という価値を基準にとった場合、定常化あるいは「持続可能な福祉社会」への道こそが、私たちが実現していくべき方向ではないか。』と結論しています。(化学科 竹村哲雄先生)

  • 評するに難しい本。資本主義が拡大・成長するという動因から、定常化へ舵を取るべき時に来た。それがポスト資本主義だという。ただ、波長が合わなかったな。

    このタイトルをつけるに当たって、ドラッカーの『ポスト資本主義社会』という書籍の存在を知らなかったという。それはどうかなと思う。

  • 2016.2 課題図書

    ■■2/10@わん■■
    文明論的人口政策/腐る貨幣/ディープラーニング/こんまりメソッド

  • なかなか

  • 社会政策を専門とし、これまでにも新書版を含めて多数の著書を持つ広井良典氏が、産業革命以降200年以上に亘り続いてきた資本主義社会に綻びが見える現在、資本主義の後に来る社会を予想・提言したものである。
    テーマは壮大で、各学術分野に跨る分野横断的な内容となっているが、広井氏は他の著書と同様に丁寧に論考を進めている。
    主旨は概ね以下である。
    ◆人類の歴史には、人口や経済の「拡大・成長」と「定常化」を繰り返す3回の大きなサイクルがあった。第1は、約20万年前に現生人類が登場し狩猟採集が始まった段階、第2は、約1万年前に農耕社会に移った段階、第3は、18世紀の産業革命以降である。また、過去2回の定常期は、いずれも、「心のビッグバン」(=芸術作品のようなものが現れた)、「枢軸時代(精神革命)」(=仏教、儒教、ギリシャ哲学、旧約思想のような普遍的な思想が生まれた)と言われる、文化的創造の時代であった。我々は現在、第3の「定常化」の時代、即ち何らかの新しい価値原理や思想が要請される時代の入り口にいる。第4の「拡大・成長」に向かうという議論も勿論あるが、地球資源の制約を考えると、著者は懐疑的である。
    ◆資本主義=「市場経済」+「拡大・成長」を志向するシステムである。「市場経済」は「個人の共同体からの独立」に基づき、「拡大・成長」は「自然からの人間の独立(自然支配)」に基づくものである。しかし、「自然支配」に基づく「拡大・成長」は、今や自然環境の有限性により“外的な限界”にぶつかり、同時に、人々の需要の飽和という“内的な限界”にも直面している。また、「個人の独立」は今や様々な矛盾を呈しており、個人からコミュニティへの回帰が求められている。
    ◆資本主義と両輪で近代化を支えてきた近代科学の特徴は、「法則の追求」(=「自然支配(人間と自然の切断)」)、「帰納的な合理性」(=「共同体からの個人の独立」)の2点であり、資本主義と同様の構造を持っている。
    ◆現在の資本主義の現象面をみると、様々なレベルの格差拡大と過剰という構造的な問題があり、それへの対応として、1.過剰の抑制(需要の飽和を解消するための、労働生産性から環境効率性への生産性の概念の転換)、2.再配分の強化・再編、3.コミュニティ経済の展開が必要である。そのような社会を「緑の福祉国家」、「持続可能な福祉社会」、「定常化社会」として推進するべきである。
    そして、著者は最後に、「ポスト資本主義への移行は、ここ数百年続いた「限りない拡大・成長」への志向から「定常化」への“静かな革命”であり、今後21世紀を通じて人々の意識や行動様式を変えていく ― 同時にその過程で様々な葛藤や対立や衝突も生じうる ― 真にラディカルな変化であるだろう。・・・同時にそれは、・・・もっともシンプルに言えば「歩くスピードを今よりゆっくりさせ、他者や風景などに多少の配慮を行うこと」といった、ごく日常的な意識や行動に根差すものだ」と結んでいる。
    本書の中でも、ドイツやデンマークのような国々が既にそうした社会の実現に向けて舵を切っていることが紹介されているが、我々も一度立ち止まって目指すべき方向について議論する必要があることを強く認識させる良書である。
    (2015年12月了)

  • 著者は、福祉などの公共政策が専門のようだが、学生時代には科学哲学を専攻していたらしい。そのためか、資本主義の歴史を科学史とのアナロジーで論じるなど、難しい部分もある。しかし、人類史を含む様々な分野の書物を紹介して俯瞰的な議論を展開しているので、学ぶところは多かった。

    人類史は、拡大・成長の時代と定常化の時代のサイクルを繰り返してきた。農耕が始まって以降の拡大・成長期が続いた後、紀元前5世紀頃に世界各地で普遍的な思想や宗教が同時多発的に生まれたのは、農耕文明が資源・環境制約に直面したことが背景にあり、量的拡大から精神的・文化的発展へ移ったのではないかとの仮説を提示している。現在は、化石燃料を用いた工業化による拡大・成長の時代から定常化に移る分水嶺の時期にあると位置付けられ、資本主義からポスト資本主義の展開と重なる(p1-10)。

    透明性や公正性がある市場経済とは異なり、資本主義は不透明、投機、巨大な利潤、独占、権力などが支配し、拡大・成長を志向するシステムと理解できる(p25-28)、ウォーラーステイン「脱=社会科学」)。近代資本主義は、ヨーロッパにおける地理的発展による空間的拡大のほかに、個人が共同体の拘束を離れて独立することができたことや、技術によって自然を開発することができるという思想によって、拡大・成長していった(p36)。

    資本主義は、1929年の世界大恐慌を経験した後、経済成長は需要によってもたらされるとして、政府による公共事業や社会保障などの所得再分配を進めることを主張したケインズの修正資本主義によって、大きな成長を遂げた(p47)。GNP統計も、世界大恐慌を受けて、経済成長の指標として開発されたもの(p50)。

    これまでに重視されてきた労働生産性は、人手が足りず、自然資源が十分にあることが背景にあった。現在は、人手が余り、自然資源が足りない状況になっているため、環境効率性(資源生産性)の方向に転換することが課題。ドイツでは、「労働への課税から資源消費・環境負荷への課税へ」の理念の下に、1999年にエコロジー税制改革において環境税を導入した。その税収は年金に当てて社会保険料を引き下げたことにより、企業の負担を抑えて失業率を下げて国際競争力を維持した(p145、広井「定常型社会」)。ロバートソンは、共有資源への課税の考え方から、土地やエネルギー等への課税を論じている(p175、「21世紀の経済システム展望」)。

    中世に教会やギルド、都市国家など多様な主体が活動していたように、これからは国家が中心の世界から、NGO,NPOや企業など様々な主体が活躍する時代に移るようになる(p63、田中明彦「新しい中世」)。著者は、生産性の概念を転換すること、人生前半の社会保障やストックの再分配、コミュニティ経済の3つの方向をあげて、緑の福祉国家を提唱している(p206)。

  • 「資本主義」とか「社会主義」などという用語が、すでに記号としてしか理解されない時代に、それらを対置して、さも現代の重要な問題が、それらの相剋にあるような言い方は、もう古いと思う。
    僕たちは、自分たちの幸福にも、地球大の環境保持にも同じように倫理的な真摯さをもっていきているのであって、◯◯主義に支配されている、と高みからいわれるようなことは、心外である。

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著者プロフィール

広井 良典(ひろい・よしのり):1961年生まれ。京都大学人と社会の未来研究院教授。専攻は公共政策、科学哲学。環境・福祉・経済が調和した「定常型社会=持続可能な福祉社会」を一貫して提唱。社会保障、医療、環境、都市・地域等に関する政策研究から、ケア、死生観、時間、コミュニティ等の主題をめぐる哲学的考察まで、幅広い活動を行っている。著書『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、2009年)で大佛次郎論壇賞受賞。『日本の社会保障』(岩波新書、1999年)でエコノミスト賞、『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社、2019年)で不動産協会賞受賞。他に『ケアを問いなおす』(ちくま新書)、『ポスト資本主義』(岩波新書)、『科学と資本主義の未来』(東洋経済新報社)など著書多数。


「2024年 『商店街の復権』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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