自由民権運動――〈デモクラシー〉の夢と挫折 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004316091

作品紹介・あらすじ

維進後、各地で生まれた民権結社。それはさまざまな理想と幻想が渦巻く"デモクラシー"の拠点であった。新政権への割り込みを狙う人びと、政府に抗い新しい社会を築こうとする人びと。激変する時代への不安と期待が「自由民権」の名のもとに大きな歴史のうねりとなってゆく。激化事件による終焉までを描く。

感想・レビュー・書評

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  • 「自由民権運動」が何を目指し、どうやって挫折したかを論じた本。

    現在の感覚だと、自由民権運動は自由平等の実現を理想に掲げた活動というイメージがある。しかし結社の活動をつぶさに見ると、それは戊辰戦争で活躍した士族がそれを功績として高い待遇を得ることや、没落しつつある士族の生活を立て直すことを目論んでいた。身分制度をなくし平等を目指すのではなく、自らが上に割り込んでいくための運動だったともいえる。
    自由民権運動の結社は国会開設を目指したが、政府に対して国会を開くよう要請していくという方向と、自ら私設国会を立ち上げるという方向があった。前者は「要請=国民の当然の要求として突きつける」であって、お願いではない点がポイント。
    が、結局明治十四年の政変により政府が国会開設を約束したことで先を越され、また地方府県会という受け皿も用意されたことにより、運動は足並みが揃わなくなった。結果、そこからあぶれる形になった一部の活動家が過激化して暴力に走り、最終的には武力で鎮圧されていったという。

    同じ著者で[ https://booklog.jp/item/1/4005008836 ]を読んだことがある。描かれる時代の不安さは当然ながら共通。自由民権運動家たちの目指したデモクラシーは必ずしも崇高な理想ではなく、近世身分制社会の「袋」がなくなった生きづらさの中で、どうにか新たな居場所を確保しようとする生々しい足掻きの一環だったのだろう。

  • 戊辰戦争が自由民権運動に大きな影響を与えているという見方は画期的だと感じた。自分は戦争の中身と終戦後の被害に目を向けがちだった。しかし、結果はどうであれ戦争が後の時代に与える影響は計り知れないものがあると実感した。今後は自由民権運動前後の出来事や人々の動きに注目していきたいと思う。

  • ○目次
    はじめに
    第1章:戊辰戦後デモクラシー
    第2章:建白と結社
    第3章:「私立国会」への道
    第4章:与えられた舞台
    第5章:暴力のゆくえ
    終章:自由民権運動の終焉
    おわりに

    ○感想
    本書は、地方民会など近代の自治体制度史を専門とする作者が、自由民権運動というパンドラの箱を開け、研究史を整理した上で自由民権運動の特質を探った一冊である。
    本書は、筆者が自由民権運動を戦後デモクラシーの一つと位置づけた三谷太一郎氏の研究を受けて、特質の考察がなされている。
    戊辰戦争という内乱を経て、脱身分制社会を図る明治新政府の時代において、勝者・敗者の側でそれぞれポスト身分社会の模索が行われた。

    興味深いのは、敗者の側の多くは時の権力中枢に迎合的になること、一方勝者の側ではその内部での主導権争いが起こり、その中の一つの流れが自由民権運動に繋がったとされる点である。

    また、戊辰戦争の際に一時的にでも武士成を果たした周縁の民(博徒など)や農民など庶民の一部も、明治という新時代に自らの手で身分上昇を勝ち取ろうというグループもあり、彼らも自由民権運動の担い手となっていく。

    要するに、自由民権運動とは、政府との間で行われたポスト身分社会をの主導権争いという側面、そしてポスト身分社会の時代での自ら再度武士成を果たそうとする身分上昇を目指す運動という側面、この異なる志向のグループが相互の思惑が一致して結び付いたものといえる。

    自由民権運動の一派である愛国社系のグループが「私立国会論」にこだわるのも、政府との主導権争いだとすれぱ理解しやすい。

    本書の最後には、自由民権運動の研究史のまとめがあるため、こちらも使い勝手がよい。ぜひ、本書の元ネタになった『岩波講座 日本歴史 近現代1』の松沢論文と合わせて読んで頂きたい。

  • 【書誌情報】
    著者 松沢裕作
    通し番号 新赤版 1609
    ジャンル 岩波新書 > 日本史
    刊行日 2016/06/21
    ISBN 9784004316091
    Cコード 0221
    体裁 新書・並製・240頁

    維新後,各地で生まれた民権結社.それは〈デモクラシー〉に夢を託した人びとの砦であった.新しい社会を自らの手で築く.その理想はなぜ挫折に終わったのか.旧来の秩序が解体してゆくなかで,生き残る道を模索する明治の民衆たち.苦闘の足跡が,いまの日本社会と重なって見えてくる.
    https://www.iwanami.co.jp/book/b243833.html


    【目次】
    はじめに [i-v]
    目次 [vii-xi]

    第一章 戊辰戦後デモクラシー 001
    一 戦場での出会い 003
      二人の人物  慶応四年・三春藩
    二 それぞれの戊辰戦後 008
      河野広中の藩政改革運動  板垣退助の凱旋  家格への執着  「人民平均」
    三 暴力の担い手たち 017
      「破落戸」の軍隊  尾張藩草莽隊
    四 近世身分制社会とその解体 024
      身分制社会とはなにか  やぶれた「袋」  改革の時代  征韓論政変  板垣の危機感  戊辰戦後デモクラシー

    第二章 建白と結社 037
    一 民撰議院設立建白書の衝撃 039
      民撰議院設立建白書の提出  民撰議院論争  自由民権運動の出発
    二 わりこむ運動 049
      結社という「袋」  士族の結社――立志社  河野広中と結社  区長、戸長たちと結社――七名社  愛国社の設立  大阪会議と通諭書事件  西南戦争と「わりこむ運動」の挫折

    第三章 「私立国会」への道 071
    一 ひろがる結社 073
      愛国社の再興  筑前共愛会  蚕糸業と結社――群馬  村と結社――越前  都市知識人の結社――交詢社  演説会と新聞の結社――嚶鳴社  演説会  擊剣会  「参加=解放」型幻想――愛国交親社  新しい社会の模索
    二 国会開設運動から私立国会へ 100
      国会開設請願をめぐる対立  国会期成同盟第一回大会  集会条例  国会開設願望書の受付拒否  「私立国会」か請願か  二つの対立軸  政党結成をめぐる対立  政党結成へ  私擬憲法  植木枝盛の憲法案  大日本帝国憲法との相違点  宙に浮く私立国会と私擬憲法

    第四章 与えられた舞台 129
    一 転機としての明治一四年 131
      明治一四年の政変  政府内の憲法構想  開拓使官有物払下げ問題  自由党の結成
    二 府県会という舞台 199
      地方三新法  土佐州会  立憲改進党と府県会
    三 福島事件 146
      福島事件とは  県会の開会  議案毎号否決  会津三方道路  喜多方事件  福島自由党の動向  事件の構図
    四 迷走する自由党 103
      板垣洋行問題  偽党撲滅

    第五章 暴力のゆくえ 169
    一 激化事件 171
      武装蜂起に向かう民権家たち  秋田事件  「参加=解放」型幻想と私立国会論の共鳴  急進的活動家たちの登場  加波山事件  民権家と博徒
    二 自由党の解党 187
      一〇万円募金計画  「武」を否定できない党指導部解党へ
    三 秩父事件 192
      発端  蜂起  鎮圧  負債農民騒擾としての秩父事件  「天朝様」への敵対

    終章 自由民権運動の終焉 203
      自分たちの手で  朝鮮へ  星亨  憲法を待ちつづけて

    おわりに(二〇一六年五月 松沢裕作) [215-217]
    文献解題 [219-232]

  • 自由民権運動が、体制が崩壊した後に起こる一種のデモクラシーではないか(大正デモクラシー、戦後デモクラシー)。そして自由民権運動は江戸時代から明治時代への体制崩壊の狭間のデモクラシーだった。

  • (後で書きます。巻末に充実した参考文献リストあり)

  • 自由民権運動。なんとも響きのいい言葉。と思いきや、まったくのまやかし。身分制社会に代わる新しい社会制度として民主社会を求めた、まではよかったが、実際には戊辰戦争での功労者の地位を求めた運動だった。挫折して当然。

  • 著者は「おわりに」において書いている。この論文の研究と執筆は、最近の「運動の季節」(反原発デモ、秘密保護法反対運動、安保法制反対運動等々)を横目で見ながら進められたという。そして、現在の運動内部の問題が「自由民権運動の敗走の過程と重なって見えなかった、といったら嘘になる」と、執筆動機と言えないまでも、描写の端々に影響されていることを告白している。

    私も、読みながら、様々な所で、「同じ轍を踏んでいる」と思う所や、「ここは、昔の方がすごかった」と思う所があった。

    もちろん、著者の言うように、ここから無理やり教訓を引き出したら本末転倒にはなる。「しかし、遠く離れた過去であるがゆえに、私たちは、運動というものが否応なく抱えてしまうあれこれの問題や、運動が広がっていく時にそれをささえるものはなんなのかといったことを、より一般的な形で、より冷静に受け止めることはできるだろう。」(以上215-216p)という意見には大いに同意する。

    現代運動に対する著者の評価は、おそらく私とは違う。また、あまりにも自由民権運動のリーダーたちの動機を、その権力志向に焦点を当て過ぎているとも思う(その視点は新鮮ではあったけれども)。数行で終わった植木枝盛や中江兆民の評価がほとんどなかったのも不満であるし、高知立志社の役割も過小評価されている気もする。

    そのことに留意した上で、現代の運動に刺激を貰った所の1部をメモする。
    ○自由民権運動はポスト「身分制社会」を作り出す運動だった。
    ←その意味では現代は終身会社身分制が終わろうとして、その歪が左右に分かれているのかもしれない。自由民権運動とは違い、左翼はその不満分子を大きく吸収することに失敗している。

    ○官憲によって「弁士中止」になる演説会はかえって、弁士と観衆の一体感を高め、一種のエンタメになっていた。
    ←こういう手法は、現代も通用する。例えば、秘密保護法で知らされていない秘密を暴くYouTubeを開設する。観衆は「いつ逮捕されるのか」とドキドキするだろう。

    ○「愛国交親社に加入すれば二人扶持の棒禄が支給され、さらに腕力あるものは帯刀が許される」「税金が免除される」「国会が開設されると、全社会の財産は平等に配分される」等々の「参加=解放」型幻想で貧民を取り込み、一地域の半分が社員という現象が起きた。これが自由民権運動が一部活動家や都市知識人の運動にとどまらない広がりを見せた。この受け皿となったのは「私立国会論」である。
    ←著者はここに民主党の失敗を思い出しているのかもしれない。もちろん性格は大きく違う。ただ教訓はある。

    ○国会論と憲法構想の意義。
    ←この辺りの自由民権運動と政府の一日ごとのせめぎ合いは、見るものがあると思う。判断の遅れ等々のことがなければ、もっと自由民権運動の憲法構想を固めることが出来たかもしれない。運動のスピードの重要性は、現代も、現代こそ、重要である。

    ○秋田立志会の激化事件はスパイによって起こされたか、否か。
    ←真偽は明らかにされていないが、これは共謀罪が通ったいまや、現代こそ、これから気をつけなければならない。著者は加波山事件を追い詰められた者が起こしたものと決めつけているが、私は短絡的と思う。

    自由民権運動は、ポスト身分制社会という背景と共に、新聞という新しいメディア誕生を背景として拡大した。そのことの分析は、ここにはほとんどない。また、運動する側に立つ分析は少ない。例えば板垣や後藤のような俗物に任せるのではなく、植木枝盛がもっと生きて活躍していたら等々の分析はここにはほとんどない。

    それらを含めて、「新しい運動の季節」たる現代に、自由民権運動は新しい歴史的教訓の宝庫だと思う。

    2017年6月読了

  • 自由民権運動について全く詳しくなかったが、戊辰戦争で活躍した、これまで支配層ではなかった人たちが政治や支配層(という言い方が適切かわからないが)に「割りこむ運動」であった、というのは面白かった。

  • <目次>
    はじめに
    第1章  戊辰戦後デモクラシー
    第2章  建白と結社
    第3章  「私立国会」への道
    第4章  与えられた舞台
    第5章  暴力の行方
    終章   自由民権運動の終焉

    <内容>
    「おわりに」に著者が書くように、大変クールな自由民権運動の本。ただ教科書よりもリアルな話がうまく盛り込まれていて、読んでいて違和感を感じなかった。板垣退助や後藤象二郎の民権運動への目論見(「わりこむ運動」と表記)。博徒や下層民の民権運動への幻想(「終章」の最後に書かれた秋田県のエピソードが哀しい…)。江戸時代からわずか10年程度しかたっていない中、今の我々が考えるような「民主主義」が日本に根付いていたわけがなく、農民層は農民層の士族層は士族層の、淡い憧れから民権運動は動いていた感じがよくわかった。これを授業に組み込むのはなかなか難しいが、少しずつ反映させられたらいいかな?!

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著者プロフィール

慶應義塾大学教授

「2022年 『日本近代社会史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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