やさしい日本語――多文化共生社会へ (岩波新書)

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著者 : 庵功雄
  • 岩波書店 (2016年8月20日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004316176

やさしい日本語――多文化共生社会へ (岩波新書)の感想・レビュー・書評

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  •  たとえば2060年。日本に暮らす外国籍の人々は、今よりはるか増えていることだろう。労働の現場でも地域でも、私たちは、国籍を超えた「多文化共生社会」を粘り強く、前向きに構築していく必要がある。

     その共生社会で使われる共通言語は何か。著者は、英語ではなく、〈やさしい日本語〉であることを、実例を挙げながら丁寧に説得している。

    〈やさしい日本語〉とは、外国籍の人々にも十分理解され、情報共有しやすいように調整された日本語のことである。

     そのような日本語を、著者は、外国人労働者受け入れのためだけに提唱しているのではない。最も核にある対象者は、未来を担うすべての子どもたちである。その把握の仕方に、共鳴した。

     子どもたちが、努力さえ続ければ自己実現が可能になり、安定した職業生活を送れるようになる―その意味での社会的流動性の保障こそが、目指すべき多文化共生社会の姿のはずだ。

     だからこそ著者は、日本が「子どもの権利条約」に批准していながら、外国籍の子どもたちは義務教育の対象ではないことも問題視している。

     さて、〈やさしい日本語〉は、外国籍の人々を対等な市民として受け入れる心構え、具体的な方法でもあるが、それは単に外国人に譲歩することではない。著者は、日本語母語話者にとっても、自分の日本語を調整するという行為は「聞いてもらい、相手を説得する」という言語運用能力の訓練の場になることを強調してやまない。

     確かに、相手を説得するディベートのような訓練は、日本の教育では必ずしも十分には行われていない。日本語を改めて見直す機会にもなるはずだ。

     多文化共生社会実現のためには、自分を「普通」と考え、異なるものを排除しようとする発想を改める姿勢も必要となる。

     著者の噛んで含めるような注意深い筆運びそのものが〈やさしい日本語〉の実践例であり、大切なヒントがいくつも提示されている。必読の書と思う。
    (2016年10月9日 北海道新聞「ほん」欄掲載)

  • 大学の公開講座で紹介されていて興味を持ったので読んだ本です。

    その公開講座でも触れられていたのですが、まず興味をもったポイントとしては、日本に住むいわゆる定住外国人のひとたちのうち、英語が母語の割合の人は少なく、むしろ英語よりも日本語のほうを解する人が多いという点でした。
    日本で「国際化」=英語対応というような風潮が強く、国際的なコミュニケーションツールとして、ビジネスや観光客・留学生対応としては確かに有用だと思います。一方で、ある意味で一番大事な「今すでに日本に住んでいる外国人のひとたち」ということについて、市役所の方とかそういう一部の人しか考えてないんじゃないかと痛感しました(もちろん自分もそうです)。
    いろいろな母語の人が日本に住んでいるので、すべての母語に対応するというのは事実上困難、そこで地域社会の共通言語としての「やさしい日本語」をこの本では提唱されています。
    英語に対して拒否感を示す人も多い日本人にとっても、また英語が母語でない定住外国人の人にとっても、お互いが少しずつ歩み寄ることで使えるコミュニケーションツール。現時点で一番いい解決方法なんじゃないかなと思いました。

    外国にルーツをもつ子供たちへの日本語教育ツールとしても使える、という点もとても興味深かったです。多くの場合、自分の意志とは関係なく日本に来る子供たち。無理やり溶け込ますのではなく、溶け込みたい・日本語をちゃんと学んで日本の学校で勉強したい、そんなニーズにこの国が対応できていないということ。そういう問題についても考えさせられました。


    日本語という普段自然に使っているツールについて、本当にいろいろな側面から考えさせてくれる1冊です。こんなに読み終わって、感動や満足感のある新書は初めてかもしれません。読んで損はないと思います。

  • 昨今、難民受け入れが国際的な課題となっている。また高齢化社会を迎えるにあたり、外国人労働者を新たなる労働力として期待する向きもある。しかし多種多様な文化圏の人間が暮らす社会を目指すにおいて、現在の日本が抱える課題は決して少なくない。
    本書は、そうした課題のうち、特に言語に関するものを、日本語学と日本語教育の観点から論じた一冊。

    言語とはもともとコミュニケーションの道具であるし、コミュニケーションとはつまり「自分の考えを相手に伝え、説得する」ことだ。美しい言葉遣いはもちろんよいものだが、コミュニケーションの手段たりえることは尚のこと重要だ。
    本書を読むことで、「言葉の美しさ」に知らず知らずのうちに固執していた自分に気づかされた。
    相手のことを思いやり、コミュニケーションのために言語レベルを調節する能力、そのためのやさしい日本語。本書で提言されているこの考えは、日本人と外国人のみならず、大人と子供、学者と一般人など、さまざまな場において不可欠だ。多様な人間が共生するうえで、重要な視点であると、本書を読んで強く感じた。

  • 出版社の紹介ページ:
    http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/43/0/4316170.html

  • 2016.10.15市立図書館
    多文化共生社会の基盤としての「やさしい日本語」の理念と実践例。NEWS WEB EASYや横浜市の多言語対応などすでに身近なものも多く興味深かった。多文化共生を実現するには、日本に暮らす外国人に日本人母語話者並みの日本語力を期待するのではなく、基本的な文法や語彙をベースにした「やさしい日本語」を共通言語にするといった思い切った発想の転換が必要だというアイデアには共感する。ただ、自治体からの発信に配慮を取り入れるような形のものは現実的で、現に少しずつ形になっているのに対して、多くの日本人が「やさしい日本語」の使い手になるという理想はかなりハードルが高そうだと思った。また、理念を誤解なくていねいに説明するために必要なのは重々わかるのだけれど、話の進め方がアカデミックすぎて一般読者向きにはちょっととっつきにくい文体なのが惜しい気がする。
    非母語話者とのコミュニケーションのための言葉のUDは高齢者や障害者など従来型のお役所文書を解読するのが難しいすべての人のためにもなるが、専門家と非専門家のコミュニケーションの問題も「やさしい日本語」でなんとかできないものかしら…

  • 日本在住外国人が増えてきているが、公共の場所に掲示されている案内文や道路標識は、英語併記のものが少なく、特に災害などのときに外国人に情報が届きにくい。
    しかし、実際、日本に住んでいる外国人に、英語と日本語どちらがわかるのかと聞くと、日本語の方がわかる、という答えの方が多い。
    そこで、この本では、普通の日本語をかみ砕いた日本語(やさしい日本語)になおし、ひらがな併記にすることで、これら外国人の理解度を上げることができると提案している。
    難しい日本語からやさしい日本語へ訳した例がたくさん出てくるが、それらがとてもわかりやすい。

  • 相手に対する「さやしさ」が会話にも表現されるということでしょうね。

  • 弘前大の佐藤和之さんらが提唱する「やさしい日本語」は、災害初期に日本語に不慣れな人が生き延びるための情報伝達手段として開発された。
    本書の著者、庵さんら一橋大グループは、外国にルーツを持つ人たち、障碍者(ろう者)が、社会で情報弱者にならないための手段として新たに〈やさしい日本語〉を提唱する。
    使われる場面や役割がかなり大きく広がった感じだ。

    実は私も地域の団体でやさしい日本語に関わるボランティアをしている。
    佐藤流であれ、庵流であれ、やさしい日本語が社会で認知されているという実感はまだまだない。
    社会での有用性、必要性がきちんと説明された新書が出ることで、認知度が高まるといいな、と思う。
    本書は、これまでの開発の経緯、やさしい日本語で使える文法事項の枠組み、外国にルーツを持つ人やろう者が言語生活でどんな困難を抱えているかなど、この問題についての基本的な知識を、まとめて提供してくれる。
    私には障碍者の方にやさしい日本語が貢献できるという意識がなかったので、その点が収穫だった。

    やさしい日本語が多文化共生社会の基盤になるという理念には共感できる。
    おそらく、やさしい日本語なんて必要ないでしょ、という向きを説得しようという傾きが強いせいだと思うが、移民や障碍者がよきタックスペイヤーになり、日本社会に貢献できるようになるから、やさしい日本語が必要だという言い方に、どうも違和感がぬぐえない。
    日本国籍を持つ親のもと、日本社会で生まれ育った、「無標の」日本人は、よきタックスペイヤーであることを露骨に求められることがあるだろうか。
    中学校の社会の時間あたりで、国民には納税の義務があると習うあたりではそうか?
    だとすれば、人間はよきタックスペイヤーでないと社会に存在してはいけないのだろうか。
    なんだかそんな人間観が感じられて、ちょっとつらい気持ちになった。

  • 【著者】
    庵功雄のホームページ<http://www12.plala.or.jp/isaoiori/
    Twitter <https://twitter.com/isaoiori


    【紹介文】
    ■新赤版 1617
    ■体裁=新書判・並製・カバー・240頁
    ■定価(本体 840円 + 税)
    ■2016年8月19日
    ■ISBN:978-4-00-431617-6

     人口減少を背景に,移民受け入れの議論が盛んになっている.受け入れるとしたときに解決しなければならないのがことばの問題.地域社会で共通言語になりうるのは英語でも普通の日本語でもなく〈やさしい日本語〉だけ.移民とその子どもにとどまらず,障害をもつ人,日本語を母語とする人にとって〈やさしい日本語〉がもつ意義とは.
    http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?head=y&isbn=ISBN4-00-431617

    【簡易目次】
    まえがき

    第 1 章 移⺠と⽇本
    第 2 章 〈やさしい⽇本語〉の誕⽣
    第 3 章 〈やさしい⽇本語〉の形
    第 4 章 外国にルーツを持つ⼦どもたちと〈やさしい⽇本語〉
    第 5 章 障害をもつ⼈と〈やさしい⽇本語〉
    第 6 章 ⽇本語⺟語話者と〈やさしい⽇本語〉
    第 7 章 多⽂化共⽣社会に必要なこと

    あとがき
    参考⽂献
    付録 〈やさしい⽇本語〉マニュアル

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