経済学のすすめ――人文知と批判精神の復権 (岩波新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004316220

感想・レビュー・書評

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  • 世界大学ランキングで100位以内に入る日本の大学は東大と京大だけ。評価基準は教員1人当たりの学生数とか留学生の数とかいろいろあるようですが、論文引用回数の平均値が大きいよう。で、問題は英語論文でないとカウントされないということ。理系学部の先生は英語で論文を書くのは当たり前だけれど、文系はそうでもないみたい。そこで、文科省は考えた。大学のランキングを上げるには、理系の学部を充実させ、文系は削っていくこと。それは猛反発が出るでしょう。本書もそんな流れで急遽書かれた。「全体主義国家は人文社会知を排斥する。人文社会知を排斥すれば全体主義国家となる。」という命題を著者は挙げている。自由主義と民主主義を守るには「人文知と批判精神の復権」言い換えると「モラルサイエンスとしての経済学の復権が必要」。文科省が言うところの学力の3要素の1つ「思考力・判断力・表現力」を研ぎ澄ます最短の近道は「モラルサイエンスとしての経済学を学ぶこと」。やっぱりピケティは読まんといかんかなあ。

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    佐和隆光
    1942年和歌山県高野山に生まれる。1965年東京大学経済学部卒業。専攻、計量経済学、統計学、環境経済学。現在、滋賀大学特別招聘教授、京都大学名誉教授

    理系で人社系知(・・・文化人類学や考古学、民俗学、哲学、宗教学、歴史学などの文系知)が無い人は危ないんだよ。中国共産党独裁者達みたいな共産主義思想や全体主義者になりやすいんだろうな。民主党の鳩山と菅直人、共産党の志位和夫も、極左思想家の吉本隆明とかも全員理系だし共産主義と理系思考が親和性高いことは確かだと思う。


     中国でも、江沢民(在任期間1993─2003、以下同様)、胡錦濤(2003─13)、習近平(2013─) と3代続きで、名門理工系大学出身者が国家主席の座に就いている。首相もまた、李鵬(1987─98)、朱鎔基(1998─2003)、温家宝(2003─13) と名門理工系大学卒が3代続いたあと、北京大学法学部出身で経済学博士号を持つ李克強(2013─) が首相に就任した。全体主義国家では、体制批判の言動は許されないため、人社系の学部卒業生は、共産党内での出世の階梯を登り詰めることなく、途中で、時の権力者の 顰蹙 を買い粛清の憂き目に遭うのである。  こうした経緯を見るにつけ、私は、次のようなテーゼを定立するに至った。  全体主義国家は必ずや人社系知を排斥する。  人社系知を排斥する国家はおのずから全体主義国家に成り果てる。

    すでに述べたとおり、マサチューセッツ工科大学は工学の単科大学と誤解されがちだが、人文社会系の学科を盛りだくさん抱えている。カツウリアス副学長の言うとおり、人文知や社会知に富むエンジニアを養成する体制を、MITは伝統的に整えていると見てよい。

    第二に、数学的リテラシーである。論理的な思考力を身に付けるためには、数学の勉強が一番手っ取り早いし役に立つ。法律家から政治家に転じ、第 16 代アメリカ大統領になったエイブラハム・リンカーン(1809─65) の少年時代の愛読書は、聖書、イソップ物語、ユークリッド幾何学原理だったとのことだ。要するに、法律家にとって必須の能力である論理的な思考力を、一見、何の関係もなさそうな平面幾何学の勉強により、リンカーンは磨き上げていたのだ。論理的な思考力は、法律家以外の仕事に就く者にとっても、必要不可欠な能力の一つである。

    グランゼコールへの入学志願者は、リセに附置されているグランゼコール準備学級(1─2年) に進学して専門基礎を学習する。グランゼコールには理工系の学校が多いため、文系の頂点であるエコール・ノルマールが最難関とのことだ。ピケティはグランゼコール準備学級では数学を専攻し、エコール・ノルマールに入学して経済学を専攻し、1993年、 22 歳の若さで、パリ社会科学高等研究院とロンドン・スクール・オブ・エコノミックス・アンド・ポリティカル・サイエンスの共同博士号を取得し、マサチューセッツ工科大学(MIT) の助教授に採用された。

  • 経済学のあるべき姿は,数学を用いた理論的な解析を行う場ではなく,人文知に裏付けられた社会のあるべき姿を議論し,それに近づけるための手段を研究する場である。そのため,ヨーロッパの経済学者の考え方が次のように紹介されている。「経済学は論理学の一分野であり,一つの思考法である。経済学はモラル・サイエンスであり自然科学ではない。」p. 185。 今の学生は,日本人は,たくさんの古典から人文知を学べ。

  • 信州大学の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB22285798

  • 数学化してしまった経済学を憂う本書。経営学においても数値化・データ化の調査・統計学問になってしまっている。いわゆる社会科学においては、その背後に「哲学」が必須である。とはいっても極端なイデオロギー偏重の主張ばかり目立つ今においては、マイルドで寛容な議論と論理がますます見直されなければならない。

  • 『経済学とは何だろうか』(岩波新書)において、クーンのパラダイム論を援用しながら経済学の「制度化」の問題を考察した著者が、アメリカの制度化された主流派経済学や、政治にとって都合のいい役回りをみずから率先して演じている日本の経済学を批判し、モラル・サイエンスとしての経済学の復権を説いた本です。

    「経済学のすすめ」というタイトルですが、マルクスのそれとおなじ意味で著者なりの「経済学批判」を展開した本ということもできそうです。ただ、科学社会学的な観点からの経済学批判としては、やや議論が散漫な印象を受けました。また著者自身の政治的な立場からの意見が生のままで提示されているところもあります。本書のような経済学批判の試みも重要な課題だと考えるだけになおさら、地に足の着いた議論を展開してほしかったように思います。

  • 計量経済学を究めたからこそ、言えるんだろうなあ。知識は偏っちゃあいけないですよね。

  • 英語で論文を書かないと引用されない=評価が上がらない。

    学徒出陣は文系学生が対象だった。文系の出願者は激減した。彦根高等商業学校は高等工業へ変身した。戦後、彦根経済専門学校に戻った。

    アメリカの徴兵制は誕生日による抽選だった。

    全体主義国家は理工系が出世する。民主主義国家は、批判力、表現力が優れている文系が優位になる。

    アダム・スミス、ケインズの著作、
    ガルブレイス「豊かな社会」「不確実性ん時代」
    フリードマン「選択の自由」
    スティグリッツ「世界の99%を貧困にする経済」
    ピケティ「21世紀の資本」
    アトキンソン「21世紀の不平等」
    セン、クルーグマン、シラー
    これらが古典。

    学内民主主義があることが、企業体と違うところ。

    地方の私大は、公立大学法人化が生き残る道。

    法科が事務官に多いのは、弁が立つから。カラスが白い、と言えなければ一人前の官僚とはいえない。

    スティーブ・ジョブズ「人文知と融合した技術」が大事。

    マクロ・ミクロ・計量経済学の知識を身につける。
    現代の古典を読む。
    不確実性の時代と選択の自由。

    数学による表現が横行したため、数学の僕と化した。

    見えざる手の存在を数学的に証明することが50年台の最大の関心事だった。

    マルクスの予言が裏切られたのは、ケインズの教えに従い、社会福祉政策を実行したから。

    宇沢弘文「自動車の社会的費用」
    森嶋通夫「思想としての近代経済学」

    経済学を科学と信じる学者
    カールホバー「歴史主義の貧困」
    トーマス・クーン「科学革命の構造」

  • 経済学を学んでいる、あるいは学びたい人には是非読んでもらいたい本。
    特に第2章と第3章は必読でしょう。

  • 経済学について、読むだけでわかり、かつアメリカ、ヨーロッパ、日本の経済学の状況についてとても詳しく書かれている。
     大学で経済学を学ぶための入門にふさわしい。

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著者プロフィール

滋賀大学前学長。京都大学名誉教授。専攻は計量経済学、エネルギー・環境経済学。
『経済学とは何だろうか』(岩波書店)、『佐和教授はじめての経済講義』(日本経済新聞社)、『レモンをお金に変える法』(翻訳、河出書房)など、著書多数。

「2020年 『12歳の少女が見つけたお金のしくみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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