日中漂流――グローバル・パワーはどこへ向かうか (岩波新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004316589

作品紹介・あらすじ

国交正常化以来の友好の時代を経て、日中関係は、大きな転換期を迎えている。「反日」デモや領土・領海をめぐる衝突など政治的な緊張感を増すなかで、日本は、新たなグローバル・パワーと化した中国とどう向き合うのか。現代中国外交の実像を多角的に読み解きながら、来たるべき日中関係を模索する。

感想・レビュー・書評

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  •  書名は「日中」だが、扱う内容は幅広い。また、中国外交全般を論じる後半部分では、米中の研究者の多様な議論や先行研究を取り上げてもいる。
     まず日中関係については、筆者は、21世紀に入ってからの悪化を、「72年体制」の限界と呼んでおり、うまく言えないがそうなのだろうと直感的に同意できる。05年の反日デモは排外的な大国主義に基づく根深いもので、更に12年の反日デモでは対立の分野はより広がった、とも述べている。一方で米中関係はより管理され制度化されているとしている。一読して米中関係を楽観視しているかとも感じるが、日中関係との比較で考えてみるにはいい。
     中国外交全般については、自分の読解力のためかもしれないが、こうだ、こうなるとの唯一絶対の明快な解を筆者が示しているようには見えない。たとえば、現代中国外交の基本思考はあくまで近代国家モデルを前提としているとし、華夷秩序のような伝統的思考の影響論には与しない一方で、中越戦争の政治的・道義的目的には伝統的な中華の国際秩序観をも見ている。ただ、逆に明快な解を示せるほど単純化はできないということだろう。
     筆者は、よく言われるように2009~10年頃から中国外交が攻勢的になったことは認めているし、国境を越えた軍事行動は外交・政治の延長(=外交的・政治的に必要なら辞さない?)とも述べており、この点は懸念されるところである。ただ終章で「突然グローバル大国になってしまった中国はうまく自画像を描けないでいるように思う」と書いているとおり、今の中国・中国人自身も一枚岩で統一イメージを持っているわけでもないのだろうとも思う。

  • 【197冊目】中国研究者で有名な毛里先生の、前著の続編という位置付け。前著は2006年発刊のもの。それからの10年間で、日中関係は新たな様相を呈するようになっており、これを整理するのが本作の目的とのこと。
    たぶん、筆者の頭の中では知識が渦巻いており、読んでいてお情報を大量に読者の頭に流し込もうとしている印象。日中関係の事象面がそれだけ豊富だったということか。ただ、既存の議論の整理を試み、それと同時に、きちんと筆者自身の考え方をその整理の中に位置付けようとする真摯な姿勢がみられ、好感がもてる。
    新たに知ったことなどは下記のとおり。

    ・毛沢東は「二分論」を唱えていて、これが中国国内における日本の戦争責任について長い間支配的な考え方だった。二分論とは、戦時の日本指導層と一般の日本国民とを区別する考え方で、前者には大戦の責任があるが、後者には無いとするもの。

    ・筆者は日中関係を、時系列に沿って概ね4つの区分に分ける。
    (1) 日中友好条約が結ばれた1972年以降
    →二分論に支えられ、和解ムードが両国を覆った。
    (2) 「ハネムーンの15年」と呼ばれる1980年〜1990年代半ば
    →1979年の天安門事件を受け、その後の改革開放期と重なる時代。日本からの対中国ODAも行われ、「援助する国、される国」という関係となった。
    (3) 1990年代半ば〜2010年の「構造変動期」
    →日本「戦争は終わった」中国「戦後が始まった」←二分論に対する不満。
    →日本=経済の停滞、中国=高度成長期
    (4) 2010年〜は、新たな対抗の時代

    ・中国専門家の間では、2009年を境に、中国外交が強硬姿勢に転換したとする論調が散見される。

    ・中国の外交部は、外交においてイニシアチブを発揮できていない。軍や国営大企業(特に石油)の影響を受けるようになってきている。

    ・日中関係について言えば、2005年4月に国内において大規模な抗日デモが発生し、中国国内で日系スーパーが襲撃されるなどの事態に発展した。そして、これを受けて、日中の両国民は、互いのイメージが相当に悪くなるという経験をした。

    ・2010年に、尖閣諸島沖で、海保の巡視船と中国漁船が衝突。

    ・2012年、日本政府が尖閣諸島を国有化。→中国が「現状の重大な変更である」として反発したが、1992年、中国全人代は「領海及び接続水域法」を採択し、法律で尖閣諸島を自国の領土として規定した。これを指摘し、筆者は、現状の重大な変更について、中国は他国を非難する立場にないと述べている。なお、この法律については、軍部や一部の強硬派の意見が通ったとみられているらしい。

    ・筆者は、中国が膨張的な外交を志向しており、また、軍事行動が政治的理由あるいは道義的理由(中越戦争における「懲罰」)によって行われていることを認めている。

    ・筆者は、1972年体制は指導者個人の力量や人柄に支えられた外交であったと評価しつつ、日中のチャネルを制度化・理性化し続ける努力が必要であるとする。米中あるいは露中の関係は対話チャネルの制度化がうまくいっているモデルであるとする。

  • 東2法経図・開架 B1/4-3/1658/K

  • 書籍についてこういった公開の場に書くと、身近なところからクレームが入るので、読後記は控えさせていただきます。

    http://www.rockfield.net/wordpress/?p=9565

  • 319.1022||Mo

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著者プロフィール

1940年、東京都生まれ。早稲田大学名誉教授、第21回福岡アジア文化賞学術研究賞受賞者
東京都立大学人文科学研究科修士号(歴史学)。主な著書:『現代中国 内政と外交』(2021)『現代中国外交』(2018)『中国政治―習近平時代を読み解く』(2016)『現代中国政治―グローバル・パワーの肖像』(2012)『日中関係―戦後から新時代へ』(2006)『現代中国の構造変動(1) 大国中国への視座』(編著、2000)他。

「2021年 『中国はどこへ向かうのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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