農は過去と未来をつなぐ――田んぼから考えたこと (岩波ジュニア新書)

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005006625

作品紹介・あらすじ

イネを植えるのに、なぜ田植えって言うんだろう?田んぼの生きものを数えてみたら、5700種もいることがわかった。田んぼはイネを育てるだけでなく、多くの生きものを育てているのだ。環境稲作を提唱してきた著者が、生産者減少や食料自給などの問題を考えながら、「農」が本来もっている価値を1つ1つ拾いあげていく。

感想・レビュー・書評

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  • 2010年読後、著者に会うため大学主催のサミットに参加。
    農が持つ多面的な魅力を再認識。
    この本には、作る人も受取る人もみんなが共有したい大切な
    ことが書かれている。
    著者に心からありがとうと言いたい。

  • タイトルと表紙に惹かれて読んでみたが
    想像以上に良い本で気がついたら付箋まみれになっていた...

    農業の素晴らしさを伝えるというよりは
    「農」という広い世界に視野を広げて
    「農」にはどんな世界が広がっているのか
    かつて百姓はどのように生きてきたか

    百姓仕事とよばれるものが何を守ってきて
    その価値を現代社会でどのように捉えていくべきか。
    農薬、食料自給率、農家の減少など
    現代の問題についても鋭く切り込みながら
    百姓である著者の視点で語られていく。

    〝百姓仕事は、自然も風景も情愛も生産しています。〟

    明治以降に作られた「日本農業」という概念と
    加速する資本主義社会に対する著者の批判は自分にも
    グサグサくるものがあり
    おカネになる価値しか「価値」として見ない資本主義社会の歪んだ価値観は自分の中にも根深く潜んでいることに気づかされた。
    これだけでもこの本を読む価値があったと思う。
    生産量とか作付面積だとか
    数値ばかりを農業の価値だと見てきた。

    コモン(共有財)という言葉が一般的になり、それらが私たちの生活をどのように支えてきたのか意識され始めてきたが
    コモンは必ずしも資源に限らず
    そこには百姓仕事とよばれる人間の営みも含まれていたのだった。

    大多数の日本人は長らく百姓として生きてきた。
    田んぼを守り、田んぼと共に生きて
    百姓だけの世界を持っていた。

    稲は育てるものではなく、できるもの。
    でも、田んぼは百姓が毎年〝つくる〟ものだと
    著者は記している。

    これが「稲植え」ではなく「田植え」という
    言葉の思想だった。

    〝「ただの時間」「ただの村」「ただの草」「ただの人生」というようにです。ようするに、とりたてて言うような価値がないものですが、じつはいちばん大切なものです。〟

    この本に長田弘さんの詩と同じことが記されていて
    とても嬉しかった。

    いま思い返してみると
    子どもの頃は田んぼのカエルやおたまじゃくしを捕まえて遊んでいたし
    小学校で田植え体験をした時の、田んぼの泥のひんやりと滑らかな感触はなぜか今も記憶に残っている。

    自分が住んでいる村では田んぼを守る人はほとんどが高齢者で、あと10年も経てばどうなるだろうか。
    田んぼを守る人がいなくなったら
    村の人たちの生活と風景はどのように変わるのだろうか。
    カエルの大合唱は聞こえなくなり
    赤トンボは見られなくなるのだろうか。
    この本を読んで色々考えてしまう。

    厳しいことも書いてあったが
    著者の田んぼへの愛情と
    百姓仕事に対する敬意と情熱を深く感じる本だった。

    新しい価値を見つけたとしても
    すぐに利益に結びつけるのではなく
    それが私たちの生活とどのような関係にあるのか...

    新しく発見したと思い込んでいるだけで
    それらは元々あったものなのだ。
    未来につなぐべき価値について、静かに考えていきたい。

    #農は過去と未来をつなぐ
    #宇根豊
    #岩波ジュニア新書

  • 610-U
    閲覧新書

  • #虫見板カネや時間で測れないただの風景映すひといき

  • 百姓の働きを支えていかなければいけない、、、
    農業が、生産性や生産高では測ることのできない、様々な恵みをもたらしていることについて、生きもの調査からわかる生物多様性の保全、田んぼや農村の美しい景観、人々の農業のなかに生きている、自然の捉え方などについて、その重要な価値を論じている。

    近代化に伴う経済効率主義の浸透がもたらした様々な弊害があらわとなる現在、これまで経済価値で測られてこなかったもを価値化するための制度や取り組みが、国際レベル、国内でも進められるようになった。
    地球が壊れかけている今、人々の生計を守りつつ、自然環境を確実に維持していくための早急な行動が必要であると、あらためて感じる。同時に、農業の現場からかなり離れてしまった、私を含めて多くの現代人が、自然の働きの中で作物を育てることについて、実体験から知る機会や、自然環境とどのように関係していくかの感覚を取り戻す機会が大事だと感じた。

  • 栄光ゼミナール1年3月理科実験。

    2013〜2015年中学入試でよく出題された作品。

  • とても筆者の情熱が伝わってくる本です。日本の農業…自分からは遠いもので、今まで考えたこともなかったこと。それが少し近くなりました。田んぼのある風景、田んぼで育まれる生き物たち、全てひっくるめての農業なのですね。自分の生活を少し見直すとともに、是非機会を作って田んぼを見に行きたいなと思いました。

  • 自然な風景、当たり前の風景。
    田んぼにかこまれた土地でずっと暮らしている私にとっても、それは当たり前の風景。
    しかし、少しづつ変わっていく、当たり前の風景。

    生きるために仕事をするのか、仕事をするために生きるのか。
    生きているから仕事をするのか、仕事をするのが生きることなのか。
    それなら、楽しく仕事をしたいと思わないのか。

    いろんな、当たり前のこと。
    いろんな、誰もが考え付くこと。

    だけど、それは普通じゃない。

    筆者が、生粋の農家、百姓ではなく、外からこの世界に踏み込んだ人間だというのが、この本の語ることを一番よく表している気がします。

  • 農業は、儲けるためにするのか。そうしてしまったのは、政府。田んぼの実り、それは「できる」ものであって「作る」ものじゃない。生産効率だけを追いかけて、じゃあ、田んぼの生きものたちは何?全てが関わって米ができるのに、目を向けないできた。

    近代化の中で、見落とされて、軽んじられてきたものに目を向ける。それが現代の農業が抱える課題に何か道筋を拓くものではないか、と。

  • 農業立村に住んでいると否応なく「農業」という産業についてあれこれ考えることが多くなります。  でもね、正直なところ落ちこぼれながら会計人だった KiKi のいわゆるビジネス・センスとかビジネス哲学と農業ってどうしても相容れないことが多いような気がするんですよね~。  要するに都市部の、ひいては現代社会では当たり前になっているある種の尺度では測れないことが凝縮されて成立しているのが農業という産業のような気がして、いえ、そもそも産業という捉え方をして「工業」とか「商業」と並立させる発想で俯瞰しちゃいけないのが農業のような気がして仕方ありません。  ま、そんなモヤモヤとした想いを言語化する1つのきっかけになれば・・・・・と手に取ってみました。

    今回この本を読んでみて目からうろこだったのは、「農業の生産物とは果たして何だろう?」という視点でした。  KiKi のようなサラリーマンあがりの人間にとってそれはやっぱり「米」であり「野菜」であり、要するに「市場に売ることができるもの限定」と思い込んでいました。  でも、KiKi のようななんちゃって農家の営む田んぼでも、赤とんぼが生育しています。  もちろんこの生育に KiKi は一切手を貸しておらず(赤とんぼの成虫を田んぼに離したわけではないし、卵を採集して羽化まで見守ったわけでもない)、ただ単にIおばあちゃんに教えられるままに、田んぼを耕し、田んぼに水を引き入れ、稲を植えただけです。  でもその営みがトンボをここに呼び寄せ、産卵させ、勝手に育ち、勝手に赤とんぼになっているだけのことではあっても、田んぼがなければ生まれなかった命でもある・・・・・ということに、初めて気がつかされました。

    (全文はブログにて)

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著者プロフィール

宇根 豊  農と自然の研究所代表。1950年、長崎県生まれ。福岡県農業改良普及員時代に減農薬の稲作を提唱。1989年に就農し、農の有り様と真価を問いかけ続ける。著書に『農本主義へのいざない』など。

「2021年 『半農半X これまで・これから』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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