グローバリゼーションの中の江戸 (岩波ジュニア新書 〈知の航海〉シリーズ)
- 岩波書店 (2012年6月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784005007172
作品紹介・あらすじ
「江戸時代」のイメージは?ちょんまげ?寺子屋?鎖国?実は、海外のものを巧みに取り入れながら、世界の波に流されることもなく、独自の発展をとげた時代でした。ファッション、絵画、本などから見える海外との関わりや、中国、朝鮮、琉球との関係をたどり、「本当にグローバルであることとは」を考えます。
感想・レビュー・書評
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大変長い引用になるが、「おわりに」に、著者の想いが十二分に綴られているので、書き写したい。
「おわりに」
私はこの本を、2011年3月11日の東日本大震災のあとで書いています。1945年原子爆弾がアメリカに落とされたのは、皆知っていると思います。では原子力発電所はどうでしょう?これは爆弾ではないので「核の平和利用」と名づけられました。名づけたのは、アメリカのアイゼンハワー大統領です。
アメリカは第二次世界大戦中に原子力の研究を行い、日本に落とすことを研究していました。落としたあとは情報を統制し、どのような被害が出たか調査しましたが、日本人には知らされませんでした。核爆弾は「実験」だったのです。それから9年後、1954年に太平洋ビキニ環礁でアメリカは水爆実験をしました。このとき太平洋に暮らす人々と日本の漁船「第5福竜丸」が被爆しました。日本はこのとき、女性たちが声をあげて「原水爆禁止運動」が始まりましたが、その背後で日本政府は、アメリカと原子力協定を結び、原子炉をアメリカから購入しました。
その後日本はさまざまな技術を発展させ、高度経済成長を実現しました。その日本経済の発展を支えたのは、二度と戦争をしないという「憲法9条」でした。しかし一方で日本は、アメリカと朝鮮の戦争、アメリカとヴェトナムの戦争を支援し、またそれによって経済的に潤いました。さらに、経済成長に間に培われた価値観は、大量生産・大量消費、自由貿易、軍備の増強とその使用によってお金を循環させ、GDPを増やすことで人が幸せになる、という米国的な価値観でした。
この日本の状態はグローバルでしょうか?
沖縄は日本列島の中で唯一、「戦場」になりました。その後、アメリカ軍の統治下に置かれ、1972年に再び日本になりましたが、今でも統治時代と同じようにアメリカ軍基地がおかれています。
この日本の状態はグローバルでしょうか?
今まで見てきたように、江戸時代の日本は中国の政治思想を基準にしながらもヨーロッパの情報を集め、ものを各方面からある程度輸入してそれを国産化し、思想や医学も多方面から学びながら、それぞれの学者が日本の実情に沿った思想を築いて来ました。
しかし一方で、外国の脅威や軍事力に晒されると、一挙に排外的になる弱点を持ち合わせていました。しかしこの弱点は庶民のものというより、幕藩体制が既得権益を守りたいがためのものでした。つまり、もっともグローバルな状態から遠いのは、自らの権力を守ろうとする人々とその組織です。足下を固めようとするこの姿勢は、江戸時代の初期には極めて重要で有効なものでした。それがあるからこそ、地球を被う植民地主義の波にさらわれることなく、この日本列島の特質にあった発展をする事が出来たのです。
が、時間が経つと権力の固定化が起こり、それを守り通すことが目的になりました。商業の発展は幕藩体制に役立てることが出来ます。幕府主導の海外貿易も、幕藩体制に役立っていたはずです。しかしそれが幕府の手を離れることになったらどうでしょうか?欧米が求めてきた「自由貿易」「渡航の自由化」は、貿易の利益が幕府の手から離れることを意味していました。江戸時代の大半通じて幕府は、幕府のみの軍事力では国内をまとめ切れないことが分かっていました。貿易と渡航の自由化は、いったん幕府の手を離れれば諸藩及び商人(企業)にゆだねられます。外国船打ち払い令の様な極端な排外行動は幕府の既得権益守旧のための行動だったのであり、その様な権力の行動は、決して日本特有なものではありません。
社会は進歩しているわけではなく、進化しているわけでもありません。社会は人間がつくっているのですから、放っておいて自然に良い方向に向かうことなど、あり得ないからです。しかし変化はしています。特に日本は、多くの断層の上に成り立っていますから、地震の多い国です。これは紛れもなく日本の特徴です。火山も多いです。しかし一方で、国土の70%が山地であり、川や水や地熱や多数の温泉に恵まれています。また海に囲まれていますので、津波にも襲われたり、台風の通り道に成ります。同時に豊かな海の資源をもっています。これらの風土的条件は、絶えず天変地異に出会う事を意味しています。さらに近頃では、地球温暖化による気候変動があります。
そして15世紀末以降、日本はグローバルな変化のただなかにいます。つまり私たちは常に地球上で起こる事をよく観察し、自らの起こる変化を冷静に受け止め、それを社会をよくするチャンスに変えていかねばならないのです。それが「グローバルに生きる」ということです。
そのために私たちは、良い方向への変化を押しとどめようとする既得権益を持つ人々の守旧的な行動を見抜かねばなりません。最近の出来事で言えば、世界で最も地震の多い国のひとつであるこの国に原子力発電所を建てることは、絶望的な政策であることを、世界の多くの人が理解しました。そしてその絶望の中から、新しい国をつくろうとする希望を持つ人々も現れています。にもかかわらず、その動きを押しとどめようとする勢力もあります。これは既得権益ゆえなのですが、それを「日本の経済が衰退する」という理由で説得しようとします。
新しい社会への希望もなく経済が発展するわけはありません。そしてそもそも「経済」という言葉は、江戸時代では「経世済民」、つまりこの世を営むことで全ての人々を救済することでした。GDPの数字を上げることでなく、全ての人々が救われることなのです。
グローバルに考えグローバルに生きるということは、どこかの大国を見習ってその通りに生きることではありません。自分が生きている地域が、そこにふさわしい発展をするように、世界の中にあるさまざまな可能性を取捨選択することです。
あなたも、他人の真似をして生きることは出来ませんよね?素晴らしい人がいれば見習うこともあり、また反面教師として観察しながら「あの人のようにならないようにしよう」と思うこともあるでしょう。たくさんの人の生き方を見ることで、自分なりの生き方を、その能力と変化に沿って探り、自分で考えながら組み立ててゆくのが「自立」です。しかし自立は孤独でも孤立でもありません。
日本にはかつて「自前で生きる」という言葉がありました。「自立」は孤立を感じさせる言葉ですので、むしろ「自前でやってゆこう!」と表現した方がいいかもしれません。多くの人と関わり助け合いながら、それでも「自分なりに」あることが「自前」なのです。グローバルに考えグローバルに生きるということは、「自前で生きていく」ということなのです。(182p)
もしかしたら、これは古典に入るべき書物なのかもしれない。読み進むうちに、私はそう思った。
時代に対する鋭い批判的認識があるのである。特に、読んでお分かりのように、アメリカ言うなりに進めてきたTTPと原発問題に対して、深い憂慮を持っていることは明らかである。深く時代にメスを入れる本は、深く時代を超える条件も持っているだろう。
グローバリズムを否定しているわけではない。この一書はむしろ、グローバリゼーションを高らかに讃えている本なのである。江戸を代表するファッションかすり文様は、インドから来ていた。瀬戸物という磁器は朝鮮半島から来ている。江戸時代のガラス、顕微鏡、眼鏡、印刷技術等々は全て外来のものである。それらのモノを取り入れながら、日本文化を作りあげる「内発的発展」を著者はグローバリゼーションがもたらす長所だと強調しているのである。少年少女向けの本であるが、大人にもお勧めします。
2012年9月30日読了詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
海外のものを巧みに取り入れながら、独自の発展をとげた江戸時代。着物、食器、絵画、本など、江戸の文化から見えてくる世界との関係を解き明かし、「グローバルであること」について考える。【「TRC MARC」の商品解説】
関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40168520 -
おもしろかった。ジュニア向けでも容赦ないwww
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図書館でたまたま目に留まり借りる。
一言で言って強烈な**江戸自体は鎖国していた論への批判**である。
- 鎖国という言葉が広まったのは、1950年の和辻哲郎の「鎖国ー日本の悲劇」という著作。江戸時代に鎖国したから日本は戦争に負けた。p171
- 和辻はこういう言う『太平洋戦争の敗北によって日本民族は実に情けない姿をさらけ出した。(中略)何がわれわれに足りないのであるかを精確に把握しておくことは、この欠点を克服するためにも必須の仕事である。その欠点は一口にいえば科学的精神の欠如であろう。合理的な施策を蔑視して偏狭な狂信に動いた人々が、日本民族を現在の悲境に導き入れた。』p172 -
読みやすかったけど内容がつまらなかった
江戸時代の物流とか交易の話
今のグローバリゼーションはここが原点だったんだなって感じ -
面白かった。
同じジュニア新書の砂糖の世界史と対になっている。
銀、鉄砲、砂糖、木綿、磁器、これらがいかに世界をかえたのかよく分かる。
ものの本、呉服の由来もはじめて知った。
明治以降の日本のやり方への批判も。
秀吉が東アジアにやったことも大きさよ、、、。
日本が東アジアの一員であることを今後も考えながらいかなくては。 -
世界の状況の中で江戸幕府のとった外交政策はどのように位置づけられるのか、を描いた著作。
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江戸時代を多少賛美し過ぎているきらいはあったが全体に面白かったと思う。個人的には、本の中で取り上げられた「江戸時代のファッション」「浮世絵」などが、初めて知る知識が多かったこと、それと教科書で見たことのある写真をふんだんに使われつつ教科書とは全く異なるアングルから書かれていたため、とても興味惹かれた。
一番の良かったのは江戸時代に限らず広い観点から「グローバル化」「グローバリゼーション」を考え直すきっかけになったことだったのでないかと思う。
「グローバリズム」とはどういった概念なのか?から始まり、ジュニアにもわかる言葉で簡潔に説明した上で、良い点悪い点をハッキリ掲げている。
江戸文化をグローバル化の観点から見直すことで、「グローバル化」そのものが、曖昧模糊としたものから少しずつ形が見えてきた感覚だった。
日本はアジアをはじめ世界各国と繋がっており、どうしたって相互に影響し合っているのだろう。
歴史の勉強を始めたばかりの方や、ジュニアの方には良い本ではないかと思う。教科書に書かれた歴史とは違う観点を知る意味で。歴史は多角的に捉えられるということ・多角的に捉えるとひとつの歴史的事実の認識がもともとあったものとは異なってきたり、より深みを増してくるという事を知る、という意味で。 -
江戸時代は世界のグローバリゼーションの中で出現した。また、「江戸時代は庶民も外国の文物に触れる機会も多く、それによって江戸文化も成熟していった」という考え。
前半は退屈だか、後半の3章、4章は秀逸だと思う。後半だけでも読んでみるては? -
【抜き書き】
86頁。
“「ほにほろ! ほにほろ!」と呼びかけながら飴を売っている飴屋があったそうです。「ほにほろ」という魔法のような言葉はいったい何で
しょう? じつはわかっていません。”
【目次】
はじめに――グローバリゼションって何? [iii-xvii]
目次 [xix-xxi]
1 江戸の西洋ファッション 001
ボタンとズボン/水玉とフリル/江戸のインド/ファッションで見るグローバリゼーションの意味/着物は巡る
2 江戸の茶碗とコップ 033
お茶碗でご飯を食べました?/日本人と磁器/漆の時代から陶磁器の時代へ/様々な修理人たち/お茶碗の中身――ご飯/コップ――和ガラスの世界
3 江戸の視覚の七不思議 065
一不思議め レンズ/二不思議め 眼鏡をかけた江戸人たち/三不思議め 遠近法と陰影法が描いた江戸/四不思議め 中国版画とカラー浮世絵/五不思議め 大首絵――クローズアップの迫力/六不思議め 風景が動く/七不思議め 五感で感じる本の世界/そして循環
4 江戸時代が出現したグローバルな理由 117
コロンブス日本到着?/国際海賊集団「倭寇」が鉄砲を持ってきた/いよいよ朝鮮侵略へ/朝鮮通信使がやってくる!/琉球国とアイヌ民族をめぐって/江戸時代に日本はアジアからの自立した/教科書に「鎖国」と書かれる理由
参考文献 [175-176]
おわりに――どうやってグローバルになればいい? [177-182]