丸山真男『日本の思想』精読 (岩波現代文庫 学術 42)

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  • / ISBN・EAN: 9784006000424

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  • 宮村治雄 「 丸山真男 日本の思想 精読 」 

    岩波新書 「 日本の思想 」をテキストに 丸山眞男 の思想史学の視点(近代や開国に内包された問題点とその処方箋)をテーマとした講義録

    理解するのに かなり苦労したが、知的な刺激に満ちた凄い本だった。次はテキストを読もうと思う


    テキストの章立てとは 逆に進む講義だが、最後の講義(テキストでは最初の章「日本の思想」)が 一貫したテーマの結論となっていて、構成も良かった

    「である」価値とか「する」価値とか、タコツボ型文化とか ササラ型文化とか、精神的貴族主義とか いやいやながらの政治活動とか、P伝統とかC伝統とか...テーマに的確な言葉使いが素晴らしい


    近代日本の思想と文学とマルクス主義のところが 少しわかりにくかったので、テキストで確認する


    丸山真男「日本の思想」のテーマは、「開かれた社会」を実現するために「近代」に内包する問題を取り出し、C伝統として新たな精神的基軸を造り上げることだと思う



    近代の哲学(物事の判断の仕方)は 「である」価値から「する」価値への相対的な重点移動によるものとし、近代の問題点として 両者の倒錯を取り上げ、事例から論考した上で、それに対する提言までする構成


    「する」価値と「である」価値との倒錯の例
    *政治の「である」論理の持続
    *文化の「する」論理の浸透


    倒錯を再転倒させる提言
    *精神的貴族主義〜精神的貴族主義とは 自分が自分であることに価値を見出す勇気であり、教養や文化において少数者であることを恐れない
    *いやいやながらの政治活動〜いやいやながらの政治活動のすそ野の広がりが政治を支えるとき、「である」と「する」の倒錯を再転倒させ、近代を支える価値原理として再生する


    「思想のあり方について」
    *開国に含まれている近代の問題点
    *開かれた社会→視野の拡大→閉じた社会への回帰という逆説が生じる
    *視圏の拡大=ステレオタイプ化されたイメージへの依存が強まる
    *近代は 閉じた社会を内に含む

    近代の特性
    *視圏の拡大
    *空間の縮小
    *科学的認識→専門化と分業

    タコツボ型文化とササラ型文化
    *近代の集団は それぞれ一個の閉鎖的なタコツボになる〜そうなると 属するメンバーをすべて飲み込む
    *近代が 開かれた社会と結びつくには、横断的な社会的コミュニケーション、知の共同体的意識の介在が重要
    *ササラ型社会〜全体性や普遍性の意識を養成した伝統を持ち、近代化の過程の中で横断的なコミュニケーションを保持している(教会、サロンなど)


    「近代日本の思想と文学」
    知性や思想のあり方が、近代化の方向と内実を左右する

    開かれた社会として近代を成立するために〜知性の個性的相違を確認しながら、相違を組み合わせることで包括的世界概念を樹立する

    日本におけるマルクス主義の思想的意義
    *学問形態の早熟的な専門化傾向に対して、マルクス主義が総合性や構造性の視点を与えた
    *思想には人間の人的責任が賭けられていることを教えた〜マルクス主義の思想的転向が 良心の痛みとして残った
    *マルクス主義のトータルな世界観

    プロレタリア文学を始点とした昭和文学史は〜タコツボ型世界の伝統の中で、それと対立するマルクス主義との出会いとなった

    文芸復興期に現れた知的共同体への可能性を救い出すために
    *プロレタリア文学者、マルクス主義者、小林秀雄ら文学主義者の思考形態を批判
    *個人の思考だけでなく、個人がどこまで自覚しているか定かでない個人を超えた要素(カルチャーあるいは伝統)を取り出す

    伝統の意味
    P伝統(パターンとしての伝統)
    個人によって無自覚に反復され、経験的論証によって確認されるパターンを特質とする伝統

    C伝統(価値的なコミットミントに媒介された伝統)
    *個人が自己の置かれた状況で自覚的に継承しようとする意志に媒介されている伝統
    *思想を伝統化する、思想的伝統を形成するとは、C伝統を念頭に置いている
    *C伝統を自ら形成するために、思想が蓄積され構造化されることを妨げるP伝統を問題視することが 「日本の思想」のモチーフ

    I伝統(土着的な文化としての伝統)


    C伝統の形成を阻害したP伝統の問題
    *ヨーロッパ思想の無秩序な流入を天皇を精神的基軸とする方向において収拾した
    *近代国家建設は 西欧の制度の輸入として行われるため、天皇制国家の根本的な問題となった〜フィクションの自覚が失われている


    第二の開国としての戦後を、開国の歴史的負荷である精神的雑居性の現出する極限状態として位置づけ

    明治の天皇制国家は、近代日本の直面した開国状況への必死の対応であったが、近代に大きな負荷を強いた

    開国の状況下で、C伝統を構築する代わりにI伝統(天皇)を引き出し、P伝統を増幅させた

























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