儀礼の象徴性 (岩波現代文庫 学術 155)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (377ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006001551

作品紹介・あらすじ

タイの仏教儀礼や英女王の戴冠式などを例に、儀礼とコミュニケーション、儀礼のことば、儀礼と国家との関係を考察する。国家儀礼は国と社会の統合の中心を具体的に示す装置であることを明らかにし、境界状態、リミナリティ、コミュニタスといった概念によりながら、儀礼がいかに人間の存在にとって本質的な問題であるかを追究する。

感想・レビュー・書評

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  • 儀礼と国家の章を中心に読んだ。普段はフーコーの生権力や統治などの枠組みで理解していた国家を、儀礼という面から分析できるのは面白い。「儀礼なくして国家はない」といわれるほどに儀礼とは権力と国家に結び付いている。特に、「中心化」論は、儀礼を通して国家における”中心”が中心であることをより強化し、中心と周辺の境目をより明確化されることがわかりやすく説明されていた。権力や国家というと、どうしても自身の先入観が入ってしまうことがあり、読んでいて苦しい場面もあったが、きっとこれが文化人類学の醍醐味なのであろう。

  • 【版元】
    本体1,300円+税
    通し番号:学術155
    刊行日:2006/02/16
    ISBN :9784006001551
    A6 並製 カバー 386ページ
    在庫僅少

      タイの仏教儀礼や英女王の戴冠式などを例に,儀礼とコミュニケーション,儀礼のことば,儀礼と国家との関係を考察する.国家儀礼は国と社会の統合の中心を具体的に明示する装置であることや,境界状態,リミナリティ,コミュニタスといった概念によりながら文化の差異を超えて存在する儀礼の持つ解放性と拘束性の両面を明らかにする.

      本書『儀礼の象徴性』は,1984年に「岩波現代選書」の一冊として刊行され,その後,1990年に「特装版岩波現代選書」として出版された.この度,「岩波現代文庫」として出版されるに際し,若干の感慨を覚える.というのも,「岩波現代選書版」の「あとがき」でも触れたことではあるが,本書の主題である儀礼の研究を行おうと決めたのは,1972年から73年にかけて半年ほどタイのバンコクの仏教寺院で僧侶修行の生活を体験したことによるからである.当時,大学紛争などの騒然とした時代を経験して心身ともに疲れきった状態でいたとき,テラワーダ仏教の「形式(行動)が内容をつくる」とでもいった教えが実に新鮮に感じられ,厳しい戒と律の修行に自己を委ねることによって本当に救われると思った.言葉過剰の時代にあって「初めに(言葉でなく)行いありき」と説く僧院での修行は,それまでの自分の生活では考えられなかった世界の存在を知ることでもあった.
      僧侶の主なる義務は儀礼を執り行うことでもあり,それに参加するうちに「儀礼」という主題が僧院での日々の体験を通して現実のものとなってきた.本書にも僧侶になるための儀礼に関する記述・分析を例として用いたが,自分でその儀礼過程を通過してみて納得することがあったのである.タイでの仏教僧の修行体験なしにこの本は存在し得なかった.タイ文化という異文化を経験することによって「儀礼」という主題が与えられた.そして,一旦,研究主題として捉えると,儀礼の問題は人間存在にとって実に深く大きな問題を潜めていることが解ってきた.
      本書は,そうした儀礼についての私なりに追究した結果である.いま,最初に出版されたときから時間を経てあらためてタイでの僧修行の深い影響を感じるのである.また本書に対して1985年度の「サントリー学芸賞」(社会風俗部門)が与えられた.このことも本書の新しい形での刊行に際して覚える感慨である.
      なお,「岩波現代文庫」として刊行されるに際し,文中若干の修正を行った.本書が出たころには存在したソビエトもいまや存在しない.ロマノフ朝時代の国家儀礼がソビエト時代に大きく変えられたことは本書の中で述べている通りだが,ソビエトが崩壊しロシアになりプーチン時代となると,旧帝国時代の国家的威信を誇示する儀礼がさまざまな形で復活する様子も見える.これはまた興味深い問題ではあるし,ロシアに行って調査をしてみたい気がするが,「旧ソビエト」とするなどの変更を加えたのである.
    https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b255786.html


    【簡易目次】
    プロローグ――儀式的動物

    1 儀礼とコミュニケーション   
    一.「あいさつ」と「拝礼」   
    二.儀礼と儀式   
    三.儀礼と遊び   
    四.象徴的コミュニケーションの2つの型

    2 儀礼のことば   
    一.行為遂行的発言   
    二.「いうこと」は「なすこと」   
    三.「タンブンの儀礼」   
    四.パリッタの意味   
    五.ダーナと聖水   
    六.ことばと音と沈黙   
    七.儀礼の効果

    3 儀礼と国家   
    一.タイ現王朝の二百年祭   
    二.戴冠式と社会学者   
    三.儀礼的起源   
    四.「劇場国家」   
    五.「社会主義国家」の儀礼   
    六.不可欠の装置

    4 儀礼の解放・儀礼の拘束   
    一.タイ仏教の僧体験から   
    二.「境界状態」   
    三.「リミナリティ」の特性   
    四.コミュニタス   
    五.拘束

    エピローグ――儀礼の死と再生
    岩波現代文庫版あとがき

  • 儀礼を文化人類学の観点から論ずる。

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著者プロフィール

1938年東京都生まれ。文化人類学者。東京大学大学院修了、大阪大学で博士号取得。東南アジアをはじめ各地でフィールドワークに従事。元文化庁長官、大阪大学名誉教授、前国立新美術館館長。主な著書に、『儀礼の象徴性』(1985年、岩波書店、サントリー学芸賞)、『「日本文化論」の変容』((1999年、中央公論新社、吉野作造賞)などがある。

「2023年 『佐藤太清 水の心象』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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