マッド・マネー: カジノ資本主義の現段階 (岩波現代文庫 学術 209)

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  • Amazon.co.jp ・本 (447ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006002091

作品紹介・あらすじ

世界金融危機が否応もなく私たちの生活を直撃している。金融メルトダウンによって、マネーと市場は制御不能の域に達しつつある。なぜこのような現実が生み出されたのか。前著『カジノ資本主義』に続いて、金融市場が「マッド」(予想しがたく不合理で常軌を逸した振る舞い)と化してしまった原因を診断した本書は、時限爆弾が点火に向けて時を刻んでいる今、現状打開のために何をなすべきかを提言する。

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  • 多額の資金が瞬時に世界の金融市場を駆け巡り,国家も国際機関もこれを制御できない現在,人々の所得,貯蓄,職までが市場の動向に翻弄されている.世界金融危機の背景がここに存在している.カジノ化した金融市場に警鐘を鳴らした著者が,「マッド」になってしまった金融市場を診断,今後のシナリオを提示する.
    米国のサブプライムローン問題に始まり,昨年秋にはリーマン・ブラザーズが経営破綻するというウォール街を激震させた金融危機が世界中に深刻な影響を与え続けています.
     日本でも2008年1月の時点では,日経平均株価が1万5307円であり,1ドル=112円であったことを思い起こすならば,いかに株価が暴落し円が急騰したかは明らかでしょう.世界金融危機,経済不況の深刻化の中で私たちの生活も直撃されているのです.
     金融メルトダウンによって,マネーと市場が制御不能の域に達しつつあるのはなぜなのでしょうか.このような現実はなぜ生み出されたのでしょうか.1998年に刊行された本書は,そのことを鋭く問いかけています.
     タイトルのマッド・マネーとは何を意味しているのでしょうか.多額の資金が瞬時に世界の金融市場を駆けめぐり,国家も国際機構にも完全にはこれを制御できない現在,人々の所得,貯蓄,職までが,この市場の動向に大きく左右されています.もし,予想しがたい不合理で常軌を逸した振る舞いを「マッド」と呼ぶなら,近年の金融市場は,まさしく「マッド」と呼ぶにふさわしいと言えます.前著『カジノ資本主義』で,カジノ化した金融市場に警鐘を鳴らした著者が,市場が「マッド」になってしまった原因を診断,今後のシナリオを提示しているのです.
     本書の内容を概観していきましょう.第一章では『カジノ資本主義』以降の国際金融の動態を多くのエコノミストがいかに論じたかを考察しています.第二章では,その変化の中核ともいうべき技術革新(コンピュータ,半導体,衛星等)について論究しています.そして金融革新と金融市場の世界的な統合が金融危機の世界的な訪れを早めざるを得ないことを,デリバディブ市場の成長などを中心に明らかにしています.「銀行革命」と金融市場のパワーが国家を上回っている事態,それは「アメリカ製」の根幹にあることに読者の注意を喚起しているのです.第三章,第四章では,世界経済において金融が突出している中で国際的な金融協調のための政治的な土台が弱体化している要因を解明しています.第三章においては日米関係,第四章においては仏独関係を考察していますが,第三章においてはプラザ合意,「ブラック・マンデー」,バブル崩壊,「失われた10年」という過程,80年代後半から10数年の日本経済がいかに推移したかを米国経済との関連で明快に説明していることが注目されます.そして一転,三章から五章に連結させて1929年のウォール街株価大暴落から何を学ぶかという議論を詳述し,30年代不況の原因をアメリカの金融政策や保護主義的貿易政策だけに帰着させがちな経済学者の諸説を批判し,国際協調の不備,需要の減退を不況長期化の要因として重視しています.第六章では途上国への無関心が招く脅威が論じられています.第七章ではマネー・ロンダリングとタックス・ヘイヴンを扱い,それらが一次産品価格や国際的所得格差(南北問題)と深く関わっていることを国際政治経済学的関心から明らかにしているのが特徴的です.農産物など一次産品価格の低迷が麻薬原料の栽培を促進し,最貧国の放置がタックス・ヘイヴンを生み出していることも具体的に明らかにしています.第八章では,マッド・マネーを管理するために各国がどのようなシステムをとっているかを概観し考察しています.第八章,第九章を通じて,国際金融システムに安定性と安全性とを確保するために,対立する二つの思潮があることが前提になっていますが,その一つはBISにおいて流布されているように,市場における銀行その他の金融面でのアクターたちは十分合理的であり,自らの貪欲を和らげたり,恐怖を鎮めたりすることができるという立場です.もう一つは,IMFがそうであるように,銀行と金融システムを秩序化するための規制メカニズムを国際的レベルで再生する政府間協力に信頼を置こうという立場です.ストレンジは,直近に至る両者の立場を非現実的であると批判しています.結局のところ,社会の長期的な安定と公正を重視するか,短期的な効率や富の想像を重視するかという立場の違いは,価値観をめぐる政治的なものだと考えているのです.それゆえ,国際経済学の諸潮流が歴史や制度を軽視することを戒め,金融革新,通貨危機とその救済,世界的不況,欧州通貨統合などの背景に,いかに政治的な本質を見いだすかがストレンジ流の国際政治経済学だといえるでしょう.一方で「国家の退場」を認識するストレンジの議論は,他方では金融のグローバル革命と今日の動揺の起点が「アメリカ発」であることを重視しています.その意味合いもあって,本書が今日広範な読者に読まれることの意義は少しも失われていないと思われます
     「現代文庫版訳者あとがき」の冒頭では「金融メルトダウンによって,マネーと市場は制御不能の域に達しつつある.なぜこうなったのか.世紀末までの道筋とその先のシナリオとが本書に示されている」と紹介されています.これが本書の特長を一言で表現したものでしょう.それゆえ,多くの読者の皆様に自信を持って,本書をお薦めする次第です.ぜひご一読いただきたいと思います.
    第1章 狂気にいたったカジノのイメージ
    第2章 技術革新
    第3章 政治的支柱―日米枢軸
    第4章 政治的支柱―分裂する欧州
    第5章 ウォール街およびその他のカジノ
    第6章 債務国
    第7章 金融と犯罪
    第8章 マッド・マネーの管理―各国の制度
    第9章 国際的守護神
    第10章 だから、どうなのか?

  • カジノ資本主義の続編。グローバリゼーションが進み、ヘッジファンドや投資銀行など、巨大な資金有する金融アクターにより、国際金融システムが暴走している。この結果、将来、世界経済はどのようになってしまうのかを考えるための要素を与えてくれる本。各国の政治経済の特徴、歴史、国際金融機関、金融に関する犯罪など、興味深い項目が多かった。印象的な記述を記す・
    「もし世界経済が破綻して長期の不況に陥ることがあれば、迅速な対応の可能性もまた著しくそがれることになる。どの政府もそういった時期には、差し迫った国内の問題だけ焦点をあてることになりがちであることは、歴史がはっきり示しているからである」
    「95年の通貨危機の際に暗躍したヘッジファンドに対し、G7諸国はその危険を知りつつ何ら規制をしなかった。それは、市場とその背後にあって現状維持を望む巨大な既得権の方が、それを規制する政府の能力を凌駕してしまったというにすぎない」
    「社会科学の一分野としての国際関係論の研究に多少なりとも意味があるとすれば、それは国家行動の将来予測がいかに困難か、研究者に対して教えていることにある」
    「海外で活躍する企業は本国政府にあまり依存しなくなる。いずれ彼らは企業の意思決定において独立の精神を宿すようになり、これまで以上に国益を後回しにして企業の存続を第一に考えるようになるだろう」
    「(預金がタックスヘイブンに逃避することについて)はるかに深刻な問題は、第一に、政府税収の大規模な漏出によって、増大する行政費用や福祉費用をまかなうことがすでに難しくなっていることである。そして第二に、タックスヘイブンの存在が公金横領―腐敗した政治化が対外援助の供与国や債権者、国有企業から得た公金を着服すること-の大っぴらな誘因になっていることである」
    「タックスヘイブンを利用して国民の金を盗み取った国家の元首については、多くの者がリストに名を連ねる。イランの国王は、そのような行為が初めて発覚したうちのひとりだった。彼が権力の座から転落したとき、本来イラン民衆に帰属したはずの資金や不動産を、彼の家族がアメリカや欧州で運用していることがわかった。フィリピンのマルコス大統領と妻であるイメルダ・マルコスは、数百万ドル以上を所有していると判明した。ザイールのモブツ大統領、ケニアのアラプ・モイ、中央アフリカ共和国のボカッサ、イラクのサダム・フセインもまた、公金を盗んだ大泥棒たちである。インドネシアのスハルト一族はこれらほとんどの者をしのぎ、大統領の地位に長年留まることによって、膨大な数の企業と国家独占企業を所有してきた」
    「ピーター・バウアーは、援助は社会的、政治的な堕落を招くだけでなく、経済的にも逆効果だと長年論じている」

  • ●未読
    ◎「世界金融崩壊七つの罪」p.156で紹介。
    【「国情を無視したBIS規制は失敗だった」という証言が紹介されている。】

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