偉大な記憶力の物語――ある記憶術者の精神生活 (岩波現代文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006002428

作品紹介・あらすじ

人並みはずれた鮮明な直観像と、特有の共感覚をもつその男は、忘却を知らなかった。電話番号を舌で感じ、コトバの音から対象の意味を理解する。想像によって手の温度を変える。直観像を利用して課題を鮮やかに解決する一方で、抽象的な文や詩の理解はひどく困難。特異に発達した記憶力は、男の内面世界や他者との関わりに何をもたらしたのか。

感想・レビュー・書評

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  • 図書館で借りて読んで、人間の可能性の凄さにかなり驚いた本。自分が物忘れの天才なので、ついこの様な本に、興味を持ってしまう。

  • ロシアの、何でも・いつまでも記憶できる人の調査記録です。
    学術的調査に基づく内容でした。彼がどのようなプロセスを経て記憶しているか、努力をしているのか、検索はどのように行っているのか。
    プロセスは想像を超えていました。イメージ・音・味覚に変換するというか、しなければいけない、という、???(=一般人にはわかならい)の仕様です。
    数字でも、文字でも映像や音、味覚として記録するということは、text を jpg で保存するというような、極めて検索しにくい形の保存であり、結果として彼は汎化が苦手になっていました。そうなるとどこに歪が出るかというと、人の顔の識別が人より苦手になるんですね。彼と汎化についてのお話をもっと分かりやすく書いた本があっと思うのですが、ご存じの方がいらっしゃいましたら教えてください。

    • りまのさん
      私も知りたいです。
      私も知りたいです。
      2020/07/31
    • 辛4さん
      恐らく、池谷先生だとおもうのですけど・・・
      恐らく、池谷先生だとおもうのですけど・・・
      2020/07/31
    • りまのさん
      心に留めておきます
      心に留めておきます
      2020/07/31
  • 世界的にみても類例がないほどの記憶力を有した,一人の男性についての心理学的記録です。
    本書で紹介される男性(「シィー」と呼ばれています)の世界は,驚くほど私たちの体験世界と違っています。彼はほぼ無限といえるほどの情報を記憶することができ,しかもそれは数十年たっても忘却することはありません。このことだけでも十分に驚くべきことですが,彼がそのような膨大な物事を記憶するメカニズムは,それこそ私たちの理解をはるかに超えています。彼の持つイメージは現実の体験と区別するのが難しいくらいに鮮明で,しかも彼は,見たものに肌触りを,耳で聞いたものに味や香りを感じるといった,共感覚の持ち主でもありました。こうした能力が,ありえないほどの記憶力を支えていたことは,心理学史に残る発見であったと言ってもよいかもしれません。
    一方で、そうした能力がプラスに働くばかりではなかったことも,本書では語られます。単語にぶつかるたびにひとりでにイメージが見えてしまう彼は,文章を読むのがとても苦手でした。また,イメージが鮮明すぎるために現実世界を体験することがしばしばできませんでした。こうした事実は,私たちの持つ心的体験の一つにけた外れの強さが備わったとき,私たちはどのようにこの世界を体験することになるのかという,貴重な示唆を与えてくれるでしょう。
    本書は一人の超記憶力者を報告したシングルケース研究として優れた内容であると思います。心理学にとって本書は,記憶についてだけでなく,直観像や共感覚についての文献としても無視することのできないものでしょう。しかしそれとは別に,人とは違った特性とともに人生を歩んだ,一人の人間の伝記としても読むことができます。本書には多くの「彼自身のことば」がちりばめられており,それらを通して,「シィー」という生の人間の世界に触れているような,そんな体験をすることができます。著者であるルリヤは神経心理学者として有名ですが,本書からはルリヤが優れた臨床家であったことも窺い知ることができました。天野清訳。

    (2010年11月入手・2011年6月読了)

  • 強大な記憶力を持つ男を、30年にわたって観察した記録。
    記憶できる量に限界がなく、どんなに長い文字列であっても比較的短時間で難なく記憶ができ、しかも15年ほどたってもその記憶が鮮やかに再生されるというのだから、忘れっぽい私としてはまったく驚きでしかないのだが(しかも羨望の限りなのだが)、ことはそれほど簡単ではない。彼の生活を様々な側面からみたとき、この華々しい記憶力とは裏腹に、かなり困難な実態が浮かび上がるからである。簡単に言ってしまえば、彼は人間としてアンバランスであり、生きにくそうである。

    30年間、記憶力の面だけではなく、ある意味“ホリスティック”に観察し、記録した本書は世界に珍しくまた貴重な書籍であるが、この本が「びっくり!世界の超人!」みたいな民放の安いバラエティー番組のような切り口で終わっていないのは、著者ルリヤ教授の人間をみる眼差しと、人間とは何かを問う深い視座があったからであろう。ただ欲を言えば、この超記憶力が人格にどのような影響を及ぼすのかについて、もっと立ち入った研究や記述があっても良かったと思う。

    ところで、本書に出てきた日本人で超記憶力を持つという「石原」という人物に興味津々。ちょっと調べてみよう。

  • 優れた記憶力を持つ男の世界。
    ロフタスの目撃証言の問題。
    直観像。

  •  いかに「暗記力だけが試される学校の勉強なんて価値がない」と貶められようとも、圧倒的なまでの記憶力にはひれ伏すしかなく、「天才」と形容したくなるのもよくわかる。

     人並み外れた記憶力を持つ「シィー」は記憶術者として生計を立てるようになり、生来の圧倒的な記憶力に加え、彼はさまざまな工夫を凝らすこととなる。

     生来の記憶力のベースにあったのは「共感覚」と「直感像記憶(見たままをそのまま覚える)」である。その像をシンボル化(省力化)していく過程は人間の認知機能の過程の興味深いサンプルである。

     しかし、言葉を「共感覚(視覚と聴覚がリンクしている)」ととらえる彼には含みや余韻を味わう「詩」の鑑賞が苦手であり、同時に物事を忘れられないという悩みもあった。

     そして、最大の困りごとは彼の現実生活は、安定したものでなかったということだろう。他人とのコミュニケーションが苦手であり、職を転々としていた。
     頭の中の世界のリアリティが強すぎて現実に対応する柔軟性がなかったのかなーと感じた。

    参考
    共感覚と天才
    http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35503

  • 彼はルリアに人の顔の記憶について愚痴をこぼしていたそうです。「人の顔は、人の気持ちの状態や、どういうときに会うかによってしょっちゅう変わり、そのニュアンスはメチャメチャになります。」と。長い物語や詩の理解も、彼にとっては苦手なもののひとつでした。つぎつぎに浮かび上がってくる視覚像に邪魔されて、本質的なものを抽出し非本質的のものを捨て、話や詩の流れを追うことが困難になるためでした。

    シィーの記憶は、ルリアが十数年後にテストしたときも全く完全で、忘却のない完璧は記憶でした。しかし、それと引き換えに彼は、つぎつぎと生じる視覚像のために抽象的な思考は妨げられ、また、しばしば、現実と想像の世界の区別を失うという異常な世界に生きていたのです。


    引用元
    http://web2.chubu-gu.ac.jp/web_labo/mikami/brain/46/index-46.html

  • オリバー・サックス「妻を帽子と間違えた男」に度々名前が出てくるルリヤ先生の著書。
    奇人・変人扱いではなく、大きな特徴を持った人が、その特徴にどう向き合っているかに注目する。オリバー・サックスほど患者に寄り添う感じはなく淡々とした印象だが、読後感はよく似ている。
    前半は、記憶力の凄さと、凄い記憶力を生み出す原因について。写真並に想像できるほどの強力なイメージ力と、共感覚。
    後半は、強力なイメージ力と共感覚を持った人間が、どう生きてきたか、どんな困難があるか、どういう人格になっていったか。

  • 実に驚くべき本である。舞台は1920年代のソ連。まだ20代の若き心理学徒であったルリアのもとを、一人の同年代の男性が訪れる。ラトビア生まれのユダヤ人シィーは、当時新聞記者をしていたが、デスクからの指令を一切メモに取らないことを上司に指摘され、その記憶力を調べるために研究室にやってきたのだった。シィーはそれまで、それが当たり前のことだと思っていたのである。シィーについて簡単な実験を行ったルリアは、その驚くべき能力にすっかり当惑させられることになる。本書は、この人類史上で最も優れた記憶力の持ち主を、30年間にわたって詳細に調べた、稀有の記録である。

    シィーは苦もなく、無意味な文字列をいくらでも長く記憶し、それを再現することができた。ただし、そのような記憶術者は当時何人か知られていた。そのうちの一人は、石原という日本人であった。(この石原なる人物についての記録は、1930年代に出版された書物に書かれているらしい。)シィーが、それまでに報告されたどの記憶術者よりも優れていたのは、彼が決して忘却しないことであった。シィーは、1ヶ月後、1年後、いや、10年後にテストしてみても、何百もの文字からなる無意味な文字列を、記憶した当初と同じ正確さで再現してみせたのだ!

    一体どうしてそんなことが可能なのか?シィーは、読み上げられた無意味な文字列を、その文字列からイメージされるモノの映像に置き換え、それを空間に配置していった。それを再生するときには、ただ、その映像を見れば良かった。だが、そんな彼も、ごくたまに間違えることがあった。それは、その変換されたモノを、暗い所や、背景と同じ色のところに置いてしまった場合で、見落としてしまったというのだ。

    シィーはまた、五感の全てが入り交じる共感覚の持ち主であった。そのため、記憶を再現するときには、視覚だけでなく、聴覚・触覚・味覚・嗅覚からもたらされるすべての情報を動員することができた。記憶の誤りは、感覚間の不調和として検出されるのだ。それぞれの感覚で二重三重に記憶していて、余剰的な情報があるので、その想起は非常に正確なものになるである。シィーはやがて職業的な記憶術者になり、その中で、さらに様々な記憶術のテクニックを開発していった。一方でシィーは、例えば詩を鑑賞したり、複雑な文章を理解することが非常に困難だった。個々の単語が特異な映像やその他の感覚を生み出してしまい、それが本来の意味と衝突してして、全体的な理解を妨げるのである。

    本書は、シィーの記憶のメカニズムだけでなく、さらに踏み込んで、彼の知性や人格までをも理解しようと努めている。実際のところシィーは、脳の中で生み出された感覚世界と、現実世界との区別が、あまりついていなかったようなのである。このような研究が、1世紀近く前のソ連でなされていたというのは驚きである。逆に現在では、こういうプライバシーに関わる、個人の全人格的な研究はもうできないのかもしれない。そういう意味でも貴重な記録と言える。

  • いやー、すごい人もいるもんだ。
    残念なのは、古い話なもので脳の構造とかそういうところには踏み込んでいなかったこと。
    あと本書の「売り」である、異常な記憶力が人格にどのように影響を与えているかの記述が、とても薄いこと。

    とはいえ、単純に「いやー、すごい」という感じで楽しめました。

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