マルク・ブロックを読む (岩波現代文庫)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006003401

作品紹介・あらすじ

『封建社会』『王の奇跡』などの著書で知られ、L.フェーヴルとともに雑誌『アナール』を創刊し、現代歴史学に革命を起こした歴史家マルク・ブロック。ユダヤ系の出自を持ち激動の時代を生きた、その波瀾万丈の生涯と三つの主著、学問史における位置づけなどについて、アナール学派の方法に学び、自らの「社会史」を追求したフランス史の碩学である著者が、わかりやすく解説する。

感想・レビュー・書評

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  • マルク・ブロックは「アナール学派」の創始者であるとともに社会史のパイオニアである。現代歴史学に最も大きな影響を与えた歴史家の一人であることは間違いないが、高度に洗練された文体、安易な一般化を許さない緻密で慎重な論理構成は、門外漢が容易に読みこなせる代物ではない。名著の誉れ高い『 フランス農村史の基本性格 』や『 封建社会 』も語られることは多いが、実際に読まれることは少ないのではないか。そんなブロックの最良の入門書が文庫化された。歴史ファンにとっては無上の喜びだ。

    本書はブロックの優れた評伝であると同時にその主著の簡にして要を得た解説であるが、歴史家とは何か、史料にいかに向き合うか、といった根源的な問いについて、ブロックへの限りない共感が溢れている。『 歴史のための弁明 ― 歴史家の仕事 』には「いかなる史料もそれに問いかけるすべを知らなければ何も語ってくれない。・・・あらゆる歴史研究はその第一歩から、その探求にすでに方向性が含まれている」とあるが、史料をして自ずから語らしめることを理想とした伝統的な実証史学へのブロックの批判が込められている。そして探求の方向性は歴史家の<現在>への関わりと不可分であることは言うまでもない。

    ブロックは市民的共和主義という普遍的理念を祖国フランスに見出し、それを守るために良きフランス人たろうとし、ナチスへのレジスタンスに身を投じた。ブロックのこうした<現在>への関わりの根底には、独仏国境にあり両国の間で幾度も帰属を変えた複雑な歴史を持つアルザスが父祖の地であり、そしてユダヤ人であるという彼自身の二重の両義性ないし境界性があると著者はみる。「マージナル・マン」であればこそ、個人が自由に結合する共同体に先立つ国家を認めない。だからブロックの社会史は国家史でも国民史でもなく、国境を越えて広がる地域の多様性を捉えようとした。

    また本書では我国のブロック受容史が素描されているが、中世史研究の重心のシフトを示すものとして興味深い。同時代にブロックと接点を持った高橋幸八郎を嚆矢として、封建制から資本制への移行という、当時の極めてアクチュアルな問題関心に導かれてブロックの農村研究が読まれた段階から、歴史を経済に還元するマルクス主義史学に不満を抱き、社会史という沃野にブロックの可能性を見出した堀米庸三を経て、我国の中世史研究は大きく様変わりした。それぞれの局面で導きの糸となったブロックはそれだけ幅広いスペクトラムの読みに耐える奥の深い歴史家と言えるだろう。

  • 厳しい環境で歴史とはを問い続けた先見的な視点を持つフランスの歴史家の生涯と研究内容がわかった。

  • マルク・ブロックを読む
    (和書)2010年12月29日 23:31
    2005 岩波書店 二宮 宏之


    柄谷行人さんの書評から読んでみました。

    フランスで生きたユダヤ人の歴史家。

    ネーションと対抗運動・普遍宗教、それを捉えることは単純じゃないし読み解くのは難解かもしれない。

    マルク・ブロックの本を読んでみたい。

  • 日本の近代フランス史研究の碩学によるマルク・ブロックの解説。歴史学者でありながら最後はレジスタンスとして死んだマルク・ブロックの人物像が、生い立ちも含めた生涯の紹介と主要著作の紹介によって生き生きと描き出されている。戦後開花することになるアナール学派の先駆者として、周辺科学の動向にブロックが敏感に反応していたこと、それが『王の奇跡』や『封建社会』の概念構成にも生かされていることがよく分かる解説になっている。また高橋幸八郎や堀米庸三といった戦後日本の代表的歴史学者がブロックとどのように向き合ったかについても簡潔ながら触れられており、戦後日本史学にとってのブロックの大きさというのも実感できる。

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