- Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006020125
作品紹介・あらすじ
太宰は自らの文芸の完遂の為に死んだ-。青春の一時期、ともに酒をあおり命をあおる濃密な交友を結んだ作家檀一雄は、太宰の死の直後、心に惻々と迫る挽歌を夜通し綴った。そして死をもって完遂された文芸を前に、何か書き加えることを躊躇しつつも、胸に残る数々の断片を回想せずにはおれない。才華ある友の姿を活写する珠玉の一篇。
感想・レビュー・書評
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ひとりの作家がひとりの天才に出逢ってからその別れまでのたいせつな記憶。
壇一雄にとって、太宰はとても大きな存在だったんだろう。その才能を妬み羨み、それ以上にその人間性にどうしようもなく惹かれてしまう、悲しくも美しい想い。
太宰と初めて逢った日に云った、
「君は天才ですよ。たくさん書いて欲しい。」
この言葉、どんな気持ちで、思いで発せられたんだろう。同時代に活躍する作家に、君は天才ですよ、なんて。
「作為された肉感が明滅するふうのやるせない叙情人生だ。文体が肉感にのめりこんでしまっている。」
太宰について壇一雄がこう描写するのだけれど、太宰という存在がもう文体になって、文学になってしまって、太宰の死さえも彼の文学の完遂のためであったと断言してはばからない壇一雄だからこそ表現しえた文章だと思う。
壇一雄にとって、太宰は、文学そのものだったんだな、と。
思うところはあっただろうし、きれいな感情だけでは留まらないこともたくさんあったに違いないけれど、それらをすべて含めた、壇一雄の、太宰への、太宰という作家への、尊敬と友愛に満ちた美しい一冊だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
太宰治と檀一雄の青春時代の物語である。解説にもあったが、「小説」と銘打ってあり評伝ではない。二人の青春時代での逡巡と今後の人生に対する決断が描かれている。太宰治は、以前までの生活が清算できずに新しい生活を求めたために自殺せざるを得なかったのであり、檀一雄は清算し新たな放浪の人生を選んだ。本人の表現によるとバッグ一つでどこへでも行く生活である。つまるところ、二人は同じ課題を抱えていたのではないか。私は、ここまで真剣に青春時代を送っていなかった。今からでも遅くないと思う。
〇太宰の読書について少しばかり述べておく。太宰は平常、机上に書籍を置かないことを常とした。いや、どの時代にも蔵書というものは、ほとんど皆無だったことを私は知っている。一度読んで安心のゆける本は太宰は精読するたちだった。これもまた、旅行と同断である一度読み染んで安心のいった本でないと読まないわけだ。自分から書籍を読み漁ることは決してなく、人に勧められ、納得してから、おもむろに読んでいる。
〇兼好の徒然草。まあ日本の古典では枕草子と徒然草を繰り返し繰り返し精読していただろう。ただしこれは決して趣味的読書ではなく、いたるところに応用、転化できるぐらいの、全く血肉の読書であった。それから円朝全集。
〇そもそも人生というものは自分の妄想をいだいて、墓場に急ぐ道程のことだろう -
なにかの本で、太宰治の「待つ身が辛いかね、待たせる身が辛いかね」を知った。走れメロス的に、借金のかたに置いてきた檀一雄を迎えに戻らず、怒って訪ねた檀に言った言葉だという。
ザ太宰治のその言葉が心に残っており、檀一雄のノンフィクションと小説の境目のようなこの本にたどりついた。
いまでは文豪とされる人たちの人間味。読んでいて、おかねだいじーかぞくだいじーと叫びたくなる生活。天才だけどむかつくけどダメ人間だけど憎めない太宰治があふれていた。 -
熱海事件を知り、ふたりの関係が気になりこの作品に行き着く。前半は太宰治と過ごした日々。酒・女・文学。昭和初期の文系東大生の青春記。後半はふたりに物理的距離ができたことで、檀一雄が本来の自分を取り戻すかのように生き生きしていくのが清々しい。太宰治が亡くなったからこそ誠実でありたい気持ちが表れているが、太宰治が檀一雄に対して誠実でなかったことが伺えるゆえに、切なくもある。
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・途中まで、よんで大きいのに読み替えた。
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私の中で、太宰さんと檀さんは「悪友」というイメージがあったのですが、彼らの間にも素質の違いから生まれる「分岐路」があったことを知りました。
高い背を丸めながら歩く姿や、表情を決めかねている様子、また、冗談を言って笑う「チャーミング」な姿など、檀さんの前だからこそ見せた姿の一つ一つを想像しながら読みました。
断片的に知っていたエピソードの数々を、改めて確認できたのが良かったです。
数少ない中原中也とのエピソードも印象的でした(笑) -
檀から見た太宰との物語。同時代の作家や編集者などとの関わりのなかで、太宰はどんなふうに生きていたのか。
太宰がしだいに死に向かっていきそうだと檀が感じるところなど、友情。
中原中也はお酒を飲むと、太宰にからんで殴って喧嘩になった、というエピソードもあり。 -
太宰治とは何者か。その断片がうかがい知れる。
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面白かった。檀一雄もすごい作家なのだが、この小説の中では太宰治という風変わりな天才と出会ったひとりの青年(檀)の葛藤と憧れに焦点を絞っている。青春小説としても読める。お金がないのにふたりして飲む打つ買うを繰り返していた二十代から(博打はしていなかったが)家庭を持ち徐々に二人の関係性にズレが出だした三十代。この奇妙な友人関係は太宰の自死で終止符が打たれることになる。青春に出会いと別れは付きものだなあとほろ苦くも普遍的な余韻を残す。しかし友人はいるわ妻子はいるわで生き様以外はリア充そのもので羨ましいよ!
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太宰の小説は何作か読んでいるものの、当人については自殺未遂を繰り返した人というくらいしか認識がなかったのでこれを読んでみれば少しはわかるかと思い読んでみました。
やんちゃすぎる二人の青春のような日々が、なんだか終盤になるにつれて切なくて大切なものだったんだなぁと思わされました。
ちょっとそれどうなのよ?というような場面も含めて生きている太宰が少しでも垣間見れたので読んでよかったです。