- Amazon.co.jp ・本 (583ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006020873
作品紹介・あらすじ
珍しく棉のような雪が静かに舞い降りる宵闇、一九四三年の満洲で梶と美千子の愛の物語がはじまる。植民地に生きる日本知識人の苦悶、良心と恐怖の葛藤、軍隊での暴力と屈辱、すべての愛と希望を濁流のように押し流す戦争…「魂の底揺れする迫力」と評された戦後文学の記念碑的傑作。
感想・レビュー・書評
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太平洋戦争中の満洲が舞台。戦争中もヒューマニズムを貫けるかどうか、葛藤する主人公梶。炭鉱で強制労働させられる中国人たちやそれを使役する日本人とのやりとりがリアル。苦しいが知っておくべきことが詰め込まれている。上中下巻の3冊構成のうちまだ炭鉱にいるだけいいところか。この後梶は軍隊に入れられる。
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【上・中・下ともに読了済です】
人間とは、一体どんな存在なのだろうか?
人として正しいと信ずる道を進む。そのことが、いつも自己の幸福につながるとは限らない。
むしろ「正直ものがバカを見る」ことの方が、世の常なのかも知れない。
主人公の梶は、満州の鉱山で中国人捕虜を、同じ人間として扱おうとした。
その結果は、徴兵免除の資格喪失、兵役送りである。
正しい生き方とは何なのだろうか。
大切なものを守るため、失ったものの尊厳を取り戻すため、悪事に手を染めることは許されないのだろうか。
外野から傍観する他人は、批評家気取りで一般論を掲げて糾弾することもあろう。
愛する妻、美知子の元へ帰り着くため、戦場から死に物狂いでの逃避行を繰り広げる。
心を許した戦友と別れ、我が子のように慈しみつつ生き延びた若年兵を軍隊の矛盾の中で失う。
その中で盗みを働き、殺人を犯した梶に対して、石を投げる権利を持つ者があろうか。
同じ極限状態に置かれた者だけが、その行為についての正邪を語る資格があるのではないか。
戦争はないに越したことはない。
しかしながら、人類のあゆみを振り返ってみるならば、事実として戦争のない時代はなかった。
人と人の、国家と国家の命の奪い合いという極限状態においてこそ、人や国家の本性というものが現れる。
しかし、その本性でさえも、それが正しいのか間違いなのか、誰にも決定することは出来ないのかもしれない。
いろんなことを考えさせらる、素晴らしい作品でした。 -
第二次大戦末期の軍需産業、鉱山を舞台に、人種差別、暴力、嫉妬、詐欺、保身など、あらゆる不正義がまかり通る状況の中でもがき苦しむ主人公。戦争や差別には反対だが、妻や生活のことを考えると表立って反抗できず、苦しむ姿を描いている重たい作品。人間の条件というタイトルを考えさせられる、重たい内容。
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娯楽小説に寄せている向きも感じないではないが、抗えない戦争の渦の中もがき振り回される梶、王、沖島らには心揺さぶられるものがある。かといって流れに呑み込まれる者、乗っかる者も人ごとのようには思えない。
次巻梶はどこへ向かうのか予想もつかない。 -
この本は、戦争を知らない世代の人間はぜひ読むべきだ。戦争というものがいかに愚劣なもので、人の運命をどうしようもない形でもてあそぶものだと理解できる。戦争というとんでもない状況の真実が描かれている。
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息をつく間も無く、激しく生きる。平凡な幸せを夢見ながら、理不尽と戦う。不条理なことを許せない。それは、そうだろう。では、長いものには巻かれるか。
戦争とは悲惨な人類の歴史だが、その中にあって、人間は初めて人間たるのかも知れない。生きるとは、感情の起伏の記憶である。然るからして、何もない日常では、生きた心地がしない。困難に立ち向かってこそ人生。しかし貫徹できないのが生身の人間。それを感じさせてくれる小説。
私には、これがワイルド・スワンと並行して存在した、日本国の凄惨さを謳う小説のように感じる。昭和の前の世界。思い出せない過去。
この感覚はなんだろう。 -
文学が人間を描くものであることを久しぶりに確認。引き込まれるけど、読んでいてしんどい。
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『ぼくらの頭脳の鍛え方』
書斎の本棚から百冊(佐藤優選)67
文学についての知識で、想像力、構想力を豊かにする
人間として誠実に生きるという観念を徹底的に追究した名作。