人間の條件〈下〉 (岩波現代文庫)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (604ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006020897

作品紹介・あらすじ

ソ連戦車隊が国境線を超えた。迎え撃つ日本軍部隊は壊滅。梶は辛うじて戦場を離脱、満洲の曠野を美千子をめざして逃避行を続ける。捕虜になるが脱走、彷徨する梶の上に雪は無心に舞い降りる。美千子よ、あとのなん百キロかを守ってくれ、祈ってくれ…非人間的世界を人間的に生きようと苦悩し、闘った男と女の波乱万丈の物語、三千枚ここに完結。

感想・レビュー・書評

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  • 映画では描かれていない、美千子や沖島のその後も描かれており、物語が複線化している。だんだんと生活が厳しくなっていく敗戦後の満洲に残された人たちと、生き残りロシアの捕虜生活を送る梶の姿が見ていて苦しくなる。最後、梶は倒れ、その上に雪が降り積もるのは映画と同じだが、その向こう側が見えるのが一層辛さを増す。
    最後に梶と思しき人物の略歴のようなものが載せられている。それによれば、生還できたようだが、美千子と会えたかは不明。
    リアルな戦争文学として一度は読んだ方がいいと思う。

  •  前巻の終盤、ソ連軍との激しい戦闘が勃発し、激闘の末に多大な犠牲を払った。梶はかろうじて生き残ったが、生き残ったあと、いかにして帰還するのかを下巻では描かれる。これまでとは対照的に、個人の意志によって一つ一つの選択をとり、選んだ末にどのような運命をたどるのかが今回の見どころである。梶は妻の三千子が生きていると信じることで、たとえ周囲からひどい仕打ちを受けたとしても踏ん張った。このように、愛する者の生死が不明であったとしても、生きてると信じることで、必死に生き抜こうとする様子は、なにか輝かしいものが感じられる。
     しかし、本作を最後まで読むと、予想よりも不安な空気が漂う。梶は最終的に、本作の上巻、梶と三千子が共に過ごした住処の近辺まで到着した。しかし、その時点で、梶はまともに飲み食いせずに動き続けたことで、息絶える寸前であった。また、梶は村の住民に食物をあてにしたが、リンチにあった。最後は生死不明のまま、雪に埋もれて物語は終了した。
     
     

  • ソ連軍の侵攻を受け、国境付近の日本軍は開けなく崩れ去る。敗残兵として逃亡する主人公であるが、おなじ敗残兵である日本人の地元民に対する「火事場泥棒」的な振る舞いが彼らの立場を危うくする。ここでも生き残りをかけ、彼らも盗みや殺人などを犯さざるを得ない。この小説はフィクションであるが、こういう状況がかつて実在し、戦争ではないにせよ、一般社会でも起こっていることから目を背けてはいけないのだろう。

  • 4部のあたりからずれ始めた想いと行動。行き着く先はここしかなかったか…

  • 敗戦後も敗残兵の苦難は続く。民兵に追われ匪賊のように盗難をしながら逃げ続け、最終的には捕僚になるが、そこでも人間としての扱いがないままであった。梶上等兵は壮絶な最期をとげた。奥さんの美千代さんに会わせてあげたかった。

  • 思想を背景にして描かれた小説は、自叙伝の体を取っていようが、事実を都合よく捻じ曲げ、自らの信教を正当化しようとする。共産主義のイデオロギーは素晴らしくても、それが人間という生命には、実際的ではない。その事を本作が伝えてくれた事をもって、転向小説との評もあるのだろうか。しかし尚、主人公はソ同盟の理想を支えにしようとするのである。

    大日本帝国の軍人には多分に暴力的側面があり、物語の残虐シーンは、事実に近いものもあるだろう。しかし、その側面だけを強調し、一方に人間的な過ちを温かく表現しながら、日本サイドのやり方には、全く容赦なしで獣のように描く。そんな小説があっても良い。別にバランスの取れた著作物など、私は求めない。しかし、作者は、巻末の回想的略歴で、中日戦争と、日中逆に記載する。もはや、作為を感じざるを得ない。その点、啓発的要素を含んでしまい、それは新興宗教の胡散臭い口説き文句を想像させるものであり、残念なことである。

  • 圧倒的な内容です。ただただ圧倒されました。

  • 『ぼくらの頭脳の鍛え方』
    書斎の本棚から百冊(佐藤優選)67
    文学についての知識で、想像力、構想力を豊かにする
    人間として誠実に生きるという観念を徹底的に追究した名作。

  • 戦時中における、捕虜として戦士として残党兵としての、人間の條件が述べられていた。美千子と梶の心境の描写が特に胸に響いた

  • ソ軍との激戦、それを免れ逃げる梶たち。梶の恐ろしいまでの殺人技術が彼ら敗残兵の命を救う。ただあちこちで会う関東軍の敗残兵や民間人。彼らが面した苦労はハンパなものではない、男も女も。田代や寺田など初年兵との絡みが相変わらず面白い。そして梶、まさかああゆう最期を遂げるとは…。
    途中まで赤軍やチャイナ万歳な小説なのかと思っていたら結局は戦争に正義もなにもない、勝者と敗者があるだけなのかと思わせる展開になっていた。そして梶の背筋が底冷えする強さが凄い。ああなりたいもんだ。
    付録の回想的略歴を読むとこの物語の基底にはやはり実体験があるよう。学校で読まされた語り継ぐべき戦争の物語は原爆や空襲で、日本軍も酷い事をしたって話だったけど、この小説こそもっと広く読み継がれていくべきだろう。

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