私のシネマライフ (岩波現代文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006021740

作品紹介・あらすじ

岩波ホール総支配人・高野悦子氏が、映画興行を一生の仕事とし、情熱を注ぎこむようになるまでの自分史。満洲での生い立ち、南博氏のもとで映画研究に没頭した学生時代での体験や、映画監督を目指しパリのIDHEC(高等映画学院)に留学し、帰国後岩波ホールの総支配人になり、世界の名画を上映するまでの波瀾万丈の人生が描かれる。三人の映画監督(せんぼんよしこ氏、羽田澄子氏、アンヌ・ポワリエ氏)へのインタビュー付き。現代文庫版のために書き下ろした「その後のシネマライフ」を併載。

感想・レビュー・書評

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  • 岩波ホール【公式】さんの
    「2022年7月29日(金)を以て閉館いたします。」
    というツイートを見て、たまらず手に取った。

    高野さんが生まれた年は、1929年、ということは昭和四年だから僕の母と同じ年の生まれだ。それだけで、なんだか親しみが湧いてくる。

    著者の高野悦子さんは、東京神田神保町にある映画館「岩波ホール」の総支配人を長く勤めた方。
    映画好きが昂じて、東宝に入社し、パリ高等映画学院に留学して監督への道を志すも、当時の映画界にあった男社会の厚い壁に阻まれ、これを断念、一九六八年に岩波ホールの総支配人に就任します。今のミニシアターのはしりですね。

    そのホール開きにあたって野上彌生子が講演します。

    【「‥‥この小さなホールで行われるものは、講演にしろ、お芝居にしろ、音楽会にしろ、また映画のようなものにしろ、本当に最上級のもので、どこへいつ持ち出しても、何千何万の人がこぞって感動するーーこういうものを上演してもらいたいと思います。神田のこの一郭のホールを学問、文化、芸術の、可愛く小さいが、どこにもないような独特の花園に育て上げてもらいたい‥‥」
    この話を聞いた途端、私の目の前の岩波ホールが一変しました。二百三十二の客席しかない殺風景な空間に虹がかかってきました。ホールは単なる容れ物にすぎないが、それに盛る中身によってどんなにでも色づけし、変えていけることに気がついたのです。】/


    岩波ホールは、一九七四年からエキプ・ド・シネマという運動を展開します。これは、映画の仲間という意味のフランス語で、世界の埋もれた名画を世に紹介しようというものです。エキプは、インドのサタジット・レイ監督『大樹のうた』を皮切りに、三十六年間に四十三カ国、百九十四本の作品を上映してきました。

    僕も、随分お世話になってきました。
    脱線になりますが、僕の岩波ホールで観た映画ベスト10は、こんなところです。

    テオ・アンゲロプロス『旅芸人の記録』/
    謝晋『芙蓉鎮』/
    イングマール・ベルイマン『ある結婚の風景』/
    ルキノ・ヴィスコンティ『ルードウィヒ』/
    アンジェイ・ワイダ『大理石の男』/
    テオ・アンゲロプロス『アレクサンダー大王』/
    エミール・クストリッツァ『ジプシーのとき』/
    ケン・ローチ『大地と自由』/
    アンジェイ・ワイダ『カティンの森』/
    アンジェイ・ワイダ『残像』/


    この本の五章は、「映画を生きる女たち」という表題で、せんぼんよしこ、羽田澄子、アンヌ・ポワリエの三人の女性監督にインタビューして、彼女たちの「われ、かく戦えり」を聞き取ったものです。
    岩波ホールは、マイケル・カコヤニス『トロイアの女』、ジュールス・ダッシン『女の叫び』、イングマール・ベルイマン『秋のソナタ』などの女性映画の上映にも力を注いできました。
    ここで、インタビューしている女性監督たちの映画、せんぼん『赤い鯨と白い蛇』、羽田『早池峰の賦』も、もちろん上映しています。
    岩波ホールで上映した全作品の中での興行成績第一位の作品も、メイベル・チャン監督の『宋家の三姉妹』です。/


    またまた脱線ですが、この本を読んで、僕が無性に観たくなった映画は次のとおりです。
    田中絹代『乳房よ永遠なれ』(歌人 中城ふみ子を描いた作品)
    アリアーヌ・ムヌーシュキン『モリエール』
    パウロ・ローシャ『恋の浮島』/


    アンゲロプロスも、ケン・ローチも、みんな岩波ホールに教えてもらった。
    そう、高野さんと岩波ホールは、僕の映画の先生だったのだ。

    人の流れが変われば、パサージュは廃れる。
    やがては、小さな映画館も閉まる。
    僕は、人通りの絶えた舗道に佇む。
    灰の中のダイヤモンドのような映画たちを、これからどうやって探せばいいのだろうか?

  • 確か昔岩波ホールの人の話、学校で聴いたんだよなぁ…今思えばいい体験させてもらってたな。

  • 女性として初めて岩波ホール劇場の支配人になり、世界の埋もれた名作を紹介上映し庶民の心を豊かにしてくれた方をご存知ですか?現在はDVDで名作を思い存分見る事ができますが、それ以前の映画を上映する困難や数少ない女性映画監督の話など高野さんは興味深い人生を歩まれています。映画好きの方には特におすすめです。

  • 岩波ホール創立初の試み 名作がずらりと並ぶ45周年記念ポスター展を開催 : 映画.com
    2月17日から三省堂書店神保町本店で午前10時~午後8時開催、入場無料、2月28日まで。
    http://eiga.com/news/20130206/8/

    岩波ホールで観た映画で、もう一度観たいのは、、、サタジット・レイ「大地のうた」三部作、テオ・アンゲロプロス「旅芸人の記録」、ルキノ・ヴィスコンティ「ルードヴィヒ」、イングマール・ベルイマン「ファニーとアレクサンデル」、、、書き出したらきりがないな。。。

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    「岩波ホール総支配人・高野悦子氏が、映画興行を一生の仕事とし、あらゆる情熱を注ぎこむようになるまでの自分史。生い立ちからパリ高等映画学院(イデック)への留学、映像作家としての活動と挫折、そして女性として初めて劇場支配人になり、世界の埋もれた名画を紹介する興行活動が成功するまでの興味深いエピソードが満載。」

  • 【「平成23年度第二回室工大教員オススメ本」による紹介】

    著者が総支配人をしている岩波ホールでは、シネコン向け大手配給会社の映画ではなく、なじみのない国を中心とした良質な作品や社会を鋭く照射するドキュメンタリーが上演されている。著者がなぜ専らこのような映画を採り上げるようになり、どのような素敵な映画人と出会ってきたのかを、創造的で冒険的な女性の視点で語っている。

    橋本 邦彦/教授 ひと文化系領域

    図書館の所蔵状況はこちらから確認できます!
    http://mcatalog.lib.muroran-it.ac.jp/webopac/TW00339786

    #室蘭工業大学読書推進プロジェクト企画「平成23年度第二回室工大教員オススメ本」により紹介されたものを許可をいただき掲載しています。

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著者プロフィール

1. 高野悦子(たかの えつこ)
1949年1月2日 - 1969年6月24日
『二十歳の原点』で知られた女性。逝去当時、大学生だった。栃木県生まれで、栃木県立宇都宮女子高等学校を卒業し、立命館大学文学部史学科日本史学専攻に入学、京都に拠点を移す。ジャズ喫茶に通い、詩作、そして学生運動に励んでいたが、1969年6月24日、列車に飛込み逝去。死後、20歳の誕生日から続く内面の吐露を記した日記が、同人誌「那須文学」に掲載され、1971年に『二十歳の原点』という題で書籍化、ベストセラーとなった。2019年に没後50年を迎える。

2. 高野悦子(たかの えつこ)
1929年5月29日 - 2013年2月9日
映画運動家、岩波ホール総支配人。『母 老いに負けなかった人生』『岩波ホールと〈映画の仲間〉』などの著作がある。

高野悦子の作品

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