現代語訳 方丈記 (岩波現代文庫)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006022594

作品紹介・あらすじ

『方丈記』は、時代、政治の移り変わり、天変地異により翻弄され続ける、この世での人の命と栖のはかなさを、深い無常観を踏まえた上で隠者鴨長明が和漢混淆の雄勁な日本語で描いた中世随筆文学の代表作。日本人の精神性そのものを、緊張感溢れる、しかも流れる如き名文で表現している。文豪佐藤春夫の名訳で味わう。西行、長明、兼好の隠者の系譜を論じた小説、評論三篇を併せて収載した。

感想・レビュー・書評

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  •  たしか、中学の時に教科書で習ったはずだった。災害文学として、評価されなおしているので読んでみた。『方丈記』は和漢混淆文による日本の三大随筆の一つで、1212年に京都で書かれている。
    今から、800年ほど前に書かれている。
    「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどもに浮かぶうたかたは、かつ消えかつむすびて、久しく止まりたるためしなし。世の中の人とその住居も、思えばそれと似たようなもの」とはじまる。卓越した編集能力だ。
     川の流れと泡を見立てて述べているが、川から海、そして、水蒸気、それが雨になり川に注ぐ。他へず変化する循環型自然を述べている。
     本書には、鴨長明が経験した災厄が書かれている。1177年の京の大火、1180年の竜巻、1880年の福原遷都、1181年の飢饉、1185年の大地震。読みながら、運慶の活躍した時代と同じだ。1180年の奈良が舞台であった興福寺、東大寺、大仏の焼き討ちのことは、書かれていない。1185年には壇ノ浦の戦いで平家が滅亡し、1190年には源頼朝が征夷大将軍に任じられた時代だ。
     鴨長明の記述は、その頃の京の民の深い観察がある。
     身の丈にあった生活。わずか一丈四方の小さな小屋で50歳代から書き上げた。
     朝死ぬ人がいれば、夜に生まれてくるものがいる。人間の一生は水の泡のようにはかない。
     死んだらどこにいくだろうか?と常々考えていた。
     大きな住まいもいるのだろうか。朝顔と露の関係に似て、いずれ花もツユも消え去る運命にある。花とつゆは無常を競い合っている。
    記憶をたどりながら、書いているのは、58歳の時だった妻子には逃げられ、両親は亡くし、たった一人の生活をしていた。
     1177年4月28日に大火の災を受ける。その時鴨長明は23歳だった。今日の都の中心、朱雀門、大極殿、大学寮、民部省は燃えてしまった。都の3分の1は消失した。どんな立派な家も燃えて消えてしまった。多くの人が死んだ。人の命ははかない。
     1180年4月29日 京の町に竜巻(辻風)が。門、垣根、屋根、車が、ことごとく弾き飛ばされた。怪我するものが多かった。
     1180年6月、帝のいる都を福原に遷都することで、路頭に迷う人が多くいた。嵯峨天皇の代から400年続く平安京を捨てた。平清盛の仕業。これは、人災だ。それまで趣のあった牛車の移動が、馬によって移動している。利便性の追求はいかがなものかと鴨長明はいう。わずか半年で、平安京に戻ることになった。愚かなことだ。
     1181年 日照り、大風、洪水がつづき、五穀が実らず、飢饉が襲ってきた。京の街は、地方の田舎の農地に支えられているが、送られるものがなかった。行き倒れた人、死体は朽ち果て死臭が漂う。親は子供を大切に思い、親は食べずに子供に与え、親が先に死んでしまう。死んだ母親の乳房を吸う赤ん坊の哀れさを見る。「そむくべき憂き世にまどふ心かな 子を思ふ道はあわれなりけり」と読む。この頃に妻子に愛想を尽かされ、逃げられた。
     1185年8月6日 京都大地震があった。京都岡崎地区の巨大寺院群が壊滅的被害を受けた。震度7.4の地震だった。京都も地震で壊滅した時があったのだ。大きな津波も押し寄せたという。遊んでいた子供に土塀が崩れて押し潰されて、目玉が飛び出ていた。余震は3ヶ月ほど続いた。
     鴨長明の生きている間に、災厄に見舞われた。「この世はとかく生きづらい」
     隣人と比較したり、人里離れたところに住めば、ちょっとした用事でも1日かかってしまう。
    どんなところに住み、どんなことをすればいいのか。
     それが、方丈の小屋で生きていくことでいいのだ。身の丈にあった生き方をすればいい。
    藤の花が咲き、ホトトギスの声を聞き、ひぐらしの声が辺り一面に、雪が積もり消え、心のままに生きればいいのだ。四季の移り変わりを味わうことで、世界の奥深さを知る。多くを求めず、あくせくもしないで、ただ穏やかでいることを望む。それでも、執着の心があるが故にこの書を書いたのだ。
     ふーむ。災厄にあって、自分の生き方をシンプルに、穏やかに生きるというのが肝要。
    あらためて、日本人は数々の災厄を乗り越えて、今日に至っているのだなぁ。

  • K図書館+アバタロー氏

    1212年 鎌倉時代の初期
    日本三大随筆の一つ、枕草子、徒然草と並ぶ名作
    方=四角形
    丈=長さの単位
    方丈=一辺の長さが一丈の四角形
    または部屋の大きさを示し、四畳半位の部屋を指す
    方丈記の約半分は災害の詳細な記述で貴重な歴史資料
    自然災害、人災や身内の不幸、経済的不自由といった、自分一人の力では乗り越えがたい困難とどう向き合うかどう生きていくかという内容

    《著者》
    18才の時、下鴨神社の最高位の父が亡くなり、親族から手のひらを返され人間不信になった
    神社に籍を置いたまま和歌を詠み琵琶を弾き引きこもった
    後鳥羽上皇より新古今和歌集を作れという命令(国のトップの命令の国家事業を勅選集という)の一員になり、褒美に禰宜のポジションをやるとなった時、またもや親族から妨害が入り褒美は白紙に
    失踪、出家し僧侶に
    山の奥地でおひとり様サイズ3mの方丈庵を作った

    《内容》
    現代語訳 方丈記
    鴨長明
    兼好と長明と
    鴨長明と西行法師

    世は無常だ
    水、火、風、人災の災いがあった
    人間と人間の住処は儚い
    なぜ立派な家を建てたがるのか?
    いったいどこでどう暮らせば落ち着いた生活を手に入れ、心を休めることができるんだろう
    私は自分の手を召使として足を乗り物としている
    これで満足だ
    余計なものを持たない、余計なものに執着しないで生きている
    心が安らかでないならば、いかなる贅沢も無に等しい
    草庵を愛することさえ執着の現れで罪悪だ
    お祈りするだけだ

    《感想》
    題名はよく考えられている
    48ページ程の短い文章で読みやすい
    辛かった背景を知ると心に突き刺さるものがある
    親類でも1歩間違えれば敵にもなるというか、常に下克上なのだろう

    今のミニマリストの感覚な人
    非常に共感がもてる
    鎌倉時代も令和時代も変わらないもの
    空気読まなくてはいけないし、
    大きな家に住みたいし、
    余計な物をたくさんもってるし、
    執着しているし、
    800年たっても変わらないと思った

    ・退屈なとき船を眺めては船の後に残る泡の消えたり現れたりするのを見る
    ・10才の子供(近所に住んでいる)と山歩きを楽しむ
    ・眠れない時は焚き火をおこしてこれに温まる
    ・山の中にいて自然を友とし音楽を友とする
    何気ないことは心が癒されると言っている
    最後、出家したとて捨てきれない執着があると吐露する
    自分自身を正直に述べる所も人間らしく好感が持てた
    いい本に出会えた

  • 学校の授業でタイトルだけ習った本。しかも社会で習ったのか国語で習ったのか全く覚えてない。まさか自分が読むことになるとは!

    鎌倉時代に書かれた本で、800年前くらいらしい。

    前半は天災が起こった時の事が書かれててリアルやった。時代や価値観が変わっても変わらないものがあるのってすごいなーと。

    後半は山での暮らしの話。
    文章がとても美しく、自然と生きる事に憧れがあるので、ちょっといいなと思った。


  • 開始:2023/2/6
    終了:2023/2/10

    感想
    世の無常。それを嘆いているわけではない。そんな世の中の理に心を動かす自分を嘆いているのだろう。もう少しだけ非情に生きられたなら。

  • 人間の本質は、800年前から変わらない。

  • 佐藤春夫氏の現代語訳を読みました。この本には他に鴨長明の創作が1本、長明と吉田兼好、長明の西行の比較論2本が掲載されています。

  • 世の中は常に流れて、変わらないものはない。
    深い無常観・日本人の精神性をうたった、言わずと知れた日本の古典文学を、佐藤春夫の現代語訳で読める。
    現代語訳の他、兼好法師や西行法師と鴨長明についての評論も収録。


    徒然草同様、こちらもよく無常観ばかりが教科書でプッシュされていますが、読んでみると、そこだけではないのがわかります。

    確かに、様々な災害を経験した作者が変わらないものはない、つまらないと話してはいます。
    ですが、だからこそこの世では気持ちよく過ごしたい、心の持ち方ひとつで苦しい世も楽しい世になるんだと語っています。

    後ろについた評論も併せて読むと、鴨長明の性格も見えてきます。
    佐藤春夫さんの訳も楽しく読める一冊です。

  • 行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し。


     有名なこの一節を高校の時に勉強したけれど、全文を読んだことはなかった。かと言って、今になって、原文のまま味わえる自信も無く、現代語訳版で読んでみた。とても読みやすかった。

     昔も今も人の有り様はそんなに変わっていない。

  • 方丈記そのものはとても短い。
    前半の一部分だけで完結。
    あとは、鴨長明の話が色々載っている。

    飢饉や震災の当時時代の様子や、
    鴨長明の生に対する価値観は、
    短い文書ながらも感じさせるものがある。

    京都に鴨長明の庵の再現があるそうなので、
    是非行ってみたい。

    枕草子、徒然草と並ぶ三大随筆。

  • 人の命と住処は儚い

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著者プロフィール

さとう・はるお
1892(明治25年)~ 1964(昭和39年)、日本の小説家、詩人。
中学時代から「明星」「趣味」などに歌を投稿。
中学卒業後、上京して生田長江、堀口大學と交わる。
大正2年、慶応義塾を中退、
大正6年、「西班牙犬の家」「病める薔薇」を発表し、
作家として出発。
「田園の憂鬱」「お絹とその兄弟」「都会の憂鬱」などを
発表する一方、10年には「殉情詩集」、14年「戦線詩集」を刊行。
17年「芬夷行」で菊池寛賞を受賞。23年、芸術院会員となり、
27年「佐藤春夫全詩集」で、29年「晶子曼陀羅」で
それぞれ読売文学賞を受賞し、35年には文化勲章受章。
小説、詩、評論、随筆と幅広く活躍。

「2018年 『奇妙な小話 佐藤春夫 ノンシャラン幻想集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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