法服の王国――小説裁判官(上) (岩波現代文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006022730

感想・レビュー・書評

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  • 村木健吾、津崎守、二人の同期裁判官の対照的なキャリア(村木=ドサ回りの冷飯食い、津崎=司法行政を担うエリートコース)を通じて、裁判所の組織風土や権力構造、人事、そしてエリート裁判官の人となりなどの生々しい実態を描いた、昭和~平成半世紀の裁判官物語。

    正義の実現に向けて心身をすり減らしていく現場裁判官(ドサ回り)の過酷な労働環境。一方でエリート意識の強い司法官僚たちの傲岸不遜さ。「裁判官の中には、最難関の司法試験を上位で合格した自分たちこそが真のエリートで、霞が関の官僚を見下したり、裁判官にあらずんば人にあらずと考えている者が少なからずいる」。

    そして、政治におもねる司法指導者たちによって歪められていく司法の中立。裁判官任官拒否、宮本再任拒否、阪口修習生罷免事件。青法協会員の徹底した冷遇(ブルー・パージ)。そして原発訴訟などの行政訴訟における裁判合議体への圧力…。

    司法の戦後史を辿る旅。ちょっと長いけど、読み応え十分な作品だ。

  • 小説裁判官の副題通り、22期修習生を中心にした裁判官物語。
    彼らの司法試験合格から、70年代以降の主たる裁判関係、すなわち長沼ナイキ事件、青法協問題、原発訴訟等々が網羅されて、判決要旨等専門的で読み込めない個所もあるが、全体としては以外と読みやすい。
    各裁判所の格付けとか、裁判官の出世コースとか、部外者にはなかなか知りえない内実が詳細に記述され、情報小説としても読むことができる。
    法廷で着る黒の法服も、裁判官用は絹製だが書記官用は木綿生と差別化されているとか。
    あるいは、「売上げ」という隠語があり、毎月各部に回覧される事件処理状況一覧表のことで、処理した事件件数が新規に係属した事件件数を上回っていれば「黒字」、逆の場合は「赤字」というそうだ。処理件数が人事評価の大きな要素となっているとは、裁判官も楽ではない(笑)

  • 再読。ロースクールの学生のときに読んだけど、弁護士になってから読んでみると本書に書かれた行政訴訟の裁判官の木で鼻を括ったような対応はその通りであるなという感じで苦笑してしまう。学生のときより楽しめるので、読み返してみてよかったなと思う。
    ただし、現代の裁判官はより強く公正らしさを打ち出してきている点で、本書に書かれたような時代とは異なるように思う。あからさまに行政側に有利となる訴訟指揮は避け、一見中立的だが手続きが進行するといつの間にか原告側に不利になるような訴訟時期を巧妙に行なってくるという印象である。
    ただし、弓削裁判官が司法の独立を守るために身を粉にして働いたこともよくわかる。法曹は原理原則で突っ走りがちで、保身以外の政治的なバランスを考慮することは苦手だから。弓削裁判官には政治的なバランス感覚があり、そういう才能が彼に仕事をさせたのだろう。苦労したと思う。純粋に権力志向であればわざわざ裁判官にはならず、行政官僚になるはずだ。
    下巻も楽しみ。

  • 1

  • たしかに産経新聞に掲載されていたとは思えない内容。
     弁護士のブログでけっこう書評がとりあげられているので、検索して探してほしいですが、私的には「こん日」と、何冊かの別冊宝島をすでに読んでいたので、ブルーパージの描写に関しては特に目新しさはなかった。
     左派への人事差別を書いた小説の形としては「沈まぬ太陽」のほうが凄かったから、なんたって支店のないナイロビ→カラチの転勤だったからねえ。
     法服の王国の書評に戻ると、実名が混じっている事件がけっこう何か所もあるので、そもそもの主役たちについてどうしてもモデルを探しちゃうが(弓削→矢口洪一、村木→竹中省吾とか井戸謙一、津崎→草場良八または竹崎博充を適当にごちゃまぜ)、黒澤葉子だけはハッキリとはわからんかった。あんなタイプは現実にいないから。
     あと後藤田正晴と弓削裁判官がちょくちょくあってた設定が描写されてるけど、ホンマにそんなんあったのかなあ。政界のヒロミゴー、前原誠司もおいしい役で登場しています。
     若い法曹には「こん日」で基礎知識を習得した後で読むのをお勧め。

  • 投資銀行を舞台にした「獅子のごとく」でも思ったのですが、黒木さんの取材力、リアリティ、緻密さは本当に凄い。今回は裁判所を舞台にした小説ということで、全く知らない世界ではあるものの、あぁきっとこんな感じなんだろうなぁと思わされる生々しさがあります。
    昭和40年から平成18年までと非常に長いスパンでのストーリーで、堅~い感じの裁判官のキャラを含めて重厚長大な感じの1冊です。上巻だけで500ページ…。

    上巻では様々なエピソードが連なっているという印象で、原発問題と裁判所のブルー・パージという軸はあるもののそこまでではなく、キャラ紹介の面もあるのかなと。下巻でのストーリー展開が楽しみです。

  • 黒木亮氏による裁判官を主人公にしたフィクション小説。フィクションではあるが、実際に起きた判例を基にして描かれているので、どこまでがフィクションでどこまでがノンフィクションであるかが分からないほどである。同氏による徹底的な取材に裏打ちされた描写は、驚嘆に値する。
    本書で興味深かったのは、裁判官が行政に対して迎合するような判決を下すことである。長沼ナイキ事件では、自衛隊の違憲性が争点となり、加えて、国側勝訴を判決を下すように担当裁判官に示唆した平賀書簡事件があり、司法権の独立が問題視された。それにもかかわらず、札幌高裁は国側勝訴の判決を下した。
     さらに、裁判官の出世コースに関しても興味深かった。裁判官の出世コースは、司法行政(裁判所の人事や事務処理)を担当する最高裁事務総局に赴任することだ。ここで、司法行政を経たのちに都市圏の裁判所に赴任することが、出世の花道である。
     行政権を監視するための司法権が、行政の意向を汲み取るという状態が起きている、裁判官の現実が本書では描かれている。これは、まるで、上司におべっかするサラリーマンと同じではないかと、思えてならなかった。

  • 戦後の裁判官の歴史というべき本書。法学部の生徒にも読ませているという帯の文句で興味を持って読んでみた。専門的な用語も多いが、基本的にはなんとなく読んでいけば意味は分かる。物語に大きな盛り上がりがあったりとか、謎解きがあるわけでもない。淡々とその時代の雰囲気をあぶりだしていく。ブルーパージなど初めて聞いたが、何となく納得。今の時代に読むとなんだからいろいろと考えさせられるところが多い。今の自民党一強、原発裁判など現在的な視点で読めばとても意味深い。下巻ではどのような大きなうねりになるのか期待大!!

著者プロフィール

黒木 亮:1957年、北海道生まれ。カイロ・アメリカン大学大学院修士(中東研究科)。都市銀行、証券会社、総合商社を経て2000年、大型シンジケートローンを巡る攻防を描いた『トップ・レフト』でデビュー。著書に『巨大投資銀行』『エネルギー』『鉄のあけぼの』『法服の王国』『冬の喝采』『貸し込み』『カラ売り屋』など。英国在住。

「2021年 『カラ売り屋vs仮想通貨』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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