女の民俗誌 (岩波現代文庫 社会 44)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006030445

感想・レビュー・書評

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  • 名も知れない、歴史に残されなかったいわゆる庶民の女性の生き様、生活を綴った内容。今と比べると、出てくる女性達は皆貧しかったのだろうけれど、でも逞しさというか芯の強さ、そしておおらかさがあって、かつ著者に対しては女性へのあたたかい眼差し、尊敬の念を文章に感じられるので(解説文はちょっと上から目線なのに対して)嫌味がない。多分、お母さんがほんと立派だったんだろうなぁ。
    この本の中の言葉ではないが、「民衆の世界が世間に知られるのは不幸によってである」この一文には胸に迫るものがある。日本残酷物語、ちょっと読んでみたい。
    飛島の女はちょっと切なく哀しくなった。阿蘇の女は、阿蘇を旅した情景とセットに読める楽しさがあった。

  • 民俗学者の宮本常一が庶民の歴史のなかで
    もっとも明らかにされていないのが
    女性の歴史なのではないかと論じる。

    宮本の言葉で印象に残っているのが、
    「戦前に民俗調査にいくときは
     濁酒(どぶろく)と堕胎の話がでてきて、
     はじめて本当のことが聞けた。
     それまでは農民はつとめて、
     さし障りのないことをいうものだ」ということ。

    宮本常一のこの庶民の立場になってみる姿勢、
    目線が低いのがとても素敵だと思う。
    こうなると、どうしても
    柳田國男の評価を下げざるを得ないじゃないですか。

    庶民の生活は日本史の陰の部分に隠れていた。
    本書には、固有名詞のない女性たちが数多く登場する。

    現代は「新聞も雑誌もテレビもラジオもすべて事件を追っている。
    事件だけが話題になる。
    そしてそこにあらわれたものだけが世相だと思っているが、
    実は、新聞記事やテレビのニュースにならないところに
    本当の生活があり、文化があるのではないか」(p.229)
    の文章に深く同意する。

  • 婚姻・習俗・生活・仕事等につき、女性という切り口でまとめられた論考集。宮本常一が全国各地を訪ね歩き、聞き取りをした結果が、ぎっしり詰まったもので、彼の丹念な調査・行脚に驚嘆するばかりである。本書(特に、「海女たち」「共稼ぎ」)を読めば、「専業主婦」という有り様が、極めて限定された時代の特殊な状況ということがわかる。また、「行商」「出稼ぎと旅」からは、女性が頻繁に連れ立って旅をしていた(させられていた)ことがよくわかり、従来のイメージを覆すだけでなく、ルイス・フロイスの説明を裏付けるものとなっている。

  •  庶民の暮らしというのは、大体表舞台の外に置かれ続けてきた。こと家庭内の役目に従事した女性の実態となるとなおさらである。

     まず谷川健一氏の解説から引用しよう。
    「私は柳田にみちびかれて民俗学の世界に足を踏み入れたのだが、貴族的精神の持主であった柳田の文章からは、庶民の肌のぬくもりというものはあまり感じだれない。私は宮本氏に出会ってはじめて、庶民の生き生きした姿を実感することができた。宮本氏は生まれ育った環境からして、生得の庶民だったから、民俗学者として「庶民の魂」をつかむことは誰よりもうまかった」

     私は民俗学者ではないし、そもそも柳田氏の著作もほとんどまともに読んだことはない。このところ歴史や民俗学に関する書籍を読み漁っているのは、伊勢志摩の海女キャラクター「碧志摩メグ」の公認取り消しや「のうりんポスター事案」などを契機に「いわゆる萌え表現に対する規制」というものがどこから来ているのかに興味を持ったからで、日本における女性の表現がどのようなものであったかという関心だった。
     わが国に文字がもたらされた飛鳥時代から連綿と続く日本の表現の歴史の中で、女性がどのように描かれてきたか、女性の地位がどのようなものであったか、それを知ることに、「萌え規制」を望む感情を読み解くヒントがあるような気がしている(ちなみにまだ答えには至っていない)。
     表現される女性はとりもなおさずその時点での女性の扱いを表すものであって、それを「女性の地位」という形で私はとらえている。

     本書はまさに女性の生き方そのものの記録であるわけで、わずか100年ほどの間に、私達の生活習慣は大きく変わったことを改めて知らしめられる。
     「昔は親の決めた相手と結婚した」「夜這いの習慣があった」等々といった断片的な知識はあっても、それが具体的にどのようなものであったかを、人々はあまり語りたがらないし、風習は地域や時期によって大きく異なる。
     著者は徹底的に歩いて回ることで多くの人々の話を聞いた。祭事だの食生活だのといったことは誰もが気軽に答えるであろうが、性や婚姻といったプライベートなことはなかなか本当のことを語ってもらえない。「濁酒と堕児の話が出てきて、はじめて本当のことが聞けた」というのが著者の弁であるが、そこに至るまでの労苦は想像を絶する。
     そうした労苦を抜きに成果物を拝読し、好奇心を充足できる幸甚を噛み締める次第である。

  • 所在:紀三井寺館1F 請求記号:Browsing
    和医大OPAC→http://opac.wakayama-med.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=21197

    この国で、名もなき女性たちの歩いてきた「苦難の道」、「その目ざすところはいつも正しかったように思う」、宮本常一はそう言う。

    では、いま叫ばれる"女性の活躍"とは?

    先人たちが来た道を辿りながら、これから行く道を考えてみたい。

  • 2016/2/12購入

  • 日本人女性の社会的役割を古代から現代まで、北から南、果ては海外まで追った一冊。武家だけでなく、庶民の、無名の女性達の記録で、その調査対象の広さには感服した。それはまさに自分の母や祖母、曽祖母の話を聞いているようで、ある意味どのエピソードも「あ、それ聞いたことある」という感じだった。女性は男性に比べて選択肢が少ないとか、社会的弱者だとか言われているものの、冷静に見つめ直してみると、想像以上に女性は柔軟な生活を、つい最近まで送っていたのだということが分かる。歴史観を変える一冊。

  • 古来より女性は抑圧されてきたーなどの、一面的な見方はかわる。ところどころ、泣かせる物語もあり。名もなき庶民たちの貴重な記録。

  • 農村の女たちの生活を明るくする法
    時間にとらわれていないこと
    歌を持つこと

  • 自分がどうしようもなく女性であることを認識し、女子力を女性という存在そのものから考えたかったときに、書店で目にしたので購入

    日本の様様な祭などが女人禁制である理由(男尊女卑)の一考察に、なるほどと思った
    女性からの縁切りが多く離婚率も高かったことは、初めて知った
    女性が服従するだけの存在ではなかったことに、なんだか安心してしまった
    男性との関係を絶つときに、「このたびかぎり」と、女性が男性に足袋をおくったというから、なんとも粋だ

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著者プロフィール

1907年(明治40)~1981年(昭和56)。山口県周防大島に生まれる。柳田國男の「旅と伝説」を手にしたことがきっかけとなり、柳田國男、澁澤敬三という生涯の師に出会い、民俗学者への道を歩み始める。1939年(昭和14)、澁澤の主宰するアチック・ミューゼアムの所員となり、五七歳で武蔵野美術大学に奉職するまで、在野の民俗学者として日本の津々浦々を歩き、離島や地方の農山漁村の生活を記録に残すと共に村々の生活向上に尽力した。1953年(昭和28)、全国離島振興協議会結成とともに無給事務局長に就任して以降、1981年1月に73歳で没するまで、全国の離島振興運動の指導者として運動の先頭に立ちつづけた。また、1966年(昭和41)に日本観光文化研究所を設立、後進の育成にも努めた。「忘れられた日本人」(岩波文庫)、「宮本常一著作集」(未來社)、「宮本常一離島論集」(みずのわ出版)他、多数の著作を遺した。宮本の遺品、著作・蔵書、写真類は遺族から山口県東和町(現周防大島町)に寄贈され、宮本常一記念館(周防大島文化交流センター)が所蔵している。

「2022年 『ふるさとを憶う 宮本常一ふるさと選書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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