母は枯葉剤を浴びた 新版: ダイオキシンの傷あと (岩波現代文庫 社会 125)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006031251

作品紹介・あらすじ

ベトナム戦争時の米軍による枯葉作戦、その枯葉剤が含む猛毒ダイオキシンは、ベトナムの兵士・民衆はもとより米韓の兵士にも今なお深刻な被害を与えている。そしてダイオキシン汚染は戦争の傷痕のみならず、現代の環境破壊として日本でも他人事ではない。国際的報道写真家が旧版刊行後二十余年の取材で世に問う渾身の一冊。

感想・レビュー・書評

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  • ベトナム戦争は南北に分裂していた社会主義のベトナム民主共和国(北ベトナム)と資本主義のベトナム共和国(南ベトナム)の戦いに始まる。アメリカはトンキン湾事件を機に北ベトナムより攻撃を受けたと主張(後に捏造であるとされる)し、介入した事で、社会主義陣営ソ連を後ろ盾にした北ベトナムとの交戦状態に入る。社会主義対資本主義の代理戦争とも言われ、南ベトナムには韓国軍やオーストリア軍も加わり合わせて120万の兵が投入される。それに対して北ベトナムも同規模の兵力を投入し大規模な戦いに発展した。最終的には泥沼化した戦況より、アメリカが撤退した後、北側が一挙にサイゴンを陥落させて終結する。現在も続く社会主義体制はこの時に出来上がり、サイゴンは英雄の名を取ってホー・チ・ミンと名前を変えた。日本人観光客にはホーチミンの方が馴染みある名前だろう。
    この戦争を何より有名にしたのは、アメリカが地下に張り巡らされた洞窟通路やジャングルを利用して神出鬼没で攻撃してくる北ベトナム及び南ベトナム解放戦線に対して、ジャングルを根こそぎ焼き払うために利用した「枯葉剤」の存在だろう。私が小さい頃はよくベトちゃんドクちゃんのニュースが流れていたのを思い出す。2人は癒合体双生児として産まれ、正直ニュースで流れる「繋がった」2人を初めて見た時は大きな衝撃を覚えた。2人を始め、当時のベトナムでは枯葉剤に含まれるダイオキシンに蝕まれた兵士や住民そのものの被害もさることながら、彼等彼女らの2世にも大きな影響を及ぼす。大半は流産してしまうが生まれてくる子の多くが手足が欠損していたり、酷いものでは脳が形成されていないいわゆる奇形の状態で産まれてくる確率が飛躍的に上がった。当然それはアメリカが散布したダイオキシンが原因であり、土壌に残った毒素をバクテリアが食べ、それを虫、魚、鳥など捕食の過程で毒の濃度を増していく。最終的には人間がそれらを食べる事で汚染は体内深くに及んでいく。
    これはベトナム国民だけではなく、当時現地で戦っていたアメリカ兵やオーストラリア兵にも影響し、帰還した兵士の子にまで引き継がれて行くのである。因みにダイオキシンは日本でも除草剤などに使われていたようだが、その何十倍の濃度のものをアメリカは空から大規模に散布した。逃げ惑う住民や戦う兵士たちは衣服がびしょ濡れになる程浴びていたそうだから、すぐに体調面にも症状が現れる。ダイオキシンは殺人などに使われるヒ素の比にならない程の最強の毒素であり、かつては日本でも公害訴訟で有名なカネミ油症事件などが同毒素が原因として有名である。
    前置きが長くなったが、本書はフォトジャーナリストである筆者がベトナム戦争後の現地に入り、その汚染の実態を克明に記録して行くものだ。現地で実際に母親たちへのインタビューも多く記録しており、悲惨さが伝わってくるだけでなく、その様な行動に走ってしまった同じ人類への怒りが込み上げてくる。
    なお戦争ではミサイルや爆弾などの通常兵器とは別にABC兵器と呼ばれるものがある。Aはatomic(原子力・核兵器)、Bはbiological(生物兵器)、Cはchemical(化学兵器)の頭文字であり、ベトナム戦争は史上初の化学兵器による大規模作戦が展開された戦争にもなった。Aの広島・長崎のそれが、2世代3世代にも被曝の影響を残した様にアメリカは再び同じ様な過ちを起こす。本書ではアメリカ=西洋人の価値観にも少し触れており、この相手がヨーロッパだったらこの様な兵器は使っただろうかと疑問を呈す。確かに原子爆弾も化学兵器もアメリカからすると自分たちとは見た目も言葉も違うアジア人に対して「実験的に」使われている。
    本書後半では筆者がベトナム戦争記念碑除幕式の日に遭遇した出来事に触れる。1人のアメリカ兵が酔っ払ってグゥク(gook)と叫び日本人である筆者につかみかかろうとしたシーンである。グゥクとはアメリカの兵隊俗語の一つで、それは人間ではない事を表す言葉、だから殺す事を躊躇わないというという考え方を表している。ベトナム人や日本人、中国人を指す蔑称であり、朝鮮戦争含めそれらと戦ってきたアメリカ。人間より劣った生きものとしなければ戦えなかった事実。きっと酔った兵士の目の前にはあの惨劇と恐怖の瞬間が蘇ったのであろう。やる方もやられる方もその傷の深さを物語っている。
    最後にベトナムに残された嬰児たちについて触れていく。戦時に駐留していたアメリカ兵や韓国兵との間に産まれた子供達。取り残され父親も知らない子達は体の不自由とは異なる心の傷を一生涯負っていく事になる。訪問したアメリカ人を前に涙する子供達。
    二度とこの様な惨劇を起こさないためにも、過去の歴史の事実を学び繰り返さない方法を模索し続ける必要がある。人は過ちを繰り返し、そして歴史は繰り返されるものだから。

  • 新潮文庫

  • [ 内容 ]
    ベトナム戦争時の米軍による枯葉作戦、その枯葉剤が含む猛毒ダイオキシンは、ベトナムの兵士・民衆はもとより米韓の兵士にも今なお深刻な被害を与えている。
    そしてダイオキシン汚染は戦争の傷痕のみならず、現代の環境破壊として日本でも他人事ではない。
    国際的報道写真家が旧版刊行後二十余年の取材で世に問う渾身の一冊。

    [ 目次 ]
    女たちの苦悶
    枯死の岬
    生きぬく子どもたち
    餓死の高原
    生体実験
    兵器としての農薬
    三つの出会い
    そして子どもたちは大人になった
    ダイオキシン、その人体影響

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • ベトナム戦争や枯葉剤に関することがよくわかり、その悲劇が現在進行形であることを思い知らされる。

  • 写真が豊富で、衝撃を受けることは間違いない。
    ベトナムの真実を知って欲しい。

    文庫にしては値段が高いけれど。

  • \105

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著者プロフィール

報道写真家

「2011年 『ベトナム検定』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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