十七歳の自閉症裁判――寝屋川事件の遺したもの (岩波現代文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006032043

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  • ー事件取材を続けてきて改めて痛感することは、孤立をどう防ぐかということだ。「自立」と孤立は異なる。「自立」とは、自分が生きていくために必要な「人とのつながり」を作っていくことだ。

    大阪の小学校での教師殺傷事件のルポタージュ。
    犯人は対人関係にハンデキャップのある十七歳の少年。

    ○少年犯罪の目的を考えるときに、「更正」を目指す為の審判と、刑事裁判となったときの「刑罰」の為の審判とのジレンマ
    ○少年犯罪、少年法の厳罰化の社会的アピールよりも「再犯」を防ぐ為の処遇内容について目を向けるべきである。
    ○広汎性発達障害がある犯罪者の責任能力と法との整合性について
    ○広汎性発達障害について法関係者、社会がきちんと知ることへの必要性
    の2点の問題提起が強いルポ。


    本書を通して、「広汎性発達障害」自閉症圏域で生きる人の世界を専門的な見地からわかりやすく解説してあり、その世界を垣間見ることができた。また、そのうえでの生きづらさについて丁寧な取材を通して、客観的に触れられていた。だからといって、それについての情状酌量といった話ではなく、それゆえに本当の「更正」を目指す上で必要なものは刑罰だけでは補いきれない障害の特異性。

    刑罰を考えるうえで、「社会感情」や「社会的影響」についてこれほどまでに影響があるとは知らなかった。ゆえに、社会の、わたしたちの理解の浅さも一因であると深く痛感した。少年法が「更正」を目指すためのものであることも、「更正」を考える時に一番適切な処遇というのはそれぞれケースにより異なるということ。事件の重大性が大きい程、きめ細やかな処遇が必要不可欠である。そう考えると、やはり量刑のみでの審判ではなくその後の「処遇」まで見据えた審判が必要なのだろうと感じた。しかし、その足かせとなっているのがやはり社会の認識にあるのだろう。

    そして、
    ー法体系では「責任」を担うべく「自己」という確固たる近代的個人概念が前提となっているが、そこにすでに、他人の表情や感情をキャッチする能力、とくに意図しなくても相互交流できる能力、といった対人相互性が前提となっている。しかし彼らは、その時点ですでにハンデキャップを持っている。このことを、法との整合性でどう考えたら良いか。
    この問題的には本当に根本的な概念を議論し直す必要があると痛感した。

  • 広汎性発達障害への理解が深まった。少年院と少年刑務所の違いもわかった。とてもよく整理されていて、作者が提起している問題も明確に示されていた。

著者プロフィール

1953年、秋田県生まれ。2001年よりフリーランスとして、執筆や、雑誌・書籍の編集発行に携わる。1987年より批評誌『飢餓陣営』を発行し、現在57号。
主な著書に『自閉症裁判』(朝日文庫)、『知的障害と裁き』(岩波書店)、近刊に、村瀬学との共著『コロナ、優生、貧困格差、そして温暖化現象』(論創社)、『津久井やまゆり園「優生テロ」事件、その深層とその後: 戦争と福祉と優生思想』(現代書館)がある。

「2023年 『明日戦争がはじまる【対話篇】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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