心で知る、韓国 (岩波現代文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006032371

作品紹介・あらすじ

韓国人は、日本人とどう違うのか。その行動と意識にはどのような特質があるのか。本書は韓国の文化、社会、思想、哲学に通じた気鋭の研究者が、愛・身体・宗教・人間関係・美意識・時間・空間・他者など計一二のキーワードを分析し、お隣の国の謎を徹底的に読み解く。韓国人に関して、「なぜ?どうして?」と湧いてくる疑問に対して、極めて有益なヒントが満載されている。

感想・レビュー・書評

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  • 第四章ぐらいまでが総論にあたり、韓国人の心について深く掘りさげている。それこそ、「目から鱗」がたくさんあった。幾つかメモする。

    韓国ドラマは不幸を描いても明るい。何故か。「どんな人間でも原理的に100%上昇可能だ。その意味で、現実的に今、下位にいる者も、原理的には上位にいる者と全く同等な存在である、という強烈な信念を韓国人は持っている」(8p)

    韓国人は日本人の本音と建前を嫌うくせに、昼と夜の顔が違うことが良くある。何故か。
    「それを解くキーワードが「理」と「気」である。」(略)「人間関係において、この「理」を前面に出すか「気」を前面に出すか、によって、「理屈っぽい四角四面の韓国人」と「感情的でハートフルな韓国人」というものが分離してくる。」(略)「いわば韓国人は、自分たちの二重性について全く気づいていないのである」(20p )

    何故整形手術が可能なのか。儒教では「孝経」に「身体髪膚はこれを父母に受く、敢て毀傷せざるは孝の始めなり」とあるではないか。(略)「孝の実践」よりも 「飯を食う」方がずっと重要だという人はたくさんいる。階層性の問題。しかも「孝経」自身も「身を立て道を行ひ、名を後世に揚げ、以って父母を顕すは、孝の終なり」とお墨付きを与えている。(34p)

    この「身体の十全性」が見事に破砕され、それゆえ韓国人の大いなる精神的傷となっている舞台がある。朝鮮半島分断。(略)ソ連の崩壊前、韓中国交樹立前には、多くの韓国人が「我々が共産主義から日本を守っているのた 」といっていたものだ。「日本が安逸でいられるのは、我々が犠牲になっているからだ。日本人は我々に感謝すべきだ」というのである。「反共の防波堤」。(略)ともかく彼らの痛みを少しでも理解しようとするのが日本人のなすべきことだろう。(38p)

    日本の若い俳優は、公的な場所でも私的な欲望の言葉を平気で発し、その姿を見て子どもたちはそれを真似る。共同体があってこそ自分が存在する、ということなど思いもよらず、半径一メートルにしか関心を持たず、親や国を愛するなどということを口に出して発しようものなら奇人変人と思われてしまう、と信じている。(略)これに対して韓国の俳優は、家族や国家や民族といった共同体を愛し、公的な場所ではきちんと公的な言葉づかいをし、知的・主体的であろうと振る舞い、自分の所属する共同体の恥とならぬように行動する(ように見える)。(略)ただし韓国の俳優がそのような「優等生的」なふるまいをするのは、社会的に俳優という職業の地位が低く、そのため社会から道徳的なふるまいをしなければ、社会的に葬られてしまう可能性と常に隣り合わせにいるということだ。だから彼らはそういう意味で、実に良く訓練されているというわけだ。本当に共同体を愛する心を、韓国の俳優すべてが強く持っているというわけでは決してない。(40p)

    韓国語ではこの二つ(愛と恋) を区別しない。恋人どうしの感情も、家族や国家への愛も、みな同じ「サラン」なのである。(41p


    四つの美意識がある。
    アルムダプタ 堂々とした完璧な様式美。
    コプタ 静的で内省的な美。
    イェップダ きれいだ。美しいときれいと可愛いを足して三で割った感じ。
    クィヨプタ 可愛いに当たる。若者言葉。
    日本と同じ「可愛い」の攻撃にさらされているが、「美しい」の価値を捨てまいとする教育やマスメディアや宗教の意思が強いのが、韓国の特徴。(60p)

    (司馬遼太郎は李朝が空理空論の朱子学を採用したので、党派争いに明け暮れて疲弊し、停滞し、近代化に乗り遅れたと主張したが) この様な朱子学観は、「近代」というイデオロギーにしばられたもので、私としては克服の対象と考えている。日本の江戸時代が決して停滞した閉鎖的な時代ではなかったのと同様、もちろんその社会の形態はずいぶん違うが、朝鮮社会も、決して停滞していたわけではなく、五百年間ずっと改革に次ぐ改革で社会を「儒教化」していったわけである。その方向性が「近代」とは逆だったからといって全部否定できるものではない。(184p)

    歴史を見る目も大分違う。なぜ日本人は過去の糾弾 をしないのかということを韓国人はよく言う。過去の糾弾というのは、儒教的な意味でいえば毀誉褒貶の「春秋の筆法」によって、どれが悪くて、どれが良かったという、必ず善悪の価値を付けて歴史を描くことをいう。そういう歴史観こそが文明だと思っている。死ねばすべて仏なんだというような歴史観は、儒教的な意味では野蛮に見えるのである。(225p)

  • 私の初・小倉紀蔵と言えば語学入門書の体を偽装した『韓国語はじめの一歩』。これはガイドブックとして書かれた高野秀行の『巨流アマゾンを遡れ』と共に、出版サイドの意図を完全に無視した迷作且つ名作と言えよう。のっけから話が横道に逸れてしまったが、氏の著作は悲しいまでに詩的なものと、くどいほど理屈っぽいものに二分される。そんな中で本作は詩的かつ論理的という氏の持ち味が程良く溶けあった韓国評論集だと思う。但、盲目的に信じてはいけない。この本の持ち味は、その切り口であり、読者は読者なりの韓国論を模索しなければならない。


    『つまり、理想的な状態、あるべき姿、いるべき場所への憧れと、それへの接近が挫折させられている無念、悲しみがセットになった感情が「ハン」なのである』『「憧れ」という重要な固有語が存在しない理由は、この「ハン」という言葉が「あこがれ」の意味を隠し持っているからに違いない』φ(.. ) 2012年07月31日

  • あとがきにもあるように、まさに韓国分析と著者の思い入れの入ったエッセー。
    終章などはまさにロマンティックな修辞法で書かれている。
    分析部分はとてもわかりやすく、溜飲がくだる。
    韓国がとても好きだからこそなのでしょうが、ただ単に賞賛ばかりされていないところが好感が持てました。

  • 初渡韓を前に。

  • 少しずつ読んでいたこちらの本を時間を掛けて読了。
    今の私には別に「韓国について改めて知る」という強いニーズは正直無いのだが、書店で見かけて小倉紀蔵さんがどのように韓国を描いていらっしゃるのか興味があり、買ってあったもの。
    いや、一言で言うと、おそらく現代韓国を知る入門書として最高の1冊だろう。並の韓国概説書とは深さが違う。違いすぎる。しかし、著者自身があとがきに書いているように、決して難しい解説書ではなく、内容はエッセイ調でもある。さすが小倉紀蔵さんとしか言いようがない。
    2005年の初版なのですでに少し古い本になってしまったが、おそらく今もって現代韓国入門書の決定版だろう。

  • 小倉氏は韓国に深い愛情と関心を持ちつつ、そしてまた冷静に日韓関係を捉えることのできる人だと思う。
    この本でも書いてあるのだが、小倉氏によれば、韓国人が抱く「恨」について、日本では読んでそのまま「うらみ」だと思われているが、実は自己の中で醸し、解こうとする種のものだという。そしてこの「ハン」を成立させている情動は「あこがれ」だとしている。以前、この小倉説に出会って以来、小倉氏の韓国論・朝鮮半島論を信頼している。
    この本でも韓国について、様々に論じたりモノローグのように書かれたりしているが、その根底にバランスのとれた愛情が感じられ、読んでいて気持ちがよかった、清々しい思いになれた。最近の両国関係に影響されてか、嫌韓勢力が力を増しているような気もするが、自分は韓国を好きでいられてうれしいと思えた。

  • 近くて遠い隣国に住む人びとの心、考え方について学ぶ上で、とても参考となった。
    もう一度読み返してみるとともに、機会があったら韓国の人と、本書の内容(ものの考え方の違いなど)について話して見たいと思わせる良本。

  •  韓国の歴史ドラマを見ていると,お酒を飲む時にわざわざ横を向いて飲んでいるシーンが出てきます。日本にはないあの仕草はなにを意味しているのでしょう。
     また,ドラマでは,なぜがいつも決まって(しつこいなあ),主人公が子どもの頃からの映像が作られます。チャングム,イ・サン,キム尚官,トンイ…などなど。なんでいつも幼少時からの設定が必要なのでしょうか。
     そんな問いにも答えてくれるのが本書です。
     大国中国に翻弄されながらも独自の路線を歩んでこれた韓国。そしてその文化。なかなか興味深く読めました。

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著者プロフィール

小倉 紀蔵(おぐら・きぞう):1959年生まれ。京都大学教授。専門は東アジア哲学。東京大学文学部ドイツ文学科卒業、韓国ソウル大学校哲学科大学院東洋哲学専攻博士課程単位取得退学。著書に『心で知る、韓国』(岩波現代文庫)、『韓国は一個の哲学である』(講談社学術文庫)、『朝鮮思想全史』『新しい論語』『京都思想逍遥』(以上、ちくま新書)、『弱いニーチェ』(筑摩選書)などがある。

「2023年 『韓くに文化ノオト』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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