- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006032463
作品紹介・あらすじ
千人を超える原爆被爆者の肉声を録音し記録してきた著者にとって、長崎で被爆した吉野さん(仮名)が辿った半生ほど心を打つ証言はなかった。だが感動的なその語りに、無視できない謎が含まれていることが判明した。吉野さんは幻を語ったのだろうか。終生にわたって被爆者の声を記録し続けた著者が、被爆者とはだれであるのか、被爆体験とは何なのかを根底から問い続けて記した入魂の一冊。
感想・レビュー・書評
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推理小説的な面のあるノンフィクション。
ある被爆者のあまりに凄絶な体験。それを聞いた著者は感動するが話のいくつかの箇所に疑問をおぼえる。さらに偶然にも同じ人物がまったく異なる体験を別の場所で語っているのを知る。
彼は嘘を語っているのか。
しかし嘘を語っているような演技のそぶりは話している最中まるでなかった。
ではなぜ異なる二種類の体験を彼は語るのか。
その謎解きが、そもそも体験を語るとは何か。それが戦争という人災による被害、絶対悪に対する批判の場合において、という問題に展開していく。
人間の不思議さ、その営みの奥深さを改めて知る。 -
『未来からの遺言 -ある被爆者体験の伝記-』
伊藤明彦 著、岩波現代文庫
凄い読後感の本です。
8月6日のあれやこれやで思うところがあり、2012年に復刊されるもすでにプレミア価格(定価920円→Amazon新品3,726円)になっているこの本を取り寄せ、昨日と今日で読み終えました。なんとか8月9日に間に合いました。
今まで太平洋戦争に関する本は何冊も読んでいますが、原爆に関する書籍はお恥ずかしながら初めてです。『はだしのゲン』も全部読んだという記憶はありません。
この本が読みたいリストに入ったきっかけは2020年11月18日放送のTBSラジオ「アフター6ジャンクション」で映画ライター・てらさわホーク氏が紹介してたからです。お叱りを恐れずに申し上げますと、戦争・核兵器・平和といったテーマではなく、純粋に書籍として興味を持っておりました。
千人以上の被爆者へインタビューを行い、その肉声をアーカイブして音声作品として各地の公的機関、平和祈念施設へ寄贈するという活動をライフワークとした、本人も長崎で原爆をリアルタイムに経験した著者が、ある一人の被爆者のインタビューとその後の親交、その被爆者の長崎原爆後の来し方について書かれた本です。
多くは語りません。語れません。
ちょうど中盤「暗転(P127)」から始まる迷子にどっぷりハマってください。単純な読み物ではないです。不謹慎は承知の上ですが、こんな題材でなければ私はエンターテイメントとして絶賛していたでしょう。
繰り返しますが、凄い読書経験になると思います。心地よい感動とかまったくそんなことはなく、戸惑いと思索を繰り返しながら、核兵器と人間という極大な関係性にあぶり出された一個の生命が人間らしさを取り戻す格闘を、パラノイアと呼んでもよい筆者の執念が見出し、記録した本作を、とにかく畏敬の念を持って指でなぞるようにたどっていくことになると思います。
ルポタージュでありながらノンフィクションの枠で捉えられない、凄本でした。 -
すごい本でした・・・
著者の伊藤明彦さんの真摯な姿勢に心打たれました。
伊藤さんの、証言の考え方・向き合い方は、本当に思ってもみなかったもので衝撃的でしたし、被爆証言の「声」を録音テープに集めて後世に残すという目的のため、仕事や住みかを含め生活すべてをそれに捧げる生き方も衝撃的でした。
最初から最後まで(さらには最後の解説も含めて)謎解きのような面白さもあるので、間違ってもネタバレにならないようあまり言えることはないのですが、自分の証言への向き合い方も、大変考えさせられました。 -
本書は一九八○年に、青木書店から刊行されたきり、永らく絶版状態となっていたが、二○一二年にようやく岩波現代文庫に収録された。
著者の伊藤明彦は、原爆被害者の肉声を録音するという作業を通して、吉野啓二(仮名)さんと出会う。吉野さんの語る被爆者体験は、目の前に情景が浮かんでくるほど生き生きとしていた。特に「姉さん」の話に深く感動し、できるだけ多くの人に吉野さんの話を聴いてもらいたいと思う一方、果たして吉野さんの話は本当なのだろうかという疑念も抱く。やがて、吉野さんが別の人に、違う体験を語っていたことが判明する。果たしてどちらの話が本当なのか、あるいはどちらも虚偽の作り話なのか。
そもそも、人が自分の体験を他人に語る時に、まったく虚偽を交えずに真実のみを伝えることは可能なのか。また、話を聴く立場の人間が、相手に本当のことだけを話してもらうことはできるのか。
被爆者に限らず、体験の後世への伝承という作業が孕む問題点を浮き彫りにする、衝撃の被爆記録である。すべての読書人よ、また絶版にならないうちに、ぜひ読むべし。 -
こんなに胸が苦しくなる本を読んだのは久し振り。
「苦悩の意味付け」ということを重く考えた。 -
結論が出てるわけではないけど,内容は心に深く突き刺さる.
扱っている題材が重すぎて,何と言っていいのかわからない.
とにかく凄い話だ. -
原爆太郎・・・・・・。
著者の哲学的苦悩がにじみ出ている。
被爆者とは何か、被爆者は作り出されていくものであるほどに、それほどに非人間的であり、限りなく重い人類の罪のひとつであるのだろう。
語られることはすべてが真実でないことは、被爆体験者に限らず、日々の生活において往々にしてあることだ。
人生を美化し、相手にわかりやすくし、あるいは曲解を好んでしたり・・・・・。
それはもちろん、罪であるはずがない。