犬身

著者 :
  • 朝日新聞社
3.53
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本棚登録 : 554
感想 : 99
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022503350

作品紹介・あらすじ

あの人の犬になりたい。そして、人間では辿り着くことのできない心の深みに飛び込んで行きたい-『親指Pの修業時代』から14年。今、新たに切り開かれる魂とセクシュアリティ。

感想・レビュー・書評

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  • 主人公の犬になりたい、気持ちに最初は、共感出来ず、そんな事ある???って、感じで、なかなか馴染めなかったです。
    でも、読んでいるうちに、自然に引き込まれ、フサの気持ちになり、犬になった、幸せと、気持ちを思うように伝えられない、悲しみを、感じ、スムーズに入ってきだしました。

    ただ、彬と梓の関係性があまりにも、悲惨で、途中で気分が、悪くなりました。


    最後は、献身+犬身で、よく纏まっていて、多幸感に包まれました。
    今度は、フサと、梓が、本当に幸せになってくれたら、いいなあ^ ^
    そんな事を願いながら、本を閉じました。

    • kenken9さん
      献身+犬身
      ネタばれ?
      献身+犬身
      ネタばれ?
      2019/12/19
  • 自分の魂の半分は犬だと思っている女性が、心惹かれる女性の犬になりたいと願う話です。至極シンプルながら非常に変態な話なので万人に勧められる本ではないです。
    犬になりたい。考えた事は無いですがなるなら猫がいいかなあ。犬好きだけどもしなったら結構不自由な気がします。
    この主人公は好きな人といる為という訳ではなく、そもそも自分が人間でいる事に向いていないと感じています。犬、という存在に親愛以上の憧れを抱きます。
    変身願望というのは色々あるので、どこかに彼女のように本当に犬になって飼って欲しいと思っている人もいるんでしょうねきっと。
    ほのぼのではなく黒い話だし気持ち悪いんですが、犬は可愛いので読み切っちゃったなあ。読後感は悪くないです。

  • 設定が面白くて、どんどん読み進めてしまった。ただ奇をてらっただけではなく、愛の形に可能性を探るため、実験的にあつらえたシチュエーションのようだった。
     発表当初は評価が分かれたそうだが、「主人公の房恵(ふさえ)に感情移入しづらい」という意見があったのではないだろうか。作中には他に朱尾(あけお)という、狂言回し的な役割のキャラクターが居る。彼もまた理解し難い趣味を持っており、人間味に欠ける…というか、人間なのかどうかすらあやふやである。しかし、天から巨大な手を伸ばすように房恵の状況を変えてしまう力や、そうしたときの愉快犯っぽい仕草は、筆者が姿を借りて物語の中に現れたかのようで、わたしはときどき彼の目線から一緒に他の登場人物達を観察している気分になった。

    そんな朱尾が”狼”というペルソナを持っていることは、意味ありげで興味深い。第2章からは、彼の主人公に対する態度が豹変する。急に見下し始めたわりには、「わたしは房恵さんの下僕ですね」なんて言ってた頃より、さらに甲斐甲斐しく世話を焼くようになる。浮世離れしたところは相変わらずなのだが、柄にもなく親身になっているようなのが、なんとも滑稽で、微笑ましく、主人公を応援する身としては心強くも思えた。房恵の魂を手に入れたも同然ということで、所有物への責任感が芽生えたのだろうか。それとも、狼だから、犬になった彼女へ、同属としての情を抱いているのか。

    この作品では、犬と人間の関係が、人間同士の関係との対比で語られている。言葉を解する人間と比べ、犬とは一見分かり合うことが難しいように思えるが、その実、偏見や都合の良い曲解で分かったつもりになることが無いぶん、直に向き合えるとも考えられる。

     わたしにこの作品を薦めてくれた友人は、性同一性障害(あるいは房恵が自称する”種同一性障害”)について、「自分が何者なのかというよりむしろ誰にどう愛されたいかという、願望に依るところもあるのかも」と言っていた。自分の種や性別に不満は無くても、他人が持つ自分への印象と、自分が認識する自己との間にギャップを感じた経験を持つ方は、沢山居らっしゃるのではないだろうか。嫌われたときはもちろん、好きになってもらえたときでも、勘違いされていたら素直には喜べない。

     房恵は犬を無条件で愛している。犬に仲間として認められたいと願っている。その気持ちは、梓(あずさ)という、同じように犬を愛する人物との出会いで、彼女から犬として愛されたい、という気持ちにシフトしていく。要するに、あまりにも一途に犬を愛しているので、愛される犬が羨ましくなってきたのではないか。

     犬の体を手に入れた房恵は、飼い主となった梓に、偶然にも”フサ”と名付けられ、理想の愛され方を享受する。しかし、人間のままでは決して立ち入らなかったであろう私的な生活の中で、梓が、一番身近な人間からの無理解に苦しんでいたことを知る。梓が受けた暴力は勝手な解釈で正当化され、保護者たるべき存在は加害者の言葉を妄信する。弱り果てる梓を目にし、フサも心を痛める。

     このような事態が予測されていなかったわけではない。まだ人間のころ、房恵は、彼女を犬に変身させようとする朱尾にこう尋ねている。

    「梓さんは男運ないみたいだし友達も少ないっていうし、実は幸薄い人かも知れないでしょ。(中略)梓さんのケアをしてくれる?」

    朱尾の答えはこうだ。

    「それはわたしではなく、あなたの役割でしょう。可愛い犬にしかできないことを徹底的に実践してください」

     後に房恵がしたのは、まさにこの通りだった。愛らしさを振りまき、自らも(性別などとは無関係の)無償の愛で応える。人間だったころ、房恵自身が犬にされて嬉しかったことである。

     物語はハッピーエンドを迎える。だが問題が解決したとは言い難い。犬になれない我々が対人で傷ついたら、逃げ出すか殺すかしか無いのか。房恵が人付き合いの素晴らしさに目覚めるシーンは皆無である。「やっぱりわたし、人として人と向かい合ってみる!」などと言いながら人間に戻ったりはしない。逃れがたい人間関係に悩む人は、読んで絶望を感じるかもしれなくて、そんなところも評価が分かれる原因になっているのかもしれない。

  • 献身しているのはフミなのか梓なのか、もっとほかの誰かなのか。
    犬になりたい願いの根本は人間で居ることの違和感である気もするし、犬に対する好意である気もするし、犬になって人間とは違う絶対的な安心感の中で可愛がられたいという欲望である気もするし、その全てであり、そのどれでもないようにも感じる。
    他人によって自分の立ち位置が揺れてしまうことは多いけど、自分が何者であるかは自分の中にだけあって誰にも左右される物ではないのかもしれない。
    朱尾さんの章によって性格がガンガン変わって本質が見えない感じが好きだった。

  • 犬好きをこえて自分が犬なのではないかという疑問をもちいき続けてきた女性が不思議な人物の力で犬になる話。犬になったからといって犬の世界の話ではなく犬になった人間の目線から一人の人物を深く知ることとなる話。

    序盤の人間の姿の印象が全くない。これは作者の意図した部分なのだろうか。人間の頃の外観についての描写が極端に少なかった気がする。

    犬にならなければ知らなくてよかったことばかりで、もう人間ではないからどうする事もできない歯痒さが読んでいても伝わる。

    どうしようもないだろう?とある人物は他人事のように言うが本当にそうなのだろうか。

    生々しい性描写を受け付けない人もいるだろう。特に女性はきついと思う。ただ途中まで読んで読むのをやめてしまわないでほしい。

    知ったきかっかけはラジオアバンティ。
    二日間の休みで一気に読んだ。

  • 犬になりたいと願った八束房恵は天狼のマスター、朱尾と犬になる変わりに死んだら魂をゆずるという契約をかわし本当に犬になってしまう。

    これだけだとファンタジーなのですが梓の家庭のドロドロ近親姦……
    気分が自然と沈んできます…

    最後は魂をあげるなんて取引は悪魔との契約じゃないか絶対ろくなことにならん…と思って読んでいたらちょっと光が差した終わり方でよかったです

  • セミ状態(寡作)の松浦先生・・・
    松浦先生にしては、けっこうソフトなので、
    初心者にも読みやすいかと。

  • 犬になりたい気持ちは分からないけれど、読んでいると分かるような気分になる。
    犬になった時の心地良さに関する描写が温度感があって好き。
    百合ではない

  • 犬になりたいという強い欲求を抱える人間・八束が、バー店主である朱尾という得体のしれない男を仲立ちに(魂とひきかえに)、あるとき、理想の飼い主・梓の飼い犬フサになることに、文字通り成功する。
    しかし内側から見た梓の私生活はとても健全なものとは言えず……

    主人公フサの欲望がそもそも倒錯しているために、多様な欲望の距離感が測れなくなる。たとえば梓の苦しむ近親相姦も、犬の眼から見れば相対化される。どんな欲望も元をたどれば形容しがたい一つの原初的な欲望にたどりつく、その一つの形にすぎないとさえ思われてくるから怖い。

    とはいえ、梓はそれに、苦しんでいる。であるからには、その苦しみを取り除いてあげたいと、フサは梓の守護神として寄り添い続ける。

  • 犬が特に好きでもなく、ましてや犬になりたいなんてこれっぽっちも思ったことない私ですが、何故か引き込まれ忘れられない一冊になった。
    主人公が犬になり、犬の生態に馴染んでいく様はまるで経験したかのように生々しい。生々しくも美しい。美しいのは一心にこうなりたい、こうでありたいと願う心なのか。

    この本を読んで以来、犬を見ると不思議な気持ちになる。

    あなたはもしや?

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著者プロフィール

1958年生まれ。78年「葬儀の日」で文學界新人賞を受賞しデビュー。著書に『親指Pの修業時代』(女流文学賞)、『犬身』(読売文学賞)、『奇貨』『最愛の子ども』(泉鏡花文学賞)など。

「2022年 『たけくらべ 現代語訳・樋口一葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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