- Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022505293
作品紹介・あらすじ
小説の新人賞受賞を機に会社を辞めたタケヤス。実家に戻り、家業を継ごうと考えはじめるヨシズミ。地元の会社に就職するも家族との折り合いが悪く、家を買って独立したいと考えるホカリ。幼なじみの3人が30歳を目前に、過去からの様々な思いをかかえて再会する。久しぶりに歩く地元の八番筋商店街は中学生の頃と全く変わらないが、近郊に建設される巨大モールにまつわる噂が浮上したことで、地元カウンシル(青年団)の面々がにわかに活気づく。そんな中、かつて商店街で起こった不穏な出来事で街を追われたカジオと15年ぶりに再会し…。生まれ育った場所を出た者と残った者、それぞれの人生の岐路を見つめなおす終わらない物語。
感想・レビュー・書評
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タケヤスとホカリとヨシズミの三人を中心として展開される、良くも悪くも、昔ながらの商店街を取り巻きながらの人生模様は、三人とも母子家庭であることがポイントのような気もするけれど、それだけではないことは、読んでいく内に気づくと思います。
最初は、津村さんの地味ながらも、「ああ、すごくわかる」的な「日常オブ日常」の淡々とした素朴な物語に、少々の毒を加えたシニカルな感覚は、いつもの場所に帰ってきた安心感のようなものを感じていたが、突如、内に秘められた冷たい刃のような事情を知ることで、一気に現実に引き戻されることになる。こういう展開の仕方は本当にすごいと思うし、津村さんの書く男性って、なんでこんなにリアルなんだろうとも思います。それも決して、順風満帆ではない人や、心に痛みを抱えている人を。
表向きは何ともないように見えても、陰では大変な辛い思いをしている。人生を生きる人たちは、皆、表と裏の顔を持っているものなのかもしれない。別に悪い意味ではなくて、人間は単純ではないという意味で。
人それぞれが、それぞれの物語と問題を抱えており、それに対して、答えを出せたという感覚を自ら実感できる瞬間が、誰にも訪れるであろうという、希望のようなものを最後には実感させてくれる。
人の数だけ人生があるという言葉は、思いのほか深い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
以前、津村さん自身が失業中に実家(祖父)の店の在庫処理のために商売をしていた、と対談で読んだことがある。その頃の経験が盛り込まれているであろう、シビアな商店街もの。
普通、さびれた商店街に若者が戻り商売をする、というと昔ながらの商店主たちとのハートフルな触れ合いものや熱血感動ものになりそうなのに、それぞれの大人の嫌な思惑が入り乱れ、当の主人公たちも冷静で現実的。事件があり、一応の解決があったり、生き別れの親子の再会があったり、エピソード的にはドラマチック要素があるのに、どうも温度が低くて現実的なのはさすが津村さん。一筋縄ではいかない読み応えのある作品だった。
それにしても、津村さんの描くアラサーの人達は厳しい境遇なのに、みんな堅実で真面目だなあ、と思う。
ふらふらといい加減に生きる人への憧れや苛立ちがどこかにあるのかもしれないけれど、そうはできない堅実さが滲み出ている。仕事を続け、生きていくのは辛いし大変だけど、真面目に生きるって悪くないな、と思う。 -
津村さんがどんどん面白く感じるのは歳のせいなんだろうな、と思うと歳をとるのも全然悪くないな。
津村さんはこういうどこにでもある町、いる人、その雰囲気を雰囲気のまま文章にする天才だ。なんでもない日常を文章にすることの方がきっと難しいと思う。何も起きない日常なんて退屈だから。それを退屈させず、クスッと笑えたり、ふとさみしくさせたり、そういう日常のなんでもない日々を愉しめる自分が大人になったなって思う。昔なら退屈で面白くないなーって終わってただろう。
これからもしばらく読むよ、津村さん! -
良く判らないタイトルですね。八番筋は商店街の名称、カウンシルは評議会の意。このタイトルを見ると「頑張ってる商店街」の物語を想像しますが、この評議会メンバーがグズグズで。しかも主人公達は彼等を軽蔑しつつも、自分達も結構グズグズで。。。
実は昨年末に読み始めて、あまりに低空飛行が続く物語に一旦挫折。年明けに再読し始めました。
もともと津村さんの文体はズルズルとしたローテンション。テンションが高い方では無い私を5とすれば、3程度。しかもAを語って居たらその関連でBが、さらにCがと文章が繋がって行き、突然のように本筋のAに戻る。批判では無いのです。BやCを描くことで周辺の事情が分かるし、おそらくそんなことも意識して書いていると思います。ただ、本筋が掴みにくかったり、主語不在の文章も有って、振り回され、行方を見失う事も多い。
10数年前、評議会が一家族を商店街から追い出す原因となった友人の祖父の死に関わる謎が終盤に解明され、物語は穏やかなピークを迎えます。
スカッとした登場人物などいないのです。様々な家族の家庭崩壊や嫉妬や挫折が描かれ、そんな中で主人公達はそれを何とか乗り越えて行く、そんな姿が訥々と描かれ、読むのに苦しんだ割になかなか良い読後感です。 -
不思議な物語。
話が、というのではなくて文体や醸し出す雰囲気が、あまり読んだことがないものだった。最初はなんだか読み込みにくくて、「あまり好きじゃないかも」と思ったものの、次第に引き込まれていった。
商店街のおっちゃんたちもおばちゃんたちも、「いるいる、こういう人!」ってリアルで、でもずーっと平坦な物語(のように思えた)がいったいどんな風に進んでいくんだろう、と見当もつかなかった。
途中、教会での父との再会のシーンがよかったな。そこから急展開する感じ。
ほかの作品もまた読んでみたい。 -
自分が中学生だった時、どんな子供だっただろう。
子供だと言われ、自分に決定権は与えられず
高校受験で人生のすべてが決まってしまうのだ、と思っていた。
八番筋カウンシルも、そんな無力な子供時代を送ったタケヤスが主人公の話だ。
八番筋カウンシルといわれるさびれかけた古い商店街は、妬みも嫉みもあるしがらみたっぶり、人間関係の濃い場所である。タケヤスはそんなところで育ち、そして無職になり戻ってきた。
無力な子供は、理不尽な大人の暴力を黙って耐えるしかなく、大事な友人であるカジオが母親の職業のために街から弾き出された時も、見ているしか出来なかった。
大人になったタケヤスは、無力な自分から脱却しようと足掻く。濃い人間関係に絡めとられまいとする。
子供時代は何もできなかった自分から、カジオに関わり父親に関わり、成長しようとする。
その姿が非常に眩しい。
この小説は、作者から成長しようとする者に対してのエールだと思う。 -
とりあえずリアル。「マンガみたいな」とか「ドラマみたいな」、「小説の中では」そういうのの逆。全部リアルな日常。主人公のタケヤスに感情移入ができる。ああ、わかる、そうだよねー実際、と思う。人間のリアルさがあまりに普通に描かれすぎて、淡々としているため、自分自身の日常に感じてうんざりしてきて途中で読むのをやめたくなるほど。けどなぜか最後まで読んでしまう。読んだ後には、自分の何気なくてとるにたらない日常も、まあこんなもんかーがんばるかなーと思える。最後の最後に描かれるちょっとした明るさがいいなあと思う。
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津村さんの作品は、どこが面白いのかと訊かれても、はっきり答えにくい。でも、はっきり言えるのは、面白いということだ。会社員や働く人を描くことが多い伊井直行さんの作品もそうだが、気付くと読み耽っている。
3人の元同級生たちが自宅兼店舗がある商店街で日々暮らしている。30歳に近づきつつある3人の生き方は3者3様で、それなりに考え方はよじれている。そのよじれ方をどう思うかで、本作に対する感想は異なるだろう。自分はばっちりだった。でも、どうしてなのか分からないから★★★★。-
どこが面白いのかはっきり答えにくいって、コメントとってもいいなって思います。私もばっちりでした!!
どこが面白いのかはっきり答えにくいって、コメントとってもいいなって思います。私もばっちりでした!!
2014/03/18
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