乱反射

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (516ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022505415

感想・レビュー・書評

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  • 少しずつ自分勝手な人たち。それは自分も含めて誰にでもあること。小さな自分勝手が積み重なった結果、痛ましい事件に繋がる。事件に向かってカウントダウンしていく数字、そして事件後。いろんな人の行為や思いが乱反射してる様子。面白かった。

  • ある意味とても恐ろしい小説。善人もしくは、善人だと思いこんでいる自分のような大多数の人にとっては究極のホラーかもしれない。不幸には、憎むべき明確な犯人や団体があり、原因はほぼ特定できる、と思い込んでいる節がある。しかし、この小説はそこから先に踏み込む。もしかしたら、あの事件の先を辿れば、あの日の自分に行きつくのでは、と想像力を働かせると、恐怖してしまう。そんなリアリティと、怖さがすさまじい筆力で展開される。かなり分厚い小説、でもまったく飽きなかった。ハッピーなことの因果関係を探るのはだれもが大好きだが、その逆バージョンはだれも探らない、そんな人のご都合主義の穴を見事についている。主人公が一人じゃなく哀しみを分け合う人間が他にいたことが、この小説の救いになっていた。

  • 風が吹けば桶屋が儲かるとか、バタフライエフェクトみたいなことを考えながら読み耽った。人のすることが全て因果として繋がってると思い知らされた。

  • 序盤から中盤にかけては関係人物たちの日常の瑣末な出来事が数ページ単位で語られていく。少しずつ事件(核心)に向かっていく流れは若干冗長的で焦ったく感じるところもあるが、悲劇的な結末を予感させる手法は素直に素晴らしいと思った。
    また、章がカウントダウンのように減っていくテクニックも同じく読者を不安にさせる役割を果たしている。

    終盤は被害者の父親が関係者たちに罪を問う流れで進む。一部の例外を除き、ほぼ全員が一様に事故についての責任を認めようとしない。だが、それをきっかけにして、周囲の人間に蔑まれたり距離をおかれたりといった形で「罰」を受けるのが皮肉であり同時に救いになっていると感じた。ただ冒頭にもあったように被害者の父親自身無責任でモラルのない行動をとったことが過去にあり、ここでジレンマが生じるのも皮肉である。

    道徳、常識、犯罪、その境界とは何だろうか。端的に言えば法に違反しているか否か。だがその法を定めたのは人間自身である。人間は私利私欲で行動する。どんな高邁な人物でも小さな違反を一度たりともしたことがないものなどいない。人間が人間の決めた法律を元にした人間社会で生きていく上では、相手を明確に裁いたり糾弾することのできない事故が起きてしまうのは仕方がないのかもしれない。

    追記:この作者がすごいのは年齢や性別、生活レベルが異なる「モラルのない人々」の全てを「こういう人いる」と思わせる巧みな人物描写、心理描写で書き出しているところ。それだけでなく周辺の家族や友人に至るまで、シンプルな文章で書かれている。ギャル風の女子高生(この子はまとも)のシーンでは笑ってしまった。

    気になった点:被害者の母親の事故当時の服装(サングラス)については伏線を感じさせるものがあったが特に事故後言及されなかったこと。
    モラル意識の低い代表格の和代については、何の罰も受けないまま途中退場してしまったこと。

  • 乱反射という言葉。いろいろな事がつながって不幸がおとずれる。誰のせいなのか?読んでいる私もわからない。ただ1つ言えることは、失ったものは返ってこないということ。

    自分にも置き換えてみる。自分さえ良ければいいということをやっていないだろうか?探すといくつもある。誰も迷惑をかけていないのだから、いいだろうとは自分だけが思っているのかもしれない。目に見えない形で被害を受けているのかもしれない。それは人間ではなく、生態系や環境破壊なのかもしれない。

    よく考えて行動しようと思う。自分だけが満足していないか?相手はどう思うだろう?世の中のためになっているのか?

  • 日常生活での、ささいな違反・怠慢が積み重なって最悪の結末を迎えてしまう。側から見れば『運が悪い』ということになるのだろうが、被害者からすればそれだけでは済まされず、関係者全てのやったことを断罪したい気持ちになるのは当然だと思う。ただ人間生きているかぎり、どんな小さな罪も犯さずに生きていくのは不可能となると、我々にできることは、それでもなお普段から悪事をしないよう心がけ、あとは何事も起こらないよう祈るだけ。

  • 何と壮大な話なのだろう。
    話がどこでまとまるのか、全く途中まで分からず、たくさんの人がわたしのせいではない、と連呼するところで、腑に落ちる。
    そして最後に冒頭のエピソードが思い出される。

    どれも、これくらいいいだろう、というレベルの話。でも不運が重なると、ドミノ倒しのように、こうならないとも限らない、その見本のような話だった。

    警察官の
    わたしも娘を喪った、事故だったので加害者はいたけれど、子どもを失って気持ちの整理がつくことなどない。
    気持ちの整理は自分でつけるもの。
    待っていても、いつまでも整理なんてつかない。

    この言葉は、とても印象に残る。

  • 些細な自分勝手が、自分の知らないところで、1人の小さな子供の命を奪うことに繋がっていた。

    長い長い話。
    でも、すっかり入り込み読んでしまいました。
    最初からマイナスで始まる章、カウントダウンしながら遂にその時が来た時の興奮、私もただの野次馬だったかも。

    些細な自分勝手、小さなモラル違反。
    きっと誰でもしていること。
    それが、結果こんなことになるとは、誰もが想像出来ないことなのでしょう。

    この本に出合ったからこそ、これからは出来うる限り些細なことでもモラルに反することをしないよう心掛けていきたいと思いました。

  • 登場人物の多さに最初はなかなか進まなかった。
    1章が短いから余計に、ちょこちょこ読みをしてしまって・・・

    中盤からは一気読み。

    これを読む直前、視界の悪い大雨の夜、
    溝のある狭い道を通るのが若干怖かったので、
    悪いと思いながらもお店の駐車場を通り抜けしてしまいました。
    「いつも買物してるから許して!」と言いながら・・・

    あの小さなモラル違反が誰かの命を奪ったりしてなくて本当によかった・・・

  • 貫井先生作品の中で一番好きです。

    「これくらいの事」

    まさに「これくらいの事」が積もり積もって山となり、ひとりの幼児の命を奪ったお話。
    しかし、それはこうやって「小説」にしたら「理解」出来ることだけど、きっと口頭で云われると「はぁ?」で終わる。
    それくらいの「モラル」の事。

    これを読んだらきっと、我が身を振り返りたくなり、心の中で「じゃり」っと砂を噛んだ気持ちになると思う。
    しかし、

    「阪急電車」より、「券売機でモラルは売ってない」

    ほんの少し、何事にも思いやりを持ちましょう。
    一番イラッと来たのは「樹木の伐採反対」のおばはん(怒)
    思いつきで振り回すな!!(怒)

    一番ありえそうで怖かったのが「新人ドライバーの放置車両」
    私もただ今、ペーパードライバー脱出奮闘中で特に車庫入れが苦手なので、放り出したい気持ちは解る!!
    しかし、せめてコンビニくらいまで頑張れ!!!と、手に汗握りました。
    そしてそのドライバーの妹、貴様も同罪。

  • 一人一人にとっては小さな怠慢、悪意ですが、その身勝手さが連鎖する時、1つの命が失われます。犯人は誰? 誰を糾弾すればいいのか、分からなくなってきます。これは我々みんなに語りかけている作品です。「これくらいならいいだろう」その気持ちがやがて大いなる悪意となるのだと看破しています。主人公の冒頭の伏線が、あそこで活きてくるとは思いませんでした。主人公夫婦が救われる日は来るのでしょうか。

  • ここ最近読んだ本の中ではダントツに面白い。
    ただ面白いという言葉を使うのは不謹慎な内容でした。

    まず冒頭の
    『これは、あるひとりの幼児の死を巡る物語である』
    という書き出しから強烈に惹かれる。
    何故幼児は死ぬ事となったのか。
    その事件に関わった人々の話がそれぞれの章に分かれて描かれている。
    その章はマイナスの数字から始まり、若い番号へと遡っていく。
    そして事件が起こった後、数字はプラスに転じる。

    水面下の出来事、そしてそれが表層化してからときちんと分けて書かれていて分かりやすい。
    そして読めば読むほどそれぞれの登場人物の立場や置かれた状況が理解できて、どんどんどんどん話は面白くなる。

    自分さえ良ければいい。
    これくらいいいだろう。
    そんな誰でももつちょっとした思いが少しずつ積み重なって起こった悲劇。
    どっかの標語のような言葉だけど、社会は人でひとつにつながっているのだと思う。
    例えば、私が非常識な誰かから腹が立つ事をされる。
    すると人間のできてない私は当然イライラしてストレスがたまり、その直後に出会った人はそのイライラした空気をまとったままの私と接する。
    するとその人間も・・・。
    と、人間は知らない所でつながっている。
    だから、いくら社会が貧しくても閉塞感が漂っていても、自分さえ安全で安定した場所にいられるなら幸せだという考えはとてもナンセンスで浅薄だと思う。
    私自身、はっきりと、昔よりも人に親切にしなくなったと感じています。
    それは世の中の人間、実際の周りの人間を見て接して自然とそうなってしまった。
    自分の権利ばかりを主張する人が増えた。
    そして謝らないほうが得策と考える人が増えた。
    個々の余裕のなさ、ストレス、そういうものが回り回って、「それほど悪くない自分」に返ることもあるのだということ。
    それを分かりやすく書かれた本で、とても深い内容の本だと思いました。

  • 世の中の人々の「これくらいは許されるだろう」という小さな行為が、
    いくつも縺れ合って、小さな子供の命が奪われた。

    -44から0に至るまでの、いくつもの出来事は読んでいて少し疲れた。
    あまりにも様々な出来事と人名を頭に入れるのが、私の古びた脳にはちょっと大変。
    それが-1から、こう繋がるのか・・・と、どんどん引き込まれ、
    色々な出来事が見事に(悲しくも)一つの結末へと織り上げられていく感じがした。

    自分が深く考えずにしたちょっとしたイケナイコトが、子供の命を奪ったと言われたら・・・なかなか自分のせいだと思えないだろう。
    「ぼくは悪くない」「わたしのせいじゃない」という言葉ばかりを受け止め続ける被害者の父親の思いを想像すると、本当に辛い。

    しかし、私自身も含めて、イケナイコトを一つもしたことがない人は、いないのではないか。
    そんな風に考えた時に「原罪」というものが少し分かるような気がした。

  • 新しい登場人物が出てくるたび、嫌な予感しかしなかった。
    これだけ多くの人物が出てきて、場面転換も多いのにも関わらず、それらが一つに繋がっていく様は流石だと思った。しかも、どの人物をとっても気持ちが良くわかり、絶望感や焦りや行き場の無い怒りや、思わず自己弁護したくなる気持ちや…色々な気持ちを一度に感じることができる。
    もしかしたら、自分も思わぬ所で人を不幸に陥れていたのかもしれない…。
    ちょっとしたモラル違反。
    読み終えて自分の常日頃を省みてしまった。

  • とんでもないものを読んでしまった、という感じ。
    登場人物たちのちょっとしたマナー違反が、乱反射して取り返しのつかないことになってしまう。
    終盤、被害者の父親の絶望の慟哭には、本なのに耳を塞ぎたくなってしまった。
    病院勤めの身からしてみれば、身勝手な患者たちの振る舞いは「あー、あるある」といった感じでした。だからといって診察拒否の言い訳にはならないんだけれども。

  • 一人の幼児が死んだ。
    それは、一見、よくある不運な事故に思われた。でも、本当は…。

    ものすごく、心が重くなる話しでした。
    フンを放置する老人。
    技量もないのに大きな車を運転するはめになった女性。
    暇つぶしの慈善活動家。
    怠慢な役人や医師たち。
    自分のことしか考えられない若者。

    今日だけ…。
    自分一人くらい…。
    みんなしてるから…。
    体調が悪いから。
    色々な言い訳をしながら犯した小さなルール違反。
    それが積み重なって一人の命を奪う。
    でも、誰も自分の罪に気づかない。
    自分とは、違う世界の事だと思っている…。


    猛烈に腹がたちながらも、自分だってこの人たちと一緒なのだ、と思うとものすごく嫌になった。
    ルール違反をしなくても、ただ生きているだけでもきっとその背に、肩に罪はどんどん降り積もっていってるんだろう。

  • ただただ切ない気持ちで読了しました。

    序盤、節ごとに主役が変わる構成に戸惑いましたが、少しずつ各節の登場人物に僅かな繋がりがある事に気づきます。
    それぞれの登場人物の環境は、現実のどこにでも有りそうな平凡なモノ。平凡な日常風景が続くため、節ごとの登場人物たちの構成や人物像をイメージできないと、置いてけぼりになるかもしれませんが、自分自身は文体が合っていたのか、すんなりと入り込んで読めました。

    登場人物それぞれにとっては「ちょっとした」モラルの無さの連鎖が、大きな悲劇に繋がっていきます。

    「ちょっとした」事を行った立場から想像してみると、その行為自体を咎められても、自己保身の気持ちから、逆上する行為には納得してしまう自分がいました。同じ立場だったら、自分のたった一つのその行為がそんな結末に繋がると予見できるわけがない、もっと責められるべき相手がいるはずだ、という気持ちで反発するであろうと認めてしまう気持ちです。

    一方で、大きな悲劇を味わった被害者側の立場で考えた時の救えない気持ちには、涙が止まりませんでした。
    悲劇から立ち直るために灯した心の炎は、憎悪をぶつける相手探しだったと思われます。しかし、多くの真犯人たちに自責の念が無い事を思い知らされる中で、被害者自身もが「ちょっとした」という想いの立場と何ら変わらない側に居る事に気づかされます。

    単なる物語を楽しむ小説ではありません。「あぁ、面白かった」と、本を置く事が出来ないほどに、考えさせられるものでした。
    感情移入する登場人物に寄って、見えてくる世界が違います。
    今の自分には、著者が読者に受け止めてほしい想いの全てを感じとれていないと思いますが、ずっと心に留めておきたい内容でした。

    500ページ超と少し長い話ですが、周りに薦めたい内容です。

  • 本当はいけないことだけど、今回だけはちょっとくらいいいよねっていうことが、いくつもいくつも重なって起きなかったかもしれない事故が起きてしまった。でも、どれもこれも些細なこれくらいはってこと。まさかこんなことが事故につながるとは思わないような。決定的な紛れもない過失があってあんたのせいだ!と怒りをぶつけられたら両親は少しは救われただろか。モラルでは人を糾弾することはできない。無念。けど、読み終わってよーく考えてたんだけど、他の人はまあそういうこともあるかもしれんと言えるけど、犬のふんのじいさんと責任おいたくないアルバイトの医者だけは許せん。あと、関係ないけど、図書館から借りたこの本にえーって思うものが挟まっててゲンナリ。ここにも、ちょっとくらいってやつがいるんだ orz

  • 無理もあるが圧倒的

  • 幼い命が天災によって失われた。
    だけどそれは数名のエゴイズムが複雑に重なりあって
    起こったものだったら・・・。

    話の内容は重く、誰もが身につまされるんじゃないかと思われる
    もので私も自分の行動が誰かの命を奪うことになってるのかもと
    考えてしまいました。
    読んでて登場人物たちの身勝手な言い分に腹がたつほど
    ストーリー的には面白かったし印象に残る内容でした。

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著者プロフィール

1968年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。93年、第4回鮎川哲也賞の最終候補となった『慟哭』でデビュー。2010年『乱反射』で第63回日本推理作家協会賞受賞、『後悔と真実の色』で第23回山本周五郎賞受賞。「症候群」シリーズ、『プリズム』『愚行録』『微笑む人』『宿命と真実の炎』『罪と祈り』『悪の芽』『邯鄲の島遥かなり(上)(中)(下)』『紙の梟 ハーシュソサエティ』『追憶のかけら 現代語版』など多数の著書がある。

「2022年 『罪と祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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