f植物園の巣穴

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (193ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022505880

感想・レビュー・書評

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  • 『家守綺譚』『沼地のある森を抜けて』の著者が動植物や地理を豊かにえがき、埋もれた記憶を掘り起こす長編小説。
    月下香の匂ひ漂ふ一夜。植物園の園丁がある日、巣穴に落ちると、そこは異界だった。前世は犬だった歯科医の家内、ナマズ神主、愛嬌のあるカエル小僧、漢籍を教える儒者、そしてアイルランドの治水神と大気都比売神……。人と動物が楽しく語りあい、植物が繁茂し、過去と現在が入り交じった世界で、私はゆっくり記憶を掘り起こしてゆく。自然とその奥にある命を、典雅でユーモアをたたえた文章にのせてえがく、怪しくものびやかな21世紀の異界譚。
    「朝日新聞出版」内容紹介より

    なんとも不思議な世界観.

  • 最近のミイラ研究で明らかになったのは、古代エジプトの歴代ファラオの死因(この場合は病死)の中で当時の病死で一番多いのが「虫歯」や「歯周病」がもとになって引き起こされる「敗血症」であったという。それほどまでに歯は重要な器官らしい。

    歯痛に悩む植物園の園丁、佐田はある日巣穴に落ちてしまう。そこは異界への入り口だった・・・。人と動物が楽しく語りあい、植物が繁茂し、過去と現在が入り交じった世界で、佐田はゆっくり記憶を掘り起こしてゆく。

    歯科医の「家内」である犬、ナマズ神主、愛嬌のあるカエル小僧、漢籍を教える儒者、そしてアイルランドの治水神と大気都比売神……。

    妊娠4ヶ月で儚くなってしまった妻の千代や、ねえやの千代の思い出、子供に戻ってしまった身体で辿る記憶の旅。

    混乱と戸惑い。どこまでが現実でどこからがそうでないのか、境目が分からなくなる。川上弘美さんの作品にもこの雰囲気、あるなぁ。

    最後、オシリス神のように復活を遂げる千代。佐田も再生されたのかもしれぬ。

  • 先日読んだ『椿宿の辺りに』の前段の物語ということで再読。
    久しぶりに読んだのだが、前回同様、どうにも入り込めなかった。
    『家守奇譚』は大好きな作品なのだが、似たような話のこちらはなんだろう、主人公に魅力がないのか、物語のあまりのとりとめなさによほど懸命に付いていこうとしないとあっという間に置いてきぼりになってしまう。

    〈f植物園〉の園丁として働く佐田豊彦の、植物園にある大きな木のウロに落ちてからの何とも不思議な旅の物語。
    現在と過去、現実とファンタジー、現実の空間と異空間、この場所とあの場所、様々な相対する場所が行き来する。

    とにかくフワフワしながら必死で物語に食い下がろうと読み進めていくが、終盤近くまで辛かった。
    ところが中盤で登場したカエル小僧の正体が分かってからは、そういうことだったのかとようやく理解。
    幼いころふといなくなってしまった大好きだったねえやの千代、妊娠4ヶ月に亡くなってしまった妻の千代。二人の真相も同時にわかる。

    読み終えてみればホッとするような、一方で切なくなるような。
    豊彦の置き土産が『椿宿の辺りに』で子孫が悩むことになるとは。

  • 古風な言い回しの文体は嫌いではないしむしろ好きなのだけど、夢と現が奇妙に交錯する展開が何故か非常に眠く感じられてなかなか読み進めることができなかった。でも、坊の正体が分かった途端なんだかすごく切なくも温かい気持ちに。なかなか良いお話しだったなぁ、と^^ できればジ○リあたりの映像作品として見てみたいですね。

  • 不思議な物語。
    植物園に勤める男が、ある日「隠り江」に迷い込み、生まれてこなかった息子と、ねえやの千代や妻の千代という「千代」の記憶を取り戻していく。

    ぐるぐると取り込まれるようで、一気に読みました。
    時代的には昭和初期位?その時代が好きなので、どっぷりつかってしまった感じですね。

    最後に妻のもとに帰れてよかったです。
    千代さんかわいい人ですね。

  • なんとも不思議な世界観と読後感。
    好きな人はすごくハマると思う。
    主人公の心情や境遇と、出て来るキャラクターが比喩的に使われて、深く読むことができる。一度だけではそこまで読み込めなかったが、国語の問題を解くように読むとまた面白いのではないか。

  • 文章は美しく短い。だが、ずっと夢の中のような、不確かな世界で迷子になった気分になり、読んでいると振り落とされそうになる。今市子の『百鬼夜行抄』の異界にいる時みたいで、時間も空間も怪しく、展開が読めない。主人公は、ずっと千代を探している。
    しかし最後には一応納得のいく話の流れがあり、物語として理解しやすかった。

  •  "芋虫は(極論すれば)液となり、それが流れ出ぬよう保持する器が蛹の殻、液とは死んだ細胞が蛋白質等諸々に分解されたものだったのだろう。アミノ酸レベルにまで分解された蛋白質が、今度は新しい生物へと組み換えられていくのだ。

    〜中略〜

     そこまで考えて私は、無論蛹駅液の中には死せぬ何か神経系の如きもの、原基の如きものもあったに違いないと思い改める。そうでなければ、次の生に向かうとっかかりがない。"

     何よりもここが残った。
     蛹の中身が液状化してる(ホントに…?)と言うことに一番驚いたが納得。サラサラなのか、若干ドロドロしているのか気になるけれど、怖いからwikiれない……。
     今思えば、イトミミズ?を切ってみたり、死ぬ程オタマジャクシを連れ帰ってカエルにしてみたり、ザリガニ釣りで競ったり。小学校時代の私は野生児かよ。辛うじてオタマジャクシはいけたとしても、残る2つは絶対ムリ。出来ることがずいぶん増えたと思っていたが、できなくなっていることも気がつかないだけで中々にありそう。

  • 苦しみに囚われている時、本来苦しみを共有すべき人間を慮る事は難しい。例えその人が自分以上に傷ついていたとしても、何よりも大切にしたい存在だとしても。
    終いには、自分の苦しみは相手の苦しみに比べると取るに足らない、小さなものなのではと考えてしまい、正面から苦しみに向き合う事を放棄してしまう。
    その結果、本来分かち合うべき相手と時間を過ごす事が苦痛になり、意識の中から相手を締め出してしまう事が多々ある。相手への罪悪感に耐え切れなくなってしまうのだ。
    本作の主人公も、意識の内から様々なものを締め出してしまった一人だ。しかし、夢と現実を行ったり来たりしつつ、過去を辿り、失ったものを見つけ、緩やかに自己を再生、修復していく。
    本作全体を包む、おおらかで圧倒的な、しかし非常に親密な土着的な空気の下に、ちらちらと見え隠れする人間的感情の描写が印象的だった。

  • 歯痛に悩む植物園の園丁がある日、巣穴に落ちると、そこは異界だった。前世は犬だった歯科医の家内、ナマズ神主、愛嬌のあるカエル小僧、漢籍を教える儒者、そしてアイルランドの治水神と大気都比売神……。人と動物が楽しく語りあい、植物が繁茂し、過去と現在が入り交じった世界で、私はゆっくり記憶を掘り起こしてゆく。

著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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