- Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022508508
作品紹介・あらすじ
ヘルパーと老人とケアマネと、介護の現場で風変わりな恋がはじまる。ぬぐいきれない痛みを抱える人々と一緒に歩く空也上人とは?都会の隅で起きた、重くて爽やかな出来事。
感想・レビュー・書評
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老人介護とか自殺とかかなり重い内容で話が展開していくにもかかわらず、かなり読みやすい。軽く読みすぎてしまってはいけないような気にさえなるくらい。あまり感情移入せずに読み終えて、最後にじっくり考えてもらいたいという筆者の意図があるのかもしれない。
誰にも言えない過去ほど大袈裟なものではなくても悩みを誰かに言えたらかなり救われると思う。だけど理解してもらえることはたぶんないと思うし、自分が欲しい言葉が返ってくる確率は非常に低いと思う。私はこの本を読んで、自分をあまり責めない自分勝手な生き方をもっとしてもいいような気がした。少し救われた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
主な登場人物は3人だけ。吉崎さんがずっと抱えている罪の意識を告白する場面が良かった。派手じゃないけど優しい物語。いい小説だった。
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介護ヘルパーの青年と40代のケアマネ、そして介護される老人。
役割を超えた関係のようで、やはりその枠内の付き合いのようで。
生と性←実践はなくとも。は切り離せないものなのだな、と。
そして空也上人の存在が刺さる。性善説、というか、人には誰しも人に言えないちょっとした悪事やミスやあるだろうから、きっと読む人皆に刺さるのではないかと思った。
一番良かったのは老眼に優しいフォントサイズだったこと!
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27歳のヘルパー(男)と、彼に淡い恋心を抱く46歳のケアマネ(女)と、そのケアマネに複雑な欲望を抱える81歳老人(男)の不思議な関係。なぜか気が合うというか、とても良い関係。通常仲良くなる理由って、RPGのパーティのように、自分にない魅力とか得意ななこととか憧れとかがあること多いと思うんだけど、この物語では自分の弱さみたいなところがちょっとずつ滲み出て、それを共有することで関係性が維持されてる。このつながりの糸は一見弱そうで、本書の途中でもその糸が切れ、関係性が破壊される。でも、別のつながり方をして、それはとても強いものとなる。こういうことってあるんだなあととても共感する。空也上人の存在がぴったりマッチしていて、図鑑で見たあの像、みてみたくなった。
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「ただ空也上人に会わせたいと思った。なにもかも承知で、しかし、ただ黙って、同じようにへこたれて歩いてくれる人に会わせたいと思った。」
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訥々とした会話なのにゆるやかな流れを感じる話の進め方が穏やかで物悲しくて何とも言えない読了感でした。
介護施設で老人を死なせてしまった罪悪感を持つ主人公の青年、一回り以上年上の女性ケアマネ、主人公を個人的に雇う老人の三人の微妙な心の揺れ方が軽くも無く重くも無い、淡々とした文章で書かれていました。 -
私は遺書というものを書いた事もないし読んだ事もないが、この老人の遺書は自分もこういう風に自殺したいと思わせるぐらい素晴らしいというか、切ないんだけど仕方ないというか、こうやって人生を全うし決着付けたいというか、自殺できるウチに自殺しておくってひとつの生き方というか、自殺は悪い事ではないんじゃないのか?と思わせるほど危険でもある。
この老人は81歳で命を絶つが、このぐらいの年齢になるとある種の覚悟はできるのかもしれない。が、確か鈴木大拙だったと思うが、「人間長生きをしないと分からない事がある」というような事を言っており、自分には90歳や100歳でしかわからない事を知りたいという欲もある。(でもその前にボケちゃったらわからないしな・・・)
81歳が46歳に、46歳が27歳に恋をする。無理だと分かっているが心のどこかで諦められない。吉崎は重光の苦しみが分かるし、また草介の苦しみもわかるからこそ、2人の苦しみをなんとかする事で自分も救われたかったのではないだろうか。吉崎のやり方は不器用だが、重光や草介を励ましたいという気持ちには心打たれる。27歳を一人称にして書くやり方も上手い。
とにかく山田ワールド全開で、台詞でどんどん話が進んでいくのは流石脚本家。具体的な情景や配役まで思い浮かべながら読み進められる。
人や自分を裁くのではなく、また赦すのでもなく、ただ一緒にへこたれて歩いてくれる。そんな力が空也上人にはあるのだろう。是非実物を拝見したい。
ちなみに私のイメージした配役は
吉崎=山崎勉
重光=宮崎美子
草介=妻夫木聡