七夜物語(下)

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.62
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感想 : 166
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  • Amazon.co.jp ・本 (504ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022509604

作品紹介・あらすじ

いま夜が明ける。二人で過ごしたかけがえのない時間は-。深い幸福感と、かすかなせつなさに包まれる会心の長編ファンタジー。

感想・レビュー・書評

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  • 下巻に入り、少し流れが変わったように思われ、すぐに五つ目の夜に気持が戻れず。
    宇宙が出てきたりパラレルワールド的であったりで、「あれ?」と思っていると、ふしぎな生き物たちが登場して、だんだんと七夜の世界に戻っていった。

    いろんなことを考えさせられる五つ目の夜。
    考えても答えが出ないのは、ふたりが子どもだからではなく、たぶん生きているものたちみんな答えなど出ない。大事なものはみんな違う。優先順位もみんな違う。

    楽しい六つ目の夜。さくらんぼのクラフティの夜。
    たくさんの七夜の住人達と、たらふく食べて、たらふく歌う。メロディは「命の歌」。

    そして、最後の七つ目の夜がやってくる。
    太古からの住人マンタ・レイの大きな背中に乗って、さよと仄田くんがたどり着いたのは海の底。
    ふたりが出会う最大の難関は、光と影に別れた自分たち。光は眩しく影は暗く、いやな笑いを発しながら手加減のない攻撃が繰り返される。流れ出すたくさんの血と、たくさんの痛み。
    光と影を消し去るものは、もっと強くて大きな光。
    もっと強い大きな光によって、影は消え、光は飲み込まれ、そしてひとつに。
    一番小さなものを大切にした彼らの夜の世界の冒険は、失敗だけど成功で、成功だけど失敗。

    夜を過ごしていく毎に成長していくふたりが愛しくなり、どこかの図書館の片隅にある「七夜物語」という本が愛しくなる。
    もしかして忘れてしまっているだけで、あなたにも私にも七つの夜の旅があったのかも、しれない。

    そして今もきっと、どこかで誰かの七つの夜の旅が始まっている。

  • 下巻に入って、夜の世界もますます不思議さが加速していく。
    特に六番目の賑やかな夜が印象的。
    グリクレルの台所で、夜の世界の仲間と一緒に作って食べた「さくらんぼのクラフティー」。
    焼きたての芳しい香りが漂ってきそうで、私もみんなと一緒に食べたくなった。

    最後の夜の冒険を終えた後、二人がつないだ手を離した瞬間のあの寂しさは何ともいえない。
    あの時の記憶は失くしてしまったけれど、楽しいと感じた想いや懐かしさは心の奥に微かに残っている。
    大人になることは嬉しい反面、大切な何かを置き忘れてしまったようでとても切ない。
    映画『千と千尋の神隠し』『時をかける少女』を見終わった後の切ない気持ちを思い出した。

  • グリクレルはおごそかに言った。「よかったかよくなかったか。よくなかったかよかったか。それは、あたしが決められることじゃないんだよ」〔……〕「決めるのは、時だよ。時がすべてを、教えてくれるのさ」

  • ファンタジーが苦手である。非現実の世界は、なかなかその光景が思い浮かばない。素晴らしい挿絵の助けを借りて何とか進むことができた。

    この巻ではパラレルワールドや異世界の生物や物体が登場する。いずれも2人の成長に欠かせないアイテムといえそうだが、正直のところ、上巻で十分ではないか、と思うのだ。

    しかし最後の最後で、これまでの長い物語が主人公の思い出であることが分かる。物語、想像の世界によって人が救われる…そんなメッセージが込められているように感じた。

  • さよと仄田くんのコンビも息が合ってきた。

    不思議で少し怖くて、わくわくして。
    込められたメッセージがあるところは朝日新聞掲載ゆえかもしれないが、全体的には川上さんらしい作品。

  • 川上弘美さんが書いた「児童書」・・・のくくりなんだけど、これをしっかり最後まで読める小学生って実際はごく一握りな気がする・・・。
    話はちゃんと子どもの冒険物語で、出てくるキャラクターたちもかなり独創的で面白いんだけど、テーマの深さは大人が読んだほうがよりグッと来るかと。
    昭和50年代くらいの時代背景も今大人になってる私たちにぴったり合ってて懐かしいです。

    「はてしない物語」や「モモ」のような王道ファンタジーも踏襲しつつ、でも主人公たちはまぎれもなく日本の普通の小学生。
    臆病で、内気で、人見知りで、まだまだ未熟。
    でもその2人がすこーしずつ成長していって、他者との距離を学んでいって、世界のありさまを自分たちなりにとらえようとするのが頼もしい。

    親の離婚、というテーマが児童書の中にしっかり組み込まれてるのは、松谷みよ子さんの「モモちゃんとアカネちゃん」シリーズと同じだなあ。
    「モモちゃんとアカネちゃん」読んだ当時は、まだ離婚とかが身近じゃなくて、完全に理解できないにも関わらずそのビターな感じだけは伝わってきて、こどもながら何だかせつなかった。
    これも両親の離婚っていうのが、主人公の成長に大きく関わってくる要素になってる。

    そんで、「ゲド戦記」は影とのたたかいだけど、これは光と影とのたたかい。
    光と影とが混じって混沌としているのが世界であり、すべてを理解しようとするのではなくて、ありのままを受け入れることこそが答え、というテーマにたどり着きます。

    結末も、輝かしい勝利、栄光の凱旋、というのではなくて、どちらかというとギリギリ負けではないかもしれない、くらいの微妙な感じ。
    世界を救えなかったのかもしれないけれど、2人は少しだけ成長して帰って行きます。
    帰ったのは元の世界ではなく、元の世界と少しだけずれた世界。
    そのラストのとらえきれないもやもやした感じも独特で、川上さんの世界観がよくあらわれてます。
    一番最後にはちゃんと大人になったみんなが描かれていて安心しました。

    しかしなんつってもこれ、ホント酒井駒子さんの絵の力がすごいです。
    あえてぼかして書いてると思われる川上さんの文章だけでは、たとえばウバの姿とかがうまく想像しきれないんです。
    それを酒井さんの挿し絵がちょっとだけ後押ししてくれる。
    いい挿し絵って、「想像する余地をのこしておいてくれる」挿し絵だと思うんで、この酒井さんの挿し絵の匙加減は本当に絶妙。
    こういう全部を描ききらない絵こそ、最高の挿し絵です。
    いやー大好き。

    スプーンに顔がついてたりするのは、ウォルター・クレインのマザーグース絵本にそっくりで、隠れパロディなのかしらと思ったりしてるんですがどうなんだろう・・・。

  • 4年生。こんなにもいろんなことを体験してきたんだ、私もきっと。夜の世界にいけなかったけど。
    行ったかもしれないけれど忘れてしまったのかも。

    そんなことも思わせてくれるファンタジーでした。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「忘れてしまったのかも」
      それは、あるかも知れませんね、、、
      「忘れてしまったのかも」
      それは、あるかも知れませんね、、、
      2012/08/06
    • まろんさん
      はじめまして。フォローしていただいてありがとうございます!まろんです。

      『七夜物語』、朝日新聞に連載中、毎日新聞を開くのが本当に楽しみでし...
      はじめまして。フォローしていただいてありがとうございます!まろんです。

      『七夜物語』、朝日新聞に連載中、毎日新聞を開くのが本当に楽しみでした。
      七夜にわたる冒険のあと、さよも仄田くんもあの世界を忘れてしまうのが切なかったけれど
      jyunkoさんがおっしゃる通り、私たちも
      幼いころ夢中になって読み耽って、魂ごと連れて行かれた世界での体験を
      実は忘れているだけなのだとしたら
      うれしいような、かなしいような。

      すばらしい読書量と心にまっすぐ響くjyunkoさんのレビュー、
      これからも楽しみにしていますので、どうぞよろしくお願いします(*^_^*)
      2012/09/05
  • これはこの先、何年も何十年も読み続けられるファンタジー小説だ!間違いなく。

    子供が10歳という年を超えるときに、一度足を踏み入れる不思議な世界。たいていは気付かないまま通り過ぎるその世界に真っ向から飛び込んだのがこのお話の主人公さよちゃんとと仄田くん、二人の冒険はまさに「大人へ向かう心の旅」。
    敵なのか味方なのかよくわからない影や異形のものたちと繰り広げる戦いのなかで二人が心と対話し、お互いを助けながら自分が進むべき道を選び取っていく、その過程にドキドキが止まらない。

    『かいじゅうたちのいるところ』+『モモ』+『もりのなか』+『ハリーポッター』

    ファンタジーの新たなる定番が現れた!

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「ファンタジーの新たなる定番が現れた! 」
      実は文庫化待ち。とっても読みたい!
      「ファンタジーの新たなる定番が現れた! 」
      実は文庫化待ち。とっても読みたい!
      2012/08/07
  • さよと仄田くんの冒険の完結巻。
    上巻よりも夜の世界の冒険は厳しさを増していく。
    迷って、傷ついて、それでも最後まで自分の心に正直だった2人はすごいと思う。
    2人のことがとても好きだ。

    でも本当はもっと夜の世界のことを知りたかった。
    どこかの夜の世界にはもっと違う結末があったのかな…なんて、考えても仕方のないことをついつい考えてしまう。
    さよと仄田くん以外の夜の世界の冒険のことも知りたいなとか。
    「わからなくて、いいのよ。そういうものなの」という言葉が耳に痛い。
    しばらくはぼんやり空想してしまいそう。

    • まろんさん
      七つの夜を一緒に戦い抜いて成長したさよと仄田くんが
      物語を閉じたらもう、そのことを覚えていなくて
      大人になって再会しても、ふんわりとした好印...
      七つの夜を一緒に戦い抜いて成長したさよと仄田くんが
      物語を閉じたらもう、そのことを覚えていなくて
      大人になって再会しても、ふんわりとした好印象しか抱けなくなっているところが切なくて
      読み終えても、いつまでも余韻の残る作品でした(*^_^*)
      2012/08/03
    • takanatsuさん
      覚えていられないというのは、かなり厳しい制約ですよね‥。
      でも、大人になったさよの中に七夜物語がちゃんと残っていたのはとても嬉しかったです...
      覚えていられないというのは、かなり厳しい制約ですよね‥。
      でも、大人になったさよの中に七夜物語がちゃんと残っていたのはとても嬉しかったです。
      2012/08/03
  • 新聞連載時に毎朝楽しみにしていた物語。
    酒井駒子氏の絵が物語世界をさらに豊かにしてくれる。
    上下巻をもったいないと思いながらも一気に読んでしまった。
    フィクションにどっぷりとはまり寝食を忘れて読みふけるのは久しぶり。
    かつては物語なしでは生きられないと思いこういう自分が変わることはないと感じていたのに、やはり「夜の世界」へ行く資格をいつの間にか失っていたのだと気づく。

    二冊の本にまとめるためにはしょられた部分もあり毎日見ていた酒井駒子氏の挿絵も全て載ってはいないけれど(そりゃ無理ですよね・・・)。
    記憶に残っているはしょられた部分で残念だったのはグリクレルが「あたしは大したねずみなんだよ」と胸を張る場面。とても好きだったのだけれど物語の中では不要な部分だったのか。
    グリクレルの台所での「さくらんぼのクラフティーの夜」は圧巻。満たされる。(それにしてもクラフティーってどんなお菓子だろう。)
    さすが食べ物の場面を描くのがうまい川上弘美さん。他の食べ物も(「寒そうなこどもたち」がくれた粗末な食べ物すらも)とても美味しそうな幸福感に満ちている。

    フィクションやファンタジーは「つくりごと」でありながら我々の生きるこの世界の真実をノンフィクションよりも生き生きと深く描き出す。
    ファンタジーなどこの世界の成り立ちに必要ないという考え方自体がファンタジーだとは故河合隼雄氏の言葉。
    私たちは大人になってしまって何もかも忘れているようだけれどもほんとうは子どものときにそれぞれの「夜の世界」を旅していてそこで得たものを糧に大人の今を生きている。そして今ももしかすると気づかないうちに「夜の世界」を訪れているのかもしれない。さよの両親のように。
    自分の中にこういう深い世界が存在していて常に自分を支えてくれていると感じられることで、この現実世界の毎日を生き抜く事が出来る。
    物語の持つ偉大な力。

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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