濡れた太陽 高校演劇の話 (下)

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  • 朝日新聞出版
4.08
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022509871

作品紹介・あらすじ

平凡で、最高な、愛すべき演劇部員たち。劇団「五反田団」主宰、三島賞受賞作家による、自伝的(?)高校演劇部小説。

感想・レビュー・書評

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  • 高校に入ってすぐ、あまり知らない同士でお互いの距離を測りながら、これから仲良くなれる人はできるのだろうかと考える。
    自分のどの部分を出したいのか、それを出すことはどうなんだろうかと逡巡する。迎合するところ、譲れないところ。

    1年生相原太陽たちが演劇部に加入して、文化祭を経て、初めて地区大会に出場する。
    部員同士、まだ自分をうまく伝えることに不慣れで、会話も「あ」とか「なんか」とかそんな言葉ばかりで。このたどたどしい感じは結構リアルだと思う。
    しかし、ある瞬間、あ、伝わった、あ、こういうことかと感じる。読んでる私もあ、よかったと合いの手。
    大会で演じた『犬は去ぬ』。舞台上、舞台裏の部員同士の心のやり取り、舞台を見つめる観客。
    読んでいる自分も、上下巻を通じて高校演劇部が舞台の演劇を見ているようでした。

    下巻の表紙、鈴ちゃんかな。パステルで描かれたような、不安そうででもきりっとしたその表情がとてもいいです。上巻は太陽君かな。

  • 『「あたしは、前に、あんたがやったあの、クラス合宿の、あれとか面白かったな」
    「あ、ほんとに」
    太陽は嬉しかったので、嬉しくなさそうに言った。』

    『判った、よい戯曲は一回読んだくらいでは理解できないのだ。悪い戯曲は説明的なセリフが多いから、一回読んだだけで簡単に理解できちゃうのだ。
    俺の戯曲は、ただ読んだだけじゃあ判らないのだ。よい戯曲だから。』

    『太陽がマリを天才かも知れないと思ったのは、もちろん、クラス合宿での出し物のこともあるけど、それよりも一緒に芝居をしてみての感想だった。
    その駄目出しに対する反応のよさ、掛け合いでの反射神経のよさ、反射の正確さ、間に対する感性、芝居の空気を支配する力。そういったものに対してだ。
    ただ、そういう事は今の太陽には正確に分析できないから「すげえ」と思うのみだけど。』

    『駄目出しの途中で笑い取るのは簡単で「あのシーンの渡井面白かったね」とか笑いながら言えば、大抵みんな釣られて笑ってくれるのだ。
    笑いといっても面白いから笑うのではなく、お互い「信頼してますよ」とか「大丈夫だよ」とか言うメッセージを伝えるための笑いだ。
    太陽はそれを多用した。
    結果、稽古場には笑いが多く、いい雰囲気になっていると思う。』

    『信じるためには疑わないといけないが、疑うのが目的になってはいけない。疑った結果がどうであろうと、最終的には信じるのではなくては駄目だ。』

    『皆の芝居も精彩を欠いて見える。
    セリフに含みがない。ただ言葉の意味内容しか伝わってこない。
    セリフは言葉の意味内容のみを伝えるためのものじゃないと太陽は直感している。意味内容は実は二の次なのだ。セリフが意味内容を伝えるためだけにあるのであれば演劇は要らない。紙にセリフを書いて配ればいいのだ。
    意味内容とは別の次元のコミュニケーションがあるから芝居は面白いのだ。』

    「それが、なんか、考えてても自転車には乗れない、って言うの。有名なセリフなんだけど」
    「あ、知らないですけど」
    「そうだから、あのさ、考えてさ、どの筋肉をどうやって動かして、なんか、どういうあれで、どこをどう動かせば、ペダルが漕げるとか、頭で考えてもできないでしょ?」
    「ああ、はいはい」
    「芝居もそうなんじゃない?」
    「でも、じゃあ、なんで自転車に乗れるんですかね?」
    「え?」
    「考えもしないで、どうやって乗るんですかね?」
    「もちろん考えるのも大事だと思うけどね」
    「そうですね。でも、やっぱ、考えは端に置いといて、後はもっと考えとは違う体とか感情とかそういうのでやらないと駄目なのかなあ」
    「うん、そう思う」
    「、、、、でも、まず最初に自転車に乗りたいって思わないと乗れないんだよな」

    『不安は去らなかったが、不安を取り除こうとしてくれているという意思は通じたので鈴は少し安心した。』

    『「なんか、、、オッパイあるじゃん」
    「は?」
    「オッパイ」
    「あるよ、そんなの、なんだよ」
    「超見せてって言った」
    「、、、」
    「超見せてってなに?」
    「、、、だから、、、、しつこく、見せてって言ったら、、、、泣いた」
    「おまえ、、ふざけんなよ」
    太陽は泣きそうだった。』

    『ふざけるな。太陽は自分の目に涙がたまって来たことに気付き、すぐに拭うとばれるので頭を抱えるような仕草をして拭った。
    俺だって見たいのに。俺の方が見たいのに。』

    『随分いろんなことがあったような気がするけど、楽しかったことしか思い出せない。
    泣けと言われれば泣けるけど、泣かない。
    泣くのはまた今度にしよう、今は楽しみたい。』

    『「そうよあなたなら、あなた服のセンス最悪な上にルックスもあまり良くないけど、脳味噌もツルツルじゃない。もし、運が良ければモテるかも知れないわ」
    マリは励ますような語調で、悪口を言う。』

    「でも、僕は、ちょっと、多分、本当のことを、本当のことが判りました。結局、自分を評価できるのは自分だけなんだと思います ー 僕は、今回の芝居を最高に評価します」

  •  演劇をやっていた著者の文章だからか、この台本みたいな文章は。でもやはりしっくりこない…という気持ちで読み進めたけれど、後半は物語も盛り上がってきて、文章を抜いたら楽しく読めました。戯曲のストーリーを追いかけるのは少し辛かったです。

  • 上下巻を読み終わって、面白いんだけどちょっと長い。高校演劇に興味が無ければキツいかも

  • 戯曲が書きたくなり、芝居がしたくなる。
    わりと演劇的に大切なことが、サラっと書いてある気がする。

  • 演劇部の人間関係が徐々にできてくるにつれ、恋愛話がちらほら出てくる。それらの「あるある」な感じが、また、たまらなく面白い。男子は「え、女子ってそうなの?」と思い、その逆もしかり。神の目で見ているつもりが登場人物と同化している。そんな不思議な感覚をいったりきたりしていた。
    著者が実際に高校時代に書いたという戯曲が作中に登場するが、それはやや難解であり、上巻より読みにくいと感じるかも。本当はずっと演劇部の彼らを見て感じていたかった。

  • 上下巻の間に多少の間は空いてしまったものの、下巻突入後、あっという間にひきこまれて、完読。○井リョウ氏が大学生→就活へと大人になってしまった今?、青春小説に飢えている方にぜひ!おすすめしたい!高校演劇のお話ですが、さすが前田司郎氏、作品中の演劇と、作品自体の演劇性のバランス、流れ、適度なスピード感がすばらしい。最終的に自分の戯曲を自ら演出することになった太陽くんの胸中独り言?、葛藤、のようなものが、前田氏自身の投影かな…と思わせつつ、また適度に客観的なのが、いい。見事。映画、うーんやはり舞台で観てみたいなぁ。あたまで想像しちゃうもの。時間があったら再度読み直したい。そして本作ではなくとも、次回前田氏の舞台が観られる機会があったら、絶対に観る!と心に決めたのでありました。

  • 第3回(2013年度)受賞作国内編 第10位

  • 戯曲を書いてコンクールに出場する太陽くん達。作者が高校生の時に本当に演った戯曲が載っていて、その戯曲の内容はちょっとショボかった。でも男子高校生っぽくてヨイかもw

  • 一体感が増してきた演劇部員。その中で起きる摩擦。舞台は上手くいくのか。太陽を含め、すべての登場人物に感情移入しやすく、最後まで面白く読み進めることが出来た。

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著者プロフィール

1977年生まれ。劇作家、演出家、俳優、小説家。和光大学人文学部文学科在学中に劇団「五反田団」を旗揚げ。2005年『愛でもない青春でもない旅立たない』(講談社)で小説家デビュー。同作が野間文芸新人賞候補となる。2006年、『恋愛の解体と北区の滅亡』(講談社)が野間文芸新人賞、三島由紀夫賞候補、2007年、『グレート生活アドベンチャー』(新潮社)が芥川賞候補に。2008年には、戯曲「生きてるものはいないのか」で岸田國士戯曲賞受賞。同年、『誰かが手を、握っているような気がしてならない』(講談社)で三島由紀夫賞候補。『夏の水の半魚人』(扶桑社)で第22回三島賞。その他の著書に、『逆に14歳』(新潮社)などがある。

「2011年 『小説家の饒舌 12のトーク・セッション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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