- Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022510198
感想・レビュー・書評
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読んでいてイライラしたときは、バタンと本を閉じて「あーーーーーーー!」っと叫んでください。
108~127ページを味わうまでの辛抱です。
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恋人・向井の家に居候しつつ、イラストレーターとして細々と仕事をしていた紗登子(さとこ)。
しかしケンカをきっかけに、家主でもある向井は家を飛び出してしまう。
離婚した母との時間を経ての再開。
向井と結婚する道に、違和感を感じている自分。
もうすぐ30歳になる紗登子は、未だに自分の気持ちをうまく言い表せないままだった…。
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表題作の中編「クラウドクラスターを愛する方法」と、短編「キャッチアンドリリース」の2本が収録された1冊。
「クラウドクラスター」の意味は作中でも説明されていますが、積乱雲(入道雲)塊のことです。
そしてクラウドクラスターは、ある人物の生き方を例えている言葉でもあります。
クラウドクラスターのように、その雲の下で突風を吹かせ、雨を降らせるような生き方と無縁だった紗登子は、オトナになっても自分の気持ちをうまく出すことができません。
向井との暮らしに違和感を感じていながらも、それを向井本人に伝えられずに、生きづらさを抱えてしまいます。
父と母が離婚したときのこと、その後の暮らしの中で感じていたことはあるのに、吐き出すことができず、その気持ちがどんどん紗登子の中に溜まっていく…。
「吐き出せばいいのに」と少しイライラしてしまったのですが、それは読み手である自分が吐き出せる場をもっているから言えるのだよな、とも思いました。
紗登子のように吐き出せる場を持たずに育ってしまった人に、「吐き出せばいいのに」と言っても、なかなか難しいし、そうした場がどこかにあるってしあわせなんだな、と思います。
そんな紗登子に、ひとすじの光をもたらしてくれたのが母の妹である克子です。
特に108~127ページの克子の言葉は、紗登子だけでなく、読み手の心にもしみ入ってくる言葉ばかりでした。
かといって108~127ページだけを読んでも、「意味ワカラン」となってしまいますので、108~127ページを味わうべく、冒頭から読んでみることをオススメします。
そして、ウジウジした紗登子に「あーーー!もうっ!」とイライラしたときは、思いきってバタンと本を閉じて叫びましょう。
それが大事です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
前作の「晴天の迷いクジラ」は衝撃的だったデビュー作を気負い過ぎていたのかどことなく中途半端な感が否めなかった。
それに対し今回の作品はいい感じに肩の力が抜けていてすっと主人公の紗登子の気持ちに寄り添うことができた。
家族との関係に問題を抱えている人間は少なくない。それをなんとか自分の中で折り合いをつけて生きていくんだと思う。
窪作品はどんな苦悩におかれていても決して人生を諦めさせない。前を向いて歩くこと、希望を持つこと、生きること、そんな作者のメッセージが心地よい。
次回はどんな作品になるのだろう。待ちきれない思いだ。 -
「クラウドクラスターを愛する方法」で書かれていた将来への不安が、そのまんま今の自分に当てはまっていたのでいたく共感した。
この先年齢を重ねていっても、自分はまっとうな家庭を持った一人前の大人にはなれないのではないか…そもそもこの生活から抜け出せるのか…という葛藤、自己嫌悪。
窪さんの作品は人生選択を迫られる際の描写にリアリティがあって好きです。
一方で「ふがいない〜」はじめ他の作品を数作読んでいたために、どうしても他のインパクトのある作品と比較してしまい、この二作品のパンチのなさとしっくりおさまらない展開の歯がゆさを感じてしまった。
「クラウドクラスター〜」では場面がちょくちょく飛んでいること、「キャッチアンドリリース」では視点がちょくちょくと変わっていることに違和感があり、話の筋を理解するのに悩むことがあったのも難だった。 -
窪さんの本を読むと、こんな思いを抱えて生きているのは自分だけじゃないって思えて、また前が向ける。
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これまで読んだ『ふがいない僕は空を見た』『よるのふくらみ』に比べると、強烈さが足りない。
でも、それもが良かった。
この人が本当に表現したいのは、単純に恋愛とかエロとか衝撃的なストーリーではないはずだから。
女性のためのR18文学賞受賞という経歴に縛られることなく、作品を作ってほしいし、読者側もフラットな気持ちで彼女の文学に触れるべきなのかもしれない。
窪氏の作品が最も輝くのは、人間の多面性を表現するときだと思う。
若いとき歳をとったとき、家族といるとき仕事をしているとき、恋人といるとき一人でいるとき・・・
きっと人には状況によって別人のような表情や性格がある。
本作品でクラウドクラスターのようだと比喩された主人公の母はその最たるもので、それを本人の視点ではなく、娘からの感覚で語られる。それがまたおもしろい。
主人公は母のことが好きではない。でも、昔の母とは明らかに違う部分があることに戸惑う。
今後の作品にも期待したくなった。 -
もやもやする。装丁が綺麗な色遣いで手に取ったけど、アラサーの主人公と母親の微妙な距離感や同棲している恋人のこと、全体的に薄曇りの印象。
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さすがに二冊続けては重かった。。。
子供が親に愛されない話って
つらすぎて、読んでて苦しい。。-
この作家さんのテーマは一貫してますね
家族とその影響です
確かに続けて読むと重いかも…
一作目と晴天の迷いクジラは自分的に
かなりよかったけ...この作家さんのテーマは一貫してますね
家族とその影響です
確かに続けて読むと重いかも…
一作目と晴天の迷いクジラは自分的に
かなりよかったけど、
この作品はもうひとつだったような気もします
2013/06/28 -
>「晴天の迷いクジラ」はとても気に入りました。
これからも読んでみたい作家さんに会えてうれしいです。>「晴天の迷いクジラ」はとても気に入りました。
これからも読んでみたい作家さんに会えてうれしいです。2013/07/01
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夫婦の破綻、それにより子供が持て余す鬱屈とした感情を描いた2編。これまで読んできた窪作品でよく描かれているテーマだなと思った。どの主人公も、表面上は平静を装っていてもどこか心が渇いていて、一方で何とか自立しなければと力みすぎている印象がある。そのどうにもならなさにやるせなさを感じたり。
表題作のヒロインもまさにそうで、親の離婚後十数年を経てから交流を持つようになった母親、及びその再婚相手とは何となくかみ合わないし、同棲中の彼とも気持がすれ違い気味。イラストレーターの仕事はどん詰まり。行き場のない感情が澱のように沈んでいき、彼女の生真面目さや不器用さが痛々しくさえ感じる。過去と訣別し、何とか仕事を軌道に乗せようともがく彼女に共感するだけに…色々とじれったくて。
遂には母親に感情を爆発させてしまうが、重苦しかった状況が転じるきっかけが、母の妹・克子おばとの対話である。タイトルにもなっている「クラウドクラスター」(積乱雲)が何を意味するのか…これまで知らなかったことが明らかになることで、ネガティブにしか捉えられなかったことに対しても、見方がかわっていく。克子の家にあったサンキャッチャー(太陽の光を小さな虹のように運びこむ光のアクセサリー)も、小道具として効果的に使われ、曇天ぽかった展開に、まさに光が差し込むように感じられた。(サンキャッチャーが欲しくなりました。)
独身で、ハイカラな克子おばのサバサバしたキャラクターがとてもいい。詳しくは語られないが、それまでの人生、紆余曲折色々あったんだろうなと窺える。だからこそ姪にもつかず離れず、彼女の負担にならないような形で優しく導けるのかな。薪割りさせて、もやもやする感情をうまく昇華させたりね。ヒロイン含めた登場人物達が幸せに歩んでいけますようにと、心の隅で願ってしまう。(この作品に限らず、窪作品の登場人物って、応援したくなってしまうのだ。それほどに皆、誠実に生きているから。)
同時収録の「キャッチアンドリリース」も、やはり夫婦関係にひびが入った二組の家庭が、同じマンションの小学生の息子・娘の視点から描かれる。思春期にさしかかった年齢の不安定さ、それぞれの親の行き詰った感情。父と息子の釣りのシーンは賛否両論かもしれないが…何というか、父の行いを簡単に白黒とはジャッジできないと思った。うまく消化しきれないけど、色々考えさせられる作品だった。
窪作品は、コンプしたいなぁ。毎度読了後のずっしり感がハンパなくってレビューの言葉を紡ぐのに苦労するのだけど、読んでよかったと必ず思えるのだ。 -
様々な形の家族のはなし。どんなに合わなくても、分かり合えなくても、家族というものからは逃れられなくて、それが救いとなることもあれば枷にしかならないときもある。今まで2作に比べると淡々とした印象を受けるが、傷を負っている者に対する優しさやエールみたいなものは健在。次作もとても楽しみ。
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イラストの仕事で食いつないでいる30歳前の紗登子が恐れるのは、人並みの家族を作る自信がないことだ。幼い頃に父親が女を作り、母親も家を出て、家庭らしい家庭で育った記憶がない。
年末に同棲相手と喧嘩してどん底気分の紗登子が、久しぶりに再会した母親とその再婚相手のおじさん、母の姉妹たちと正月の三が日をいやいや過ごすうちに、家族に対して抱いていた自分の幻想を考え直す。
タイトルのクラウドクラスター(積乱雲)のように、一見平和そうに見えるよその家庭でも、その下では突風や豪雨が起こっているかもしれない。それぞれ家族に言えないことを抱えながら暮らしているのかもしれない。理想の家族なんてないのだ。自分の境遇を悲観していた紗登子がそれに気づき、手に入れたものの重みを帰りのホームで感じている。
『ふがいない僕は空を見た』『晴天の迷いクジラ』よりも短いので軽く読みやすく感じたが、無駄な感情表現がないぶん、紗登子の心象に寄り添うことができた。イトーヨーカドーの鳩はどんな風に見えたのだろうか。