ことり

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 2080
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022510228

感想・レビュー・書評

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  • 近くもなく遠くもない、世界との距離。

  • 小鳥の入った鳥かごを抱えた姿で発見された、「小父さん」の死体。彼はどうしてそのような姿で死を迎えることになったのか。その謎を解くためには、2人だけで長い間暮らしていた、彼の兄の存在が欠かせない。兄は、少年時代に編み出した独自の言語でしか話さない人間だった・・・
    作者の語る世界は、いつも静謐。このお話にも、波風たたない静けさがひっそりと満ちています。少し不思議な設定と、淡々としながらも登場人物たちに寄り添うやさしくて丁寧な文章で、世界の完璧さが整っているのでしょう。
    薬屋の母娘、愛想好い司書、園長先生、通り過ぎていく彼女たちは「小父さん」には欠かせない存在でありながら、自分のそばにはいつづけてくれない。その寂しさを、小鳥たちの存在、兄の存在が支えてくれる。たとえ目の前にいなくとも。彼の人生はひたすらに地道で、主体性がないようにも見えます。けれども、これほどまでに忘我していながら、満足できる生き方もまたないのではないか、などと思ったのでした。

  • 小鳥の小父さんと、そのお兄さんの物語。
    暖かくて、ちょっと切ない。

  • ことりの伯父さんとお兄さんの静かなお話。

    あまりに多くを持っては失い、たくさんのことを経験してしまったから
    「ここに描かれる静かな暮らしが本当の幸せかも」なんて思えてしまうのか。

    「鳥籠は小鳥を閉じ込めるための籠ではありません。小鳥に相応しい小さい自由を与えるための籠です」
    私にもミチル社の鳥かごがあったなら、自分に相応しい小さな自由の中で、無駄に羽を痛めることなく大切な人たちを癒すことができたのかもしれない。

  • とてもうつくしく、とても静か。ただただ悲しい、けれどそれはわたしの主観でしかなくて、この小父さんは悲しいなんて思っていないんだろう。ほんとに必要なものにしか手を伸ばすことなく、最低限のもので最低限のしあわせ、それも主観でしかないけど、それでも満たされていたんだろうなあ。潮が満ちるような、そんなゆっくりな満たされかた。
    こんな静かで、うつくしい話なのに、ふとした瞬間に残酷な描写もあって、背筋がぞっとした。それもひっくるめて、この世界がうつくしく思える、のかな。
    最後まで読んだとき、自分が息を止めて読んでいたことに気が付いた。それだけ、この世界に雑音を持ってきたくなかったんだよ。もう、なにもいらなかったなあ。涙が出た。

    (256P)

  • 大切なものを大切にできる幸せ。
    読み終わったものの、感じたことをあまり言葉にしたくない。そっとしておきたい小父さんの世界。

  • 小川さんて世界の隅っこでひそやかに慎ましく暮らしている名前のなき人の一生を描くのが本当に上手…。
    何気ない日常が小川さんにかかると切なくて切なくて。
    ことりを愛したお兄さんと、唯一お兄さんの話す言葉を理解する小父さんのひそかな日常、ゆるやかな一生。
    最後まで読んで、また最初の部分に戻って、泣く。

  • 今、世間で言われる孤独死…。から始まる物語。
    “小鳥の小父さん”の生きてきた日々が静かに描かれている。
    傍から見たらもしかしたら幸せではなかったのではないかと思われる彼の一生はやっぱり幸せだったんだろうなと思いながらも少しの切なさも覚える。
    彼のような人生は自分は送れないと思うけれど、幸せの意味について考えさせられる物語だった。

    今までも鳥の声を聞きのが好きだったけれど、より聞き入ってしまいそう。

  • 兄を愛し、小鳥を愛し、静かな暮らしを愛した「小鳥の小父さん」のつつましく生きた生涯をつづった作品。

    初めから終わりまで、一瞬の隙もなく小川洋子トーンに包まれた作品だった。
    日常の中では見過ごしてしまいそうな、ひっそりと穏やかに生きる人を描き出すことにかけては、彼女の右に出るものはいないだろうなあ。
    穏やかで静かだけれど、必ずその奥底に人の死が織り込まれているのもいつも通り。
    静かに逝った小父さんが、天国でも穏やかに暮らしていることを願う。

    余談。
    最後まで読んで、締めくくりに東大教授の岡ノ谷一夫氏への謝辞が書かれていてびっくり。本書の前に読み終えたばかりの「つながりの進化生物学」の著者じゃないか!そういえば、岡ノ谷氏は鳥のさえずり研究が専門だったっけ。
    本を読んでいると、こういう思いがけずこういう巡り合わせにあうから面白い。

    *今ちょっと調べたら小川さんは岡ノ谷さんとの対談で『言葉の誕生を科学する』という共著を出されているみたい。読んでみるか。

  • 小川さんの作品て、常にマイノリティが主人公で、世の中の常識から見れば非常識な事が実はとても大切な事だったりする。人知れずひっそりと消えてしまったり、死んでしまったりする事は、悲しいけれど決して不幸な事ではない。不幸とは常識に振り回されて、不本意な生き方を選んでしまうことなんでしょうね。とても素敵な小説でした。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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