帝国の慰安婦

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022511737

感想・レビュー・書評

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  • 2018.02―読了

    性奴隷か売春婦か、強制連行か自発的か、異なるイメージで真っ向から対立する慰安婦問題は、解決の糸口が見えないままだ。大日本帝国植民地の女性として帝国軍人を慰安し続けた高齢の元朝鮮人慰安婦たちのために、日韓はいまどうすべきか。元慰安婦たちの証言を丹念に拾い、慰安婦問題で対立する両者の主張の矛盾を突くいっぽう、「帝国」下の女性という普遍的な論点を指摘する。2013年夏に出版された韓国版はメディアや関連団体への厳しい提言が話題になった。本書は著者(『和解のために』で大佛次郎論壇賞受賞)が日本語で書き下ろした渾身の日本版

  • 帝国の慰安婦
     ~植民地支配と記憶の戦い

    朴裕河(パク・ユハ)著
    朝日新聞出版
    2014年11月30日発行

    待ちに待った本、やっと回ってきました。


    著者は1957年、ソウル生まれ、韓国の世宗大学校日本文学科教授。
    慶應義塾大学文学部国文科を卒業し、早稲田大学の大学院博士課程まで修了している。この本は、2013年に韓国で出版され、日本語訳が待ち望まれていたが、2014年、自らが日本語で書き下ろしたもの。
    朝日新聞出版だが、朝日新聞が報道してきた内容を支持するものでなく、むしろ逆で、朝日新聞が“間違い”を認める以前に出版されているこの本でも、「吉田清治証言」は疑わしいとしている。

    慰安婦に関して、日本軍の関与はあったことは明らかと繰り返し言っている。営業について監督していたし、軍の指定した慰安所もあったので、運営に関しては確実に関わっていた。しかし、強制連行に関わったかどうかに関しては証拠がないので結論づけていない。
    全体としては、そうした事実関係についてはフェアに整理していると思える。

    この本に関する対立点は別のところにあると思われる。
    著者が最も言いたかったことは、元慰安婦の支援運動がちょっとしたボタンの掛け違いというか、初期の勘違い、誤解などから始まってしまった不幸が、今日のような解決困難な日韓関係につながってしまったという点。
    支援運動の中心体は、「韓国挺身隊問題対策協議会」という団体で、初代会長がユン・ジョンク梨花女子大学教授(現在は名誉教授)。この団体名からして、挺身隊=慰安婦と間違われたことを物語っているが、なぜか団体名は変えていない。教授の勘違いの可能性を指摘している。

    慰安婦の存在を世に広く知らしめたのは、ジャーナリスト千田夏光が書いた1973年「従軍慰安婦“声なき女”八万人の告発」。しかし、大きな問題になったのは1990年以降、そして支援運動が広がったが、この段階ではまだ十分に研究が進んでいなかった。誤解や間違いを含めて支援運動が広がり、それに韓国のメディアと政権がのっかってしまったために、日韓関係が一気に悪化していったというわけである。

    なかでも、日本の支援運動が慰安婦問題を社会変革と結びつけてしまったために、強制連行ありと考える人と、左派、韓国、反日などがひとくくりに扱われてしまい、強制連行なし=右派、嫌韓、ヘイトスピーチとなってしまった。
    この本は、安易に挺身隊問題対策協議会の主張に乗っかり、政治利用した韓国政府に対する批判の本として読むことができるが、日本版を書き下ろすにあたって、このような日本の支援運動や、その逆のヘイトスピーチに至る対立についても丁寧に書き添えたのではないかと想像できる。

    慰安婦問題は、強制連行ウンヌンもさることながら、それ以上に重要な問題がどこかに飛んでいってしまっている点を、著者は繰り返し指摘している。本来なら、人権問題と植民地支配の問題として考えなければいけない。そもそも、公娼制度があったこと自体が問題であり、そのような差別、さらには貧しい家は娘を売るという家長制度が悪の根元でもある。
    連行については、軍や国と慰安婦との関係ばかり言っているが、圧倒的に悪いことをしたのは「業者」であり、莫大な利益をあげてきたのに、彼らには責めの目が向けられないのはおかしい、ということも強調している。

    この本は、我々が新聞読んで分かった気になっているのに冷や水を浴びせかけてくれる。慰安婦問題について、何も知らないということを思い知らせてくれる。例えば、朝鮮半島は日本の植民地であり、朝鮮人は日本国民だった。そして、朝鮮人慰安婦は、日本人慰安婦の代替として、愛国行動していた(させられていた)のであり、インドネシア人や、そこに残っていた元宗主国のオランダ人を慰安婦にした行為とは、事情が違うということを、言われて初めて我々は気づく。
    最後に締めくくるのは、以下の言葉。
    慰安婦問題は、実は日本国が自国の女性たちにも強制した問題なのです。「河野談話」を修正しようとする否定派が「強制性」あるいは売春の議論をするためには、こうした苦痛を味わわされた自国の女性たちをまず先に思い浮かべなければならないでしょう。植民地の女性たちは、彼女たちを「代替」するために投入された存在に過ぎませんでした。日本の方々にはぜひそのことを思い出していただきたいと思います。

    そう、まずは、日本の貧しい家庭の娘が連れていかれたのである。
    反日だの、嫌韓だのの材料にするのはもってのほか。
    自らの首を絞めることになる。

  • 従軍慰安婦とは何なのか?
    ともすると、日本軍がナチスのように、強制的に未婚女性を連行したように思われているが、実際にはそんな簡単な問題では無い。
    問題として、慰安婦を必要とした構造的な原因
    (日本軍を展開していた大日本帝国、植民地支配という支配ー被支配の構造、慰安婦を必要とする男性・家父長制社会・戦争というそもそもの問題)

    慰安婦を供給した側の問題
    (貧困・供給業者・不正を取り締まらなかった治安当局)

    など、全てを大日本帝国に帰するは困難であり、法的責任を問うとすればまずは甘言・誘拐・欺して、慰安婦を送り出した業者にある(むろん日本が道義的責任から逃れることはできない)

    ただ、日本も道義的責任に向き合おうとした1990年代の取組は、韓国の支援団体の反対に頓挫し(韓国世論)、今や解決の糸口は見えようとしない。

    日韓双方この本を読んで一度頭を冷やした方がいいと思う。

  • 慰安婦問題で、挺身隊と慰安婦と分けながら、慰安婦とした業者の問題を中心に説明している。
     日本の軍隊の問題については前提としてあまり説明されていないので、軍隊と慰安婦については他の本で予備知識を得てもいいかもしれない。
     単純な解決法はないという主張。

  • 事実認定を細かくしている良書であるが、本国で焚書扱いされているのが残念!朝日新聞出版が出しているのは驚いたが親会社の朝日新聞は、もっと自らの誤りを世界に発信しなければならない!

  • 本当に軍が強制収容したのか、きっと朝鮮の業者が金目当てに騙して連れて行ったに違いない、と思っていた。だから挺対協は事実を捏造していると私は憤慨していた。
    しかし作者はそんな事は先刻承知の上で、軍が慰安所を管理している事は国としての責任がある、という理論は納得できる。

    作者は韓国の方でありながら、かなり客観的に判断している。挺対協の連中や韓国政府ももう少し客観的に判断するべきである。特に韓国政府は、日韓基本条約締結の際に、後から出てくるであろう個人補償を国として受け取っている事を、国民にしっかり説明しなければならない。そうすれば日本が民間基金に拘るのか、の理解が進むのでは。
    また河野談話や村山談話等で、国家として謝罪しているのに、韓国は謝罪しろと言う。これ以上何を謝罪するのか。これはたぶん日本人の大多数が感じている事である。
    また慰安婦像についても作者の言う様に、決して少女ばかりでなく、また20万人でもないのに、公的な記憶として、世界に広めようとしている。
    慰安婦の方達は決してあの様な像を世界に作る事を求めていない。名誉の回復と幾ばくかの補償だけなのだと思う。
    慰安婦像を世界に作っている連中は、単純に政治利用しようとしているに過ぎない。日韓関係において、百害あって一利なし、なのである。

    思うに、日本人と朝鮮人との国民性の問題でもある。日本人は、どちらかと言うと「潔さ」を好む。それに対して朝鮮人は「恨」の文化である。日本人からすれば、「もういい加減にしろよ」だけど、朝鮮人は「恨みは千年も忘れない」となる。だから豊臣秀吉の事まで遡ってしまう。でも朝鮮人だって日本に酷い事をした事を、どれだけの朝鮮人が知っているのだろう。元冦として、朝鮮人は元の手先となって対馬で残虐な侵略をしている。私もつい最近まで知らなかったけど。

    慰安婦像を作ったって、日韓関係には役に立たない。もっと未来志向で構築しなければならない。

  • 歴史は創るものではない。ということを学びましょうよ。

  •  韓国の日本文学研究家が改めて語る慰安婦。

     確かにこの本に書かれているあたりが落とし所というか現実なのだと思う。慰安婦は強制だけではなかっただろうし、日本軍の関与も直接的だったり間接的だったりしたのだろう。 
     だが、この本は決して日本寄りではない。
     この本を読んでああと思ったのは、慰安婦というのは当時は日本人だったということだ。もちろんだからといって日本に罪がないわけではない。罪の性質が違うのだ。慰安婦は戦争の罪ではなく植民地の罪なのである。ここをしっかり踏まえることが日本は大事なのだと思う。

  • 従軍慰安婦問題が硬直している。強制か自発的か?売春婦か強制的に連れられてきた少女か?著者はそれらを問うことはあまり意味がないという。慰安婦として働いたあるいは働かざるを得なかった状況に注視する必要があるという。戦争という基で国家の手助けをさせられた状況を考察する必要があると断定する。従軍慰安婦の否定派も肯定派も話し合うという姿勢を持つことが大事だと私は思う。

  • 慰安婦問題で、初めてイデオロギーに走らない冷静な考察を読んだ気がする。日韓の間で、袋小路に陥った関係を打破するには、本書のような視線が必要なのだろう。しかし、本書はやや文章が固い。凍てついた日韓関係を溶かすには、もっとやさしいパンフレットで本書の内容を広めるべきと思えた。

著者プロフィール

1957年ソウル生まれ。韓国・世宗大学国際学部教授。慶應義塾大学文学部卒業、早稲田大学大学院で博士号取得。専門は日本近代文学。ナショナリズムを超えての対話の場「日韓連帯21」に続き「東アジアの和解と平和の声」を立ち上げ、市民対話の場づくりに取り組んでいる。著書に『反日ナショナリズムを超えて―韓国人の反日感情を読み解く』『和解のために』『帝国の慰安婦 植民地支配と記憶の闘い』『引揚げ文学論序説 新たなポストコロニアルへ』など。夏目漱石、大江健三郎、柄谷行人などの韓国語翻訳も出版している。

「2017年 『日韓メモリー・ウォーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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