おめかしの引力

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 740
感想 : 89
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022513441

感想・レビュー・書評

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  • もう本当におもしろい! 新聞連載時もとても楽しみにしていたけど、こうやってまとまったのを読むと、あらためてその文章のチカラが感じられて、自分までテンションが上がる。好きだなあ。

    「コンサバティブに用はない」と言い切る未映子姐さんが語る、「おめかし」のあれこれ。「モテ服」とか「年相応」とかのいじましい思惑なんか蹴飛ばして、自分がいいなあと思った服を着る。ハイブランドのバカ高さにパンチを食らったり、確定申告の時期にはあまりの被服費に青ざめたり、お母さんのパートの時給を思ってうなだれたり(こういうところが彼女らしい)しながら、それでも好きな服を買う。コミカルで笑える文章なんだけど、ファッションってなんだろう?って考えさせられる。ほんとにファッションってなんだろう。

    夫の「阿部ちゃん(阿部和重)」は、「サン・ローランばっかり買ってるけど迷いがない」そうだ。作品を買うと思えば値段じゃない、という考え方らしい。一方著者は、やはり服を買うことにどうしても後ろめたさを感じる、と書いていて、それ、わかるなあと思う。だって、服はあるもの、タンスからはみ出るほど。でもなぜか今日着ていく服はない。だから買いに行く。いいなと思ったのを試着して、あら似合ってるかも?と思えたときの高揚感や、お気に入りの服を着ているときの気分の良さって、ちょっと他にないもののように思う。

    でも、「たかが服」なんだよね。「心のなかにちっちゃい宮沢賢治がいるから(笑)。つねに過去の自分と、母親の時給のことを考える」という川上さんの感覚が好きだ。

    とは言うものの、かのプラダが芥川賞授賞式用ドレスの提供を申し出たというエピソードをお持ちの著者のこと、カラーページで紹介されているお洋服はどれもかっこよく、ご自身もフォトジェニックな美貌の持ち主だ。経歴も、その作品世界も一般人とは別物なんだけど、どこか「大阪のお姉ちゃん」的な親しみやすさがあるところが、また魅力的なのだな。

    連載時に読んであまりにおもしろく、よく覚えていたのが「ああ、金剛石よ!」という一文。ある撮影でつけた「ごろりとしたダイヤモンド」に魅了され、700万ほどするそれを、無責任な友人にけしかけられてもう少しで買いそうになった、という話だ。「『こ、ここで買ったらちょっと面白いのかも…』なーんて考えている自分がいるのである。恐ろしすぎるわ」とあって、笑った。この文章、本当に勢いがあっておかしく、ピカイチだ。

    あと、ハリウッドセレブのパーティメイクを真似してみたら結構いけてる気がして、そのまま買い物に行ったら、すれ違う人がみな警戒している気配がする、「?」と思いつつお店の鏡を見たら「そこにいたのはあり得ないほど濃いメイクをして、なんかものすごく強そうな、そう、まんま『デビルマン』な人」だった、というのも想像すると可笑しいです。

  • 一人旅をする新幹線の中で読んでしまった1冊。
    面白かった。
    「真夜中の恋人たち」が良かったので、へえーこのひとファッション詳しいんだ?と思いつつ手に取ったエッセイだったけど、タイトルが「おしゃれ」ではなく「おめかし」なのが絶妙だなと感じた。

    ちょっと値の張るネグリジェがほしくなってしまった。

  • おしゃれ、と、おめかし、は違う。

  • おめかしについての考察が鋭く、それでいて読みやすく楽しめた。
    朝日新聞の連載とのことで短いのは仕方ないけれど、ひとつずつの話についてもっと深く読みたかった。
    以下、個人的に印象に残った箇所の抜粋。
    - - - - - - - -

    おめかしとは自己満足。
    本人が気分良くいられればそれで良いが、他者の評価がその満足に貢献するのも事実。そのふたつのイメージのせめぎあい&見極めで、その均衡が高く保たれたときに「おしゃれな人」というのが成立する。

    状況が変わればモノの価値って一瞬で変わる。あやうい価値を限定的な一瞬に享受するのも、懐疑的に見るのも同時にやっている。
    ファッションは楽しいけれど、一瞬フィクションとして働いているだけで、つねに自分に疑問を抱かせるものである。

  • エミリオ・プッチのコート(通称錦鯉)

  •  フラリと入るのがティファニー!おぉ、さすが売れっ子作家は違いますわ~ってな感じですが、次のページを捲れば服を買いすぎて確定申告に怯えたとか書いてあったり、大阪弁のテンポの良さも手伝ってグイグイ読み進めました。
     途中にエッセイで紹介した御自分の服を公開されていたり、対談も面白い上に示唆に富む内容。作者のファッションと言葉に対するセンス、鋭さが感じられてエッセイとは思えない中身の濃さでした。

  • 面白かったです。なかなかハイブランド好きでこんな筆力がある人いないんじゃないんでしょうか。しかも、ファッションを語る上では見栄を張りがちですが、ちゃんと見栄を張らないぞ!という気概がよくよくわかります。

    すごく読みやすくて、よかったです。

  • おめかしで気分が左右されるのは男女一緒ですね。

    学生時代、寝巻きで大学に行ってヘラヘラしてた僕はおめかしを語れません、、、

  • ハイブランドばかり、ポンポン買ってしまった、とえらく庶民的なエッセイでした。マロノのパンプス!だけでも私には手が届かないけど、楽しく読めました。
    時々、登場するお母さんへの愛情をものすごく感じた。若くてスタイルよくっておしゃれなお母さん。そしてパートの時給をつい考える、そんなところはかわいい。

  • 川上未映子さんのエッセイは面白くて大好き。

    いわゆる世の中の「おしゃれ」と認定されたものに焦点を合わせるのでなく、自分だけが解る「おめかし」に心をときめかせ体を躍らせるスタンス。他人軸ではなく、自分軸な感じがとてもいい。

    ハイブランドものの話題が次々と出てくるけれど、厭味もなく、失敗談や自虐的な笑いも満載で、親しみを憶える。高価なものを買う時の、ザ・日割り計算!も、なんと叶恭子さんも高価なジュエリーを日割り計算してたから、妙に説得力あった!

    私も絶壁がコンプレックスで、靴はヒールのあるものじゃないと落ち着かない。ぺたんこ靴は履かないとか、ズボンは穿かないとか、人のそういう裏事情って面白い。お尻が大きくて、アメリカのホラー映画で別荘で最初に殺されるホットパンツ女とか、分かりやすくてウケる。

    一度見たら忘れられないような、インパクト大な個性的なお洋服や靴に、ぴったりの通称を名付けるセンス、「エビ娘」とか「錦鯉」とかもう最高!(笑)

    お洋服のブランドはMARNIが好みっていうのも、確かにすごくしっくりくる。

著者プロフィール

大阪府生まれ。2007年、デビュー小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』で第1回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞受賞。短編集『愛の夢とか』で第49回谷崎潤一郎賞受賞。2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞受賞。「マリーの愛の証明」にてGranta Best of Young Japanese Novelists 2016に選出。2019年、長編『夏物語』で第73回毎日出版文化賞受賞。他に『すべて真夜中の恋人たち』や村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛びたつ』など著書多数。その作品は世界40カ国以上で刊行されている。

「2021年 『水瓶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

川上未映子の作品

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