坂の途中の家

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022513458

感想・レビュー・書評

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  • 2019年15冊目。
    妻に読ませたくない本、だそうです。ぼくはどちらかというと読んでもらった方がいいんじゃないかと思ったくらい。それは夫として父親としての自分に自信があるってことじゃなくて、様々な角度からの見方に気付かせてくれるすごい本だから。
    人間関係とはどうも複雑なようで、一対一の関係だけじゃないから、相手の心理状況・身体状態によって同じ言葉を伝えても捉え方は変わってしまう。逆もまた然り。そんなつもりじゃなかったってのは言い訳にもならないし、責任転嫁したって自分さえも守れない。だけど、だからこそ口酸っぱく伝える必要があるし、伝え方を工夫する必要があるし、伝わり方だって考えなきゃいけない。
    相手に同じことを期待するのは野暮だけど、せめて愛してもらえるように愛せよってことに帰結する。少なからず自分からは傷つけることが少なくなるようにしたいな。それも相手の捉え方次第だけど。

  • 1.この本を選んだ理由 
    新井見枝香さんの本にでてきたので。


    2.あらすじ 
    2歳の子どもがいる主婦が裁判員制度に選ばれ、同じように幼い子どもを持つ主婦が子どもを殺してしまった事件に関わっていく。
    わずか10日間程度の裁判の中で、被告の女性と、自分を重ね合わせていく主婦の里沙子。裁判の中で自分の過去も思い出して、自分も被告と同じ道に進んでしまっているような感覚になっていく。
    裁判を通じて、自分を、家族のことを深く考えていく。


    3.感想
    まず、全く自分とは無縁の話だったので、そういう人間の感想になっています。
    ストーリーとしては面白かった。次はどうなっていくんだろうという感じを持ったまま、どんどん話が進んでいく。だけど、気持ちいい感じではなく、イライラする感じが強かったです。

    こういう人がいるのはわかるし、多くの虐待事件が起きたり、離婚する家庭が多かったりするので、ありうる話なんでろうとは思います。
    にしても、こんな人ばっかり揃うのかよ!と、思ってしまいました。こんな人間どうしで結婚するなよ!とも思ってしまう。もう、読んでてイライラしてきてしまうレベルでした。
    もうほんと、登場人物のレベルが低い。陽一郎なんか出されたものを食べるだけで、風呂を追い焚きするボタンも自分で押さない。昭和かよ…!!なんでも、自分でやろうよ。食べたら食器ぐらい洗えよ。という感じで、イライラしてしまうのでした。

    私も子育てしてきた人間なので、子育ては予定をたてるとイライラするのはよくわかりますが、それにしても里沙子のレベルは低すぎ。旦那にも怯えすぎ。旦那も義理の母も変なやつでした。男の子二人の母親なんてサバサバして男っぽい人が多いだろうに…。
    やっぱり専業主婦になった段階で、イーブンな関係は維持しずらいから、これからの夫婦は、共働きであるべきだなとつくづく思いました。

    里沙子も、水穂も、なんで、そこまで人が自分をどう思ってるかに囚われるんだろう。まぁ、でも、承認欲求みたいなもんで、人にどう思われるかを考えてしまうのは、現実的に多いのかな。


    4.心に残ったこと
    子どもを殺してしまった人間と、自分が重なってしまうなんて、よっぽどだ。


    5.登場人物  
     
    山咲里沙子
      文香 娘
      陽一郎 夫

    山咲祐二 弟
      母
      父

    芳賀六実 はがむつみ

    安藤水穂
    安藤寿士

    穂高真琴 寿士の昔の恋人
    安田則子 水穂の母

  • ''23年4月25日、Amazon audibleで、聴き終えました。確か、十数年ぶりの、久々の角田光代さんの作品。

    なかなかに、凄い小説でした。

    アカの他人の事件の補欠裁判員に指名され、裁判を審議していく過程で、いつの間にか被告人に自分自身を重ねていく主人公…自分も、夫と義父義母、娘との間がとても危うい状態である事に気づき…と、苦しい内容でした。
    事件を考察することで、主人公が自分を取り戻していく(?諦めていく?)過程が描かれていました。

    なんという恐ろしい話ಥ⁠_⁠ಥ
    「皆、スレスレなんだよ!」と、首に刃物を当てられたような気がしてます。いや、刺されたのかな?終盤、冷たい汗が出ました。

    角田光代さん、audibleに何冊かあるので…もう少し聴いてみます!

  • この話も感情移入し過ぎてしまった。
    角田光代さんの話はどれも、「ああ、私の気持ちを代弁してくれてる」と感じてしまう。

  • 書評の通りで「主人公は私の気持ちの代弁者か」と思わせるような、主人公の心理描写。フィクションなので誇張はあるものの、女性読者には、多くの共感を得られると思う。
    一方の支配的な言動に、他方のネガティブな被害的認知。家族関係の輪廻。心理的虐待についても、考えさせられた本。

  • Audibleにて。
    毎日の様に起こっている幼児虐待事件。犯人の顔をニュースで見て、酷い、可哀想、そんなことするなら産まなきゃ良かったのに、と思うのは簡単な事だけど、実際その背景に起こってたすべてを知ることは無理だと思った。

    裁判員裁判のことも、実際どういう事をしているのか知れて良かった。

  • 幼児虐待のニュースが頻繁に新聞をにぎわす現代に、タイムリーな題材で、作家角田光代の凄さを如何なく発揮した傑作。
    裁判員になった主人公が、被告人とシンクロしてしまう裁判員裁判が舞台。
    ある書評に、「読むのがつらい小説である。つまらないからではない。むしろ面白い。しばしば逃れたいと思うものの結末が気になる。」と、記されているように、読み手を捉えて離さない、凄まじいまでの磁力がある。
    それは、主人公と同じような立場の女性ばかりでなく、立場を異にする男性にとっても・・・

  • 母親による虐待死事件を巡る裁判員裁判。
    被告人の母親と、裁判員(補充)として選ばれた母親の違いなんてほとんどない。
    一歩間違えれば、自分が逆の立場になっていたかもしれない。それは子育てを一身に引き受けている母親の大半がそうじゃないだろうか。
    母乳神話、成長線に沿った成長、離乳食のペース、排泄の処理、予防接種、乳児湿疹、突発性発疹、夜泣きや卒乳、発達障害の不安…医療従事者でもない、助産師でもない、保健師でもない素人の女性達が、子供を産んだ瞬間に「母親」となる。育児書やネットで調べても理想の子育てしか書いていないし、周囲に相談しても現実的に助けになるわけでもない。他の赤ちゃんとの発達の違いに打ちのめされ、小さな小さな赤ちゃんの命の重圧に押し潰されそうになる。夫や両親達は良かれと思って言うが、心無い一言に苛立ち、突き落とされる。
    きっと誰しも少なからず経験していて、その苛立ちが「虐待」まで度を越してしまう事を本当に恐れている。
    泣き止まない赤ちゃんの泣き声に、何も考えられなくなるのに「近所から虐待と思われたらどうしよう」なんて恐怖心がいつもある。

    読んでいて、凄く共感できて、息苦しくなる話だった。
    被告人と環境は違うが、私だっていつだって紙一重だと改めて思わされて、とにかく怖かった。
    貧乏より、多忙より、孤独が1番子育てなんてできない。協力よりも本当は理解を求めているんだから。

  • 刑事裁判の補充裁判員になった里沙子は、裁判の証言にふれるうちに、
    いつしか彼女の境遇に、自らを重ねでいくのだったー。

    4年前に2歳年上の陽一郎と結婚し、イヤイヤ期のもうすぐ3歳になる文香と
    幸せに暮らしている33歳で専業主婦の里沙子。
    ある日突然刑事裁判の裁判員候補者に選ばれたという裁判所からの手紙が届く。
    補充裁判員に選ばれてしまった里沙子。
    事件は、三十代の女性が水の溜まった浴槽に八ヵ月になる長女を落とした。
    乳幼児の虐待死事件だった…。

    物語全てが里沙子の視点・主観で進んでいく。
    里沙子の日常生活と裁判の様子が並行して進んでいく。
    被告人の夫・夫の母親・被告人の母親・被告人の親友の女性・被告人本人。
    それぞれの証言が、その人の主観だから皆言ってる事が全く違う…。
    そして、里沙子はその裁判の証言を聞くうちに、被告人の水穂のその境遇に
    自分自身の境遇を重ね、被告人の水穂に感情移入をしていく。

    里沙子の日常を描いてるその様子もとても、とても息苦しい。
    夫にどうして、そんなに思った事を口に出せないの?
    どうして、どう見られるか、思われるか気にするの?
    夫の陽一郎もどうしてそんな言葉を発するのだろう?
    どうして、里沙子の説明を聞く耳を持たずに決めつけるんだろう…?
    どうして、直接里沙子に話さず告げ口をするかの様に、実家の父母に隠れて伝えるんだろう?
    どうして?どうしてが、頭の中で渦巻いた状態で、
    里沙子の終始重苦しい感情表現が続き、息苦しくて息苦しくて読むのが本当に辛かった(´⌒`。)
    蓋をしていたはずの自分のこれまでの出来事を次々と思い出すさまも苦しかった。

    裁判の証言を聞いて、自身の境遇と重ねる内に、
    今迄違和感をただ面倒なだけだと片付けて決める事も考える事も放棄していた事に気付く。
    夫や実母の愛し方をこうだって気付く
    『憎しみではない。愛だ。相手を貶め、傷付け、そうすることで自分の腕から
    出て行かない様にする。愛しているから。』
    表面的には笑顔で穏やかなやり取りの中に皮肉やひそやかな攻撃が込められていたり、
    それが本人以外にはわからないもの…。
    夫婦間以外にも人間関係でそういうのってある!経験した事あるって思った。
    そして、こういう種類の男性って少なからずいるって感じさせられた。
    そう、感じられる現実感がとても怖かった。

    終始重苦しい感情表現が続き、本当に読んでいて辛かった。
    裁判員裁判のお話でもなく、幼児虐待のお話でもなく、
    他からは決してわからない、家庭という密室での支配する者のと支配される者のお話だったのかな。
    この微妙な感情のやり取りや支配をこれ程迄に描く筆力は凄いって感じました。
    夫婦間の対等ってどういう事なのだろう…。
    裁判も一体何が真実で何が嘘なのか、事実を知る事の難しさを凄く感じました。
    非常に重いテーマでしたが、色々と考えさせられる作品でした。

  • 正直に言いますと、主人公の心理が丁寧に描かれ、共感するところも多かったのですが、とても読むのがしんどい小説でした

    私自身は、人は法で裁かれるべきであり、心情や感情の介入をまねく裁判員制度には反対です
    その難しさが描かれているのみならず、「地方特有の考え」やコンプレックスから来る「えらいわね」の評価に、子供に追い抜かれることに嫉妬する親の様

    人が気付かない理不尽を悪意の表れと感じて、愛情なのか自身がひねくれているのか判断ができず、六実のように笑って済ませられないために自らが生み出した沼にはまっていく主人公などと、感じさせられる部分は多いです

    冷静に考えれば隠す必要がないことに、変な引け目を感じてしまうことなど身につまされる思いがしました
    単純で面白い小説ではありませんが、多くの人に一度は読んでもらいたいと感じました

著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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