焼野まで

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022513588

感想・レビュー・書評

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  • 『光線』連作短編で扱った題材を長編化して描いた作品。
    主人公がガンの治療で滞在する街に程近い火山島の噴火や、治療に用いられる放射線といった事柄が、病気が発見されるのと前後して起きた震災・原発事故と相俟って、また光、火、太陽といったイメージと連関されて、輻輳的に描かれているのが印象深い。
    放射線治療の宿酔に疲弊し、日常や周囲の全て、家族さえ疎ましく遠退いて感じられ、現実との繋がりを喪いかけていた主人公が、当面の治療を終えて脱いだ靴を履こうと探す、それは恐らく主人公の帰還を指し示しているのだろうと思う。

  • 大動脈瘤の手術後、何一つ後遺症もなく仕事に復帰されたご主人、そして著者は東日本大震災の頃、癌の告知を受け南九州のオンコロジーセンターで療養を。村田喜代子 著「焼野まで」2016.2発行、放射線照射による闘病の記です。友人の「病気ってのは閉塞状況、囚われている。健康っていうのは自由。病人に自由も何もない。」の言葉は胸を打ちました。また主人公(著者)の「百の意見が交錯するが、一様に同じなのは健康になることへの欲望。食欲、性欲、物欲、生存欲など、欲がつくものは見苦しい。」とありますが、欲があるから人間ですよね。

  • ホラーではない。だけど怖い物語だった。

    子宮体癌と診察され、放射線治療を受けるためにひとりウィークリーマンションに移り住んで、日々、通院しては2グレイの放射線を照射される和美。
    移り住んだ街には火山がすぐ近くにあり(作中では焼島、と呼ばれているけれど桜島のことかと思う)毎日のように噴火しては黒い火山灰を降らせる。
    すれ違う夫や娘、ひとりでの戦い、からだの痛みと辛さ、変な治療法にもすがってしまう心の揺れ、そういうものがものすごく真に迫っていて、普段、目を背けている「自分の死」というものを思い起こさせて怖かった。
    癌に罹患する、病で死ぬ、ということは誰にでも起こりうる、日常の恐怖なのだと感じる。

    宿酔、という言葉をはじめて知った。放射線治療を受けた後に感じる酩酊のような辛さ。漠然と大変だろうと思っている治療の厳しさがリアルで怖い。

    震災、原発、火山灰、打ち上げられるライカ犬、数を表す単位(不可思議、という言葉が数の単位でもあると初めて知った)、2グレイ浴びるたびに死を数えるネズミ、積み重ねられるモチーフがなぜだか怖い。

    すごく怖いのに、読んでしまう。
    和美が生き延びますようにと祈るような気持ちで読んでしまう。

著者プロフィール

1945(昭和20)年、福岡県北九州市八幡生まれ。1987年「鍋の中」で芥川賞を受賞。1990年『白い山』で女流文学賞、1992年『真夜中の自転車』で平林たい子文学賞、1997年『蟹女』で紫式部文学賞、1998年「望潮」で川端康成文学賞、1999年『龍秘御天歌』で芸術選奨文部大臣賞、2010年『故郷のわが家』で野間文芸賞、2014年『ゆうじょこう』で読売文学賞、2019年『飛族』で谷崎潤一郎賞、2021年『姉の島』で泉鏡花文学賞をそれぞれ受賞。ほかに『蕨野行』『光線』『八幡炎炎記』『屋根屋』『火環』『エリザベスの友達』『偏愛ムラタ美術館 発掘篇』など著書多数。

「2022年 『耳の叔母』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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