- Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022514332
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
「中東にいると誰でも、自動車爆弾からお天気まで何もかもをワシントンに責任転嫁する傾向があるが、アメリカは中東の苦難に対して当初は無関係だったのだ」
という説明から始まるこの本、私など一生かかっても理解できないだろうと思っていた複雑な中東情勢をかなり分かりやすく解説してくれていた。
まず、イスラム原理主義をアーミッシュと非常に似ている、とするところが目からウロコだった。
古代に書かれたテキストを文字通りに受け止め、全く柔軟性を加えずに解釈し、現代文明を拒絶する、という点で両者は酷似している、と言う。
確かに!
では、イスラム原理主義が広範に拡散している一方で、どうしてアーミッシュは世界に何の影響も与えていないのだろうか?という問いに答えるには、サウジアラビア、石油、メッカとメディナ、が鍵となる。
もし、アーミッシュがローマのサンピエトロ大聖堂とエルサレムの教会をコントロールしつつ、とつぜん非常に裕福になったなら、彼らの影響力は今日ある形よりもはるかに大きくなっているという可能性は、大いにある話だろう、というわけです。
また、アルカイダについての説明も、ジハード戦士たちの「退役軍人協会」みたいな役割を果たしていた、などと書かれていて妙に分かりやすかった。
とまあ、そんな感じで導入部でいっきに引き込まれてウキウキと読み始めたわけですが…しかし、読んでいて、だんだんだんだん辛くなっていった。
読んでも読んでも怒りと憎悪は途切れることがなく、復讐の応酬であちこちが破壊され、残虐行為はどんどんエスカレートしていく。そして、出口はまったく見えない。
「かろうじて立っていたこの家、つまり中東の国々をワシントンの誤った行動が基礎部分から押し倒し、内部の腐敗を露出させた。そして、イラク戦争という狂気、シリアの流血、カダフィ後のリビアにおける無秩序、そしてISの登場という結果を引き起こした」と著者は言う。
そして、ブッシュとオバマの政治的判断を繰り返し批判している。
それらの批判については非常によく理解できた。なるほどね、と思った。
でも、私は完全には著者に同意できなかった。
ブッシュはともかく、オバマの過ちへの言及には、うーん、と考え込んでしまった。
正直に言うと、著者に対して、ちょっと何様?と思った。
なんだか神様目線というか、冷戦時のCIAみたいな考え方というか。中東に生きる多くの名もなき普通の人々の視点は全くなくて、「西側にとって一番都合が良い方法による中東民主化計画」からの意見という感じ。
他の独裁者を安心させるためにも、アメリカが操れる独裁者は保護しろと言っているみたいにも聞こえる。
そもそも、全て結果を見てからの完全なる後知恵じゃないかとも思う。
まあいずれにせよ、中東の混沌を深めているのは、ブッシュよりもオバマよりも、子供時代にまともな教育が受けられず、SNSはじめインターネットが学校のかわりになっていることが一番の原因じゃないかと私には思えた。
そして、「復讐」を強く強く推奨している伝統と。
この本はISの登場あたりで終わるのだけど、ISの異様さ過激さは中東に渦巻く悲しみと憎悪の集大成に見えた。ついこの間のことなのに、喉元過ぎればで、私ときたら、もうすっかり彼らのことは忘れてしまっていて、この本でその残虐さに改めて驚くことになった。読んでいるうちにすっかり暗い気分になっていたところに、まるでトドメを刺されたかのように、すっかり打ちのめされてしまった。
そして、もしもブッシュやオバマが賢くふるまっていたとしても、「復讐」が奨励される土地である限り、やがてはこういうものを生み出していたのじゃないかしら、とも思った。ただ時間の問題というだけで。
そんな中、サウジアラビアが行っているという政策の一つにすごく救いを感じた。
それは、完全に洗脳され壊れた状態で帰国するジハード戦士たちの社会復帰のためのリハビリのプログラム。
希望の光みたいな記述ってその部分だけだったような。
結局のところ、そういう地道でとてつもなく時間のかかる努力しかあの憎しみの連鎖を断ち切れるものはないんじゃないかなぁと思う。(当然そんなことはみんな分かっているとは思うけど)
過激派の人たちがインターネットを巧みに利用し、過激な思想を戦略的・効果的に拡散している様子など読むと、その頭脳と技能をもっとずっと生かせる場がこの世にはあるのに、たくさんあるはずなのに、と悔しく思う。 -
著者は、NBC首席海外特派員。テレビ記者として現地から中東の様子を伝えてきた。
本書では、1996-2000カイロ、2000-2003エルサレム、2003-2006バグダット、2006-2007ベイルート、2008-2011カイロ・リビア・シリア、2011-2013シリア、2012-2015中東周辺、2015ニューヨークと各地にいたときの状況を振り返り語っている。
本人が各地を移動しいるため、各地の通しでの状況を理解するのには不向き。あくまでも一人のジャーナリストが中東で味わってきた歴史の一断面を切り取った記録。
ジャーナリストであるがゆえなのか、筆致は乾いている。熱量のようなものは、すでに当時のテレビレポートで出してしまっているので、読んでいると当時のテレビレポートをリアルタイムで見ていたかったという気持ちにさせられる。
そのあたりが、ジャーナリストとルポライターとの違いなのかもしれない。 -
配置場所:摂枚普通図書
請求記号:319.27||E
資料ID:95170724 -
著者は中東専門のジャーナリストでTV局の海外特派員。イラク戦争、アラブの春、レバノンのヒズボラ、シリアのISなど、ここ20年の中東の大混乱を現地で取材し続け、著者自身が事件を持ち込みながら移動しているような錯覚を覚えるほど。
現地への侵入、イラク戦さなかでの現地ルポ、誘拐の経験など、身体を張ったという言葉がふさわしい壮絶な取材記録。
新聞やテレビでは、白黒・善悪に分けた分かり易い解説がなされ、複雑な話には我々自身も目を離しがちだが、歴史の積み重ねと欧米の介入による混乱、宗教的な対立など、とても分かり易いどころではない、混乱の極みであることが理解できる。
それにしても、危険を顧みず著者を報道へと駆り立てるものはなんだろう。知りたい、伝えたいという情熱。しかし、ぬくぬくと現代日本で生きている身からは、何故にそこまでという想いを禁じ得なかった。 -
中東の数々の戦闘の実情を、戦場記者が明らかにした本。この地域でのかつてのヨーロッパの行い、そして現在も続く米国の中途半端な行為が、現在のカオスを招いたことがわかる。
ISは駆逐されつつあるが、この先の状況がどうなるのかは見通せない。 -
もちろん今はISILに注目されがちだが、それにいたるアルカイダ、アフガン戦争、イラク戦争・・・などに至ることが綴られている。
主に印象的であったのは、イスラム教徒の自らが辿ってきた歴史に対する想いである。ムハンマドによって開祖され、その後のカリフが広げたが、モンゴル勢力によって蹂躙され、その後トルコによって再興されたが、それはどうしても歪んだものになってしまった、という認識である。「イスラームのあるべき姿に戻る」というのがイスラム原理主義である。彼らはとても平和的である。まよえるものに手を差し伸べ、優しく語りかける。「原理主義過激派」というのは、手段が暴力一辺倒ということだ。
著者はブッシュ大統領の外交姿勢にはもちろん批判的であるが、同じくらいオバマ大統領にも批判的だ。結局、中東の考え方、価値観をまったく把握できていないからであろう。後手後手になって当然である。選挙などをやっても落ち着かないのは当然だ。
またISILの狂気を垣間見ることができた。看過できるものではないが、彼等の辿ってきた歴史、外交の結果踏みつけられてしまった「何か」が鬱積してしまったのだろうと思う。これは、ただ「いなくさせればいい」というものではない。 -
NBC海外特派員、リチャード・エンゲルの「中東の絶望、そのリアル」読了。2009年から毎日見ている"Nightly News"の中東特派員。20年に渡って継続された報道からアメリカと中東とのアンビバレンツな関係性が浮かび上がる。世界を向こうに回すIS相手に日本も無関係ではいられない。