日本史再発見: 理系の視点から (朝日選書 477)

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022595775

感想・レビュー・書評

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  • 数字(統計)から、主に江戸時代の歴史を読み解く、興味深い著作である。
    元々は『科学朝日』に連載されていたものらしい。


    本書は、二部に分かれている。

    1.乗り物の歴史

    ここでは、江戸の「大八車」と大阪の「ベカ車」に対する考察がおもしろい。

    江戸幕府の初期に、江戸で活躍(大火時の避難復興等)した「大八車」は幕府から容認された。
    しかし、後期に大阪で発明された「ベカ車」(大八車に似た荷車)は規制の対象になった。

    何故か・・・

    江戸時代というものは、極端に既得権益(幕府御用の馬方等の)を尊重する事により
    成り立っていた社会であった。
    そのため、初期の「大八車」は容認され、後期の「ベカ車」は規制された。
    もちろん便利さを犠牲して。

    ちなみに。江戸時代、街道筋に車(人間や荷物運搬用)を走らせる事は禁止されていた。


    2.数字で見る江戸時代

    ここでは、東北地方の相馬藩を例にとり、年貢量と人口の変遷から時代を考察している。

    1720年頃を境に、それまで成長し続けていた年貢量と人口が減少に転じている。

    ※江戸時代:1600年~1867年

    何故か・・・

    この頃、当時の技術で新田開発できる土地が尽きてしまった。
    そのため、新田開発という公共事業で収入を補填していた農民の生活を圧迫し
    人口が減少、それに伴い年貢量も減っていった。

    収入がある一定割合を切ると、人口が減っていくものらしい。

    これは全国的な現象だった様で、当時の将軍・吉宗は1970年に
    「新規製造物禁止令」(新しい物の工夫・製造を禁止)
    という創造性を破壊するような法令を出し、現状維持を図ろうとした。
    ここに至って江戸時代の経済は、完全に停滞する事になった。

    ちなみに全国の人口が増大に転じるのは、明治維新という新しい時代になってからの事である。

    ※年貢の収納方法としては江戸中期より、倹見法(けみほう、一定率を徴収)から
     定免法(じょうめんほう、一定額を徴収)に変わっていった(飢饉時は例外)。
     定免法の方が領主・百姓共に都合が良かったらしい。
    (領主…生産量を調べる手間が減る / 百姓…余剰分を蓄える意欲が増す)


    以上が本書の主な主旨であるが、数字から推測した結果を必ずしも史料で確認している訳ではないようだ。
    「大八車」が容認された訳や、新田開発が公共事業だったのかどうか等々。

    それでも、この二つの考察から江戸幕府というものの性格を知ることができる。

    【守旧・農本主義】

    これは、徳川氏が覇権を握る過程と無関係ではない。
    成長志向の豊臣政権から安定志向の徳川政権へ。
    奪った天下を守るということに執着した結果だろう。


    この本「数字(統計)から時代を理解する」事を学べる良い一冊である。

著者プロフィール

1930年 東京の下町(現・台東区東上野)に生まれる。
1951年 学生時代に自然弁証法研究会を組織。機関誌『科学と方法』を創刊。
1958年 物理学の歴史の研究によって理学博士となる。
1959年 国立教育研究所(現・国立教育政策研究所)に勤務。
1963年 仮説実験授業を提唱。仮説実験授業研究会代表(〜2018)。
1973年 月刊『ひと』(太郎次郎社)を遠山啓らと創刊。
1983年 月刊『たのしい授業』(仮説社)を創刊。2018年まで編集代表。
1995年 国立教育研究所を定年退職(名誉所員)。私立板倉研究室を設立。サイエンスシアター運動を提唱・実施。その後「科学の碑』の建設なども。
2013〜16年度 科学史学会会長。
2018年 2月7日 逝去。
著書 科学史・教育史の専門書の他,仮説実験授業を中心とする科学教育・社会の科学,特に歴史教育,科学啓蒙書,科学読み物,絵本など,広い範囲にわたって多数。たとえば,『原子論の歴史』『模倣の時代』『増補 日本理科教育史』『仮説実験授業』『未来の科学教育』『科学的とはどういうことか』『歴史の見方考え方』『もしも原子がみえたなら(絵本)』(以上,仮説社),『日本史再発見』(朝日新聞),『ぼくらはガリレオ』(岩波書店)等々。

「2020年 『なぜ学ぶのか 科学者からの手紙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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