鉄砲を手放さなかった百姓たち 刀狩りから幕末まで(朝日選書) (朝日選書 868)

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022599681

作品紹介・あらすじ

1543年、日本に鉄砲がもたらされた。このかつてない最強の兵器・鉄砲が、戦国の争乱に終止符を打った。そして豊臣秀吉の「刀狩り」により、すべての武器が没収され、民衆は武装解除されてしまった-!?日本人は鉄砲を取り上げられたわけではなかった。それどころか、江戸時代の百姓は戦うことを本業とする武士よりも鉄砲を多く持っていた。「鉄砲改め」を行った家綱、「生類憐みの令」の綱吉、鷹狩り好きの吉宗からアウトローが跋扈する幕末まで、2世紀にわたる泰平の世を築いた江戸幕府の下で、百姓たちはなぜ、どのように鉄砲を死守していったのか。将軍の行う「鷹狩り」は銃規制とどのように関係したのか。銃の摘発強化のなかで、幕府・役人・鳥獣としたたかな攻防をくり広げ奮闘する百姓たちの姿を、江戸時代の文書を一つ一つ丹念に読み解きながら描きだす。

感想・レビュー・書評

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  • 鉄砲を軸にして江戸時代における関東平野周縁部の村々の様子を描く。秀吉の刀狩りは、帯刀権の剥奪に眼目が置かれていたためか、鉄砲の武装解除は徹底されなかった。村では害獣駆除を目的として鉄砲を所持し続けた。幕府による鉄砲取締りは、治安維持もさることながら、鷹狩りのための鳥類保全が主目的だった。本格的に鉄砲が民間からなくなったのは第二次大戦後とも言われる。

    著者は1971年生まれ。同年代がしぶいテーマをやっている。しかし論考の部分が、いまひとつハッキリせずもやもやする。なぜ鷹場を置くことが幕府による統制強化になるのか?とか、化政期より後のアウトロー増加にしても、ただ村が荒廃しましたというだけでなく、もう少しその背景なりの掘り下げがあってもよいと思う。さらに言えば、水野忠邦の経済政策を「いずれも物価を下げるため」としているが、貨幣改鋳の中止は金融緩和で物価上げ方向ではないか。

    享保の改革のところでの代官と村のあいだでの一進一退のやりとりは面白い。簡単に上意下達とはいかずに、よい統治のあり方を工夫しなければならなかったのだ。例えば、大事なお触れは読み聞かせると言うのは、肝心なことだったのだろう。

  • 百姓を差別語として言い換える向きもあるが、百姓は農業だけしていたのではない。江戸時代、貨幣経済の発達でジビエ含む諸産業に従事した/家光の生類憐令により廃止された鷹狩が、吉宗の代に将軍権威のため復活。鷹の生息のため小鳥を捕ることが禁じられ、鉄砲も厳しく管理された。しかし狼、猪、鹿などの獣害を防ぐには鉄砲は不可欠。「隠し鉄砲は届出れば無罰」という触れにより普及していたのがわかる/家斉の長期放漫政治。しかし外敵と財政破綻が迫っていた/一揆には筵旗も正規武器も用いない/水野忠邦は、火薬を取り締まることで鉄砲を統制

  • 江戸幕府による民間所有の鉄砲管理体制を通して、江戸時代の農具・猟具としての鉄砲の普及や用法、取り締まりの実態に迫ろうという一冊。
    江戸時代も民間に鉄砲が多数存在し、幕府も鉄砲の登録制を徹底しようとしていたことなどがわかって面白い。

    関八州を中心とした事例だったので、関東以外のところではどうだったのかも気になる。鳥を打つことを禁止することの意味について、鷹場との関わりから論じているけど、地方の鷹場のないところではどうなんだろうか。

  • 猪や鹿などの獣害を防ぐために,江戸時代の百姓たちは鉄砲を武器としてではなく「農具として」使用していたことが,本書の要点だ.知らなかった!
    最後に次のような述懐がある.「ヒトは武器になるものを手にしていたとしても,それを殺害のために使わない本能がある.」 その通りだと思うし,思いたい.

  • これほどまでにかつて常識だったことが間違いだとわかって、歴史認識のコペルニクス的転回を迫られることがあるでしょうか。

    豊臣秀吉の刀狩りによって日本の民衆は武装解除された、武器を持たなくなったとばかり思っていたのが、武士以上の武器、もっと具体的に鉄砲を幕末まで備えていて、たとえ主に畑を食い荒らすイノシシやサルに対する農具として用いられたとしても、その他にも盗賊などの無法者に対する自衛の手段でもあり、そして、おそらく百姓一揆の際に使われていなかったはずはなく、そうするとひょっとしてあの『七人の侍』はまったくの絵空事になるという事態もありうるわけです。

    それにしても、歴史の真実って本当に何が飛び出すかわからなくてドキドキします。刀狩令が1588年ですから、たかだか422年前のことです。

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著者プロフィール

一九七一年熊本県生まれ。琉球大学国際地域創造学部准教授。東京学芸大学大学院修士課程修了。博士(教育学)。専門分野は日本近世史。著書に『鉄砲を手放さなかった百姓たち』(朝日選書、二〇一〇年)、『江戸日本の転換点』(NHKブックス、二〇一五年、第四回河合隼雄学芸賞受賞)、『茶と琉球人』(岩波新書、二〇一八年)など。

「2021年 『琉球沖縄史への新たな視座』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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