食べる日本史 (朝日文庫 ひ 11-1)

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022611376

感想・レビュー・書評

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  • 日本の伝統的な食文化という窓を通して、生活や気候がどのようにして日本の歴史を動かしてきたのかを自由に語った本です。

    やや雑多な内容の印象はありますが、日本人の伝統的な知恵と歴史的な事実との関係に、意外な角度から光を当てており、興味深く読みました。

  • 石器時代から現代まで、日本の食文化がどう形成されてきたかをたどった一代歴史物語。
    食に関する豊富な知識ばかりでなく、「食こそが生活の基本」といった姿勢が貫徹しているため、日本食の奥深い世界を楽しめる内容になっている。

    例えば、米作農業に関する内容では、水田を親から子、子から孫へ伝えることで土地に対する愛着心を生み、それが郷土愛・愛国心に発展してきたと、食の面から日本人の精神構造を解説。
    土地に対する感謝から神を祭る風習につながっている分、西洋のキリスト教よりもかなり現実的な宗教観念を持っていると結論づけている。

    日本料理の料理方法については、奈良時代にその原型が完成していたのではないかというのが、著者の説。
    蒸す・焼く・煮る・干す・あぶる・揚げる(千年以上前に!)など今と変わらない調理方法があった。

    万葉集には、「野蒜を醤と酢で和えた中に鯛の肉を加えれば、いっそう美味だ、それが食べたい。水葱の吸い物は、わたしの前にでてくれるなよ」といったグルメな歌まである。
    〜醤酢に蒜搗き合てて鯛願ふ 吾にな見せそ水葱の羹〜

    当時の調味料は、食塩・酢・醤のほかに、飴・糖・胡麻油・酥(チーズ)・酪(コンデスミルク)など非常に豊富であり、醤にも草醤・肉醤・穀醤など三種類もあったらしい。

    草醤の場合、ウリ・ナス・青菜・カブ・大根などからつくったというから、漬け物の汁のような風味だったかもしれない。

    肉醤は、鳥・獣・魚・貝・カニ・ウニ・エビなどを原料に使ったようだから、現在のニョクマムなどよりも深い味わいだったかもしれない。

    穀醤は、米・小麦・大豆などからつくるため、現在の醤油の原型にあたるものだという。

    ただ、こういった豊かな調味料と食材に恵まれた古代国家であったのだが、平安時代になると、食事も形式化して貴族の健康を蝕んだという。
    原因は栄養のアンバランスと運動不足。
    玄米と魚介の乾物(しかもそのまま)だけでは力の出ようもない。
    こういった食生活は貴族の精神生活の頽廃につながったようで、平安末期から「厭離穢土 欣求浄土」といった浄土思想が大流行する。

    バランスの良い食事と日々の鍛錬によって健康的な肉体を維持してきた武士集団に政権を乗っ取られたのも、食が原因ではないかと著者は推理する。


    本書で驚きだったのが、稲作文化における神聖な存在としての女性。
    農耕社会では、女性は男性に比べて神に近い存在であり「おかみさん」であったという説。
    田植えは女性しかできず、頭の手ぬぐい・管笠をかぶり、赤いたすきをかけるという、労働のための服装としては少々華やかな格好で労働するのは、神に仕える姿だからであるという。
    日本における農耕文化でいかに女性の存在が重要であったかを物語るエピソードだと思った。


    最後に、本旨とは全く関係ないのだが、食べ物のネーミングに対する日本人の巧さとして、本書で紹介されてるのが「天婦羅」。
    キリスト教の祭りである「テンポーラ」の当て字らしいのだが、天婦は天女の意味で羅は薄い衣の意味。
    「天女の薄い衣のように揚げる天婦羅がもっとも美味」と言わんばかりのネーミングは凄い!

  • 「食」で時代が作られた、ということが書いてある本。

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著者プロフィール

國學院大學名誉教授

「2015年 『子育て日本史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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