二つの母国に生きて (朝日文庫)

  • 朝日新聞出版
3.93
  • (11)
  • (11)
  • (4)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 168
感想 : 11
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022618382

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学評論随筆その他】不世出の日本文学研究者によるエッセイ集が待望の文庫化。来日の経緯、桜・軽井沢など日本文化に関する考察、伝統芸能論、戦争犯罪について、そして三島、谷崎との交流まで縦横無尽に綴る。その知性と柔らかい人柄のにじみ出た珠玉の一冊。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「むろんキーン氏は、両国の架け橋になろうなどという鯱張った公的使命感に衝き動かされて、研究や翻訳の仕事を行なってきたわけではない。(中略)要するに自分の生きたい人生を思うさま生きてきただけだ。そして、そういう人物であるがゆえに、人々は心を開いて彼を信頼し、その信頼がおのずと「橋」たらしめたのである。」解説 小さな名著(松浦寿輝)より

    キーン氏ご本人も、文庫版あとがきに“今の私”が不思議と書いた頃の当時の“私”に似ていること、冗談は今でも通じそうだと笑っておられたけど、今こそ多くの人に読まれるべき「小さな名著」だと思う。

  • 【キーン氏の文章は、謙虚で誠実な“日本への愛”を呼び覚ましてくれます】
    日本研究の第一人者、コロンビア大学名誉教授のドナルド・キーン氏が 80年代に綴ったエッセイ集です。全編を通して、米国に生まれたキーン氏が日本に魅せられ、深い知性と謙虚な学びの姿勢で日本の人・文学・文化と向き合ってきた様子が浮かびます。
    2011年3月の東日本大震災の後、キーン氏が日本に帰化したことが報じられました。その頃、世代の違う自身は、キーン氏を“日本に詳しい外国の研究者”位にしか認識していませんでした。しかし、本書を読んで、その考えがあまりにも浅かったことを思い知らされました。

    本書は、キーン氏の日本との“馴れ初め”から始まり、日本の住居、和食、桜、メディア、能や歌舞伎、浮世絵、文豪達との交遊、そして太平洋戦争考にも至ります。これらの日本の文学・文化・美術芸術・歴史と多岐にわたるトピックを、バランスの取れた精緻な文章で論じています。

    読んでいて文章から滲み出すのは、日本への謙虚で誠実な「情熱や愛情」、そして良識、知性です。決して手放しで褒めるのではなく、自身で実際に触れて学び、日本の良いもの、良くないと感じるものを冷静・公平に取り上げます。
    日本人の親切に感動しつつ、時に“外国人”への行き過ぎた親切に戸惑う様子。日本の年末年始、四畳半の生活、炬燵などの伝統を大切にする思いと、それが風化することへの寂しさ。東京裁判の戦犯達の遺書に深く心を奪われつつ、“勝者の裁判”の意味も見出だそうとする姿勢。
    二つの大切な国の間で葛藤しつつも、いずれをも愛し、その国の歴史・文化から学び続ける姿勢に、誠実なひととなりを感じました。何より本書に掲載された、狂言を演じる同氏の写真がそれを物語っています。キーン氏の文章に触れていると、盲目に陶酔的にではなく、謙虚に真摯に生まれ育った日本を愛する想いが呼び起こされます。また、自らの不学を思い知らされ、純粋に能・歌舞伎や美術、日本文学にもっと触れたい、と感じました。

    「日本食の職人たちのこうした身の入れ方は、陶芸家や彫金師たちの芸への献身に勝るとも劣らないものであり、外国のカウンター・レストランの向こうでしょっちゅう目につく、コックたちのあのいい加減な仕事ぶりとは、実に雲泥の差があるというものである。(p.105)」
    「世界には、新しい年を祝うそれぞれの独特の方法があるが、私が知る限りでは、日本の祝い方ほど心温まるものは他の国には見られないようだ。( p.79)」
    「しかし私自身は、それによって貴重なものが失われてしまうだろうと考えている。つまり、過去一世紀にわたって、日本を研究してきた外国人学者たちを鼓舞してきた情熱や愛情がうしなわれてしまうことにはならないだろうか。 (p.14)」
    「日本の印象を描写する場合、大いに変化した面、または昔から全然変わっていない面のどちらかを過大視する傾向がある。私にとっては両方を探すことが最も楽しい。(あとがき)」

    灯台もと暗し。日本を照らす知者の暖かい光に、大いに感銘し、刺激を受けました。
    まさに“小さな名著”です。

  • 日本文学を分かりやすく楽しく教えてもらった。

  • 末尾の解説者が、本著は「小さな名著」であると書いている。同感。読みながら、キーン氏の魅力に惹きつけられ、楽しい気持ちになる。また日本はこんな素晴らしい人を引き付ける魅力があったのだと嬉しくなる。同時に昨今の日本を寂しくも感じるが。

  • キーンさんが見た、谷崎潤一郎、三島由紀夫、吉田健一等々。三島は、いつも高笑いをしていたが、眼が笑わない、とか、後年、ボデイビルで鍛えた肉体を誇示するような服装をする等々、身近に見たからこその思い出が一杯であります。石原慎太郎が、伊豆の川奈ホテルで見かけた、三島の水泳練習の話と重ねると(体は筋肉質だが、泳ぎのセンスがあまりなく等)、三島由紀夫の姿がよく見えてきます。

  • この人の書く物が本当に大すき。両言語できるからこそ日本人に伝わる文化論。日本人は違いを重視しすぎという指摘は胸に刺さった。

  • 2011年に日本へ帰化されたキーン先生の80年代に書かれたものが中心のエッセイ。これだけ読みやすく明晰な文章を外国の方が書かれたなんて日本人として恥じ入るばかりである。キーン先生は日本のお正月がお好きなんですね。谷崎や三島らとの交流を描いた章はかなり貴重だ。谷崎、女友達しかいなかったのか…。三島が鍛えた体を誇示するためプールサイドで寝そべっていたが水に入るところを見たことはなかった、という文章でちょっと笑ってしまった。体は鍛えたけど泳げなかったのか?ユーモアを交えつつ亡き友・三島を偲ぶキーンさんが切ない。

  • 渡米する前に読んでおきたかったので。
    日本文学研究のパイオニア、ドナルド・キーン。ただ文学を研究するだけでなく、その背景にある文化などにも強い関心を持ち、何より日本という国に母国へのそれにも劣らない深い愛情を注いでいたことを知り驚いた。
    三島由紀夫や谷崎潤一郎などの文豪などとも交流があり、彼らの意外な一面も教えてくれるエッセイ集。読みやすくておすすめ。

  • 戦争裁判の話は踏み切ったところまで入り込んでるのが興味深かった。他のアメリカ人からはこういう意見は聞けないと思う。

  • キーンさんは、すごい人です

全11件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1922年ニューヨーク生まれ。コロンビア大学名誉教授。日本文学研究者、文芸評論家。2011年3月の東日本大震災後に日本永住・日本国籍取得を決意し、翌年3月に日本国籍を取得。主な著書に『百代の過客』『日本文学の歴史』(全十八巻)『明治天皇』『正岡子規』『ドナルド・キーン著作集』(全十五巻)など。また、古典の『徒然草』や『奥の細道』、近松門左衛門から現代作家の三島由紀夫や安部公房などの著作まで英訳書も多数。

「2014年 『日本の俳句はなぜ世界文学なのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ドナルド・キーンの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
東山 彰良
西 加奈子
恩田 陸
朝井 リョウ
西 加奈子
エラ・フランシス...
又吉 直樹
村上 春樹
中村 文則
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×