名人 志ん生、そして志ん朝 (朝日文庫)

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022619457

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学評論随筆その他】稀代の落語家、古今亭志ん生と志ん朝。2001年の志ん朝の急逝に衝撃を受けた著者が、この親子2代の軌跡を独自の視点で活写する。志ん朝との幻の対談も再録。志ん生ブーム再燃の今こそ知るべき、名人の心打つ伝説。《解説・森卓也》

感想・レビュー・書評

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  • 名人2代、古今亭志ん生と志ん朝。
    2001年志ん朝の急逝に衝撃を受けた著者が、二代にわたる名人の軌跡を語ります。
    東京落語、寄席の過去と現在を、自身の経験も含めて語ります。
    志ん朝と対談もあり、楽しめます。

  • 前の日曜日、NHKアーカイブスで「びんぼう一代」が再放送されていました。ゲストは来年の大河ドラマ「いだてん」で志ん生を演じるビートたけし。曰く、文楽はマチス、志ん生はピカソだと。本書でも徳川夢声の「文楽の落語は古典音楽のようなもの。そこへいくと、志ん生の落語はいささかジャズである。」という指摘が紹介され、著者も「ノーマン・メイラー流に、ヒップとスクエアという分け方をすれば、文楽はスクエアであり、志ん生はヒップでおる。文楽をチャップリンとすれば、志ん生はマルクス兄弟である。文楽をウィリアム・ワイラーとすれば、志ん生はハワード・ホークスである。」とたたみかけます。著者は昭和二十二年から三十六年までの絶頂期の志ん生の落語に、いや志ん生という存在そのものに恋をしているようです。それは、戦後からオリンピックを前に消えていく自分の背骨の下町の文化への哀惜でもあり、東京が田舎者の街になることに対する憂鬱でもあるかのようです。それは小林信彦の創作の背骨みたいなものだと思います。そして、文楽のスクエアと志ん生のヒップを重ね持つ志ん朝に対しては愛を注いでいるようです。志ん生に「恋」志ん朝に「愛」。ずっと見守るつもりだった志ん朝の夭折に激しく痛み、その昇華出来ない悔しさを書きつけたのが本書なのだと思います。本書に限らず、ずっと小林信彦を読み続けた者としては、小林信彦の存在そのものが「東京」の実在なのである、と感じます。ブツブツ言いながらの長生きを望みます。

  • 読み始めて気づく。既読本でありました。古今亭志ん朝が亡くなったのは2001年秋。初出は約1年後の2003年朝日選書から上梓され即買。15年ぶりの再読。

    本書は父・志ん生と息子・志ん朝という2代にわたる稀代の落語家の軌跡を活写しているものの、長年贔屓にしていた志ん朝の急逝という、現実を受け容れることが出来ぬままペンを執ったことがありありとうかがえる哀惜の書でもある。

    激しい喪失感と深い悲嘆に苛まれながらの執筆だけに、志ん生の稿では伸び伸びとした筆致が、志ん朝となると途端に筆が鈍る。落語の見巧者である著者の「志ん朝落語論」はすっかり影をひそめ、センチメンタルに陥ってしまうのもさもありなんと思う。

    ただ、言い得て妙だと感じ入ったのは、志ん朝落語を評した言葉。
    『東京(江戸)言葉の、美しい、完璧なアクセント、イントネーション、間(ま)で、観客を別空間につれてゆき、幸せにする』。東京(江戸)言葉が何たるかを語れる立場にないが、落語の舞台は江戸であったり上方であったり、要するにローカル噺である。ゆえに、地場で日頃語られている言葉の行き交いがあってこそ与太郎も熊五郎もイキイキとしてくる。僕自身、志ん朝の落語を聴く度に惚れ惚れするのは「口跡の良さ」である。使う言葉・単語の選択・言い回し・声の高低、強弱、緩急・テンポ・語尾の柔らかさ。とにかく語り口が美しい。当時普通に使われていた江戸言葉と江戸の街並みが、聴いている側の眼前にゆらりと浮かび上がり、次第に頭が痺れてくる…。志ん朝が郭噺をはじめると高座に行灯が灯り、下町噺を始めると高座に焼き魚の煙が漂ってくるという、正鵠を得た例えもあるほど。

    落語は扇子と手ぬぐいのささやかな小道具と言葉だけを用いた超ミニマリズムな芸である。それだけに落語の深淵さを思い知る一方で、ひとりの名人落語家の死は自然な江戸弁の使い手の最後の一人を喪うことでもあると悲嘆する著者の思いは腑に落ちる。

    本書は江戸落語への美しき経緯を語り、余人をもって代え難い志ん朝落語への鎮魂歌でもある。

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著者プロフィール

小林信彦 昭和7(1932)年、東京生れ。早稲田大学文学部英文科卒業。翻訳雑誌編集長から作家になる。昭和48(1973)年、「日本の喜劇人」で芸術選奨新人賞受賞。平成18(2006)年、「うらなり」で第54回菊池寛賞受賞。

「2019年 『大統領の密使/大統領の晩餐』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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