名誉の殺人 母、姉妹、娘を手にかけた男たち (朝日選書)

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制作 : 安東 建 
  • 朝日新聞出版 (2013年8月9日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022630070

名誉の殺人 母、姉妹、娘を手にかけた男たち (朝日選書)の感想・レビュー・書評

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  • だいたい性的な理由で「家族の名誉を汚した」とみなされた娘たちが殺される「名誉の殺人」。
    この本は主にトルコのアジア側の保守的な田舎や、そこからの移民をテーマにすえて、家族を殺した側の男たちにインタビューした記録。

    封建的な家父長制が、とか、保守的な倫理感が、とか、女を所有物とみなす男尊女卑の風土が、とか
    私は「名誉殺人」にそんなイメージを持っているだけで、殺す側の男の事情なんて考えたこともなかった。
    ここに書かれているのはそんな遠い話じゃなくて、「世間」とか「空気」とか「同調圧力」とか、そういう身近な抑圧の話だ。
    加害者ではあるけれど、名誉を口にする男たちの声もまた悲鳴のようにきこえる。

    イメージ通りの「飼い犬に手をかまれた」ときの怒りだけじゃなくて、殺さざるを得ないくらい追い詰められている面がある。
    強く結びついた親類に姉妹を殺すよう強要される末息子(未成年なら罪が軽くなるはず!)
    母親の不倫に苦しんでいるときに、父親の親類から殺人を暗に勧められる息子。
    近所一体の嫌がらせに精神的に参ってしまう弟。
    妊娠した娘の処分を主張する母と娘を救えない父。
    かと思えば、強制結婚に逆らった娘を、総力を挙げてどこまでもおいつめる一族もいる。


    無知や貧困や共同体からの圧力は、一番弱い部分への暴力になる。
    名誉を守れない男は貞操を守れない女と同じように排除される。
    殺したくなくても、そんな圧力で嫌な役目を押し付けられる。
    けれど、殺したからって名誉が回復されるとは限らない。
    あばずれを罵倒する「世間」は、あっさり手のひらを返して人殺しを罵倒する。

    名誉を守れと責め立てられる人たちが本当に恐れているのは「恥」や「村八分」で、だけど本人たちは「名誉」を守ったのだというプライドにすがる。
    なんだかこれは切腹に似ている。
    立派な最期でしたという「名誉」の機会があるだけで、死罪はすでに決定されている。

    不貞とみなされた女と、そんな女を抱えてしまった家族へのコミュニティの仕打ちは、「非国民」への対応に似ている。
    事実は関係ない。それが非難されなければいけない行為なのかの検討はおろか、実際にその行為があったかさえ関係ない。
    恥ずべきものとみなされたら、恥ずべきものとして石を投げられる。
    そうみなされた家族を世間と一緒に攻撃しなければ、一族まるごとつぶされる。
    だから自分の手で始末する。

    無責任な他者から悪いものとみなされた人への攻撃や、攻撃された人たちの反応はいじめに似ている。
    学校しか世間のない子供にとって、たかが学校の居心地が生死にかかわってしまうように、小さな世間で生きている人にとってコミュニティ内の「名誉」は生死を決するほど肥大する。
    人殺しだの宗教的な倫理だのといった、直接的な理由こそ他人事だけど、「空気」に追い詰められていく様子はまったく他人事じゃない。
    ちょっとパーツを変えれば、こういう暴力は日本でも容易に起こりうる。

    どうにもならない事情が多すぎるからと言って、殺した男たちを免罪していいわけじゃない。
    だけど、この場所にいなければ殺されずに済んだ女たちと殺さずに済んだだろう男たちがたくさんいて、どうしようもなさが苦しい。

    まったく違う話だけれど、「三月のライオン」のいじめの話を連想した。
    これは犯人探しをしても意味がない類の問題だ。
    「誰のせい?」って言ってる間は、悪役が変わるくらいで、問題自体は終わらない。
    「誰かを」じゃなくて、全体の意識と状況を変えないと、みんなが助かれない。
    傍観者でいることを良しとせず報道を続ける著者のジャーナリストとしての姿勢が格好いい。



    誰も知らないはずのこと(たとえば殺された女性が殺されるときに考えたこと)を見てきたように書いてあるのはちょっと気になる。
    訳も微妙につっかえる。「じゃりっぱげ」って何だろう。

  • 女性が、尊厳も人権もないように扱われる地域がある。昔々の話
    ではない。21世紀の現在でも、女性は男性の所有物として扱われる
    のが当然と考えられている世界がある。

    中東や中近東、アジアの一部で、「正しい道」を踏み外した女性たちが
    肉親の男性の手で殺められる世界がある。

    ある少女は市場で異性と言葉を交わしただけで喉を掻き切られた。
    ある少女はテレビ局に電話をしただけで父に撃ち殺された。

    「家族の名誉」。それは女性の命に優先する。トルコで起こった「名誉の
    殺人」についての秀逸なルポルタージュが本書だ。

    イスラム圏の女性たちがいかに虐げられているか。被害者である女性
    側から語られた作品はいくつかある。本書は被害者側でなく、肉親の
    女性を手に懸けた男性へのインタビューを元に、「名誉の殺人」が
    行われた経緯を綿密に追っているところが異色だ。

    問題は宗教だけにあるのではないと思う。共同体が男たちを殺人へ
    向かわせるのではないだろうか。

    イスラム圏のみではなく、どんな宗教を持とうが、どんな共同体に
    属していようが、「悪い噂」が広まるのは早い。例え、人の口の端に
    「不道徳な女」と名前の挙がった女性が、実際には潔白であった
    としても男性たちは「名誉の殺人」を実行しなければ周囲から
    軽蔑されるのだ。

    「家族の名誉を守る気概もない男だ」と。

    本書にもそんな例がある。周囲から「あばずれ」と噂された少女が
    肉親に殺害された後、司法解剖したところ純潔を保っていたことが
    判明している。それは少女の美しさへの嫉妬から生まれた根も葉も
    ない噂に過ぎなかったのだが…。

    母を、姉妹を、娘を、手に懸けることでその場では家族の名誉は
    守られたかもしれない。だが、手を血で染めた男性たちは現行法
    で「殺人者」として裁かれ、刑務所に収監され、残された家族は
    バラバラになることもしばしばだ。

    そして、犯罪者として収監された男性たちは悪夢にうなされたり、
    後悔の念に苛まれる。

    命より重いものなどないと思う。だが、男性たちは命と名誉の間
    で板挟みになっているのではないだろうか。母を、姉妹を、娘を、
    自身の手で殺めて幸せになれるはずなんてないんだもの。

    家族の手で殺される前に自ら命を絶つ女性も多いと言う。痛いよ、
    胸が。

    「女に生まれて喜んでくれたのは 菓子屋とドレス屋と女衒と
    女たらし」と歌ったのは中島みゆきだった。「娘は災厄をもたらす」。
    そんな風に言われる地域がなくなる日は来るんだろうか。

    尚、妹を手に懸け殺人罪で服役している兄は、刑務所内の農園の
    道に妹の名にちなんだ「ひな菊」を植え、育てていると言う。

  • 宗教がからんでるとはいえ こんな世界がいまも実在しているとは!
    あらためて「世界」というものを考えさせる

  • 「婦徳に外れた」妻を、姉妹を、娘を、「一族の名誉を守るために」同胞の男がみずから手にかける名誉殺人。外部からは異常としか思えないこの因習の根源に迫るべく、害を被った女たちでなく、加えた男たちの側に切り込んだ画期的な書。
    ——と、いうことなのだが、読んでみてもよくわからない。日本人によるレビューや紹介文では、あたかも殺人者たちが悔恨の涙にくれつつ、板挟みの苦悩を吐露するかのようなことが書かれていたりするのだが、実のところそんなものはない。良くも悪くも淡々と筆が進められていて、殺人の非道も、女たちのあまりに不幸な境遇すら、さらりと読めてしまうのだ(そのため逆に言えば、胸がむかついて読み進められないといったこともない)。
    ただひとつわかったことはといえば、男たちに血を分けた女への情はなくもないのだが、それ以上に近所からの評判をひどく気に病んでいること。彼らはナチスの高官たちや北欧のブラックメタル・サークルのメンバーと同じく、半径5メートルくらいの「内輪」の中にのみ生きている。そこでのメンツを失うことを何より恐れ、殺人や重要文化財への放火やホロコーストさえ、それに比べたら「取るに足りぬこと」になってしまうのだ。
    宗教でも、人種でも、民族でもない。閉鎖的な人間関係とそこでの視野狭窄こそが、人間を怪物に変えるのだろう。

    2014/9/14読了

  • 様々なケースがあり、すべて同じ民族というワケでも無い。きっちりとしたルールがあるかと思っていたが、とても危うい噂のたぐいでも殺害される。親類、家族会議で決める場合もあれば激情にかられての犯行もある。加害者は名誉を守ったとされ、周りから敬われるのか?もっと蔑みの対象となる場合もある。
    出身、性別、家族内での順位、役割、社会的な孤立、これほど複雑な要素が絡んでいるとは思っていなかった。
    人が追い込まれていく環境というのが少し分かった。

  • 不品行を犯した女性(とその相手)を家族が殺す、いわゆる「名誉の殺人」を実行したトルコの男たちへのインタビューを中心とした本


    「名誉の殺人」というものには、もちろんかねてから怒りを感じていた。同時に、なぜそういう行為が広く行われているのか到底理解できない思いだったが、この本を読んでかなり理解できた。

    たぶん、この種の殺人とイスラム教とは本来関係がない。日本でも、性犯罪の被害者に対して「夜中に1人で外出したのが悪い」、「短いスカートが悪い」等の反応をする人がかなりいるわけで、50年前、100年前は、社会のほとんど全員がそう考えていただろう。そういう問題だ。

    「名誉の殺人」、「尊厳を守った」というけれど、むしろ「世間体の殺人」、「体面を守った」という用語がふさわしいのではないか。
    登場する殺人犯は、もちろん犯罪者であるが、同時に、世間の同調圧力の犠牲者でもあるようだった。


    女性たちは家の奥に閉じ込められた生活を強いられる。
    ひどい話だと思うが、もっとひどいのは、その生活から外れると、確かに危険があること。
    所持金を奪われた上に強姦されたり、恋人に実は妻がいたり・・・。
    さらにひどいのは、従順に暮らしていても、被害にあうこと。愛を語るおばの夫に妊娠させられたり、姉の夫に強姦されたり・・・。

    自分の妻や娘には純潔を求める一方で自らには放埓を許す、このような所業は本当に腹立たしいし、なぜそういうことができるのか全く理解できない。
    それに比べれな「名誉の殺人」者たちのほうが、↑に述べたように理解できる、と思った。


    インタビューを受ける殺人犯は皆刑務所で服役中。トルコでは、世間の雰囲気はともかく法的には犯罪として扱われているわけで、これはかなりマトモなことだ、と思った。

    TVのドキュメンタリー番組制作のために収監中の犯罪者にインタビューできるところは、日本よりずっとマトモだ、とも思った。

  • とにかく義憤に駆られる内容である。

    殺される女性たちに、いったいなんの罪があるというのだ!
    そして、年少の男に殺人を犯させる=若いから罪が軽くなるだろうという考えらしいが、なんと卑怯な!
    その卑劣さには反吐が出そうだ。

    短絡的に、イスラム教って(怒)と思いそうになるが、
    現代的な考え方ができるイスラム教徒もいるらしい。
    その差は経済力によって生まれてくるようだ。
    経済力=子弟の教育にお金をかけられる=宗教に固執しないで済む
    という構図であろうか。

    「女だから」というだけで、十分な食事を与えない、
    勉強をさせない、自由を奪う。
    「女だから」というだけで。
    よく言うよ。偉そうに。
    女から生まれてきたくせに。

  • 「母、姉妹、娘を手にかけた男たち」というサブタイトル。

    名誉の殺人といえば、女性が被害者となる話、と思っていた。
    しかし、自らの属する社会・小集団による抑圧、教唆の物語であることが分かった。

    理不尽なコミュニティから抜け出す力を手にする必要を感じた。
    それは、家族の力だと思う。
    知恵と知識の力だと思う。

    強く、美しく、生きていきたいと思う。
    二人の娘たちにも、そうあれるよう、さまざま働きかけようと思う。

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名誉の殺人 母、姉妹、娘を手にかけた男たち (朝日選書)の作品紹介

【社会科学/社会科学総記】婚前交渉などをした女性が、父親や兄弟の手で「家族の名誉」のために殺される。母や姉妹、娘を殺して収監されたトルコ人の男たちへのインタビューをもとに描いた、女たちの悲劇、名誉に押しつぶされる男たちの傷、その傷に苦しみ続ける家族の姿。

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