結婚の条件 (朝日文庫 お 26-3)

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022643865

感想・レビュー・書評

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  • 大学にてフェミニズム、ジェンダー論について講義をしている心理学者・小倉千加子さんの著作です。

    2007年に発行された書籍ということで、2019年現在からでは少し時代のズレというものがあるかと思いますが、それを感じさせないほどの「納得感」とでも言うのでしょうか、腑に落ちる時代の流れ、その中でいかに女性が心理的に流動していったかが(時にふっと笑わせてくれるような表現を交えて)示されています。

    「男女の結婚論」に始まり、「主婦層階級」「ロマンティック・ラブと情熱恋愛の違い」「娘の結婚は父親と国で決まる」「恋愛とフェティッシュ」などなど、思わず覗き見たくなるような興味をそそられる項目がずらりと並んでいます。
    特に本著で面白いのは、これがただの心理学の先生が一般論を述べたのではなく、大学教授として日々学生と接する一教授が実際に肌に触れて感じた事実を交えて展開されているということです。

    『優しい言葉をかけられ、安心感が得られて、はじめて心を許して自分を委ねられる相手と出会うと、それを「恋愛」だと思い込む学生がいる。』(p.74)
    と、恋愛に対して全く免疫のない学生の実態を語るかと思えば、
    『結婚相手に求める条件として、「金遣いが荒くなく、子ども好きで、美人」と書いてくるのがよくある。』(p.181)
    このように、男子学生・女子学生それぞれに「理想の相手」の条件をアンケート形式で問い、それらを紹介するといった(端から見ていれば)面白い形式も取られていて、最初から最後まで全くお堅い雰囲気も、中だるみも、飽きもなく読み終えることができました。

    個人的にはこの直前に読んだ『ザ・フェミニズム』よりずっと簡単に読めて楽しかったなというのが率直な感想で、フェミニズムがこういうことを深く掘り下げていく学問なんだと考えると、巷を席捲している「フェミ=面倒でうるさい人たち」というイメージが全く違うものに見えてくるほどでした。

    しかし、楽しい(クスッと笑えるような)文章の裏側で、女性というものに求められる無意識的な条件であったり、女性の内面化している女性像、さらには結婚を「経済(カネ)と美(カオ)の交換」と表現するあたり、やはりこの問題には笑ってばかりいられないのだなという“本当の”メッセージも窺い知れます。

    特にドキッとしたのが下の引用で、男性と女性の本質を見事に突いているのではないかと感じました。

    『女性は男性社会では、一般的に力関係において劣位に置かれているため、最初から強い恥の感覚を内面化し、男性の前で恥をかくことを恐れている。』(p.157)
    『男性は、女性に動物性を排除した「聖なる者」でいよという要求を出している。』(p.158)
    『女性には男性と較べると「笑顔でいること」がより強く要求される。』(p.158)
    『男と女の間には、バカの壁が立ちはだかっているのである。』(p.165)

    他にも、「なぜ父がひどいことをしても子供は何とも思わないのに、母がすると嫌な気分になるのか?」や、「なぜ女性は男性より経済力があると、そこから降りようとするのか?」などに対しての見解が述べられています。
    古さを感じない一冊でした。

  • 周囲の「婚活」ブームに疑問をもち、手に取った一冊。

    一番印象に残っているのは、結婚とは「カネ」と「カオ」の
    交換という言葉。

    そして、いわゆる理想的な男性と結婚している女性は計算高い(本人は否定する)という部分にはなるほど〜と思いました。自分の周囲の女性を見て感じていることが言語化され、腑に落ちました。


    理想ばかり追い求めるのではなく、経済的に自立する事と分相応の結婚とは何かを見つめ直す事が大切だと思いました。


    毒舌ですが、心に残る言葉が多かったです。

  • 一言で言い表すと「どうあがいても、絶望」(笑)電子書籍で一気に読みました。

    何となく薄々と感じてはいるけれどもやもやしてて言葉にできないなぁという感じのことを見事に喝破し斬って捨てています。言葉にできない=理解やスキル不足ゆえの「できない」ではなく、恐怖や絶望といったマイナスのものを言葉にしてしまえば受け入れざるを得ない、という類の不可能かなと感じます。それゆえ、すっきりしたような、ある意味絶望して諦めたというか、そんな感じです。
    今の日本のこの閉塞感に端を発するのが近代日本から滾々と根深く続く様々な時代背景や政策に基づき、本人の力ではどうにもならないところにも問題があるという点については面白い観点だなぁと思いました。一方で自分のせいではないというある種の安心感と、それゆえもはやどうにもならないという絶望を突き付けられているようです。
    是非男性・女性、未婚既婚関わらず読んで頂きたい、そんな一冊です。ただ「女性性」や今の生き方に対し何の疑問も持たない人にはあまり必要なさそうな系統の本に思われます。(そういう人は逆に憤慨しそうw)

    「おでん女は敵だ。」に大笑いし、「人生には何も起こらない、何も始まらない、永遠にこの退屈が続くのだ。」という言葉に「人生は究極の暇つぶし」という言葉を思い出し、自己実現だとか生まれた意味だとかいう「自分が存在する意味」を探すという人間の営みそのものが、何だか滑稽に思えてきて複雑な思いでした。

  • 10年位前の本だけど、今と状況はあまり変わらないんじゃないかな。

    雇用の非正規化が進む中で、結婚なんてできないと思う男性。だからこそ結婚して生活のレベルアップを図りたい女性。
    すでに安定した収入と充実した生活を持っている人は、今さら生活のレベルを下げる様な結婚はしたくないと思っている。
    自分を客観的に見られないから、不釣り合いなくらい高い条件設定してしまう男女。

    私が違和感を感じるのはそういうことではなく、結婚したい相手がいないのに、結婚したい気持ちだけが、結婚に対する条件だけが膨らんでいくという事実。
    「この人と結婚したい」「この人と一生を一緒に生きていきたい」
    それがまずあってしかるべきなんではないの?

    苦労したいと思いますか?って聞かれたら、誰だってしたくないと思うだろう。
    でも、何の苦労もない生活ってないでしょ?あるの?私が知らないだけ?
    あまりにも安全地帯に自分を置きすぎなんじゃないの?

    親も悪いの。
    子どもに苦労や失敗をさせないようにしすぎなんだよ。
    ちょっとした苦労を笑い飛ばせる人間、失敗しても自力で立ちあがれる人間に育てようよ。

    こんなことを思ってしまう私は生きた化石なのかもしれない。
    シーラカンスと呼んでくれてもかまわんよ。

    とりあえず結婚相手には条件があるのだそうだ。もちろん男女ともに。
    でも、見合い結婚ではなく恋愛結婚が望ましい。
    だが、恋愛と結婚は別物と割り切ってもいる。
    よい結婚をするために条件をずらりと提示した結果、該当者はいません、と。

    結婚は義務じゃない。
    出産は義務じゃない。
    したくないならしなきゃいいじゃん。
    そして冷静になって考えてみて。完璧な人なんていない。
    なんで結婚相手にだけ、完璧を求めるの?
    相手の足りないところを自分が補うくらいの気持ちがなければ、結婚なんてできないんじゃないの?

    少子化が急激に進んでいるのが、日本とドイツとイタリアなんですって。

    “「少子の枢軸」日・独・伊は、敗戦によって莫大な賠償金を払わされ、貧しいところから出発した国だ。貧しかった国で「愛とは金」だと思う父たちが、娘にピアノを習わせ、大学を出し、自分は一度も行っていないのに海外旅行に行かせ、ちゃんと箔をつけたのだ。父はみんな思っている。なんでうちの娘が、高校しか出ていない貧乏な男と結婚しなければならないのかと。”

    晩婚化、非婚化、少子化の根は深そうです。
    でも、地球全体では人間増えてるからさ。
    あんまり煽られないように、落ち着いてどうしたらいいのか考えましょう?

  • 2011年10月2日。電子書籍で読みました。一気読み。
    かなりの辛口、だから面白い!!著者が大学教授ということで、実際のアンケートや事例、心理学、歴史などなど絡めて書いてあり、もちろん主観が大きく入っているのは感じるけど、この人の分析はかなり言いあてているんじゃないかと思います。
    斬っている対象は、”自分の価値を顧みずに多くを求める”という、無知やずるさなのかな。文中に出てくる数々の比喩は笑ってしまうくらい辛辣で、でも、あぁそうかもしれないな、と。
    最近、自分も含めて、女には確実に「甘え」があるなと思うことが多いので、この本を読んでとてもしっくりきました。
    この著者の授業、聞いてみたいな~!

  • 面白いと同時に、怖かった…
    再読したい。

  • 「結婚」を社会学してます。
    おもしろい!の一言!絶品です。
    いい歳だし、「結婚」てものをちゃんと考えようと思って手に取った本なのですが、読んでよかったのか、どうなのか…。これだけバサバサ斬られるなんて、刺激が強すぎたかなぁ?
    だけど、真実にはちゃんと向かい合わないといけないのです。

    自分が結婚を躊躇していた理由が、敗戦まで遡ったのには、おどろいた!!!

  • 面白い。
    納得のいく分析、思わずくすっとわらってしまう比喩、の数々。
    計算的な女は好まれない、そのため周囲からはもとより自らからもそれが見えないよう、女の打算は社会的に隠蔽されて、男からも女からも都合のよいように書き換えられる。
    人々はロマンティックラブを恋愛だと信じ、保護されることを選ぶ。情熱的恋愛の前提となる自我の強靭さを近代女性が持てたのは70年代が最後だった、の言葉には痺れた。ごもっとも!本当に格好いい女性をあげるとき、年代を遡らなくては名前が出てこないのは、私だけではないのでは?
    これで恋愛嗜好や婚活の方向性が変わるという本ではないが(そういう人もおられるかとは思うが)、むしろ社会の中で結婚が果たしている役割を知り、社会全体への理解を深めるのによさげ。
    もちろん質の高い知的エンタテインメントとしても!

  • 結婚相手への条件が、どんどん厳しくなっているという。
    条件に合う人がいないからそれでも待っているうちに晩婚化・非婚化・少子化が進み、これらは人々が意識を変えない限り止まらないという。

    …でも結婚て、そもそも条件の合う人を探してお互いが囲いこみ、囲いこまれることで制度的にも優遇してもらいましょうという政府がつくった制度であるはず。
    その制度に忠実に従ってでも今の社会的な事情を考えると少し条件を引き上げざるをえない、それはしごく当然と思われる。
    条件を引き上げることで結婚できない人がいけないのではない。いつまでも古い制度を引きずってそこに適合できない人を責めるだけの、鈍感な政府が責められるべきだと思うんだけど…

  • 面白い文章を書くブロガーさんのお勧めで読んでみたらやっぱり面白かった。なぜ未婚率が上がっているのか、これを読めばよくわかる。

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著者プロフィール

1952年、大阪生まれ。早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士課程修了。大阪成蹊女子短期大学、愛知淑徳大学文化創造学部教授をへて、執筆・講演活動に入る。本業のジェンダー・セクシュアリティ論からテレビドラマ、日本の晩婚化・少子化現象まで、幅広く分析を続けている。現在は認定こども園を運営し、幼稚園と保育所の連携についても関心を深めている。
主な著書に『醬油と薔薇の日々』『シュレーディンガーの猫』(いそっぷ社)、『増補版・松田聖子論』『結婚の条件』(朝日文庫)など。

「2020年 『草むらにハイヒール──内から外への欲求』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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