街道をゆく 3 陸奥のみち、肥薩のみちほか (朝日文庫) (朝日文庫 し 1-59)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022644428

作品紹介・あらすじ

東北の南部人を考える「陸奥のみち」を満喫したあと、南に針路を転じ、「肥薩のみち」を歩いた。「われわれは田原坂に来てしまったのである」とつぶやく著者は、ちょうど大作の『翔ぶが如く』を連載中だった。「薩摩」の人間風土は書くのは大変なんですよと、正直に読者に悩みを打ち明けてもいる。

感想・レビュー・書評

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  • 本書の中では「肥薩のみち」と「河内みち」がよかった。単純に自分とあまり縁がない所なので面白く読めました。

    米を通して日本のあり様を深く思索しているのだが、はるか古代から球磨川流域は水との戦いがあったことを知りちょっと驚いた。数年前の大水害は、現在でもなおその戦いが続いているのを物語っている。もしかしたら、もっと激しい戦いになっているかもしれない。

    それにしても、西南の役を昨日のことの様に語る古老が50年前にはまだいたし、街中に鍛冶屋さんがあったんですね。これにも驚き。

    「河内のみち」は司馬さんの地元らしく、筆致も何となく柔らかく、散歩感覚で楽しく読めました。

  • 「陸奥のみち」のみ読了。日本の稲作信仰の強さ、津軽と南部の関係、都道府県は決して平等ではないんだな、など。面白かった。

  • 壮大な歴史旅行記だと思うが、この作者のレベルだとちょっとした観光旅行に感じられてしまうところがすごい。途轍もない知識量をもっているからだろう。でも、物語の方がやっぱりワクワクする。

  • 「街道をゆく3 陸奥のみち・肥薩のみちほか」司馬遼太郎。初出は1972年。朝日文庫。



     こちらの年齢のこともあるでしょうが、小学生から舐めるように読んできた司馬遼太郎さんの中で、ずっと読んでこなかった「街道をゆく」。その魅力を発見したのが40代の読書最大の快楽と言ってもいいくらいですが、これも面白かった。
     1972年ですから、なんと50年前の日本国内の旅行記ですから、もはや描写自体が貴重な民俗学的資料と言えるほど。



     とは言ってもこのシリーズは旅行記というよりも、論考的エッセイです。実は「街道をゆく」をいちばん正統に?受け継いでいるのは「ブラタモリ」なんだろうなあと思いますがそれは閑話休題。

     この本のいちばんは「陸奥のみち」。当方があまり東北地方と縁遠かったこともあり、全編を通す司馬さんの考察、「弥生時代からの日本全体の稲作至上主義が、地理的に気候的に東北の一部には不利だった。でもそのイズムの序列におかれてしまったので、いくつかの悲劇と現在(と言っても1972年)まで至る一種の後進性がある」という内容に恥ずかしながら目が鱗。もちろんそれが全てを説明できるものではないでしょうが。

     青森、八戸、津軽、盛岡、といった地名が、初めて立体的に腑に落ちて迫ってくる感じで、非常にワクワクしました。



     ちょっと皮肉めいているのは、カップリングが「肥薩のみち」。これはつまり稲作至上主義でいうと、圧倒的な勝ち組なわけです。むしろここからそのイズムが北上していったと言っても過言ではない。そして強者だったが故のオリジナリティを日本史の中で保ってきた面白さ。

  • 鹿児島に行く前に。
    薩摩隼人と鹿児島県人の断絶。
    肥後との県境の歴史の重み。

  • 肥薩のみちだけ読んだ。これまで沖縄や本郷界隈のしか読んだことがなかったけど、肥薩のみちともなると司馬遼太郎本領発揮といったところで、幕末から明治維新にかけての歴史的考察を合い交えながらの旅行記で他の街道をゆくシリーズとは一線を画している。

  • 今回は東北と九州と関西と。司馬さんの周りにいる方々は癖があり、ユーモアたっぷりに描かれている。全く適していない東北での稲作の広がりと、それによる東北への差別的意識は序盤ながらも印象深いエピソードの一つ。東北に住んだ身としてはこれは今にも繋がる話であり、その差については十分認識しており、なんだかいたたまれない気持ちになる。九州パートは言わずもがな、幕末の下りを描く司馬さんの熱量は素晴らしい。

  • 以下抜粋~
    ・(下北半島について)
    もしフィンランド人はハンガリー人がこの大地を最初に発見したとすれば、かれらはこの大空間に放牧することを考えて狂喜したであろう。
    もしかれらが北欧の地に水稲を植えていれば、かれらはおそらく餓死し、こんにち国家をつくるだけの人口を残さなかったにちがいない。

    ・要するに上代以来の弥生式水田農業を神であるとし、それを取り入れることが奈良朝時代にあっては「王化」であるとし、江戸期ではこの農業をもって厳然たる政治の基盤としたために南部もそれに従わざるを得なかったということの悲劇である。

    ・もし南部氏が、「水田はほどほどにして牧畜を盛大にする。士民はその肉を食って生を養う」という一大政治決断をしたとしたがどうであろう。必ず失敗したにちがいない。牧畜によって牛肉で生を養うなどということは、幕藩体制の経済に対する問題にはとどまらず、大きく日本全体の文化意識そのものに対し、重大な挑戦行為になったにちがいない。
    穀物を神と仰ぐという弥生式農民の信仰が神道の根幹をつくり、さらには上代依頼明治までの天皇の神聖とも重大な関係があった。

    ・津軽家に領土を横領されたという歴史をもつ南部藩の場合、その環境を木柱や石柱というような簡便なもので済ませるというにはあまりにも思いが深刻だったにちがいない。

    ・薩摩には敵に対する優しさの話が多い。
    →島津氏が、朝鮮ノ役のときに、帰国後、高野山に敵見方ともにその無名戦士を平等に供養した。(例がない)
    →戊辰戦争のときも旧幕府方に対するあつかいは、「どちらが勝利者かわからない」といわれたほどに薩摩側は寛大で態度も鄭重だった。
    ・敵に対して優しいクマソタケルのほうが、よか男としては上だという。いかにも薩摩の人間美学ならそうあるべきかと思える。

    ・(浄土真宗等)諸勢力の拡大は、戦国における地方統一というあたらしいタテ社会の建設をめざしている諸国諸郷の大小の領主にとっては恐怖であった。かれら講の連中はヨコに結び合い、聖典と信仰を共有することによって一種、無階級の社会的気分をもつにいたっているだけでなく、主君というのは未来永劫の契りである阿弥陀如来で、現在いだいている主君というのは「じつは一世の契りにすぎない」とおもっていた。
    「一向念仏はまかりならぬ」と島津氏が言い出したのは天文年間までさかのぼれるそうだが、この行政的禁忌に刑法的裏付けがきまって薩摩藩独特の戦慄的な「念仏禁止」が行われたのは、江戸初期、幕府の切支丹停止と併行した時期である。

  • 少々まのび。

  • 手にとった理由は巻数の若さ。

    全四十三巻の本作、いったい今までのところ何冊読了したのかを珍しく数えてみた…がやめとけばよかった…。まだ半分にも達していない…orz。

    ただ巻数の若さで選んでみた故の楽しみもあった。連載当時は72年とのことで、行程に含まれている肥薩の道を歩いている時にはまだ「翔ぶが如く」が連載中だったということになる。「翔ぶが如く」の方は文庫本十巻という分量でも予想がつくように、その後76年まで連載が続いたということを考えると、この時肥薩の道を練り歩くシバさんはその後4年間に渡って書き続けるものを眼前に見据えこの道を歩いていたということになる。そんな時系列の考察ができるようになった自分も少したのもしい。

    陸奥側については盛岡から下北半島へ春先にバイクで突っ走った結果、桜前線を追い越し、やたらと寒い突堤でテントを張って寝た若い日の旅程記憶があるだけだ。その際に横切った八戸の記憶は1ミリほども自分の中には積もっておらず、シバさんのお手本のような「八戸にきておもふ…」的内容に触れると、自分の当時の若さ加減に思わず鼻をつまんでしまう…といったところか。もいちどいきたい。南部がなんたるか、津軽がなんたるか、奥羽がなんたるかについて自分なりの回答を持った上で。

    最後の河内編。奇しくも司馬遼太郎記念館に足を運んでいるからこの部分は若干身近に感じながら読み進められた。とはいえ近江人はこの難波津から山を超えて大和へ…という道程に馴染みが薄い。この隙間を埋めるためには今度一度大阪からの帰り道を奈良経由にしてみることがまず手始めか。やってみよう。

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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