車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)

  • 213人登録
  • 3.59評価
    • (12)
    • (19)
    • (28)
    • (2)
    • (2)
  • 28レビュー
著者 : 車谷長吉
  • 朝日新聞出版 (2012年12月7日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022646934

車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  • この本を読み始めてすぐに、頬を平手で叩かれたような感覚に陥った。
    目が覚めるとはこういうことか。
    最初の相談についての答えは、自分の不運を嘆くことは考えが甘い、覚悟がないとけんもほろろである。相談者の悩みに寄り添って回答するありがち悩み相談とは一線を画している。
    もうぐうの音もでない。

    この本は車谷長吉が朝日新聞の悩み相談で回答したものをまとめたものである。
    朝日新聞が車谷先生を起用した心意気はあっぱれ。
    こんなこと言っちゃっていいの?とハラハラするほどの珍回答(?)続出。
    教え子の女性とが恋しいとの相談には、恐れずに仕事も家庭も失ってみたらと説く!!

    人生には救いがない。その救いのない人生を、救いを求めて生きるのが人の一生だと繰り返し本書では語られる。
    この作者の信念があってこその回答だと思うと実に深い。
    小さなことでクヨクヨするなと叱咤激励してくれるこの本は、私の大事な大事な本になった。

    最後の万城目学のあとがきがまたいい。この二人は奈良に共通項があるんだなとニヤニヤしてしまった。
    車谷さんの小説は読んだことがないが、これは読まずにいられない。一刻も早く!

  • 愛読する朝日新聞の身の上相談コーナー。「おすすめ文庫王国」で炎の営業杉江さんが推していて、これも本になっていたのを知った。杉江さんの言うとおり、車谷長吉さんの回答はいつも同じ。でも読ませる。これはもう「芸」です。

    なんといってもすごいのは、車谷氏自身は、人をおもしろがらせようとか、ウケようとか思って書いているわけではない(と思える)ところ。そして、その誰に対しても同じ答えである「人としてこの世に生まれたことには、一切の救いはありません」という言葉に、その絶望的な響きとは裏腹の、突き抜けた励ましを感じてしまうところ。

    しかしそれにしても、思わず「え~!?」と声の出る箇所がいくつか。

    「うちの嫁はんは三日に一度は『くうちゃん、長生きしてね』と言うています。『くうちゃん』とは、私のことです」 くうちゃん…。

    「この夏も、青森県の山の中で、小学校で習った唱歌を歌ってきました。独りで。気が晴れ晴れとしました。私は『うれしいひなまつり』という歌が好きです」

    「私が結婚したのは四十八歳の秋でした。それまでは毎日毎晩、寂しく、夜は木目込み人形を抱いて寝ていました」 この人形には「美禰子」って名前をつけてたんだって。うーむ。

  •  岡田斗司夫さんの本のなかでちらと話が出ていたので、興味を持って手に取ってみた。聞きしにまさるダイタンな回答。これは…タイトル詐欺です。
    「人生の救い(なんてものはありません。来世に期待して、今はきっちり苦しんで生き抜いてください)」
    とでも言うべきか。
     どん底まで落ちて痛い目を見なければ、人間そうは変われないし、そこからが本当の人生ですよ、なんて、苦労人に言われたら「ははぁ~」と頷くしかない。
     投稿者の人生相談の筈なのに、気づいたら車谷さんの人生の話になっているあたりがツッコみどころ。でも、面白い人だなと引き込まれる。

  • 回答者の車谷さんの歩んで来た人生が壮絶過ぎて、相談者の悩みが霞んでしまう。
    相談に対し、ご自身の苦悩や人生経験を述べられ、
    「人生に救いはないのだから、ありのまま今の自分を受け入れ、阿呆になり黙々と生きなさい」
    と諭す、斬新な回答スタイル。
    車谷さんの苦悩が桁違いに大きいので、相談者の悩みはちっぽけに思われ、昇華される。
    まさに毒をもって毒を制す!
    解説で万城目さんがこのことを、「殺す」と表現されていたのが可笑しかった。

    「人の不幸を望んでしまいます」という相談には、
    「子供が不治の病にかかるとか、夫が事故死するとか、
     苦い思いを舐めない限り救われないでしょう。
     あなたに待っているのは愚痴死だけ」と、ほとんど呪いのような言葉が....。
    ホント、殺してはるわ〜(笑)

    かと思えば、結婚するまでは寂しくて木目込み人形を抱いて寝ていたとか、
    「ほんまかいな?」というエピソードもちょいちょい挟まれ、
    冗談なのか真面目に言っているのか分からない、ぎりぎりのラインがまた可笑しい。
    車谷さんのことは今まで知らなかったが、俄然興味を持った次第です。

    私も山歩きが好きで、奈良にもよく出掛けますが、
    いつか山で「うれしいひなまつり」の歌声に遭遇したいものです。

  • まあ、おかしな人生相談であります。相談するほうも何かまともな答えは期待していない風でもあり、基本誰も救われていないのだけれど、なんだか気分はよくなるのですね。父が女性の下着を隠し持っている、という娘からの相談に、申し訳ないけれど笑いました。

  • もー車谷長吉すばらしすぎる。。。人畜無害なタイトルと装丁がかえって凶悪なこの劇薬毒薬感。救いなんてどこにもない。
    話題になった女生徒に恋した高校教師の相談ももちろん収録。これは何度読んでも傑作。(知らない人はググって読むべし)

  • 相談してはいけない相手。相談しても無駄な人。っていう人がそれぞれいると思う。
    車谷長吉は、絶対に相談なんかしちゃいけない奴だと私は思う。

    教え子の女子生徒が好きで好きで堪らず、「情動を抑えられません。どうしたらいいのでしょうか」という40歳の高校教師の深刻な悩みに、
    「破綻して、職業も名誉も家庭も失った時、はじめて人間とはなにかということが見えるのです。あなたは高校の教師だそうですが、好きになった女生徒と出来てしまえばよいのです」
    と、とんでもない、不道徳極まりない解決策をけしかけている。
    こんなのが毎週朝日新聞の別刷りの紙面に連載されていたんだそうな。それが一冊にまとめられたのがコレなのだが、天下の朝日新聞が呆れたもんだ、などと言うつもりは、ない。
    だって、痛快ではないか。
    先の高校教師への回答は、
    「そうすると、はじめて人間の生とはなにかとういことが見え、この世の本当の姿が見えるのです」
    と締められている。
    『人生の救い』というタイトルは、逆説的なタイトルではなくて、真に「人生」と大上段に構えるだけの深みがある気がする。こういう突き抜けた説法を目の当たりにしてしまうと、凡百の人生相談などはたんなる処世上の薄っぺらな解決策の安売りに見えてしまう。

    車谷長吉は、西村賢太が現れるまで我が国の私小説作家の最後の生き残りだった。田山花袋以来連綿と生き伸びてきた私小説作家という絶滅危惧種の最後の一人が、それこそ人に知られずに埋もれた存在だったのを発見し、世に最初に知らしめたのは稀代の目利き白洲正子だった。彼女は、奈良や三重あたりの山奥だとかから、ゴミ扱いされていた能面やら古磁器やらの逸品を探し当てたのと同じ手法で、天下一品の旦那、次郎のことも掘り当てている。その目利きが「私が最初にめっけたんだからね」と、車谷との対談の中で言っていた。鶴川にある旧白洲邸に残されている書斎に、車谷の『塩壺の匙』があった。これは、白洲正子が掘り当てた車谷の最初の傑作で、本棚の一冊は著者からの献本であろう。裏表紙を開いたら、贈り主の名と感謝の言葉が書いてあるはずだ。ただ、傾きかけたその本棚に手を触れることは禁じられているから、確かめることはできなかったが間違いあるまい。

    そんなわけで、その人の眼を信頼している目利きが見出したというのだから読んでみるか、と読み始めたのが『塩壺の匙』だ。その毒と棘を持った私小説ぶりは衝撃だった。
    ただ、残念だったのは、その「毒」と「棘」は著者の周囲と著者自身を刺す棘でもあり、自らの息の根も止めかねない毒でもあったことだ。
    些細な名誉棄損で訴えられ敗訴し、幾つかの作品だけを世に出しただけで車谷は私小説作家としての筆を折った。
    その後いったいどうしているのだろう。と、消息を気にしていたのだが、こんな形で「毒」を含みすぎた危ない人生相談で糊口をしのいでいたのだろうか(またしても失礼、おゆるしを)。

    たしかショウペンハウエルったと思うのだが、大戦末期のナチス独裁下の知識人の在り方について、面白い箴言を残している。


     国家社会主義(ナチスのテーゼ)的であることと、知的であることと、誠実であることは鼎立しがたい(三つとも同時に成り立たせることはできない)。
    つまり、
    国家社会主義的で知的でもあるならば、その人は誠実ではない。
    国家社会主義的で誠実でもあるならば、その人は知的ではない。
    知的でなおかつ誠実であるならば、そのひとは国家社会主義的ではありえない。


     私はこの言い得て妙なロジックの「国家社会主義的」のところを「私小説作家」と言い換えてみると、車谷長吉の私小説断筆宣言の顛末に得心がいく気がする。
    なまじ慶應の文学部なんかを出てしまったインテリである彼は、作中暴露してしまった秘事の当事者を傷つけてしまったことをまじめに反省してしまう。つまり知的で誠実であった彼は、私小説を書き続けることができなくて当然だったのだ。

     車谷さんの、時には実名をあげて人の人生の醜さを暴露していたような往時の小説作品の続編を私たちはもう読むことはできない。
    だが、「亭主がじじいのくせに浮気しやがって」とか、「父親が女性の下着を集めていて、でも父のことは嫌いじゃなくて」とかの相談が寄せられ、回答者の車谷さんが自らの人生を引き合いに、いっそどん底に落ちてみなはれ、みたいに答える。
    かつて、稀代の目利き白洲正子が見出した、類例のない「毒」の魅力を湛えた車谷長吉の文学世界は、しっかりここに命脈を保っていた。

     この一冊で紹介された「悩みのるつぼ」なる連載は、まだ続いているのだろうか。
    新聞の定期購読はとっくに止めてしまった我が家だが、来週の土曜、朝日新聞朝刊は買ってみようと思う。

  • 「いやあ、今日も車谷先生、豪快に殺したはるわ~」

     万城目学による所感。先日、万城目の『ザ・万地固め』の中に本書の”解説”が丸々収録されていた。それを読んで、こりゃ面白そうと読んでみたもの。確かに、面白かった。

     人生相談ものは、なんと言っても悩みそのものより回答者の人となりが出る回答っぷりが見もの(読みもの?!)。お題を与えられて答える、いわば大喜利のようなもんだ。
     古くは中島らもの『明るい悩み相談室』にハマり、最近読んだものでは、伊集院静の『悩むが花』が痛快だった。楠木健による、いかにも胡散臭い回答だらけの『好きなようにしてください』も、ある意味、こうした人生悩み相談の本質がよく分かる。その楠木自身が引用しているように、「結局は「がんばろうぜ」になる相談(水野タケシ)」ということだ。

     が、この車谷長吉は、ちょっと違う。かなり違う。万城目が言うように、ほとんど相談になってない。それどころか「がんばろうぜ」も言ってない。思いっきり相談者へのダメ出しオンパレードだ。 相談者に対して「あなたはxxxな人間だ」と言い切る。曰く、

    「あなたはなまくらな人です。」
    「あなたは小利口な人です。」
    「あなたの夫は駄目な男です。」
    「この人は一生救われないな」

     万城目じゃなくても、
    「いやあ、豪快に殺したはるわ~」
     となるわな、こりゃ。

     万城目の解説をさらに引用すると
    「悩み事と言う精神の暗き淵から発せられた訴えに対し、さらなる奈落から回答する。まったく新しい悩み事相談のかたちを、車谷さんは作り出したのではなかろうか。」
     これに尽きる。

     が、己の艱難辛苦を舐めた人生の実体験、仏教徒としての、ほとんど悟りの境地から発せられる言葉の数々は、実に重いし、真実を突いているようで、相談者もぐうの音も出ない趣きがある。

     とある悩みで、このままでは人生が破綻してしまうという相談には、
    「世の多くの人は、自分の生はこの世に誕生した時に始まった、と考えていますが、実はそうではありません。生が破綻した時に、はじめて人生が始まるのです。」
     とむしろ破局へ進めと言う。

      行動を起こさず、何か良い対処方法を訪ねてくるような質問者には、行動を起こせと言い、
    「その結果、重大なことが起きれば、その責任はあなたが取ればいいのです。いやなことに黙って耐えるよりは、ずっと気持ちが楽になるはずです。
    人間世界には、楽な道はありません。」
     と、喝破。

     夫の浮気を相談してきた主婦が、世間に後ろ指をさされないよう上手くやめさせられないかと相談してきたら、世間体を気にする相談者をまず責める。
    「だから、あなたの夫はそこにつけ込んで、浮気を繰り返してきたのです。責任の半分はあなたにあります。(中略)まず反省すべきはあなたです。」

     すごい!すごいぞ、車谷先生!!!!

     ある意味、ちゃんと回答してるとも言える。人生の救いを提示しているんじゃなかろうか。
     言われた本人は、相談する前よりもいっそ落ち込みそうだけど(笑)

     そんな車谷さんだけど、心を落ち着かせるため、精神の安定を得るために、奈良を訪ねるよう言ってくれるのは、いいね。

    「私は仏教徒なので、奈良県の大和盆地のお寺を訪ね歩くのが好きです。(中略)一人で行けば、心静まる時間が得られます。あなたにもぜひお勧めいたします。」

     著者の作品は過去1冊しか読んでいないが、人となりを分かった上で、改めて読んでみようと、少し、思った。

  • 新聞で連載されていたのをまとめたものですねぇ…自分は車谷さんのファンですのでまあ、楽しめましたかね…。基本的に絶望の中に居るというか、もう生きている、その状態が車谷さんにとっては苦痛なんだそうで、そうした視点から回答するものですから、相談者からしたらもう…絶望と言いますかね、突き放されたような感じを受けるんじゃないでしょうか? 社畜死ね!!

    ヽ(・ω・)/ズコー

    でもまあ、僕も個人的には車谷さん側の人間でしてアレですね、悩んでもしょうがないと言いますか…こういう、人生相談とか、他人に相談して答えをもらうっていう考え自体アレかと…まあ、他人に相談して少し気が楽になる、そういう意味合いであればいいのですけれども、本気のアドヴァイスをもらうというのはちょっと違う気がしますねぇ…さようなら。

    ヽ(・ω・)/ズコー

  • 新聞に連載されていたらしい、人生相談の文庫化。
    最近は新聞を取っていないので、そのようなコーナーがまだあることにまず驚く。
    昔は興味深く読んだものだけど。

    しかし、ふと思った…
    本当に一般人の投稿なのか?
    それにしては文体が統一されすぎている気がしないでもないが、本当だと信じるとして。

    車谷氏は、それぞれのお悩みにつき、ある時は毒舌でもって切り捨て、ある時は真摯に相談に乗っているように見せかけながらも、韜晦しているのでは?と思わせる。
    その回答は一見、「言ってること違うじゃない!」という感じなのだが、実は「言いたい事」は全部同じなのかもしれない。

    「あなたより救われない人がいます」
    「人間はいつか死にます」
    「人は死ぬまで変わりません」
    「悩みは解消されないので、他の事を考えましょう」
    「新興宗教は金儲けでやってるんだけど、あなたがお金払っていい気持ちになれるなら、自己責任でどーぞ」

    つまり、半眼でこう言っています。
    『さだめじゃ』

    後ろの方には、若い人からの相談が載っていて、さすがに人生経験の少ない彼らに対しては、良い大人として回答しているように思いました。

全28件中 1 - 10件を表示

車谷長吉の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
伊藤 計劃
三浦 しをん
小川 洋子
大野 更紗
高野 和明
村上 春樹
いとう せいこう
有効な右矢印 無効な右矢印

車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)に関連する談話室の質問

車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)はこんな本です

車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)を本棚に「いま読んでる」で登録しているひと

車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)を本棚に「読み終わった」で登録しているひと

車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)を本棚に「積読」で登録しているひと

車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)の作品紹介

新聞連載時より話題沸騰!"最後の文士"にして"反時代的毒虫"たる著者が、老若男女からの投稿による身の上相談に答える。妻子ある教師の「教え子の女子高生が恋しい」、主婦の「義父母を看取るのが苦しい」…これら切実な問いに著者が突きつける回答とは。

車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)のKindle版

ツイートする