車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 49
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022646934

作品紹介・あらすじ

新聞連載時より話題沸騰!"最後の文士"にして"反時代的毒虫"たる著者が、老若男女からの投稿による身の上相談に答える。妻子ある教師の「教え子の女子高生が恋しい」、主婦の「義父母を看取るのが苦しい」…これら切実な問いに著者が突きつける回答とは。

感想・レビュー・書評

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  • この本を読み始めてすぐに、頬を平手で叩かれたような感覚に陥った。
    目が覚めるとはこういうことか。
    最初の相談についての答えは、自分の不運を嘆くことは考えが甘い、覚悟がないとけんもほろろである。相談者の悩みに寄り添って回答するありがち悩み相談とは一線を画している。
    もうぐうの音もでない。

    この本は車谷長吉が朝日新聞の悩み相談で回答したものをまとめたものである。
    朝日新聞が車谷先生を起用した心意気はあっぱれ。
    こんなこと言っちゃっていいの?とハラハラするほどの珍回答(?)続出。
    教え子の女性とが恋しいとの相談には、恐れずに仕事も家庭も失ってみたらと説く!!

    人生には救いがない。その救いのない人生を、救いを求めて生きるのが人の一生だと繰り返し本書では語られる。
    この作者の信念があってこその回答だと思うと実に深い。
    小さなことでクヨクヨするなと叱咤激励してくれるこの本は、私の大事な大事な本になった。

    最後の万城目学のあとがきがまたいい。この二人は奈良に共通項があるんだなとニヤニヤしてしまった。
    車谷さんの小説は読んだことがないが、これは読まずにいられない。一刻も早く!

    • vilureefさん
      まろんさん、コメントありがとうございます♪

      まろんさんは朝日新聞の読者ですか!
      だったらよくご存じのはずですよね~。
      私は今まで朝日に縁が...
      まろんさん、コメントありがとうございます♪

      まろんさんは朝日新聞の読者ですか!
      だったらよくご存じのはずですよね~。
      私は今まで朝日に縁がなく過ごして来たので、全く知りませんでした。
      朝日=お堅いというイメージがなんとなくあるので、ただただ驚きでした。

      あ~、でも車谷先生(あえて先生とお呼びしたい)はもう回答者から外れているのですね。
      それはまことに残念無念。
      続編が是非読みたかったところですが。

      どうやら小説の方も破天荒でありながらも含蓄のある内容のようなので(万城目さん談)、そちらで教えを請いたいとおもいます(笑)
      2013/04/20
    • 九月猫さん
      vilureefさん、こんばんは♪

      人生相談ってあまり読まないのですが、
      このコーナーは上でまろんさんもおっしゃってるように
      回答...
      vilureefさん、こんばんは♪

      人生相談ってあまり読まないのですが、
      このコーナーは上でまろんさんもおっしゃってるように
      回答者さんが個性的で、毎週読んでいました。
      そして、やはりなかでも群を抜いて強烈な回答連発の、
      車谷さんの回は一番楽しみでした。
      あけっぴろげ、というか、本来痛いはずの傷や格好つけたいところを
      包み隠さず披露して、その上での回答ですものね。
      毎回、驚いてばかりでした。

      実は、地元出身の作家さんなのですが、
      これまであまりよく存じ上げず、小説も読んでいません。
      人生相談を読んでから、小説にも興味をもったものの、
      やはりあまり読むタイプの作品ではなく、なかなか手が出ないままなので、
      vilureefさんのレビュー、わたしも楽しみにしています!!
      2013/04/21
    • vilureefさん
      九月猫さん、こんにちは!

      おお!ここにも人生相談の読者が!
      やはり話題のコーナーだったんですね(笑)

      そうですね、確かに車谷さ...
      九月猫さん、こんにちは!

      おお!ここにも人生相談の読者が!
      やはり話題のコーナーだったんですね(笑)

      そうですね、確かに車谷さんの作品を読むには勇気が要りますよね・・・。
      確か映画の「赤目四十八瀧心中未遂」は見た事があるんですが、けっして楽しめるストーリーではなかったです。

      いつレビューが書けるか分かりませんが、気を長くお待ちください(*^_^*)
      2013/04/22
  • 2009~12年に、『朝日新聞』の土曜別刷「be」の人生相談コーナー「悩みのるつぼ」で、車谷が担当した回の相談・回答をまとめた本。

    何となく読みそこねていたもの。図書館で借りて読んだ。

    当時から、型破りな回答が話題になっていたことを思い出す。
    大新聞の人生相談コーナーなのだから、前向きで無難な回答をするのが〝作法〟であろうに、車谷の回答は思いっきり後ろ向きであったり、相談者が道を踏み外すように背中を押したりしていたのだから、当然だ。

    たとえば、〝教え子の女子高生への恋情が抑えられない〟という妻子ある中年教師の相談に、車谷はこう答える。

    《好きになった女生徒と出来てしまえば、それでよいのです。そうすると、はじめて人間の生とは何かということが見え、この世の本当の姿が見えるのです。》23ページ

    この回答に対して、良識派読者から抗議が殺到したのではないか。いや、痛快痛快!

    ただ、少し読む分には痛快でも、同じようなパターンの回答が続くので、途中で飽きてしまった。

  • 回答者の車谷さんの歩んで来た人生が壮絶過ぎて、相談者の悩みが霞んでしまう。
    相談に対し、ご自身の苦悩や人生経験を述べられ、
    「人生に救いはないのだから、ありのまま今の自分を受け入れ、阿呆になり黙々と生きなさい」
    と諭す、斬新な回答スタイル。
    車谷さんの苦悩が桁違いに大きいので、相談者の悩みはちっぽけに思われ、昇華される。
    まさに毒をもって毒を制す!
    解説で万城目さんがこのことを、「殺す」と表現されていたのが可笑しかった。

    「人の不幸を望んでしまいます」という相談には、
    「子供が不治の病にかかるとか、夫が事故死するとか、
     苦い思いを舐めない限り救われないでしょう。
     あなたに待っているのは愚痴死だけ」と、ほとんど呪いのような言葉が....。
    ホント、殺してはるわ〜(笑)

    かと思えば、結婚するまでは寂しくて木目込み人形を抱いて寝ていたとか、
    「ほんまかいな?」というエピソードもちょいちょい挟まれ、
    冗談なのか真面目に言っているのか分からない、ぎりぎりのラインがまた可笑しい。
    車谷さんのことは今まで知らなかったが、俄然興味を持った次第です。

    私も山歩きが好きで、奈良にもよく出掛けますが、
    いつか山で「うれしいひなまつり」の歌声に遭遇したいものです。

    • vilureefさん
      これ、おもしろいですよね~♪
      朝日新聞の人生相談の回答者って本当に個性派揃いでびっくりさせられます。
      教え子に恋してしまった教師のその後...
      これ、おもしろいですよね~♪
      朝日新聞の人生相談の回答者って本当に個性派揃いでびっくりさせられます。
      教え子に恋してしまった教師のその後が気になる私です・・・(笑)
      2014/03/24
    • 夢で逢えたら...さん
      vilureefさん、コメント有難うございます。
      朝日新聞は購読していなかったので、全然知りませんでした。
      この本もたしかviluree...
      vilureefさん、コメント有難うございます。
      朝日新聞は購読していなかったので、全然知りませんでした。
      この本もたしかvilureefさんのレビューを参考に選んだものです。いつもありがとう♬
      人生相談の本が好きでよく読みますが、これはいろんな意味で断トツでした(@^^@)
      2014/03/24
  • 愛読する朝日新聞の身の上相談コーナー。「おすすめ文庫王国」で炎の営業杉江さんが推していて、これも本になっていたのを知った。杉江さんの言うとおり、車谷長吉さんの回答はいつも同じ。でも読ませる。これはもう「芸」です。

    なんといってもすごいのは、車谷氏自身は、人をおもしろがらせようとか、ウケようとか思って書いているわけではない(と思える)ところ。そして、その誰に対しても同じ答えである「人としてこの世に生まれたことには、一切の救いはありません」という言葉に、その絶望的な響きとは裏腹の、突き抜けた励ましを感じてしまうところ。

    しかしそれにしても、思わず「え~!?」と声の出る箇所がいくつか。

    「うちの嫁はんは三日に一度は『くうちゃん、長生きしてね』と言うています。『くうちゃん』とは、私のことです」 くうちゃん…。

    「この夏も、青森県の山の中で、小学校で習った唱歌を歌ってきました。独りで。気が晴れ晴れとしました。私は『うれしいひなまつり』という歌が好きです」

    「私が結婚したのは四十八歳の秋でした。それまでは毎日毎晩、寂しく、夜は木目込み人形を抱いて寝ていました」 この人形には「美禰子」って名前をつけてたんだって。うーむ。

  •  岡田斗司夫さんの本のなかでちらと話が出ていたので、興味を持って手に取ってみた。聞きしにまさるダイタンな回答。これは…タイトル詐欺です。
    「人生の救い(なんてものはありません。来世に期待して、今はきっちり苦しんで生き抜いてください)」
    とでも言うべきか。
     どん底まで落ちて痛い目を見なければ、人間そうは変われないし、そこからが本当の人生ですよ、なんて、苦労人に言われたら「ははぁ~」と頷くしかない。
     投稿者の人生相談の筈なのに、気づいたら車谷さんの人生の話になっているあたりがツッコみどころ。でも、面白い人だなと引き込まれる。

  • まあ、おかしな人生相談であります。相談するほうも何かまともな答えは期待していない風でもあり、基本誰も救われていないのだけれど、なんだか気分はよくなるのですね。父が女性の下着を隠し持っている、という娘からの相談に、申し訳ないけれど笑いました。

  • もー車谷長吉すばらしすぎる。。。人畜無害なタイトルと装丁がかえって凶悪なこの劇薬毒薬感。救いなんてどこにもない。
    話題になった女生徒に恋した高校教師の相談ももちろん収録。これは何度読んでも傑作。(知らない人はググって読むべし)

  • 相談してはいけない相手。相談しても無駄な人。っていう人がそれぞれいると思う。
    車谷長吉は、絶対に相談なんかしちゃいけない奴だと私は思う。

    教え子の女子生徒が好きで好きで堪らず、「情動を抑えられません。どうしたらいいのでしょうか」という40歳の高校教師の深刻な悩みに、
    「破綻して、職業も名誉も家庭も失った時、はじめて人間とはなにかということが見えるのです。あなたは高校の教師だそうですが、好きになった女生徒と出来てしまえばよいのです」
    と、とんでもない、不道徳極まりない解決策をけしかけている。
    こんなのが毎週朝日新聞の別刷りの紙面に連載されていたんだそうな。それが一冊にまとめられたのがコレなのだが、天下の朝日新聞が呆れたもんだ、などと言うつもりは、ない。
    だって、痛快ではないか。
    先の高校教師への回答は、
    「そうすると、はじめて人間の生とはなにかとういことが見え、この世の本当の姿が見えるのです」
    と締められている。
    『人生の救い』というタイトルは、逆説的なタイトルではなくて、真に「人生」と大上段に構えるだけの深みがある気がする。こういう突き抜けた説法を目の当たりにしてしまうと、凡百の人生相談などはたんなる処世上の薄っぺらな解決策の安売りに見えてしまう。

    車谷長吉は、西村賢太が現れるまで我が国の私小説作家の最後の生き残りだった。田山花袋以来連綿と生き伸びてきた私小説作家という絶滅危惧種の最後の一人が、それこそ人に知られずに埋もれた存在だったのを発見し、世に最初に知らしめたのは稀代の目利き白洲正子だった。彼女は、奈良や三重あたりの山奥だとかから、ゴミ扱いされていた能面やら古磁器やらの逸品を探し当てたのと同じ手法で、天下一品の旦那、次郎のことも掘り当てている。その目利きが「私が最初にめっけたんだからね」と、車谷との対談の中で言っていた。鶴川にある旧白洲邸に残されている書斎に、車谷の『塩壺の匙』があった。これは、白洲正子が掘り当てた車谷の最初の傑作で、本棚の一冊は著者からの献本であろう。裏表紙を開いたら、贈り主の名と感謝の言葉が書いてあるはずだ。ただ、傾きかけたその本棚に手を触れることは禁じられているから、確かめることはできなかったが間違いあるまい。

    そんなわけで、その人の眼を信頼している目利きが見出したというのだから読んでみるか、と読み始めたのが『塩壺の匙』だ。その毒と棘を持った私小説ぶりは衝撃だった。
    ただ、残念だったのは、その「毒」と「棘」は著者の周囲と著者自身を刺す棘でもあり、自らの息の根も止めかねない毒でもあったことだ。
    些細な名誉棄損で訴えられ敗訴し、幾つかの作品だけを世に出しただけで車谷は私小説作家としての筆を折った。
    その後いったいどうしているのだろう。と、消息を気にしていたのだが、こんな形で「毒」を含みすぎた危ない人生相談で糊口をしのいでいたのだろうか(またしても失礼、おゆるしを)。

    たしかショウペンハウエルったと思うのだが、大戦末期のナチス独裁下の知識人の在り方について、面白い箴言を残している。


     国家社会主義(ナチスのテーゼ)的であることと、知的であることと、誠実であることは鼎立しがたい(三つとも同時に成り立たせることはできない)。
    つまり、
    国家社会主義的で知的でもあるならば、その人は誠実ではない。
    国家社会主義的で誠実でもあるならば、その人は知的ではない。
    知的でなおかつ誠実であるならば、そのひとは国家社会主義的ではありえない。


     私はこの言い得て妙なロジックの「国家社会主義的」のところを「私小説作家」と言い換えてみると、車谷長吉の私小説断筆宣言の顛末に得心がいく気がする。
    なまじ慶應の文学部なんかを出てしまったインテリである彼は、作中暴露してしまった秘事の当事者を傷つけてしまったことをまじめに反省してしまう。つまり知的で誠実であった彼は、私小説を書き続けることができなくて当然だったのだ。

     車谷さんの、時には実名をあげて人の人生の醜さを暴露していたような往時の小説作品の続編を私たちはもう読むことはできない。
    だが、「亭主がじじいのくせに浮気しやがって」とか、「父親が女性の下着を集めていて、でも父のことは嫌いじゃなくて」とかの相談が寄せられ、回答者の車谷さんが自らの人生を引き合いに、いっそどん底に落ちてみなはれ、みたいに答える。
    かつて、稀代の目利き白洲正子が見出した、類例のない「毒」の魅力を湛えた車谷長吉の文学世界は、しっかりここに命脈を保っていた。

     この一冊で紹介された「悩みのるつぼ」なる連載は、まだ続いているのだろうか。
    新聞の定期購読はとっくに止めてしまった我が家だが、来週の土曜、朝日新聞朝刊は買ってみようと思う。

  • 文庫の帯に加藤シゲアキが推薦文を寄せていたので読んでみた。
    著者は2015年に亡くなった直木賞作家の車谷長吉。
    朝日新聞土曜版に連載されていたもので、読者からの悩みに車谷氏が答えるというシンプルな人生相談形式なのだが、この回答のぶっ飛び具合がなかなか凄い。
    一例を挙げると、定期的に教え子の女子生徒に恋心を抱いてしまうという妻子持ちの高校教師に対して
    「生が破綻した時に、はじめて人生が始まるのです。」
    「好きになった女生徒と出来てしまえば、それでよいのです。」
    「阿呆になるのが一番よいのです。あなたは小利口な人です。」
    と唆したと思えば、人の不幸を望んでしまう自身の心を入れ替えたいという主婦に対して
    「まず思ったのは、この人は一生救われないな、ということでした。」
    「あなたは人生の不幸を乗り越える力がありません。愚痴死が待っているだけです。」
    と吐き捨て、妻が新興宗教にハマってしまった会社員に対しても
    「夫であるあなたが説得することは出来ないでしょう。」
    と身も蓋も無いことを書くという、真剣に悩んで相談を寄せた者からしてみたら唖然とするであろう回答ばかりなんだけど、第三者として読んでいる分には実に面白くて笑えてしまうのである。
    特に「美禰子」のくだりは最高。まさか夏目漱石先生もダッチワイフに名前を拝借されるとは思っていなかったでしょうに。
    初版から10年以上経っているけど、時代の経過を感じさせない魅力が本書にはあると思う。それは恐らく、世間一般でいうところの「道徳」とは対極にある、人間としての真理を突いた部分があるからではなかろうか。

  • 衝撃だった

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著者プロフィール

車谷長吉

一九四五(昭和二〇)年、兵庫県飾磨市(現・姫路市飾磨区)生まれ。作家。慶應義塾大学文学部卒業。七二年、「なんまんだあ絵」でデビュー。以後、私小説を書き継ぐ。九三年、初の単行本『鹽壺の匙』を上梓し、芸術選奨文部大臣新人賞、三島由紀夫賞を受賞。九八年、『赤目四十八瀧心中未遂』で直木賞、二〇〇〇年、「武蔵丸」で川端康成文学賞を受賞。主な作品に『漂流物』(平林たい子文学賞)、『贋世捨人』『女塚』『妖談』などのほか、『車谷長吉全集』(全三巻)がある。二〇一五(平成二七)年、死去。

「2021年 『漂流物・武蔵丸』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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