ウエストウイング (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
4.06
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感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022648532

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学小説】設計事務所のOLネゴロ、絵が得意な小5のヒロシ、土壌解析会社の若手サラリーマンのフカボリ──3人の人生が雑居ビルの物置場で交差する。人が誰かとつながり、影響を与えあっていくことのかけがえなさを、圧倒的なディテールで明るく描いた傑作長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 老朽化したビルの物置部屋で顔を知らないまま交流する3人とその周りの個性豊かな人達の物語。津村さんは現実感と不思議感のバランスが絶妙。感動を目的とした話にしない所もいい。自分と一番年齢離れた小学生ヒロシの気持ちが何故かよく伝わった。

  • 面白かった。平凡な会社員、平凡な小学生の日常でありながら非日常。冷静に考えて、水没した地下道をたまたま見つけたゴムボートで渡すアルバイトが急に発生するとか、子供が作った歯茎のオブジェとか、ありえないわけではないけど独特でくすっと笑える要素が散りばめられている。ネゴロもヒロシもとても賢い。エリートが集まる進学塾では落ちこぼれのレッテルを貼られるヒロシも、そこの講師に下に見られる椿ビルディングの勤め人であるネゴロも、賢くて機転がきいて、人の価値は一面的に決められるものではないと思う。アヤニノミヤさんやノリエさんやミソノさんや、古びて家賃の安い椿ビルディングで店を出す人々一人ひとりにバックグラウンドがあって、その人生が窺い知れるのも面白くて、生き方も価値観もそれぞれに生き生きとしていた。生きるってこういうことやなぁって感じ。

  • 津村さんらしい特に大きな事件が起きない淡々としたストーリー展開。
    でもところどころクスッと笑えるし登場人物に愛着がわく。
    津村さんの感性が羨ましい。
    平凡な毎日やつまらない仕事も津村さんの目で見たら面白く感じられそう。

  • なぜか未読だったが、たっぷり味わい尽くして満足。解説は松浦寿輝氏、津村さんの素晴らしさを余すところなく伝えてくれてこちらも満足。津村さんの文章は読むこと自体が快感になる。好きな箇所は無数にあるが例えばP377--- 背の高い女の看護師で、何くれとなくいかつさを発揮しては、ネゴロをばつが悪い気分へと追い込んでいた。---なんてところぞくぞくする。その前にこの看護師に関して、「外の血っていう貼り紙スゴイですね」「私が書きました」みたいなやりとりがあるのだがこの伏線があっての引用部分でニヤッと笑ってしまうのだ。あとこの作品の登場人物の中では小学生のヒロシが特にいとおしい。

  • 老朽化した雑居ビルを舞台に、そこに通う人々のあれこれを書いた話だけれど、こういうテーマで想像する小説とは手触りが違った。
    トラブルが起きてもあくまでも地味で、湧き起こる興奮もなく、主人公三名はいつも頭の中で静かに考えるタイプだし、盛り上がりそうな場面でも作者は決して盛り上げる様子がない。最後まで何もない小説と言ったら語弊があるかもしれないけれど、あえて平静に描かれる日常は自分の日常にも近くて、無理なく馴染んでくる。これはとても高度なことが行われている気がする。
    ヒロシ視点の時は特に、ハッとするようなことが書いてあり、彼に教わることが沢山あった。まだ子どもだけれど大人の部分があって、それは両親が離婚して母親の元で暮らしている事情からそうならざるを得なかったのかもしれないし、もともとの気質なのかもしれない。はじめは「小学生か」とあまり興味が出なかったはずなのに、ヒロシの存在がこの物語に必要不可欠であることは確かだと思った。
    最後まで読んでみて、なんて言ったらいいのか分からない気持ちになって、でも「このまま生きてみてもいいのかも」とぼんやり思うような、そういう話だった。生活が続くことって、きっとこういうことなんだ。

  • あ、良かったな。これ三者の邂逅は出会いにまで繋がらずに終わるのか?と不安だったけどラストも良かったな。俺からするとこれは早熟な少年が主人公で彼の物語だったんだけど、読む人によって違うんだろな。うん。いいな津村記久子。こう言うのが読みたかったんだよ。すごく良かったな。ビルオーナーとしても思うところ沢山あったな。

  • 生きていくことのしょうもなさとか、くだらなさとか、細かいことがなんだかいとおしく見えてくる。ちょっとくらいさぼってもええんやないの、と言われているような気にもなり、ほんならちょっとおやつにして、そんでまた適当にがんばろか、と思ってしまうような、そんな力が津村作品にはある。

  • 知らないのに、知っている。

    わたしが本書の帯を書くなら、こう書きたい。

    ああ、津村記久子だ!
    わたしの好きな作家だ!
    読了したとき真っ先に思ったことがこれでした
    正直なところを言えば、この作品が津村さんのなかで一番好きなわけでも、最初からずっと面白かったわけでも、ない。でも、彼女の抜群のセンスと書ききる力、世界観の構築力、というか、生きているひとたちを描いている、津村さんの小説でしか味わえない何とも言えない多幸感に包まれたので、わたしにとってはとてもよい読書体験でした。

    前置きが長くなったが、本書はネゴロ、ヒロシ、フカボリという三人の世界を軸に、ひとつのビルの中で働いたり勉強したりご飯を食べたり生きている人々のお話だ。
    もはやビル自体も生き物のような。
    共通点は物置場。
    メモや物品を交換しあうだけの会ったこともどんな人物なのか性別年齢さえわからない他人同士の不思議な関係。
    トイレでのある出来事を共有することになるのだが、そのシーンは惹きつけられた。
    あと、雨の一夜、ゴムボート。
    津村さんは天災を書くのも得意。

    フカボリさんはあとから登場するのだが、彼が出てきたところらへんで読者としての集中力がとんでもなく切れてしまったのはあった。
    が、全部読んで、408頁に至ったところで鳥肌となんの涙かわからないものがこみあげた。
    たぶん、感動していた。
    すごい作家だ。
    そして、エブリシングフロウズのヒロシなのか、この子!

    ヨボヨボになるまでヨボヨボになっても書き続けてほしい。

  • ネゴロ、フカボリ、ヒロシ。
    会社員ふたりと小学生。本当だったら出会う可能性のない3人が、ビルの忘れられたような空間ですれ違いながら出会う。仕事や勉強からの、ほんの少しの隠れ場所。全編通して名前は知らない誰か同士だ。

    三人ともなんとなく先を見通せず、それでもなげやりになはならず、日々を生きている。このぎりぎりな真面目感が好きだ。同じビルに集う人たちも魅力的。

    すごく大きな出来事は起こらない。とも見えるけれど、実際に起こったら確実に人生を終えるまで覚えていそうなことが起こる。その描かれ方がやっぱり面白いなと思う。何が起きても、世界も自分もどうにかして対処し、そのときもその後も淡々と時を刻んでいくんだ、という強烈なメッセージ。

    いちばんの大きな出来事は何より、隠れ場所の古い配水管にたまった水から発する菌を吸った3人が、徐々に体調を崩していくことだ。隠れ場所はついに発見され、未知の菌騒動となり、3人は検疫で陽性となってしまう。入院で隔離される3人。ビルも解体されそうに。
    自分の責めではなくとも、奪われていくこと。ここも本当に淡々と奪われていく過程が描かれる。そんなときも、時は同じように刻まれる。一緒に絶望的になる。

    絶望からのラストの解放感。やっぱり劇的ではないところが最高だ。3人が顔を合わせる。隠れ場所の人たちかなと推測しあう、でもそれを明かすなんてことはしない。ビル解体のための重機は動かない。

    3人と一緒にほっと息をついて物語を終える。やっぱり最高だ。

  • 津村さんの作品は、これまで楽しく読んできた。
    長編はこれが初めてかもしれない。

    解体が噂される古びた雑居ビル「椿ビル」が舞台。

    そこに入っている会社の事務員ネゴロ。
    給料が安く、嫌みな上司や困った後輩に翻弄される以外は不服もないが、そのぬるさに不安も感じている。

    そこに入っている学習塾に通う小学六年生のヒロシ。
    去年いじめにあったせいで、母は母子家庭で大変なのにヒロシの中学受験を望んでいる。
    ヒロシは絵を描くことに才能があり、勉強には全く身が入らない。
    母親の心配をうっとうしがりながらも、母親の意思を理解し、それに合わせていこうとする大人な面を持っている。

    そして、そこに入っている検査会社に勤める若手サラリーマンのフカボリ。
    社会人生活も数年目で仕事に大きな不満もないかわりに、特段熱意も感じていない。
    一人暮らしの家をシェルターのように感じている一方、ふと一人で暮らしていることに不安を感じたり、結婚についてもやもや考えたりしている。

    こんな三人が、それぞれの持ち場からビルの倉庫の物置に息抜きにやってくる。
    三人は直接顔を合わせることがないまま、そこにあるものを貸し借りしたりして、お互いの存在を知っていく。

    水害が起こったり、そのせいで給水タンクの水が汚染され検疫の対象になったり、取り壊し工事がはじまりそうになったりと、いろいろな事件が起こる。
    そして最後に、三人はお互いの存在と顔が一致する形で出会うことになる。

    …ということなのだが。

    私が津村さんの作品に惹かれるのは、自然なところ。
    プロットや語りの技術で読者をひきずりまわしたり、ドラマチックなできごとが連続するするような派手派手しいことがないことが好きなのだ。

    自分の読む状況がよくなかったせいかな?
    他の本を読む合間に、切れ切れの時間で読んでいったせいで、あまり集中しきれなかったことがあるのかもしれない。
    けれど、豪雨で屋上の貯水タンクが壊れ、雨水が入ったことでビルに菌が蔓延するという件がどうも腑に落ちない。
    タンクの水が飲み水になっていたというならわかるけど。
    雨水で病原菌が蔓延するなら、普段雨が降るたびに病人が出てしまうことになる。

    これまで読んだ作品に比べ、ちょっと自分の波長には合わなかった気がする。

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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