石油で読み解く「完敗の太平洋戦争」 (朝日新書 57)

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  • 朝日新聞社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022731579

作品紹介・あらすじ

戦争は、「石油」に始まり、「石油」で決まる。元石油公団理事が、太平洋戦争を俎上に載せ、戦争と石油の関係を、冷徹な眼で分析した。「日本帝国必敗の理由」、ここにあり。

感想・レビュー・書評

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  • 戦前・戦時中の輸送軽視や護衛艦隊の不足する輸送船団の悲劇的結末、戦艦や潜水艦を輸送に活用した漫画的状況はそれほど新奇ではない。むしろ、戦後の石油備蓄の不備に関する指摘の方が有意義か。ただし、米軍トラック島空襲、基地破壊による備蓄石油の喪失、停泊船舶と基地航空機撃滅とが、防衛ラインの縮小という意味で大きな画期、とは個人的には新奇(艦隊戦中心で太平洋戦争を見ると不充分、ということを示唆しているのか)。2007年刊行。著者は元石油公団理事。

  • 石油を中心に太平洋戦争の推移を読み解いている書。なぜ圧倒的な国力の差があったアメリカに全面戦争を仕掛けてしまったのか、読めば読むほど疑問が沸いてしまう。

  • 石油を求めて南方進出したのに、タンカーの確保が疎かで、結局十分な油田活用もできず、戦争後半には制海権も失って輸送もままならなくなる。
    石油資源に対する動きを見るだけでも、いかに大局観が欠如して、ミクロな思考で戦争を進めていたかがよく分かる。

    この「大局的な視点が欠如して、場当たり的に最善策を求めてしまう」のは、今も引き継がれている日本人の特徴ではないか。
    人間にとって、やはり歴史から学ぶのは難しい事なのか、と。

  • 石油系資源の採掘、精製、運搬、貯蔵といった観点から「太平洋戦争」の戦いと推移を論じている。
    ここでも日本軍の情報軽視が指摘されているのが面白い。

  • 太平洋戦争について、昔から、なぜ日本から離れた南方での海戦を多くやっていたのだろうと不思議に思っていました。この本を読んで、究極の目的は当時のエネルギーの主力になりつつあった原油を生産するインドネシアの油田を守るためだったようです。

    今から思えば、経済小国の日本が当時の石油生産及び輸出国であったアメリカに戦争を挑んだのは無謀だと思いますが、驚いたのは、当時の軍部の調査でそれが明らかになっていたのにも拘わらず、戦争を開始したという事実を知って残念に思いました。日本よりも自分たちの存在価値を守るために日本国民を戦争に巻き込んだようです。

    日露戦争は戦争を終わらせるための戦略があったから勝てたと言われていますが、太平洋戦争もそのような観点があれば良かったと思いました。また、海軍関係者よりも輸送に携わった民間人の死亡率のほうが高かった(p130)、ガダルカナル島で戦死者の7割は飢餓死(p155)というのはとても残念に思いました。

    以下は気になったポイントです。

    ・昭和20年8月の敗戦時には、日本の石油備蓄は完全に払底して、国内経済は残り数ヶ月で完全に機能不全に陥る状況であった(p6)

    ・木炭自動車の原理は、木炭を不完全燃焼させて、発生する一酸化炭素をガソリン内部で燃焼させることにある、一酸化炭素中毒の危険性もある(p16)

    ・昭和13年の「第二次石油消費規制」により、国内エネルギーは、石油から石炭、薪、木炭へと転換された(p19)

    ・昭和9年の石油業法の制定により、公布時に30社あった精製会社は、昭和17年には8社(日本:3.3万バレル、昭和、丸善、大協、東燃、三菱、興亜、日本鉱業+陸軍燃料廠、海軍燃料廠:3.5)になった(p23)

    ・昭和13年12~昭和16年9月まで、日本の陸海軍機によって行われた重慶爆撃は、スペイン内乱じのゲルニカ空爆につぐ、都市への戦略爆撃であった(p45)

    ・昭和14年、航空機ガソリン製造を目標に設立された東亜燃料工業は、オクタン価100製造のためにフードリー触媒分解法の導入交渉を行っていたが、政府により中断させられた(p50)

    ・米国はガダルカナル戦で示すように、護衛されている輸送艦を真っ先に攻撃、真珠湾で攻撃を免れた大型石油タンクには、合計で450万バレル(70万キロリットル)の備蓄燃料があった(p85)

    ・米国の策定した色彩作戦において、レッド:英国、ブラック:ドイツ、オレンジ:日本、グリーン:メキシコ、であった(p108)

    ・昭和18年以降は、電池魚雷、魚雷用新トルペックス火薬、夜間潜望鏡、機雷探知用ソナー等の新技術が搭載された(p111)

    ・日本海軍が自信を持っていた各種暗号は、戦争中にほぼ解読されていた、米海軍の潜水艦隊は会合地点に先回りしていた(p112)

    ・開戦時58万トンの保有タンカーは、戦争終結時には25万トン、稼働するものは6.3万トンに減少、外洋航海が可能なのは1隻のみ、戦争中の建造:114、喪失:147万トン、従って戦艦がその任務をしていた(p112、122)

    ・日本周辺海域には1万2千個もあり、3隻につき1隻は機雷に触れて沈没していた(p128)

    ・戦争中、海上輸送に従事した商船の乗組員は7.1万人、そのうち3.5万人が死亡、日本海軍の軍人死亡率:19%よりも高い(p130)

    ・ガダルカナル島へは、投入兵員:3.1万人、撤退人員:1.06万人、戦死者:2.07万人のうちで、70%の1.5万人は戦病、飢餓死であった(p155)

    ・高度な技術をもつ熟練労働者を、召集令状で一兵卒で招集して、そのかわりに非熟練工に高度な工業製品を作らせていたのが現実(p171)

    ・沖縄特攻に参加した大和には、片道分2000トンの指示量に加え、貯油タンクのそこにある帳簿外の重油2000トンを追加給油して往復分の燃料を掲載したのが事実(p174)

    ・大和の海上特攻戦死者:3729名は、昭和20年4~6月上旬の2ヶ月間に沖縄周辺海域へ出撃した陸海軍の航空機特攻の合計戦死者:3067名よりも多い(p178)

    ・製油所再開に必要な原油は、昭和25年1月に米国産のサンノーキン原油(4.9万キロリットル)が輸入された(p194)

    ・昭和16年当時の日本は、消費量(360万キロ)に対して、786日分(776万キロ)を持っていた(p210)

    ・戦争時には、日本は情報の活用よりも軽視がされていた、米国では「日本語将校の育成」「暗号の解析」「情報収集・分析」に力を入れた(p221)

    ・2006年10月、国際石油開発はアザデガン油田問題を軟着陸させたが、そのために、「操業権の放棄」「権益比率を75から10%」を妥協した(p224)

  • かつての戦争を自衛の為の戦争だと抗弁する人がいるが、本書を読むと改めてしてはいけない戦争であった事がわかる。大日本帝国は支離滅裂で感情的な政策決定により壊滅したが日本国も同じ轍を踏まないとは限らないのだ。

  • [ 内容 ]
    戦争は、「石油」に始まり、「石油」で決まる。
    元石油公団理事が、太平洋戦争を俎上に載せ、戦争と石油の関係を、冷徹な眼で分析した。
    「日本帝国必敗の理由」、ここにあり。

    [ 目次 ]
    1 迫りくる戦争と石油
    2 開戦‐南方占領‐資源確保
    3 南方補給路の寸断
    4 戦略の破綻
    5 払底する石油供給
    6 教訓を現在へ

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    [ 参考となる書評 ]

  • 石油の禁輸措置をとられた時点で日本の敗北はほぼ決定していた?
    太平洋戦争を石油などのエネルギー政策を軸にして解析している。当時の日本政府のエネルギー政策についての無力さが改めて浮き彫りにされる。

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