新書434 歴史の読み解き方 (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022735348

作品紹介・あらすじ

【社会科学/経済】司馬遼太郎の歴史文学の神髄に迫る「司馬文学を解剖する」、幕末各藩の藩士教育を比較検討し、危機管理の必要性を説く「幕末薩摩の『郷中教育』に学ぶ」、「歴史に学ぶ地震と津波」では大災害にいかに備えるかを論じる珠玉の歴史評論集。

感想・レビュー・書評

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  • 非常に面白い本でした。「歴史に興味のある方」も「ない方」も一読をお勧めします。
    構成は以下の通りです。
    1.江戸時代の武士の生活
    2.甲賀忍者
    3.江戸の治安文化
    4.長州という熱源
    5.薩摩の郷中教育
    6.歴史に学ぶ地震と津波
    7.司馬文学を解剖する

    この中から興味を惹いたものを一部紹介します。

    1.「江戸時代の武士の生活」から
    兵農一体の中世の武士団が、織田信長に始まる兵農分離の武士団に生れかわり、その形態は江戸幕府に引き継がれていった。これは、学校の教科書にも書いてある?ので、周知の事だと思います。その後、鎖国という特殊環境の下で江戸時代の戦術は火縄銃の密集隊形の重兵戦術で留まっていた。

    幕末になって危機に追い込まれた長州は新式のライフル銃を元に重兵戦術から散兵戦術へと移行する。この重兵と散兵が戦場でぶつかったら一方的な虐殺が起きる。長州の指揮を執っていた大村益次郎は、幕府と戦う前から勝利を確信していたというのは凄い。
    幕末~明治の一連の戊辰戦争で、幕府側が何故あのように簡単に破れたかの理由の一端が分かりました。

    また、幕府や藩は行政機関に見えるが、軍隊組織だと著者は指摘する。
    武士というのは何か特殊な価値観や美学を持ったイメージがあり、「軍事政権」という言葉には馴染まない感じがしていたが、言われてみればその通りというしかない。
    私の関心は、昭和の戦争に突入していったのは、このDNAが引き継がれていたからだろうか? 

    その武士には「侍・徒(かち)・足軽」という3つの身分があり、この中のうち、うすい徒士層の出身者が、幕末から明治の日本の近代化に大きな役割を果たした。
    西郷・大久保・伊藤博文・山形有朋・福沢諭吉など10石~50石程度の下級武士つまり徒士出身。家柄が良いとされた高杉晋作でも150石程度。
    また、日露戦争の将軍と言われる、乃木希典・児玉源太郎・大山巌らも精々50石ほどの徒士出身。
    明治人は偉かったと言われるが、このほとんどが士族でしかも徒士。士族文化・徒士文化で育った特殊な人たちで、一般の日本人ではないという。
    そういう意味では、我々は明治維新をどう評価すればよいのだろう?
    これは特殊な集団がなした革命で、こういうことは千載一隅で、奇跡としか言えないということなのか? 著者にそこをきっちり言って欲しい気がする。

    6.「歴史に学ぶ地震と津波」から
    「3・11」の時に地震に揺られながら「歴史学はこれまで地震や津波の研究をあまりしてこなかったから、自分がやらなけれがいけない」と思ったという思いから、南海トラフの被害の痕跡が深い浜松の大学(静岡文化芸術大学)の公募があったので、そちらへ移ったというほど、責任感と好奇心の強い人柄が滲みでる。
    事実過去の南海トラフによる津波は特大クラスになると、浜松では15m、伊豆下田では30mになるという凄まじいものだそうです。

    7.「司馬文学を解剖する」から
    歴史を扱った小説を分類すると、歴史小説と時代小説。そして歴史小説の一分野に史伝小説という分類をしている。古くは森鴎外が書き、新しくは司馬遼太郎の「坂の上の雲」などが、これに近いという。
    本著では、司馬作品の「関ヶ原」を取り上げ、その元資料の一つとして、徳川家康が、関ヶ原当日の合戦に赴く場面を書いた(家康の主治医であった)板坂卜斎の「慶長年中板坂卜斎覚書」との比較で、史実と違う点や司馬遼太郎が文学的に膨らませている点を指摘しているのは面白い。ただ著者は歴史学者であるため、やはり史実に厳格な史伝小説を求めている。
    そして司馬遼太郎を越える史伝小説を書く作家が出てくることを求めているが、これはないものねだりのようにも思うのだが・・・

  • 超面白い。特に、薩摩藩の郷中教育と、司馬遼太郎の作品を分析する項。
    前者では教育ってもっと地域ごとに個性があってよいと思った。
    後者は日ごろ歴史文学を読む中でうすうす感じていたことを的確に表現してくれていて、にやにやしながら読んだ。
    「いわゆる歴史文学には時代小説、歴史小説、史伝文学の3つがある。史伝文学は歴史小説よりもさらに歴史に史実に即した歴史文学で、時代小説のような荒唐無稽な創作を排し、古文書などの史料にもとづいて、実在の人物を登場させ、歴史小説より精密に実際の歴史場面を復元してみせる。まさに「事実は小説より奇なり」の文学であり、創作による架空を楽しむというよりも、歴史の中の事実発見や分析の妙を味わうことに、その主眼をおいています」

    そう!そんな史伝文学が読みたいんです。楽しみにしています。
    しかしそんな磯田氏をしてもって、「例外」と言わしめる吉村昭氏の圧倒的な筆力。でも確かに大衆的じゃないんだよな。

    ちなみに甲賀忍術書の情報を取るコツは、そのまま記者が情報をとるコツと同じでした。

    メモも大量になってしまった。
    【江戸の武士の生活から考える】
    ・濃尾平野では兵農分離が自然的・経済的条件からすすみやすかった
    ・京都周辺ですが、延暦寺や東大寺だの中世の権化のような勢力が残っています。…武士たちは主君にタテ型の忠誠を尽くすというより、ヨコ型に地元で地域連合・宗教連合をつくっていました。
    ・結局中世的な武士の集団は寄せ集めでした。少数精鋭で、石のように固まって密集している江戸時代的な武士の集団にはかないません。
    ・徳川家康の時代には、日本最強の要素であった世襲武士の密集隊形が、時代が進み武器がかわると、最大の弱点になった。
    ・日露戦争の将軍はほとんどが禄高50石くらいの徒士出身です

    【甲賀忍者の真実】
    ・明治前期までの日本では、識字率は京都周辺と、東海・瀬戸内が非常に高く、東日本や東北、南九州は低かった
    ・平常から、諸国に手づるをこしらえておいて、通達・交渉を自由にしておくことが肝要なり…なんでも芸を身につけなさいというのです。
    ・人を知るための「四知の伝」:「望・聞・問・切」

    【江戸の治安文化】
    ・殺人や盗みをすれば、かならずお上のお仕置きをうけるという観念が民衆の通念となるのは、思いの外最近のことで、江戸時代になってからのこと
    ・銃の徹底管理  占領軍が日本の家庭から「刀狩り」を行った成果
    ・1700前後に、犯人の処刑は、公の裁判、つまり「公裁」にゆだねる治安文化ができあがってきた
    ・江戸時代の奉行所・代官所が、税務署と代用監獄ほどの役割しか担っていなかった
    ・この上意下達の構造がしっかりしていて、それがヨーロッパ人には驚きでした。
    ・中世以前の日本人はけっしてこのようにおとなしいものではありませんでした。この国には江戸時代になって、人を殺さない文化が根付きました。

    【長州という熱源】
    ・こんな「不公平税制」を数百年やっていれば、商業が発達します。
    ・いまのところ、私は、幕末の日本の識字率は全国平均で男6割、女3割程度ではなかったかと考えています。
    ・(借金だらけで)つまり、江戸時代のおわりには、武士の経済の決定的崩壊が起きていたのです。
    ・ここに至って武士ははたと気付きました。もうだめだ、別の軍事体制にしないといけない。武士が個々別々に自弁で兵士や武器を調達して、下から集まって軍団を編成して出陣していく戦国型の軍団ではもうだめだという新しい意識が芽生えてきます。
    ・長州藩の御前会議:みなで数時間議論→家老が意見集約して決定→藩主「そうせい!」藩主の権威付けのもと、断固たる決定ができた。決定から実行までのスピードが早い。

    【幕末薩摩の「郷中教育」に学ぶ】
    ・「正確な歴史は、未来に対する予見となる」という言葉は、私自身が、いちばん忌み嫌っているもので、そんなことを言うつもりはありません。
    ・柳田国男が求めた判断力の教育。
    ・歴史・政治倫理の知識や人事・教育能力が徳目の上位とされ、法律知識などの実務能力は下位におかれています。
    ・会津藩は身分格式がきっちりしており、日常生活が碁盤の目のように定められ、外見で身分をあからさまに示す藩風のなかで、徹底した秀才教育を行った……理由を主体的に考える文化が育ちにくくなる。一言でいえば、人間の思考を形式化してしまいます。
    ・学校でもって人材を国家が吸い取り、官僚に養成して、富国強兵をなしとげるも捏は、まず熊本藩がつくり、佐賀藩や会津藩がそれをまねしました。…「学校官僚制国家」の萌芽といってよいものが日本でも1750年くらいから発達…決まったモデルがあって国家建設を推進する場合に、実務完了を育成するのには非常に都合がいい。(→大隈重信の怒り)
    。とにかく主家だけが絶対で、ひたすらそれに忠を尽くすことを至上価値とする教育を徹底していました。
    ・薩摩藩では普通の藩と違って、「禄券売買」が認められていました。
    ・きわめて実践的だった……「忠孝の道に大形なし」…耳から入ってくる生活的な道徳教育でした。目から教科書で教え込まれる藩校の朱子学の道徳教育とは違っていました。…明治維新は薩摩の甲突川のかたわらに彼らのグループがなし遂げた
    ・西郷たちの郷中教育は、本を読む時間は短いのです。読んだ後で、考える、問答する、そのための時間が非常に長く取られている。
    ・薩摩人は「もしこうなったら」と考える反実仮想力が高く、あらかじめ手を打つから、想定外のことが起きて、あわてることが少なかったのです。事実、幕末の薩摩はずるいといわれるほど政局判断に誤りがありませんでした。うまく渡り合って、幕府にとどめを刺した。その間、長州藩は無謀な戦いを何度も仕掛けて敗れ、会津はひたすら大義名分を訴えて敗者となり、朝敵の汚名を着せられました。長州も会津もリアリストたる薩摩藩にやられました。この背景に、薩摩武士のリアリズムにあふれた育ちというものが、おそらく関係しているに違いありません。

    【司馬文学を解剖する】
    ・徳富蘇峰「近世日本国民史」
    ・司馬さんの敷いた歴史知識の高速道路の上を国民が猛烈に走り、前の世代とは比べものにならないほど、歴史知識の大衆化が達成されました。その意味で司馬遼太郎さんはやはり偉大であったといえるでしょう。しかし、その偉業の幾分かは基礎工事をした徳富蘇峰(「近世日本国民史」著)の功績であったことを忘れてはならないのです。
    ・いまの国民一般の歴史に関する文学の消費のあり方はお世辞にも健全なものとは言えないと思います。情緒に基づいて、歴史の中に司馬さんの描くようなヒーローを求め、歴史文学への陶酔に甘んじているかもしれません。
    ・読む者の心のなかに、司馬さんの叙述を史実として信じてよいのか、信じられないのか、という疑問をつねに引き起こしています。「司馬の悲劇」がおきていることになります。
    ・なるべく創作部分は減らして、その場面を史料に基づいてきちんと描くような、歴史小説を超えた史伝文学ができないか、と私は考えています。
    ・これから日本史を書いていこうということになれば、東京大学史料編纂所や国会の県政資料室や防衛省に残っておりような筆書きの史料、あるいは万年筆で走り書きしたような故人のメモまで取り集めて、歴史像をつくっていかないといけない。
    ・ただ吉村昭さんだけは例外です。史料調査が緻密で事実を正しく記録する点では超絶しています。しかし、司馬作品ほどの読みやすさや大衆性をそなえてはいません。

  • うなった。なかなかするどい。

  • 【目次】(「BOOK」データベースより)
    江戸の武士生活から考える/甲賀忍者の真実/江戸の治安文化/長州という熱源/幕末薩摩の「郷中教育」に学ぶ/歴史に学ぶ地震と津波/司馬文学を解剖する

  • 明治維新を立役者がどのような教育を受けてのかがわかる本。朱子学も学ぶが、読み書き中心ではなく、具体的実践的で先輩が後輩を指導する教育、すごい。。

  • [評価]
    ★★★★☆ 星4つ

    [感想]
    江戸時代と幕末の日本を参考に現代の日本と日本人についてを分析している。
    江戸時代の甲賀忍者、治安に加え、長州と薩摩の教育、地震と津波の歴史、最後に司馬文学を題材に日本と日本人を分析し、解説している。
    特に印象に残っているのは明治維新の中心的立場にあった長州と薩摩の教育が正反対だったことで、長州が秀才を育てる教育であるという印象で薩摩は判断力というか、決断力といったものを重視した教育であるという印象だった。
    また、司馬文学の解析はちょうど「関ヶ原」を読んでいるところだったので種本の存在や史実と創作を調べながら読み進める手法は参考になった。

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  • 薩摩藩や長州藩が全く違う藩士の育て方をしており、気風も全く違ったというのを説明してくれています。
    また最後には「司馬遼太郎の功罪」についても具体例を持って説明してくれています。
    江戸時代を勉強するようになって、時代劇を見なくなり、時代小説を読まなくなりましたが、これらは史実に基づいたフィクションで、あくまでも創作であると思っていますので、まだまだ勉強する私としては、史実をフィクションがごっちゃになってしまうからです。

  • 磯田氏はNHKの「英雄たちの選択」で知ったのだけど、あれよあれよというまに有名人になっちゃいましたね。
    遅ればせながら図書館で彼の著作を借りようとしたら、殆ど借りられていました。(^^ゞ

    残っていた数少ない一冊がこれ。
    寄せ集めで、内容に統一性はない。
    歴史のトリビアに近い。

    現代の日本人の特質とされる性質は江戸時代に形成されたというのは何となく分かるので、もうちょっと関連本を読んでみたくなった。
    戦国時代と江戸時代では主従関係が根本のところで違っていたのは常識だろうが、再認識させられた。

    彼の書きかたは面白い。
    学者でありながら好奇心丸出しにし続けているのが好感を持たれる所以だろう。
    古書をスラスラ読める特技があって、誰にも負けないという自信を隠していない、

    本来なら埋もれてしまう才能なのだろうが、こういう歴史ヲタクが若いときから注目されるようになることは、日本にとって喜ばしいことだと思う。

    今後の活躍を期待したい。

  • 忍者の話が面白い。給料少ないのに労働が過酷。

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著者プロフィール

磯田道史
1970年、岡山県生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(史学)。茨城大学准教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2016年4月より国際日本文化研究センター准教授。『武士の家計簿』(新潮新書、新潮ドキュメント賞受賞)、『無私の日本人』(文春文庫)、『天災から日本史を読みなおす』(中公新書、日本エッセイストクラブ賞受賞)など著書多数。

「2022年 『日本史を暴く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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